桜ノ命は五人の神使に祈りを捧ぐ

風にサラサラと舞うは彼女だったもの。
手元に残るは、彼女がまとっていた空色の着物のみだった。

「白緋!!!」

いつの間にか神使全員がこちらに来ていたようだった。
手に残るそれを見て全員が察する。

「くそ……くそ……っ!!!!」

自分の拳で何度も何度も地面を殴る。
己の無力さを痛感する。
守ると言っておきながら何一つ守れなかった。
また俺は、俺だけが生き延びて犠牲にした。

「白緋」
「離せ」

深月に静止されてようやく他の神使の様子が目に入った。
皆現実を受け止めきれない顔をしていた。
辛いのは、自分だけではない。

「なあっ、見ろよあれ」

空を指差す虎徹の指を追って見上げる。
一箇所を起点として、光の輪が広がって行く。

「夜が明けるのか」

それは隠世の長い夜が明けた印だった。
何処からか、民の感情が聞こえた気がした。
それは皆が待ち侘びた瞬間。

「姫さんが守ったこの世界、俺らで守り抜こう」
「……」

そう言う巳影の声は震えていた。
無理して前を向こうとしているのがひしひしと伝わってくる。
そんな気分には到底なれなかった。

「美桜さんの気配感じませんか?」
「……何?」

初めて会ったあの日のように、彼女の気配を感じ取る。
気配の糸の先には確かに彼女が居た。

「これは私の推察ですが、美桜さんは元の世界に返ったのではないかと」
「条件を満たしていない」

“満月の夜に鳥居を潜る”
まだ満月でもなければ鳥居を潜ることもしていない。

「彼女は隠世での記憶を忘れる代わりに現世での記憶を取り戻していました」
「隠世での魂が消えると現世での魂が蘇る……?」

そんな事があり得るのか?
しかし、今はその考えに縋るしかなかった。
またいつか再び会えることを夢見て。

空を見上げると、澄み切った青空が五人の神使を照らしていた。