全力で古都へと向かう。
到着してもなお、争いの様子はなかった。
「確かにこっちに来てたのに……」
「とにかく楼閣に行ってみようぜ!」
人並みを掻き分け急ぐ。
古都の人達は桜ノ命と神使がいることに驚いているようだった。
「……え?」
楼閣で最初に目に入ったのは倒れた護衛の人達だった。
「大丈夫!?」
「大方眠らせているのだろう。俺たちにかけた術のように」
確かに息がある。
白緋の言ったことは正しいようだ。
「俺、護衛の人たち起こせないかやってみる!」
「ありがとう虎徹!」
「すぐに合流するんだぞ」
「分かってるよ!」
そう言って虎徹と別れる。
鞍馬はどこにいるだろうか。
二階へと上がろうとした時、それは目に入った。
「あ……」
満開の桜の木の下に佇む彼を見つけた。
少し近づくと、彼もこちらに気がついたようだった。
「美桜さん」
「私を襲わないの?」
その青い瞳に他意が無いことを悟ると、私たちは少しづつ近づく。
「ここにいると調子がいいんです。きっと八重のお陰ですね」
「鞍馬……」
「私を殺して」
彼は穏やかな表情でそう告げる。
「できない……」
「私は多くの人を犠牲にしてしまった」
「全て八重さんの為でしょう?」
さっき覗いた彼の記憶で全て察した。
あるのは温かい記憶だった。
「その八重も死んだ」
「……」
「私が殺した」
目を細め考え込む。
話すのを迷っているようだった。
「八重と初めてあったのは、この桜の木の下でした」
ぽつりぽつりと話し始めたのは彼女との記憶だった。
**
最初はほんの出来心だったんです。
神にも等しい力を持ち、私たち一族ーーーカラクリ使いの私たちを使命に縛り付ける桜ノ命が、どんな姿をしているのか興味があった。
「貴方がカラクリ使い?」
だから驚いたのだ。
こんなにも普通の女性だった事に。
「ここの警備、結構厳重なはずなんだけど?」
「全員眠らせた」
「眠らせたって、あははっ」
何が面白いんだ。
彼女の肩を両手で掴む。
「お前たちのせいで、我々は使命の為に命を捧げなければならない。それがどんな思いかお前に分かる?」
権力争いに巻き込まれ、身内からも命を狙われる。
そんな生活に辟易していた。
だから文句の一つでも言ってやりたかったのだ。
「私と一緒ね」
勝ち気な笑顔を崩す事なく、真っ向から君は見つめてきた。
「私もよ。神の力とかまっぴら!」
「は……?」
「私は八重!貴方は?」
「……鞍馬」
「私たち、同志ね!」
ーーこれが八重との出会いだった。
それから私たちは度々会うようになった。
同じ運命を共にする者同士、気が合ったのだ。
「君は何故いつも笑っている?」
「暗くいたって良いことないじゃない」
「……」
「貴方は暗すぎるのよ」
私は暗いのか。
「君はなぜいつも笑っているんだ?」
「私には神使がいるから」
「神使……?」
「私を守ってくれる存在!」
羨ましかった。
肩を預けられる相手がいることに。
「……」
「貴方には私がいるでしょう?」
「随分自惚れたことを言うのだな」
「ふふっ本当ね」
そう言って笑う彼女と話しているうちに、彼女が桜ノ命である事や自分の使命すらも忘れていた。
「私多分、近いうちに居なくと思う」
彼女はいつだって唐突だ。
覚醒の話は聞いていたから、その徐々に白くなる髪も赤くなっていく瞳も自然と受け入れていた。
けれど、その話は到底受け入れられるものではなかった。
「桜ノ命の力か?」
「そうよ」
「なら……」
「私は使命を全うする」
強い眼差し。
自分の運命を受け入れていたというのか。
はじめて祈りの力を使ったその日からーーー。
