桜ノ命は五人の神使に祈りを捧ぐ

「はあっ、はあ……っ!」

どれほど戦い続けたのだろう。
気付けば宮付近にあれだけいたカラクリは、あらかた片付いたかのように見えた。

「みんな、大丈夫……?」

息をするのもやっとで膝をつく。
もう少し戦いが長引けば危なかったかもしれない。

「まあ、なんとかね」
「美桜さん!無事ですか!?」
「……」

皆無事なようだがかなり消耗いるようだ。

「此処はあらかた片付きました!通りの被害状況を確認しに行きましょう」

深月の呼びかけに私達は通りへ向かおうとした。
その時だった。

キイイイイイイイイイィィィィィィ!!!

またあの金属音。
咄嗟に祈りの体制を取ろうとする。

……おかしい。
最初に違和感に気が付いたのは、あの金属音がやけに遠くに聞こえた事だった。
いつもは耳を塞ぎたくなるような大音量なのに。
違和感はもう一つ。
何も見えない。

「皆……?」

まるで霧に包まれたように、見渡す限り上手く周りを見ることが出来なかった。
不安に押しつぶされそうな中、永遠にも思える様な一瞬の時間。
ようやく霧が晴れ、周囲を見渡せる様になり私は絶句した。

「そんな……嘘でしょ……」

そこにあった景色が、なくなっていた。
正確には吹き飛ばされていた。
宮は原型失い、瓦礫(がれき)はあたり一面に散乱。
あんなに美しかった桜の木は根本からへし折られていた。

「そん……な……」
「かは……っ」
「白緋!!!!」

近くの瓦礫を見ると、爆風で叩きつけられたであろう白緋が血を吐いて倒れていた。
酷い傷だ。
目を背けたくなる気持ちを抑え慌てて止血をする。

「だめ、だめ……」

血が止まらない。
こんな所でお別れなの?
まだ言えてない事だってある。

「…お……」

手を震わせながら何かを伝えようとする。
私は手を固く握り、彼の意思を必死に聞き取ろうとする。

「い、きろ……」

そう言い残して彼の手から力がなくなる。

「……はっ」

守れなかった。
守りたいとか、大それた事を言ってたのに。
守れなかった。

「……ははっ」

辺りを見渡すと深月と巳影らしき人影が、同じく地面に叩きつけられ倒れていた。
私は、私だけが無傷で生き残って。
誰一人守れなかった。

「………っ」

喉の奥が熱い。
違う。
こんなの違う。

「嫌……」

震える声が漏れる。

誰も、失いたくない。
ーーー神使(みんな)が傷付く姿なんて、見たくない。

「いやぁ……っ」

そう祈った瞬間だった。
ぶわり、と。
私の中から光が溢れだす。
折れた木々が激しく揺れ、崩れた瓦礫がカタカタと音を立てる。

「な、に?」

自分でも制御できない。
けれど、自分の奥から止めどもなく力が溢れてくる。

「あっああ……!」

身体が燃えるように熱い。
ちら、と見えた私の髪が、白色に染まっているのが見えた。
私の中から溢れ出た光が、どんどん巨大に膨れ上がっていく。
それは宮を、都を、遂には神域全体にまで及んだ。

「……っ!!」

光が最大級に強くなった後、少しずつ光が弱まっていくのを感じた。
目を開けられる位の強さになった頃、光の行方を確認する。

「えっ…!?」

自分の目を疑った。
破られたはずの結界が、何事もなかったかのように張られていた。

「どういう事……?」

辺りを見渡すと、カラクリの残党見当たらなかった。
それどころか気配を感じない。
終わったのか……?

「美桜なのか……?」

聞き慣れた優しい声。
半信半疑で声を辿ると、彼はそこに立っていた。

「白緋!!」

生きていたんだ!
思わず抱きついてしまいそうになる。
やめたのは彼の私を見る目がいつもと違ったからだ。

「どうしたの……?」

地面に映る水たまりに目をやる。

「なに、これ……」

黒かった瞳は真っ赤へと変わり、髪はまるで桜の花びらみたいに白く淡く染まっていた。
こんなの、私じゃない。
こんなの、人じゃない。

「いやあ……っ!!」

嫌。
元に戻して!!

「落ち着け」

白緋が私の肩を強く掴む。

再び水たまりに目をやると、そこにはいつも通りの私が映る。
気のせい?
いや、でも確かに……。

「終わったようだな」

混乱する私に白緋が語りかける。
それはこの争いの終わりを意味する言葉だった。
気がつくと先程まで二つに折れ色を失っていた桜が、再び色付いているのが見えた。
まるで、再び春が訪れたように。

「そう、なのね……」

この時の私はまだ気が付いていなかった。
この戦いで失ったものが、あまりにも大きかった事に。
私が私でいられる時間が迫っていることに。

水面にはいつの間にか、黒い羽が浮かんでいたーーー。