桜ノ命は五人の神使に祈りを捧ぐ

「少し歩きますが、疲れたら言ってください」
「はい」

楼閣(ろうかく)に別れを告げ暗い道を歩く。
道……というより“森の中のかろうじて開けた場所を歩いている”と言った方が正しいかもしれない。
向かうはやはりあの灯りの元らしい。

「……」

白緋は相変わらず口を噤んだままだった。

「あの……」
「なんでしょう?」

話しかけやすい雰囲気の深月に話しかける。

「えっと、ここは何処ですか……?」
「ここは隠世(かくりよ)と呼ばれる場所です」
「かくりよ……?」
「人と(あやかし)が共存する世界の事です」

妖。
あまりに現実離れした説明に眉をひそめてしまう。

「あなた達は妖なの……?」
「妖……とは少し違いますね」

言葉の真意を掴めなかった。

「私達は神使(しんし)です」
「神使?」
「神に仕える者ですよ」

神?神使?
分からない事だらけだった。

「こちらからも質問いいですか?」
「は、はい」

深月が私に問う。

「君は……」
「お前は」

今まで黙り込んでいた白緋が足を止め、口を開く。

「お前は何者だ」

まるで敵に向けるかのような険しい顔。
何者……と聞かれても、それは私が1番知りたい。


「そんなこと私が1番知りたいです……」
「は?」

いけない。
思っていたことがうっかり口から出てしまった。
案の定、白緋が睨みを利かせてきたから私も負けじと応戦する。

「ぷっっっ」

緊張感のある空気の糸を切ったのは、深月の間抜けな笑い声だった。

「貴方は意外と負けず嫌いなんですね」
「そんな事……」
「白緋、女の子にそんな顔をしてはいけません」
「……」

非常に不服そうな表情。
その表情に意識を持って行かれていたせいか、深月がポツリと呟いた言葉は私の耳には届かなかった。

「やはり、似ていますね……」

**

つ、疲れた……。
どれだけ歩いただろう。
ゴツゴツとした険しい足場に疲労が蓄積されていく。
ーーー少し休みませんか?
そう言おうとした時だった。

「囲まれてしまいましたね」

深月と白緋が私を挟むように素早く位置を変える。

「あれ……なに……?」

黒い人型の”ナニか“がじわりじわりとこちらへ近づいてくる。
人の単位で表すならば六人程。
いつの間にか囲まれていたみたいだ。

「カラクリ……おとなしいと思っていたんですよ。白緋、行けますね?」
「ああ」

状況を整理出来ない私を尻目に2人は話す。

「ねぇ、どういうこと……!?」
「話せば長くなります」

深月が穏やかに語りかける。

「今はただ、私たちに守られていて下さい」

キイイイイイイイイイィィィィィィーーー!!!

けたたましい音と共に、黒いナニかが襲いかかる。
どこに隠していたのか、白緋は刀を持って襲いかかる。
刃には狐の模様のようなものが彫刻されているようだった。

「汚い」

すごい勢いでカラクリと呼ばれるそれを切り捨てていく。
天高く飛び攻撃するその動きは、人のものとは思えなかった。

「道中順調だったのに、面倒ですねぇ」

対して深月は、素早くお札のようなものを額部分に貼り付けていく。
華麗に地面に着地すると、指で宙に何かを描く。

「っ!!」

描き終えた刹那ーーー
札から出た炎がカラクリを包んでいた。

「すごい……」

瞬く間に敵を倒す二人を、ただ茫然と見ることしか出来なかった。

「ギ、ギギ……」

だから気付かなかった。
いつの間にかそれが背後に居た事に。

「危ない!!」
「……っ!!!」

白緋がこちらへ駆け出す。
ーー間に合わない。
私は咄嗟に祈るように胸の前で手を組む。

「くっ……!!」

私に触れようとした時だった。
物凄い耳鳴りと共に辺りが光に包まれる。

「な、なに……?」

この光、私から出てる?
恐る恐る目を開けると、目の前でカラクリが砂のようにサラサラと消えていくのが見えた。

「へ……」

辺りが再び闇に包まれると、助かった実感が押し寄せる。
二人の元へ戻らなければ。
後ろを振り返ると、信じられないものを見る目でこちらを見ていた。

「やはり、君は……」

どうしたんだろう。
問おうとしたその声は、二人に届くことはなかった。

「はあっ……はあっ……」

膝から崩れ落ちる。
苦しい。
息が出来ない。

必死に辺りを見渡すが、目が霞み何も見えない。
頭で己が力を使い果たした事を理解した。
薄れゆく意識の中、誰かが近寄って来たのを感じる

暖かくて大きな手が私の頬に触れる。
懐かしいーーー私はこの手を知っている。
最後の力を振り絞って、彼に手を重ねる。

そうして私は意識を手放した。