私は彼女を助けたい一心だった。
だから身内にも敵が潜んでいることを忘れていたのだ。
「ぐ……あ……っ」
あまりよく覚えていないが、寝ている間だったと思う。
兄に呪詛をかけられたのだ。
『なんであいつなんだよ!』
兄は私のことを憎んでいた。
自身が持つ負の感情が強すぎたせいで、カラクリ使いの後継者ではなくなったからだ。
本人が未熟者だから私にかけた呪詛も中途半端だったのだろう。
私の願いを中途半端な形で叶える化け物が、私の中に生み出されてしまった。
「全て、壊す」
**
「その結果がこのザマってわけ」
肩をすくめ笑う彼がとても痛々しかった。
「貴方は八重様のために弱い者を排除したかった。八重様がこれ以上力を使う事がないように」
「君は大切な人を手にかけた事はある?」
顔を手で覆った彼が吐き捨てる。
「絶望だよ」
「……」
「だから君がここにきた時運命だと思った。ようやく終われると思ったんだ」
彼は本当に自分の消滅を望んでいるんだ。
彼を受け入れたいというこの気持ちはきっと、引っかかった八重様の気持ち。
私は手を握りしめ考え込むと、白緋が私の前に出て鞍馬に語りかける。
「八重は幸せだったはずだ」
「……」
「お前と会うようになって、笑顔が増えた」
「……」
「我ら神使でも成し得なかったことだ。礼を言う」
鞍馬が私達を見て悲しげに笑う。
彼の気持ちが少しでも報われたのだろうか。
「姫さん!」
驚いて声の方向を見ると、鞍馬の楼閣にいたはずの三人と虎徹がいた。
「皆!大丈夫なの!?」
「お姉ちゃんのおかげでね!」
「それより、取り込み中ってわけか」
皆が鞍馬を見据える。
私も視線を移すと、彼の様子がおかしかった。
「鞍馬…?…」
瞳の色が戻り、大きな翼を私たちに向ける。
「美桜!」
白緋が私の身体を持ち上げふわりと舞う。
「大丈夫か」
「ええ……皆は!?」
「大丈夫ですよ!」
「それにしても、厄介なことになったね」
鞍馬の身体がどんどん大きくなる。
大きさだけじゃない、身体がどんどん黒い毛で覆われていく。
「そんな……」
八重様はこんな事望んでいないはずだ。
だって、彼女の記憶はこんなにもーーー。
「白緋、降ろして」
「駄目だ」
「私しか彼を浄化できないの!お願い……!」
一瞬迷った様子だったが、白緋は別の存在へと変わろうとしている鞍馬の目の前に私を下ろす。
あれだけの相手の対応をできるのは桜ノ命だけだと悟ったのだろう。
皆、ごめんね。
実を言うと私、なんでここにいるのかももう思い出せないの。
でも最後までやり遂げる。
かつて憧れた人がそうしたように。
「八重様は、貴方のことを大切に思っていましたよ」
間から見えた彼の表情が緩んだ気がした。
まるで運命を受け入れたように。
「ーー汝、祈りを捧ぐ。闇夜をもたらす者達よ」
彼の目の前で手を固く結ぶ。
「在るべき場所にーーー散りなさい」
刹那。
光の柱が彼を包む。
「ありがとう」
そう口が動いた気がした。
終わったんだーーー。
「良かった……」
「美桜!!!」
身体の形が保てない。
満開の桜を背にサラサラと砂の様消えていく自分の身体。
時間切れだと悟る。
「はく、び……」
泣かないで。
あなたの泣いている顔を見たくない。
そう伝えたいのに声が出ない。
最後の力を振り絞って彼の頬に手を添える。
美しい銀色の髪が私の手をくすぐる。
本当に、あなたは最後まで美しい。
悔しそうで悲しそうで。
私の意思は遂げられたというのに、こちらまで悲しくなってしまう。
苦しそうに眉を寄せながら発せられた言葉が、彼から聞いた最期の言葉だった。
「どれだけ月日が流れても、俺はまた君を愛すよ」
