夢を見た。
何処か知らないところ。
ここは、神社?
『もう怖いことはないからね』
そう言いながら抱きしめるおばあさん。
この人誰だろう。
『これからは、おばあちゃんと一緒なの?』
『そうだよ。これから花織はここで暮らすの』
私の意思と関係なく動く唇。
『おねえちゃんは?』
『お姉ちゃん?』
『いつもここにいたおねえちゃん』
『大変なことが多かったから混乱してるのね……可哀想に……』
そう言って涙ぐみながらおばあさんは私を抱きしめる。
もう全ての事がどうでもいいと思っていたけれど、その温かい温もりに目頭が熱くなるのを感じた。
おねえちゃんにも、会いたいな。
「八重おねえちゃん……」
**
「はっ………!!!!」
息苦しくて目が覚める。
最近こんな夢ばかり見ている。
「はあっはあっ……」
穏やかな夢のはずなのに、いつも激しい動悸で目が覚める。
まるで思い出してはいけない事のように。
「水飲も……」
喉がカラカラだった。
重い身体を起こし、部屋を出て階段を降りる。
下に着いた時、いつも閉まっているはずの庭へ続く扉が開いていることに気が付いた。
「どうしたんだろう」
神域とはいえ危険がつきまとう土地だ。
誰かが戸締まりを忘れることはあまりないのだが……。
「綺麗……」
扉の先に足を踏み入れると、満開の桜が目に入る。
いつもより鮮やかに咲いているように感じた。
「ん……?」
誰かが立っている。
満開の桜の下に。
私は警戒心を強める。
いつでも祈る事のできるように。
「っ……」
ジワリジワリと近づくと、その視線がこちらを捉えたのが分かった。
「えっ」
泣いていた。
そして思い出した。
その人はいつか会ったことのある黒い人だった。
「貴方、泣いているの?大丈夫?」
穏やかな顔つき。
この間の雰囲気と一変してとても攻撃してくるようには思えなかった。
歩みを進め、思わず彼の涙に手を伸ばした時だった。
「八重」
その手を引き寄せられ抱きしめられる。
大きな身体に収まってしまった。
「あ、あの……!」
押し返そうとしてもびくともしない彼の胸。
まるで離さないとでも言うかのように。
彼の長く黒い髪が頬に触れ、くすぐったかった。
「わ、私は八重様ではありません」
「……」
聞こえているのかいないのか、その体勢のまま彼は言葉を発さない。
そのまま腕の力がふっと抜け唐突に私は解放された。
「会いたかったよ」
赤い瞳が私を愛おしそうに見つめる。
この人は八重様の何……?
「貴方の名前は?」
「俺は……」
ーーーその時だった。
キイィン!!!!
攻撃がその人を襲う。
咄嗟の事で理解が追いつかない。
「白緋!!?」
攻撃の主は白緋だった。
黒い人は結界のようなものを作って防いでいる。
「美桜さん!!!どいてください!!!」
「深月!!」
爆音と共に深月も攻撃に加わる。
その横を見るとそこには巳影もいた。
「ちょっと!どうしたの皆!!」
一瞬で戦場と化したこの場で声を上げる。
急に攻撃を開始するなんて只事ではない。
そしてこの人はあまりにも、戦いに慣れすぎているーーー。
「姫さんそいつはねえ、姫さんを殺した張本人」
「そして、終祈の災いの元凶となった人物ですよ」
思わぬ言葉に身体が固まる。
「鞍馬、どうやってここに入った」
「……」
鞍馬と呼ばれるその人物は問いかけに答えること無く私を見つめる。
「またね」
その言葉を告げた刹那、黒い霧が瞬く間にあたりに立ち込める。
「逃がしません」
「深月!!」
深月が霧の奥深くに突入していく。
咄嗟に止めようとした時、瞬く間に霧が晴れていった。
「……いない」
そこには先程までの姿はなかった。
あるのはただ、静寂のみ。
「姫さん大丈夫!?」
呆然としている私の近くに白緋と巳影が駆け寄ってくる。
「うん、なにも」
「そうか」
「ねえ、皆どうしたの……」
急に攻撃体制に入るなんて。
皆らしくないと感じた。
「あれはね、生きていてはいけない存在です」
答えたのは深月だった。
その表情にいつもの穏やかな雰囲気はなかった。
「彼は鞍馬。前に話したカラクリを取りまとめる一族だった者です」
「なんで奴がまた……」
巳影は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「またカラクリが発生したのも、鞍馬が姿を現したのも、美桜さんがこちらに現れてからです」
「そんな……」
それではまるで……。
「姫さんが来るのを待っていたみたいだね」
「でもなんで……」
そう言いかけてハッとする。
『八重』
彼は確かにそう呼んだ。
私と八重様を重ねてる……?
でもなんでーーー
「美桜さん?」
「私、あの人に『八重』と呼ばれた」
「八重と?」
「うん。なんでだか分からないけど……」
頭を悩ませる。
ふと白緋を見ると、手を口に添え別に何かを考えているようだった。
「まあ兎に角、今は緊急事態です。直ちに古都の住民と統花府に伝令を出しましょう」
「姫さんは部屋で休んでいて。護衛をつけるから」
「分かった……」
気になることは沢山ある。
けれど彼の狙いはきっと私。
大人しくしているのが得策だと、私でも分かる。
「皆、気をつけてね」
私はそう言い残し、彼らの背中を見送った。
何処か知らないところ。
ここは、神社?
