「ねぇ!!都でこんなのくばってたよ!!」
澄が慌てて広間へとやって来たのは正午過ぎ。
「どうしたの?」
「これ見て!!」
澄が手に持っているのは刷物の様なものだった。
一番目立つところに“号外“と書かれていた。
「えー……朗報!桜ノ命返る!先日の丑の刻、光の柱現る。其れは桜ノ命が有する力であり何よりの証。この長い夜に終止符か……ええ!?」
あの日あった出来事に希望を見出したような見出しに私は混乱する。
「けっこうはでにやってたもんね……ばれちゃってるけどどうする?」
確かに。
私が桜ノ命であるという事はまだ口外を禁止されていた。
「流石に民は注目しますよね」
「深月」
私達の賑やかな声を聞きつけたのだろうか、いつの間にか深月が後ろに立っていた。
「丁度良いです。美桜さん、就任式を行いますよ」
「就任式……?」
言葉の意味は分かるはずなのに、言っている事が分からなかった。
「桜ノ命の就任式です。代々桜ノ命のが顕現されると就任式を行うのが決まりなのですよ」
「きらきらしててすごいんだよ!」
澄も神使になる前に見ているのか。
「美桜さんがきちんと力を行使出来る様になったらと考えていたんですよ」
「待って。こんな何処の誰かもわからない人が桜ノ命になったなんて知ったら民は混乱しないかしら」
「桜ノ命の力は、その”何処の誰かもわからない人“がなるんですよ」
「……どういこと?」
「桜ノ命は前任の命の灯火が消えると同時に、再びこの世界に顕現されます」
「代々同じ血筋の人がなるとかでは無いの……?」
「そういった条件はありません」
深月が穏やかに説明を続ける。
「桜ノ命はある日突然その力を宿します。富を気付き上げた名家の娘がなる事もあれば、その日の飢えを凌ぐのに精一杯の者に顕現する事もありました」
「色々な人がなっていたのね」
「はい。条件は“人である事”と”30歳未満の女性である事“。美桜さんはピッタリ一致していますね」
私が桜ノ命になる事は民にとっても自然という事か。
都で会った優しい人達、種族なんて関係ないと教えてくれた。
私を襲った輩だって本当ならあんな暮らしをしたく無いはず。
桜ノ命になる事で民に安心を与えられる事が出来るなら……。。
「やりましょう。就任式」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「そうと決まればさっそくじゅんびだ〜〜皆につたえてくるね!」
興奮した澄が広間を出ていく。
「ごめんなさい、美桜さん」
「どうしたの?」
「貴方にばかり負担をかけていますね」
「そんな事ない」
私は即座に否定する。
「楼閣で目覚めた時、不安だった私を連れ出してくれたのは深月よ」
「それは……」
「例え私の力が目当てでもいい。こうして忙しなく過ごしている今が私にとって救いなの。だからありがとう」
「美桜さん……」
「さっ、そうと決まれば準備をしましょう」
「その事なんですけど」
深月が私を引き止める。
「紹介したいお方がいます」
**
今私達が居る神域を総称して桜の隠世という。
私はこれが世界の全てだと思っていた。
「隠世っていくつもあるの?」
「四つある。言ってなかったか?」
「聞いてない」
目的の場所へ向かう道中、虎徹から説明を受ける。
こういう話は前もって知りたかった。
「悪い悪い。蓮の隠世、楓の隠世、椿の隠世ってのがあるんだ。桜の隠世にカラクリが溢れかえってからは、他の世界との交流はしていないけどな」
「で、その四季の隠世を束ねて居るのが今から行く“統花府”ってわけね」
「俺らの上司って思ってくれればいいよ」
「お姉ちゃん、わかった?」
澄が私の顔を覗き込む。
大枠は分かったけれど、なぜ私達は五人の神使を揃えてその統花府という所に向かっているのだろうか。
「隠世の神様が変わったら、一応四季を束ねる組織の責任者にも知らせておかなきゃいけないだろ?」
なるほど。
確かに神様が変わった事を知らせておかないと、後々怒られてしまいそうだ。
「着きましたよ」
そうこうしているうちに目的の場所に着いたようだった。
「すごく大きいのね……」
見上げると首が痛くなってしまいそうな、巨大な朱の宮殿。
左右を見渡すとその宮殿は何処までも続いているようだった。
「隠世の主ですからね」
「心の準備はいいですか?」
「うん。大丈夫」
不安な気持ちはあった。
けれど、神使の皆が揃っているのなら怖くない。
「それでこそ、俺達の姫さんだね」
巳影が私の頭に手を乗せたかと思うと、先陣切って中に入っていく。
「心配ない」
私の顔を見ないまま白緋が呟く。
皆私を心配してくれているんだ。
「行こ!お姉ちゃん!」
「うん。行こう」
澄の手をとり、私達は統花府へと入って行った。
**
「意外と人が沢山いるのね」
「世界のまとめ役ですからね。やる事が多いのでしょう」
忙しなく働く人々、そして多くの妖。
そして護衛も沢山いる様に見える。
「討伐の時の護衛はここから派遣しているのですよ」
「知らない間にお世話になっていたんだね」
「こちらです」
私達を案内してくれていた人が大きな扉の前に案内する。
「では、私はこれで」
案内の人がいなくなった後、私は扉を見つめる。
「行きましょう」
重い扉が音を立てながら開くと、両サイドに数えきれない程の人が立っており、皆武装しているようだった。
その真ん中を歩いていくと、部屋の奥に顔を薄い布で隠して座っている人が見えた。
「お久しぶりです。御座」
「久しいな、深月。そして神使達よ」
女性だった。
顔は見えないが、凛とした女性の声だった。
「こうして御座の元に参りましたのは他でもない。新たなる桜ノ命が顕現致しました為、ご挨拶に参りました」
「美桜と申します」
「美桜」
深い沈黙。
気に入らない振る舞いをしてしまったのか。
「其方……」
御座が立ち上がりこちらに向かう。
手に汗を握りしめているのが自分でも分かった。
「愛らしいのお!!!!」
……へ?