到着してもなお、争いの様子はなかった。
「確かにこっちに来てたのに……」
「とにかく楼閣に行ってみようぜ!」
人並みを掻き分け急ぐ。
古都の人達は桜ノ命と神使がいることに驚いているようだった。
「……え?」
楼閣で最初に目に入ったのは倒れた護衛の人達だった。
「大丈夫!?」
「大方眠らせているのだろう。俺たちにかけた術のように」
確かに息がある。
白緋の言ったことは正しいようだ。
「俺、護衛の人たち起こせないかやってみる!」
「ありがとう虎徹!」
「すぐに合流するんだぞ」
「分かってるよ!」
そう言って虎徹と別れる。
鞍馬はどこにいるだろうか。
二階へと上がろうとした時、それは目に入った。
「あ……」
満開の桜の木の下に佇む彼を見つけた。
少し近づくと、彼もこちらに気がついたようだった。
「美桜さん」
「私を襲わないの?」
その青い瞳に他意が無いことを悟ると、私たちは少しづつ近づく。
「ここにいると調子がいいんです。きっと八重のお陰ですね」
「鞍馬……」
「私を殺して」
彼は穏やかな表情でそう告げる。
「できない……」
「私は多くの人を犠牲にしてしまった」
「全て八重さんの為でしょう?」
さっき覗いた彼の記憶で全て察した。
あるのは温かい記憶だった。
「その八重も死んだ」
「……」
「私が殺した」
目を細め考え込む。
話すのを迷っているようだった。
「八重と初めてあったのは、この桜の木の下でした」
ぽつりぽつりと話し始めたのは彼女との記憶だった。
**
最初はほんの出来心だったんです。
神にも等しい力を持ち、私たち一族ーーーカラクリ使いの私たちを使命に縛り付ける桜ノ命が、どんな姿をしているのか興味があった。
「貴方がカラクリ使い?」
だから驚いたのだ。
こんなにも普通の女性だった事に。
「ここの警備、結構厳重なはずなんだけど?」
「全員眠らせた」
「眠らせたって、あははっ」
何が面白いんだ。
彼女の肩を両手で掴む。
「お前たちのせいで、我々は使命の為に命を捧げなければならない。それがどんな思いかお前に分かる?」
権力争いに巻き込まれ、身内からも命を狙われる。
そんな生活に辟易していた。
だから文句の一つでも言ってやりたかったのだ。
「私と一緒ね」
勝ち気な笑顔を崩す事なく、真っ向から君は見つめてきた。
「私もよ。神の力とかまっぴら!」
「は……?」
「私は八重!貴方は?」
「……鞍馬」
「私たち、同志ね!」
ーーこれが八重との出会いだった。
それから私たちは度々会うようになった。
同じ運命を共にする者同士、気が合ったのだ。
「君は何故いつも笑っている?」
「暗くいたって良いことないじゃない」
「……」
「貴方は暗すぎるのよ」
私は暗いのか。
「君はなぜいつも笑っているんだ?」
「私には神使がいるから」
「神使……?」
「私を守ってくれる存在!」
羨ましかった。
肩を預けられる相手がいることに。
「……」
「貴方には私がいるでしょう?」
「随分自惚れたことを言うのだな」
「ふふっ本当ね」
そう言って笑う彼女と話しているうちに、彼女が桜ノ命である事や自分の使命すらも忘れていた。
「私多分、近いうちに居なくと思う」
彼女はいつだって唐突だ。
覚醒の話は聞いていたから、その徐々に白くなる髪も赤くなっていく瞳も自然と受け入れていた。
けれど、その話は到底受け入れられるものではなかった。
「桜ノ命の力か?」
「そうよ」
「なら……」
「私は使命を全うする」
強い眼差し。
自分の運命を受け入れていたというのか。
はじめて祈りの力を使ったその日からーーー。
私は彼女を助けたい一心だった。
