桜ノ命は五人の神使に祈りを捧ぐ

就任式はそれはそれは煌びやかに行われた。
露店が数えきれないほど見受けられ、吊るされた提灯はまるで夜空に煌く星のようだった。

「あれが此度(こたび)の桜ノ命じゃ」
「なんと美しい……」
「我らの姫さまが帰ってきた」

神使と共に参道の中心をゆっくりと歩く私の耳に入ってくる民の言葉。
皆、桜ノ命を待ち望んでいたんだ。
私は、期待に応えられるのだろうか。

踏み出すたび、足元に淡い花弁が舞い降りる。
まるでこの道が私を迎え入れているかのよう。
背筋を伸ばし、視線を前に。
俯くことは許されない。

きっと大丈夫だ。
この五人の神使と一緒であればーーー

**

「カラクリ討伐だけれど、明日は虎徹と澄に任せようかと思っています」

協議の最後に深月から私達に告げられた言葉だった。
あれから討伐の回数も重ね、筒がなく行えるようになったと思う。
そういえば、この二人とだけってなかったような……。

「ええ!?俺たちだけ!?」

声を上げたのは虎徹だった。
何をそんなに慌てているのだろう。

「俺らは見習いだから兄さん達と組むって約束だろ!?」
「今までは。でももうあなた達も戦闘に慣れてきましたよね。もう任せても良い頃合いかと」
「でも……!」
「それとも虎徹くん、自信ないんですか?」
「〜〜〜っ!!分かったよ!やればいいんだろ!?」

深月が意地の悪い笑顔を見せると、徹は顔を真っ赤にしながら渋々了承する。

「ありがとうございます。澄も良いですか?」
「うん。がんばるよ!」

就任して日が浅いのは私だけではないことに安堵する。

「二人とも、頑張ろうね」

**

「足震えてない?」
「う、うるせえ!震えてるわけないだろ!!」
「いつもとそんな変わらないのに……」

翌日、私と虎徹と澄は言われた通り3人で討伐へと向かっていた。
護衛も含めたら完全に三人という訳ではないのだが。

「二人って見習いって扱いだったんだね」

昨日の協議で感じた疑問を耳にする。
それに応えたのは澄だった。

「ぼくと虎徹兄ちゃんは神使になったばかりだからね」
「俺達はまだ顕現されたばかりだ。終祈の災いで前任の虎と鼠がやられちまったからな」
「やられたって……?」
「死んだんだよ。大きな争いだったからな」

そう言って虎徹は顔を歪める。
その様子を見るに、きっと前任の神使とは少なからず関係性があったのだろう。

「それで虎と鼠を受けついだのがおなじ血筋だったぼくたちなんだよ!」
「澄はまだ幼いってのに神使になっちまって……それでもこんなにしっかりしてるのに俺ときたら……」

気まぐれで決まる桜ノ命とは違い、神使は血筋で決まるのか。
過酷な使命を全うしようとする二人が眩しく思えた。

「おっ、おい!!!」
「絶対、生き残ろうね」

気付けば二人の頭を撫でていた。
まだ幼い彼らを危険な目に合わせる訳にはいけない。

「……ありがと」
「えへへ!お姉ちゃんありがとう!」

そんな話をしながら歩みを進めると、どうやら目的地に到着したようだった。

「ここら辺かしら」

カラクリは水辺に良く現れるそうだ。
まだ討伐が行えていない湖の近くに、今日の目標はあった。

キイィッ……

金属音のような、不快な音が耳に入る。

「来るよ」

私が告げた途端、一匹のカラクリが勢い良くこちらへ飛び出してきた。
その標的はどうやら虎徹にある様だった。

「虎徹……!」
「兄ちゃん!!」

澄が勢い良く飛び出したらしい。
その動きはあまりに速く、その動きは目視する事は出来なかった。
目にも留まらぬ速さでカラクリが吹き飛ばされたと思ったら、その身は瞬く間に切り刻まれる。

「お姉ちゃん!!」

澄のその速すぎるスピードに私は祈るのが遅れてしまう。
それほどまでに彼の速さは大きな武器だった。
その速さに追いつくように祈ると、カラクリは巨大な光の柱に包まれて消えていった。

「ーーっ」
「虎徹、大丈夫?」
「ご、ごめん……っ」
「兄ちゃん、むりしちゃだめだよ」

澄が虎徹を守るようにして立ちはだかる。
こういう時の澄はとても頼もしい。

「ごめん……俺、役立たずで……」

どうしたというのだろう。
討伐自体初めてというわけではないのに。

「ううん、大丈夫。虎徹は木の影に隠れてて」

そう言って、私は再び祈りの姿勢を取ろうとした。
その時だった。

キイィィィィィィッ!!

