桜ノ命は五人の神使に祈りを捧ぐ

「美桜さんはここで待っていて下さい」

宮に着く事が出来た私たちは被害状況を確認する。
幸い宮に火の手は及んでいなかった。
深月は放心状態の私を参道に座らせ、中の様子を見に行く。

「うっ……」

早く立ち上がらなければ。
そう思えば思うほど、足に力が入らなかった。
深月の後を追わなければ。
そう思い、宮の見上げた時だった。

ヒュッッーーー

宮の屋根を突き破って、天高く舞い上がる小さな影が見えた。
敵か?
そう思い、祈りの姿勢を取ろうとした時だった。

「こっちに来る」

空中で起動を変えた影が物凄い速さでこちらに向かって来る。
避けられない……!
咄嗟に腕で身体を隠す。

キイイイイィィィ!!!

「えっ……?」

私へと向かって来たと思った影は、私のすぐ後ろのそれに激突する。
影が攻撃したそれはカラクリだった。

「なん、で」

私の背後に迫っていたカラクリに攻撃を?
影は煙を出しながら力を失ったかのように倒れ込む。

「澄!!?」

影だと思っていたそれは、私の良く知る人だった。
しかも服も肌も灰にまみれていて。
その小さい身体は傷だらけだった。

「お、ねえ……ちゃん……」
「澄!!澄……っ!!」

澄の頭を私の膝に乗せる。
こんな小さな身体で今まで戦っていたのだ。

「ぼく……まもった、よ」

痛いはずなのに、苦しいはずなのに。
その表情は無邪気な子供のように穏やかだった。

「うん……うん……っ、ごめんね……」

私の目から溢れ出した雫が澄の頬に落ちる。
水分を含んだ澄の頬は、そこだけ本来の色を取り戻したようだった。

「もう、大丈夫だから」

傷付いた澄を護衛に託す。
許さない。
私の大切な人達をめちゃくちゃにした争いが憎い。
命に変えてでも、この場所を守ってみせる。

「美桜さん、中には力付きたカラクリしか……澄!?」
「澄が守ってくれたの」

戻ってきた深月が私に告げる。
護衛と共に、たった一人の神使が守ったんだ。

キイイイイイイイイイィィィィィィ!!

けたたましい金属音。

「来るよ」

宮を囲むように大量のカラクリが現れる。
結界が破られた今、入りたい放題というわけだ。

「美桜さん、準備は良いですか」
「勿論。深月こそ、二人だけど大丈夫?」
「勿論ですよ」
「三人だ」

第三者の声が聞こえ声の主を辿る。

「白緋!」
「酷い怪我じゃないですか……」

着物には模様のように赤い斑らが至るところに広がっていた。

「問題ない」
「今までの分、きっちり働いて貰いますからね」

深月と白緋が背中を合わせる。

「勿論だ」

言葉と同時ーーー。
一斉に敵に向かって攻撃を開始する。

耳をつんざくような金属音に、途切れる事のない爆発音。
ここが気を抜く事を許されない戦場なのだと実感する。
私は二人を祈りの力で援護し、攻撃の効率化を図る。
だけど……。

「くそ……っ」

離れた場所にいる白緋の顔が歪むのが分かった。
当たり前だ、数が多すぎる。
とても神使二人で相手出来る数ではない。

「どうしよう……」

迷いが生じ、祈りの手を緩めた。
その時だった。

ギイイアアアアアァァァ!!

けたたましい鳴き声がすぐ後ろに聞こえた。
カラクリが私に向かって腕を振り下ろそうとするのが見えた。
まるで世界がスローモーションの様に感じる。

やられるーーー

固く目を閉ざした。
その時だった。

シュルルルルル

風を切る音が聞こえ目を開けると、見覚えのある影がこちらに歩いて来るのが見えた。

「駄目じゃない。そんな無防備な姿見せたら」
「巳影!!」

巳影は左手から出る血で生成された蔦でカラクリを拘束しながら、飄々とした口調でこちらに向かう。
右手に大きな鎌を持った彼は、捉えていたカラクリの首を気怠そうに跳ねた。

「戻って来てくれたのね!」
「ははっ。歓迎してくれるなんて思わなかったなあ」

豆鉄砲を喰らったような顔で笑う。

「巳影、急げ」
「分かってるよ」

巳影の大きな掌が私の頭を包む。

「行ってくるね。お姫さま」

そういってカラクリの方へ向かって走り出す。
これだけの戦力があれば殲滅だって出来るかもしれない。
決して敵の好きにはさせない。