「上品な容姿に可憐な瞳。しかし太い芯がある精神を感じるぞ。悪くない」
凄く満足そうな声だった。
「言っただろう。問題ないと」
白緋が顔色一つ変えず私に語りかける。
しかし何故だろう、その目は遠い目をしている。
「此度の桜ノ命は何と可憐で美しい!!」
大きな動きをつけて話す御座。
顔は見えないが“表情豊か”という言葉が良く似合う。
「貴様ら、しっかり美桜を守りなさい」
「御意」
五神使が跪く。
「御座」
「何じゃ?」
「私を受け入れて下さり、ありがとうございます」
私も神使同様跪く。
内心不安だった。
だからここまで快く受け入れてくれた事に御礼をする。
「其方はこれから幾つもの困難に直面するじゃろう。しかし、そこに居る神使や我は其方の味方じゃ。どんな選択を行なっても我は背中を押すぞ」
それは優しい声色だった。
目頭が熱くなりそうなのをグッと堪えた。
**
「御座、彼の方は……」
「分かっておる」
統花府を後にする背中を見ながら呟く。
「なんと、哀れな子じゃ」
**
澄が慌てて広間へとやって来たのは正午過ぎ。
「どうしたの?」
「これ見て!!」
澄が手に持っているのは刷物の様なものだった。
一番目立つところに“号外“と書かれていた。
「えー……朗報!桜ノ命返る!先日の丑の刻、光の柱現る。其れは桜ノ命が有する力であり何よりの証。この長い夜に終止符か……ええ!?」
あの日あった出来事に希望を見出したような見出しに私は混乱する。
「けっこうはでにやってたもんね……ばれちゃってるけどどうする?」
確かに。
私が桜ノ命であるという事はまだ口外を禁止されていた。
「流石に民は注目しますよね」
「深月」
私達の賑やかな声を聞きつけたのだろうか、いつの間にか深月が後ろに立っていた。
「丁度良いです。美桜さん、就任式を行いますよ」
「就任式……?」
言葉の意味は分かるはずなのに、言っている事が分からなかった。
「桜ノ命の就任式です。代々桜ノ命のが顕現されると就任式を行うのが決まりなのですよ」
「きらきらしててすごいんだよ!」
澄も神使になる前に見ているのか。
「美桜さんがきちんと力を行使出来る様になったらと考えていたんですよ」
「待って。こんな何処の誰かもわからない人が桜ノ命になったなんて知ったら民は混乱しないかしら」
「桜ノ命の力は、その”何処の誰かもわからない人“がなるんですよ」
「……どういこと?」
「桜ノ命は前任の命の灯火が消えると同時に、再びこの世界に顕現されます」
「代々同じ血筋の人がなるとかでは無いの……?」
「そういった条件はありません」
深月が穏やかに説明を続ける。
「桜ノ命はある日突然その力を宿します。富を気付き上げた名家の娘がなる事もあれば、その日の飢えを凌ぐのに精一杯の者に顕現する事もありました」
「色々な人がなっていたのね」
「はい。条件は“人である事”と”30歳未満の女性である事“。美桜さんはピッタリ一致していますね」
私が桜ノ命になる事は民にとっても自然という事か。
都で会った優しい人達、種族なんて関係ないと教えてくれた。
私を襲った輩だって本当ならあんな暮らしをしたく無いはず。
桜ノ命になる事で民に安心を与えられる事が出来るなら……。。
「やりましょう。就任式」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「そうと決まればさっそくじゅんびだ〜〜皆につたえてくるね!」
興奮した澄が広間を出ていく。
「ごめんなさい、美桜さん」
「どうしたの?」
「貴方にばかり負担をかけていますね」
「そんな事ない」
私は即座に否定する。
「楼閣で目覚めた時、不安だった私を連れ出してくれたのは深月よ」
「それは……」
「例え私の力が目当てでもいい。こうして忙しなく過ごしている今が私にとって救いなの。だからありがとう」
「美桜さん……」
「さっ、そうと決まれば準備をしましょう」
「その事なんですけど」
深月が私を引き止める。
「紹介したいお方がいます」
**
今私達が居る神域を総称して桜の隠世という。