だから身内にも敵が潜んでいることを忘れていたのだ。
「ぐ……あ……っ」
あまりよく覚えていないが、寝ている間だったと思う。
兄に呪詛をかけられたのだ。
『なんであいつなんだよ!』
兄は私のことを憎んでいた。
自身が持つ負の感情が強すぎたせいで、カラクリ使いの後継者ではなくなったからだ。
本人が未熟者だから私にかけた呪詛も中途半端だったのだろう。
私の願いを中途半端な形で叶える化け物が、私の中に生み出されてしまった。
「全て、壊す」
**
「その結果がこのザマってわけ」
肩をすくめ笑う彼がとても痛々しかった。
「貴方は八重様のために弱い者を排除したかった。八重様がこれ以上力を使う事がないように」
「君は大切な人を手にかけた事はある?」
顔を手で覆った彼が吐き捨てる。
「絶望だよ」
「……」
「だから君がここにきた時運命だと思った。ようやく終われると思ったんだ」
彼は本当に自分の消滅を望んでいるんだ。
彼を受け入れたいというこの気持ちはきっと、引っかかった八重様の気持ち。
私は手を握りしめ考え込むと、白緋が私の前に出て鞍馬に語りかける。
「八重は幸せだったはずだ」
「……」
「お前と会うようになって、笑顔が増えた」
「……」
「我ら神使でも成し得なかったことだ。礼を言う」
鞍馬が私達を見て悲しげに笑う。
彼の気持ちが少しでも報われたのだろうか。
「姫さん!」
驚いて声の方向を見ると、鞍馬の楼閣にいたはずの三人と虎徹がいた。
「皆!大丈夫なの!?」
「お姉ちゃんのおかげでね!」
「それより、取り込み中ってわけか」
皆が鞍馬を見据える。
私も視線を移すと、彼の様子がおかしかった。
「鞍馬…?…」
瞳の色が戻り、大きな翼を私たちに向ける。
「美桜!」
白緋が私の身体を持ち上げふわりと舞う。
「大丈夫か」
「ええ……皆は!?」
「大丈夫ですよ!」
「それにしても、厄介なことになったね」
鞍馬の身体がどんどん大きくなる。
大きさだけじゃない、身体がどんどん黒い毛で覆われていく。
「そんな……」
八重様はこんな事望んでいないはずだ。
だって、彼女の記憶はこんなにもーーー。
「白緋、降ろして」
「駄目だ」
「私しか彼を浄化できないの!お願い……!」
一瞬迷った様子だったが、白緋は別の存在へと変わろうとしている鞍馬の目の前に私を下ろす。
あれだけの相手の対応をできるのは桜ノ命だけだと悟ったのだろう。
皆、ごめんね。
実を言うと私、なんでここにいるのかももう思い出せないの。
でも最後までやり遂げる。
かつて憧れた人がそうしたように。
「八重様は、貴方のことを大切に思っていましたよ」
間から見えた彼の表情が緩んだ気がした。
まるで運命を受け入れたように。
「ーー汝、祈りを捧ぐ。闇夜をもたらす者達よ」
彼の目の前で手を固く結ぶ。
「在るべき場所にーーー散りなさい」
刹那。
光の柱が彼を包む。
「ありがとう」
そう口が動いた気がした。
終わったんだーーー。
「良かった……」
「美桜!!!」
身体の形が保てない。
満開の桜を背にサラサラと砂の様消えていく自分の身体。
時間切れだと悟る。
「はく、び……」
泣かないで。
あなたの泣いている顔を見たくない。
そう伝えたいのに声が出ない。
最後の力を振り絞って彼の頬に手を添える。
美しい銀色の髪が私の手をくすぐる。
本当に、あなたは最後まで美しい。
悔しそうで悲しそうで。
私の意思は遂げられたというのに、こちらまで悲しくなってしまう。
苦しそうに眉を寄せながら発せられた言葉が、彼から聞いた最期の言葉だった。
「どれだけ月日が流れても、俺はまた君を愛すよ」