『もう怖いことはないからね』
そう言いながら抱きしめるおばあさん。
この人誰だろう。
『これからは、おばあちゃんと一緒なの?』
『そうだよ。これから花織はここで暮らすの』
私の意思と関係なく動く唇。
『おねえちゃんは?』
『お姉ちゃん?』
『いつもここにいたおねえちゃん』
『大変なことが多かったから混乱してるのね……可哀想に……』
そう言って涙ぐみながらおばあさんは私を抱きしめる。
もう全ての事がどうでもいいと思っていたけれど、その温かい温もりに目頭が熱くなるのを感じた。
おねえちゃんにも、会いたいな。
「八重おねえちゃん……」
**
「はっ………!!!!」
息苦しくて目が覚める。
最近こんな夢ばかり見ている。
「はあっはあっ……」
穏やかな夢のはずなのに、いつも激しい動悸で目が覚める。
まるで思い出してはいけない事のように。
「水飲も……」
喉がカラカラだった。
重い身体を起こし、部屋を出て階段を降りる。
下に着いた時、いつも閉まっているはずの庭へ続く扉が開いていることに気が付いた。
「どうしたんだろう」
神域とはいえ危険がつきまとう土地だ。
誰かが戸締まりを忘れることはあまりないのだが……。
「綺麗……」
扉の先に足を踏み入れると、満開の桜が目に入る。
いつもより鮮やかに咲いているように感じた。
「ん……?」
誰かが立っている。
満開の桜の下に。
私は警戒心を強める。
いつでも祈る事のできるように。
「っ……」
ジワリジワリと近づくと、その視線がこちらを捉えたのが分かった。
「えっ」
泣いていた。
そして思い出した。
その人はいつか会ったことのある黒い人だった。
「貴方、泣いているの?大丈夫?」
穏やかな顔つき。
この間の雰囲気と一変してとても攻撃してくるようには思えなかった。
歩みを進め、思わず彼の涙に手を伸ばした時だった。
「八重」
その手を引き寄せられ抱きしめられる。
大きな身体に収まってしまった。
「あ、あの……!」
押し返そうとしてもびくともしない彼の胸。
まるで離さないとでも言うかのように。
彼の長く黒い髪が頬に触れ、くすぐったかった。
「わ、私は八重様ではありません」
「……」
聞こえているのかいないのか、その体勢のまま彼は言葉を発さない。
そのまま腕の力がふっと抜け唐突に私は解放された。
「会いたかったよ」
赤い瞳が私を愛おしそうに見つめる。
この人は八重様の何……?
「貴方の名前は?」
「俺は……」
ーーーその時だった。
キイィン!!!!
攻撃がその人を襲う。
咄嗟の事で理解が追いつかない。
「白緋!!?」
攻撃の主は白緋だった。
黒い人は結界のようなものを作って防いでいる。
「美桜さん!!!どいてください!!!」
「深月!!」
爆音と共に深月も攻撃に加わる。
その横を見るとそこには巳影もいた。
「ちょっと!どうしたの皆!!」
一瞬で戦場と化したこの場で声を上げる。
急に攻撃を開始するなんて只事ではない。
そしてこの人はあまりにも、戦いに慣れすぎているーーー。
「姫さんそいつはねえ、姫さんを殺した張本人」
「そして、終祈の災いの元凶となった人物ですよ」
思わぬ言葉に身体が固まる。
「鞍馬、どうやってここに入った」
「……」
鞍馬と呼ばれるその人物は問いかけに答えること無く私を見つめる。
「またね」
その言葉を告げた刹那、黒い霧が瞬く間にあたりに立ち込める。
「逃がしません」
「深月!!」
深月が霧の奥深くに突入していく。
咄嗟に止めようとした時、瞬く間に霧が晴れていった。
「……いない」
そこには先程までの姿はなかった。
あるのはただ、静寂のみ。
「姫さん大丈夫!?」
呆然としている私の近くに白緋と巳影が駆け寄ってくる。
「うん、なにも」
「そうか」
「ねえ、皆どうしたの……」
急に攻撃体制に入るなんて。
皆らしくないと感じた。
「あれはね、生きていてはいけない存在です」
答えたのは深月だった。
その表情にいつもの穏やかな雰囲気はなかった。
「彼は鞍馬。前に話したカラクリを取りまとめる一族だった者です」
「なんで奴がまた……」
巳影は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「またカラクリが発生したのも、鞍馬が姿を現したのも、美桜さんがこちらに現れてからです」
「そんな……」
それではまるで……。
「姫さんが来るのを待っていたみたいだね」
「でもなんで……」
そう言いかけてハッとする。
『八重』
彼は確かにそう呼んだ。
私と八重様を重ねてる……?
でもなんでーーー
「美桜さん?」
「私、あの人に『八重』と呼ばれた」
「八重と?」
「うん。なんでだか分からないけど……」
頭を悩ませる。
ふと白緋を見ると、手を口に添え別に何かを考えているようだった。
「まあ兎に角、今は緊急事態です。直ちに古都の住民と統花府に伝令を出しましょう」
「姫さんは部屋で休んでいて。護衛をつけるから」
「分かった……」
気になることは沢山ある。
けれど彼の狙いはきっと私。
大人しくしているのが得策だと、私でも分かる。
「皆、気をつけてね」
私はそう言い残し、彼らの背中を見送った。