私はこれが世界の全てだと思っていた。
「隠世っていくつもあるの?」
「四つある。言ってなかったか?」
「聞いてない」
目的の場所へ向かう道中、虎徹から説明を受ける。
こういう話は前もって知りたかった。
「悪い悪い。蓮の隠世、楓の隠世、椿の隠世ってのがあるんだ。桜の隠世にカラクリが溢れかえってからは、他の世界との交流はしていないけどな」
「で、その四季の隠世を束ねて居るのが今から行く“統花府”ってわけね」
「俺らの上司って思ってくれればいいよ」
「お姉ちゃん、わかった?」
澄が私の顔を覗き込む。
大枠は分かったけれど、なぜ私達は五人の神使を揃えてその統花府という所に向かっているのだろうか。
「隠世の神様が変わったら、一応四季を束ねる組織の責任者にも知らせておかなきゃいけないだろ?」
なるほど。
確かに神様が変わった事を知らせておかないと、後々怒られてしまいそうだ。
「着きましたよ」
そうこうしているうちに目的の場所に着いたようだった。
「すごく大きいのね……」
見上げると首が痛くなってしまいそうな、巨大な朱の宮殿。
左右を見渡すとその宮殿は何処までも続いているようだった。
「隠世の主ですからね」
「心の準備はいいですか?」
「うん。大丈夫」
不安な気持ちはあった。
けれど、神使の皆が揃っているのなら怖くない。
「それでこそ、俺達の姫さんだね」
巳影が私の頭に手を乗せたかと思うと、先陣切って中に入っていく。
「心配ない」
私の顔を見ないまま白緋が呟く。
皆私を心配してくれているんだ。
「行こ!お姉ちゃん!」
「うん。行こう」
澄の手をとり、私達は統花府へと入って行った。
**
「意外と人が沢山いるのね」
「世界のまとめ役ですからね。やる事が多いのでしょう」
忙しなく働く人々、そして多くの妖。
そして護衛も沢山いる様に見える。
「討伐の時の護衛はここから派遣しているのですよ」
「知らない間にお世話になっていたんだね」
「こちらです」
私達を案内してくれていた人が大きな扉の前に案内する。
「では、私はこれで」
案内の人がいなくなった後、私は扉を見つめる。
「行きましょう」
重い扉が音を立てながら開くと、両サイドに数えきれない程の人が立っており、皆武装しているようだった。
その真ん中を歩いていくと、部屋の奥に顔を薄い布で隠して座っている人が見えた。
「お久しぶりです。御座」
「久しいな、深月。そして神使達よ」
女性だった。
顔は見えないが、凛とした女性の声だった。
「こうして御座の元に参りましたのは他でもない。新たなる桜ノ命が顕現致しました為、ご挨拶に参りました」
「美桜と申します」
「美桜」
深い沈黙。
気に入らない振る舞いをしてしまったのか。
「其方……」
御座が立ち上がりこちらに向かう。
手に汗を握りしめているのが自分でも分かった。
「愛らしいのお!!!!」
……へ?
「上品な容姿に可憐な瞳。しかし太い芯がある精神を感じるぞ。悪くない」
凄く満足そうな声だった。
「言っただろう。問題ないと」
白緋が顔色一つ変えず私に語りかける。
しかし何故だろう、その目は遠い目をしている。
「此度の桜ノ命は何と可憐で美しい!!」
大きな動きをつけて話す御座。
顔は見えないが“表情豊か”という言葉が良く似合う。
「貴様ら、しっかり美桜を守りなさい」
「御意」
五神使が跪く。
「御座」
「何じゃ?」
「私を受け入れて下さり、ありがとうございます」
私も神使同様跪く。
内心不安だった。
だからここまで快く受け入れてくれた事に御礼をする。
「其方はこれから幾つもの困難に直面するじゃろう。しかし、そこに居る神使や我は其方の味方じゃ。どんな選択を行なっても我は背中を押すぞ」
それは優しい声色だった。
目頭が熱くなりそうなのをグッと堪えた。
**
「御座、彼の方は……」
「分かっておる」
統花府を後にする背中を見ながら呟く。
「なんと、哀れな子じゃ」
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