身体の形が保てない。
満開の桜を背にサラサラと砂の様消えていく自分の身体。
時間切れだと悟る。
「はく、び……」
泣かないで。
あなたの泣いている顔を見たくない。
そう伝えたいのに声が出ない。
最後の力を振り絞って彼の頬に手を添える。
美しい銀色の髪が私の手をくすぐる。
本当に、あなたは最後まで美しい。
悔しそうで悲しそうで。
私の意思は遂げられたというのに、こちらまで悲しくなってしまう。
苦しそうに眉を寄せながら発せられた言葉が、彼から聞いた最期の言葉だった。
「どれだけ月日が流れても、俺はまた君を愛すよ」
**
「ここは、どこ?」
月光に照らされた夜桜の中、静かに佇むのは朱に染まった多層の楼閣、そこで私は目を覚ます。
必死に思い出そうとするが何も思い出せない。ここがどこなのかも、私は誰なのかも。
焦燥感に駆られながら目線を下にやると畳の上にふわりと、淡い色の花弁が目に入る。
「ーーっ」
その刹那、強い風が私を襲う。身体がよろけてしまうくらいの強い風。
まるで私が目を覚ましたことを拒否する様に。
「あっ」
木枠で作られた重厚な格子窓が空いているのが見えた。
その光景を見た瞬間、私は窓に駆け寄る。駆け寄らずにはいられなかった。
「綺麗……」
こんなにも綺麗な、満開の桜を見たら。
意識がはっきりしてきた。
まずはこの楼閣を調べよう。
ここは三段の塔でかなり昔に作られたような重厚は作りになっており、その外壁は朱色と白色で構成されていた。
中はまるで宿のようで、住む分には何も不自由無い暮らしが出来そうな作りの広々とした畳の間となっているようだ。
窓の外には1本の非常に大きな一本の桜の木が生えていて、建物の外に出て石畳を進むと大きな鳥居があるのが見えた。
あとは……
「あれはなんだろう」
この建物の周辺は深い闇に包まれているが窓から遠くを見ると、ある一角だけ煌々(こうこう)と灯りに包まれている。
大きさから見るにあれは街……なのだろうか?
確認したくてもかなりの距離がある為、何があるかわからない。
ただ、暖かい光に私の心も暖かくなったみたいだった。
窓枠に腰掛け、夜に映える桜を眺める。
「綺麗だわ。とても」
懐かしい様な、泣きたくなるような感情になる。
穏やかに流れる時の流れに私は微睡む。
普通なら何もわからないこの現状を嘆くのかもしれないが、不思議とこの場所は安心感がある。
畳の上に横になり、私は意識を手放す事にした。
**
「流石におかしい」
あれからどの位時間が経っただろうか。
待てど暮らせど一向に朝が来ない。
辺りは闇に包まれたままだ。
それに時間が経てば誰かしら来るだろうと考えていたが、それは甘いようだった。
「あの灯りのもとへ行ってみよう」
ここへ誰かが迷い込む可能性も捨てきれないが、偶然にかけて悪戯に時間を消費するよりはましだと思った。
それに、ここへ来た時から感じていた感覚の正体を私は知りたかった。
「私、何か大事なことを忘れている気がする…」
心にぽっかりと穴が空いたような感覚。この気持ちはなんだろう。
目覚めた時から身に纏っていた白装束のような着物。
その襟元を正し腰まで伸びた黒い髪をふわりと、横へ払う。
「よし」
怖いものは怖い。だって何も分からない自分が何も知らない地へ足を踏み出そうとしているのだから。
でも知りたいの。
この気持ちの正体を。
窓の外。
遠くの街灯りにやっていた目線を後ろへ向ける。
行くぞ。
その時だったーーー。
ガタッ
遠くから物音が聞こえた。
ギシッ
ギシッ
声を押し殺す。
突然のことに身体が言うことを効かない。
襖の向こうに、誰かがいる。
「誰かいるのか」
低い声だった。
こちらを警戒するような、友好的な雰囲気はひとつも感じられなかった。
