桜ノ命は五人の神使に祈りを捧ぐ

夢を見た。
雨の中、女の子が泣きじゃくっている夢。

『どうしたのかしら?』

優しい声が私に語りかける。

『ひっ……!!!』

ぶたれるーーー。
彼女が伸ばす手が恐ろしくて、咄嗟に身を縮こませてしまった。
優しい声の主の顔から笑顔が消える。

『ごっ、ごめんなさ……っごめんなさい………!!!』

必死に謝る。
またぶたれる事が怖かったからだ。

『っーーー!!!』

目を固く瞑っていたら、温かく柔らかいものに包まれていた。

『ごめんね』

何故、この人が謝るのだろうか。

『私はーーー貴方は?』
『わたしは……』

**

「ーーーーーっは!!!」

物凄い動悸で目が覚める。
見渡すといつも見慣れた室内だった。
私、どうしてここに…?

「大丈夫か!?」

突然の声に驚き横を向くと、そこには虎徹と澄が座っていた。

「お前すごいうなされてたぞ」
「おねえちゃん大丈夫?」

心配そうに見つめる二人。
私は確か、祭りに行ってその帰りに……。

「お前のこと見失っちまって悪かった」
「ごめんねぇ……」
「でも白緋さんと合流できてたみたいで良かった」

白緋……?合流……?

「そうだ、白緋の前で倒れて……」
「白緋さん、お前抱えて帰ってきたぞ」

抱えて……!?
それは申し訳ないことをしたな。
後で謝ろう、そう決めていると虎徹に思わぬ言葉を告げられる。

「それより大変だ。アズマ地方にカラクリが出たらしい」
「え……!?」

最近大規模なカラクリの動きは影を潜めていた。
それなのに一体何故。

「今三人が様子を見に行ってる。この間の件で住民を避難させてたから、大事には至ってないみたいだけど……」
「私も行く」
「だめだよ」

澄が止めに入る。

「おねえちゃん、今目覚めたばっかりなんだよ」
「澄の言う通りだ。やめとけ」

二人の言っている事も分かる。
けどーーー

「また攻撃されてるのに、知らないフリなんて出来ないよ!」

指を咥えて見てるのだけは嫌。
私も戦力になりたい。

「……すごい剣幕だな」
「あっ、ごめん……」

勢い余って睨みつけていたらしい。

「この間の件もあったから古都の警備を厳重にしてるけど、美桜も起きたしこんなに戦力いらねぇか」
「え……」
「行ってこいって言ってんの!」

彼なりの優しさだろう。
申し訳なく思わないようにしてくれてるらしい。

「虎徹にいちゃんはぶきようだね」
「うるせえ!」
「ありがとう、二人とも」

澄が私に向き直る。

「でも、気をつけてね。なんか……いやな感じがするんだ」
「どういうこと?」
「わかんないけど…とにかく気をつけてね」

いつになく真剣な澄に背筋が伸びる。

「分かった。行ってくる!」

**

「美桜さま!こちらです!」

護衛に先導され全速力で目的地に向かう。

キイイイイィィィィィ

「いたわね」

ガキン!!!

すぐ近くから戦闘の音が聞こえる。
ほぼ同時、こちらに何かが飛んできた。

「白緋!」

私をチラと見てすぐに戦いに戻ってしまった。
横を見ると、カラクリはいつの間にかすぐ側まで迫っていた。

「姫さん!?」

巳影は奴らを拘束した後に私の元に駆け寄る。

「だめじゃない、病み上がりでしょう?」
「ごめんなさい…」

拳を作ってコツンと私の額に当てる。
巳影とはあれ以来だったけれど、私へと向ける視線が前より穏やかだった。
受け入れてもらえたのだろうか。

「でも、正直助かるよ」

巳影らしくもなく余裕のない表情を見せる。

「結構押され気味でね」

視線の先には大量のカラクリが迫っていた。
さっきまで居なかったのに、一体何処に潜んでいたというのか。
咄嗟に祈りの体勢を取る。

「ーーー散りなさい」

ヤツらに祈りを捧ぐと、辺りは瞬く間に光に包まれていった。

「えっ……」

薄く目を開けると、そこにカラクリはほとんど居なかった。

「なんか姫さんの力、強力になってない?」

巳影も同じ事を考えていたようで、違和感を口にする。
確かに今まではここまでの数を一度に相手にする事は出来なかった。
あれ、前はどのくらいの数を相手にしていたっけ?

「じゃあ引き続き安全な場所からよろしくね」

私が考え込んでいると、巳影は白緋の方へと合流していった。

「こっちは片付けておくわ」

奥から再び出てきたカラクリに向きなおる。
再び祈りを捧げようとした時だった。

「うっ、お母さん……」
「えっ!?」

草むらからまだ年端もいかない子供が出てきたのだった。
暗くて全く気が付かなかった。
このあたりの避難は完了していたはずじゃ……。

「僕、どうし……」

近寄ろうとした瞬間、潜んでいたのであろうカラクリがすぐ後ろから襲い掛かろうとしているのが見えた。
間に合わない……!

ーーその時だった。

「うっ!」

光の柱に包まれる。
身体が燃えるように熱い。

「えっ……」

薄らと目を開けると、カラクリがいた場所が更地になっていた。
先程まで木々が生い茂っていた場所がーーだ。

「大丈夫!?」

少年の事を思いだし咄嗟に声をかける。
今の出来事が衝撃だったのか、腰を抜かし青ざめた顔をしていた。

「怖かったね」
「さわんな……」
「え?」
「さわんなよ!!バケモン!!!」

伸ばした手を勢いよく払われる。

「おい!待て!」

暗がりに戻ろうとする少年を、いつの間にかこちらに来ていた白緋が追いかける。

「姫さん」

戦闘が終わったのだろうか、巳影が私に話しかけてきた。

「巳影…」
「いつから覚醒できるようになった」
「かく、せい……?」

言葉をそっくり繰り返す事しか出来なかった。

「見てごらん」

巳影から渡されたのは小さな手鏡だった。
嫌な予感がする。

「あ……」

鏡を見て予感が的中したことを悟る。
白い髪色、血のように赤い瞳。

「……ねぇ」
「どうしたの」
「私、化け物なのかな」

ただただ冷静だった。

「顔あげて」

いつも影を纏う巳影の表情が、今までとは違い柔らかかった。

「姫さんは姫さんだよ」
「何それ…」
「ほら見て」

持っていた鏡を向けられ中を覗く。
そこに居たのはいつもの私だった。

気のせい?
いや、違う。
この間だって。

『まあ、ひどい怪我』

「くっ………!!!」
「姫さん!?」

まただ。
何なの、これ。

『よしよし、私が治してあげよう!』

これは、きっと記憶。

「この人……」
「姫さま!」

視界が戻る。
いっぱいに巳影が映っていた。

「大丈夫?」
「……ええ」

冷や汗が止まらない。

「帰ろうか」
「カラクリは?」
「おかげさまで」

「それより……」と言葉を続ける。

「姫さんが心配だ」