ーー統花府より、隠世全土に通達する。
此度の厄災によって都は未曾有の被害を受けた。
都の大半は崩壊し、隠世の中心である宮も著しく損傷。
現時点で判明しているだけでも多数の死傷者を確認、行方不明者の捜索を続けている。
都の早期復旧は極めて困難であると判断する。
なお、被害は都とその周辺地域に集中しており、アズマ地方をはじめとした外側地域への侵略は確認されていない。
統花府は協議の末、都の機能を一時中断。
今後の統治機能は古都へと移管するーーー。
**
「だいたい運んだよ!」
「ありがとう澄」
「お安いごようだよ!」
澄の柔らかな笑顔が胸に沁みる。
あれから10日。
都の早期復旧が困難と判断した統花府により、私達を含め都にいた人々は古都への大移動を行っていた。
古都ーー終祈の災い以前は都としての機能を果たしていた場所だ。
今回のように終祈の災いでは古都が狙われたらしく、都を移していたらしい。
「澄、怪我は大丈夫……?」
「もう全然平気だよ!」
「そっか、本当に良かった」
澄の怪我の治りは随分早かった。
あんなにボロボロだったのにも関わらず。
「それにしても、ひどいね。」
「これじゃあ都に戻るのはずっと後になりそうだな」
「虎徹」
手伝いが終わった虎徹がいつの間にか横に立っていた。
「私、ちょっと都を見てくるね」
「あっ、おい!気をつけろよ!」
慌てる彼を尻目に私は都へ駆け足で歩みを進める。
しっかり見て回るのはあの日以来だった。
目に映る都は、私が知っている都とはまるで別物だった。
店や住居が倒壊し、あんなに美しかった提灯は一つも残っていなかった。
「ひどい……」
見慣れた場所の全てが炭となっていた。
「あっ……」
『雫がまだあの中にいるんです……!!助けて下さい……っ!!』
必死に呼び止められた声を振り払ったあの場所。
「美桜さま……?」
突然の声がけに驚き振り向くと、そこにはあの日私を必死に呼び求めた声の主が立っていた。
「あ……」
顔はやつれ、ボロボロの服を着た母親。
手には白い箱を持っていた。
「ーーーっ」
「こんなに小さくなってしまいました」
彼女は箱を愛おしそうに撫でる。
その様子に、私の胸は焼けつくようだった。
「なんで、救って下さらなかったのですか?」
真っ直ぐ、射抜くような目線。
私は口を開くことすら出来なかった。
「なんて思ってしまうなんて、雫に怒られてしまいますね」
「申し訳……ございません…」
悲しそうに笑みを浮かべる様子は、とても痛々しかった。
「大変……申し訳ございませんでした……」
謝罪なんて望んでいないであろう事は重々承知だった。
でも、どうしても、何か言わずにはいられなかった。
「頭を上げてください」
先程と寸分違わぬ声色で私へと促す。
「再び結界を張ってくださったんですってね」
「はい……」
「それによって救われた命も多いはずです」
何故、そんな事を言うの。
一番守って欲しかったはずの命はもう無いというのに。
「もうお会いする事はないでしょう。どうかお元気で」
そう言って去り行く背中をただ見ることしか、今の私には出来なかった。
立ち尽くしてどのくらいの時間が経ったのだろう。
戻ろうと踵を返した時だった。
「深月」
彼がこちらを見ていた。
先程のやりとりも見られていたのだろうか。
「すみませんでした」
「え?」
「あの時、助けようとした美桜さんを私は無理やり連れて行きました。
「……」
あの時のことを思い出す。
燃え盛る炎へと向かおうする私を深月は阻止した。
「私を助けようとしてくれたんでしょう?」
「……」
「責められないよ」
私が彼女を助けたかったように、彼も私を助けたかったのだ。
私が深月の立場でもそうする。
「私はあの時桜ノ命としてではなく個人として動いてしまったわ。ごめんなさい」
「美桜さん……」
彼が少し近付く。
「私たちは、そんな貴方だからお守りしたいと思うのですよ」
「深月……」
「だから貴方はそのままでいてください」
彼が子供をあやすようにぽんぽんと私の頭に手を乗せる。
駄目だ。
また涙腺が緩みそうになってしまう。
「戻りましょうか。皆が心配します」
「そうね」
そうして私たちは、壊れた都の中に歩みを進めた。