耳を裂くような音と共に、闇の奥から新たなカラクリが姿を現す。
それは先ほどのものよりも一回り大きく、禍々しい気配を纏っていた。

「っ……数が……!」

思わず息を呑む。
一体だけではない。
二体、三体と、じわりじわりとこちらへにじり寄ってくる。

「お姉ちゃん、下がって!」

澄が前へ出る。
その小さな背中があまりにも頼もしくて、あまりにも危うかった。

「だめ、澄!」

声を上げる間もなく、カラクリの一体が鋭く跳ねる。
その軌道は、まっすぐに澄へと向かっていた。

「っ!!」

ーーー間に合わない。

「また、守られるのかよ……俺は」

『虎徹!!逃げろ!!』
『兄ちゃん!!』
『俺は神使だから大丈夫だ!後から必ず後を追う!』
『約束だからな!!』

「今度はーー」

地を踏み締める。

「俺が守る番だろ!!」
「虎徹!?」

驚くほどの勢いで虎徹が襲いかかる。
迫り来るカラクリの前へ、割り込むように。

ガキンッッ!!!

鋭い爪がカラクリを引き裂くと、その身は瞬く間に真っ二つになった。
次々とカラクリを薙ぎ倒していく。
見ると虎徹の腕は獣の腕に変化していた。

目にも留まらぬ速さでカラクリを引き裂いていく。
こんな虎徹、見た事ない。

「今だ!!!」

彼の声にハッとする。
繋げてくれたバトンを取り溢してなるものか。

「汝、祈りを捧ぐ。闇夜をもたらす者達よ、在るべき場所に」

両手に力を込める。

「ーーー散りなさい」

その光は、私達を温かく包んでくれた。
そんな気がした。

**

虎徹と澄と討伐に赴いてから三日後。
大幅に力を使用した虎徹は未だ目を覚まさなかった。

「お兄さんは虎徹を守って……」
「うん。それがトラウマになってあんまり力だせてなかったみたい」

虎徹が眠る傍らで澄から彼の背景を聞く。
だから私たちだけで行くことを極端に怖がっていたのか。

「本当はすごい力もってるのにね」

そういって微笑む澄は本当の弟のようだった。

「澄は随分若くして神使になったのよね?」
「ぼく?きがついたら神使になってたから、よく覚えてないんだよねぇ」

顎に人差し指を乗せながら話すその可愛らしさとは裏腹に、過酷なことを言っているように感じた。

「あ、でもおっきな戦いでお父さんなくなっちゃたから御座にやれって言われたことは覚えてる!」
「お父さん……そう」

虎徹はお兄さんを、澄はお父さんを亡くしているのか。
大きな戦いとは終祈の災いのことだろう。
それほどまでに大きな戦いだったというのか。

「偉いね、澄」
「お姉ちゃんこそえらいよ!よしよし」
「ふふっ、ありがとう」

彼の小さな掌が私の頭を撫でる。
ぎこちないその動きに私の頬が緩む。

「ん……」

その時、目の前の虎徹が薄く目を覚ました事に気が付いた。

「虎徹!!?」
「虎徹兄ちゃん!!」
「う、るさいなぁ……」

目を覚ましてすぐも減らず口は変わらないようだったが、その表情は何処か柔らかかった。
本当に良かった。
目を覚ましてくれて……。

「うっ……」
「ええ!?なんでお前が泣くんだよ!!」
「だって、死んじゃったかと思って…」
「あほか」

虎徹が少し乱暴に私の頭に手のひらを置く。

「お前らを守り切るまで、死ねるかよ」

ぽんぽんと、私を安心させるように置かれた掌は澄のそれよりも大きくて優しくて、心が解けていく。
照れくさそうに微笑む彼に思わず私も頬が緩む。

「お姉ちゃん、泣かないで」

澄も泣き止まない私を慰めてくれる。
年齢よりもずっと大人な澄、彼の負担にならないよう自分も努めなければ。

「皆でがんばろうね!」
「ええ!」