此度の厄災によって都は未曾有の被害を受けた。
都の大半は崩壊し、隠世の中心である宮も著しく損傷。
現時点で判明しているだけでも多数の死傷者を確認、行方不明者の捜索を続けている。
都の早期復旧は極めて困難であると判断する。
なお、被害は都とその周辺地域に集中しており、アズマ地方をはじめとした外側地域への侵略は確認されていない。
統花府は協議の末、都の機能を一時中断。
今後の統治機能は古都へと移管するーーー。
**
「だいたい運んだよ!」
「ありがとう澄」
「お安いごようだよ!」
澄の柔らかな笑顔が胸に沁みる。
あれから10日。
都の早期復旧が困難と判断した統花府により、私達を含め都にいた人々は古都への大移動を行っていた。
古都ーー終祈の災い以前は都としての機能を果たしていた場所だ。
今回のように終祈の災いでは古都が狙われたらしく、都を移していたらしい。
「澄、怪我は大丈夫……?」
「もう全然平気だよ!」
「そっか、本当に良かった」
澄の怪我の治りは随分早かった。
あんなにボロボロだったのにも関わらず。
「それにしても、ひどいね。」
「これじゃあ都に戻るのはずっと後になりそうだな」
「虎徹」
手伝いが終わった虎徹がいつの間にか横に立っていた。
「私、ちょっと都を見てくるね」
「あっ、おい!気をつけろよ!」
慌てる彼を尻目に私は都へ駆け足で歩みを進める。
しっかり見て回るのはあの日以来だった。
目に映る都は、私が知っている都とはまるで別物だった。
店や住居が倒壊し、あんなに美しかった提灯は一つも残っていなかった。
「ひどい……」
見慣れた場所の全てが炭となっていた。
「あっ……」
『雫がまだあの中にいるんです……!!助けて下さい……っ!!』
必死に呼び止められた声を振り払ったあの場所。
「美桜さま……?」
突然の声がけに驚き振り向くと、そこにはあの日私を必死に呼び求めた声の主が立っていた。
「あ……」
顔はやつれ、ボロボロの服を着た母親。
手には白い箱を持っていた。
「ーーーっ」
「こんなに小さくなってしまいました」
彼女は箱を愛おしそうに撫でる。
その様子に、私の胸は焼けつくようだった。
「なんで、救って下さらなかったのですか?」
真っ直ぐ、射抜くような目線。
私は口を開くことすら出来なかった。
「なんて思ってしまうなんて、雫に怒られてしまいますね」
「申し訳……ございません…」
悲しそうに笑みを浮かべる様子は、とても痛々しかった。
「大変……申し訳ございませんでした……」
謝罪なんて望んでいないであろう事は重々承知だった。
でも、どうしても、何か言わずにはいられなかった。
「頭を上げてください」
先程と寸分違わぬ声色で私へと促す。
「再び結界を張ってくださったんですってね」
「はい……」
「それによって救われた命も多いはずです」
何故、そんな事を言うの。
一番守って欲しかったはずの命はもう無いというのに。
「もうお会いする事はないでしょう。どうかお元気で」
そう言って去り行く背中をただ見ることしか、今の私には出来なかった。
立ち尽くしてどのくらいの時間が経ったのだろう。
戻ろうと踵を返した時だった。
「深月」
彼がこちらを見ていた。
先程のやりとりも見られていたのだろうか。
「すみませんでした」
「え?」
「あの時、助けようとした美桜さんを私は無理やり連れて行きました。
「……」
あの時のことを思い出す。
燃え盛る炎へと向かおうする私を深月は阻止した。
「私を助けようとしてくれたんでしょう?」
「……」
「責められないよ」
私が彼女を助けたかったように、彼も私を助けたかったのだ。
私が深月の立場でもそうする。
「私はあの時桜ノ命としてではなく個人として動いてしまったわ。ごめんなさい」
「美桜さん……」
彼が少し近付く。
「私たちは、そんな貴方だからお守りしたいと思うのですよ」
「深月……」
「だから貴方はそのままでいてください」
彼が子供をあやすようにぽんぽんと私の頭に手を乗せる。
駄目だ。
また涙腺が緩みそうになってしまう。
「戻りましょうか。皆が心配します」
「そうね」
そうして私たちは、壊れた都の中に歩みを進めた。