どうしよう。
考える頭とは対照的に何もすることが出来ない。
体は氷のように固まったままだ。
顔の見えない誰かが襖に手をかける。
私は固く目を閉じた。
ガラガラガラッーーー
私たちを隔てるものが無くなった。
と同時に勢いよく風が吹く。
薄く目を開けると、桜の花びらが舞うのが見えた。
銀色に輝く長い髪。
暗い夜に浮かぶ月のような、けれど暗い光を宿した冷ややかな瞳。
人の形をしているが、人のそれではないと一目でわかった。
桜舞うなかに佇む彼。
それは、この世のものとは思えないほどに美しかったーー。
満開の桜を背にサラサラと砂の様消えていく自分の身体。
時間切れだと悟る。
「はく、び……」
泣かないで。
あなたの泣いている顔を見たくない。
そう伝えたいのに声が出ない。
最後の力を振り絞って彼の頬に手を添える。
美しい銀色の髪が私の手をくすぐる。
本当に、あなたは最後まで美しい。
悔しそうで悲しそうで。
私の意思は遂げられたというのに、こちらまで悲しくなってしまう。
苦しそうに眉を寄せながら発せられた言葉が、彼から聞いた最期の言葉だった。
「どれだけ月日が流れても、俺はまた君を愛すよ」
**
「ここは、どこ?」
月光に照らされた夜桜の中、静かに佇むのは朱に染まった多層の楼閣、そこで私は目を覚ます。
必死に思い出そうとするが何も思い出せない。ここがどこなのかも、私は誰なのかも。
焦燥感に駆られながら目線を下にやると畳の上にふわりと、淡い色の花弁が目に入る。
「ーーっ」
その刹那、強い風が私を襲う。身体がよろけてしまうくらいの強い風。
まるで私が目を覚ましたことを拒否する様に。
「あっ」
木枠で作られた重厚な格子窓が空いているのが見えた。
その光景を見た瞬間、私は窓に駆け寄る。駆け寄らずにはいられなかった。
「綺麗……」
こんなにも綺麗な、満開の桜を見たら。
意識がはっきりしてきた。
まずはこの楼閣を調べよう。
ここは三段の塔でかなり昔に作られたような重厚は作りになっており、その外壁は朱色と白色で構成されていた。
中はまるで宿のようで、住む分には何も不自由無い暮らしが出来そうな作りの広々とした畳の間となっているようだ。
窓の外には1本の非常に大きな一本の桜の木が生えていて、建物の外に出て石畳を進むと大きな鳥居があるのが見えた。
あとは……
「あれはなんだろう」
この建物の周辺は深い闇に包まれているが窓から遠くを見ると、ある一角だけ煌々(こうこう)と灯りに包まれている。
大きさから見るにあれは街……なのだろうか?
確認したくてもかなりの距離がある為、何があるかわからない。
ただ、暖かい光に私の心も暖かくなったみたいだった。
窓枠に腰掛け、夜に映える桜を眺める。
「綺麗だわ。とても」
懐かしい様な、泣きたくなるような感情になる。
穏やかに流れる時の流れに私は微睡む。
普通なら何もわからないこの現状を嘆くのかもしれないが、不思議とこの場所は安心感がある。
畳の上に横になり、私は意識を手放す事にした。
**
「流石におかしい」
あれからどの位時間が経っただろうか。
待てど暮らせど一向に朝が来ない。
辺りは闇に包まれたままだ。
それに時間が経てば誰かしら来るだろうと考えていたが、それは甘いようだった。
「あの灯りのもとへ行ってみよう」
ここへ誰かが迷い込む可能性も捨てきれないが、偶然にかけて悪戯に時間を消費するよりはましだと思った。
それに、ここへ来た時から感じていた感覚の正体を私は知りたかった。
「私、何か大事なことを忘れている気がする…」
心にぽっかりと穴が空いたような感覚。この気持ちはなんだろう。
目覚めた時から身に纏っていた白装束のような着物。
その襟元を正し腰まで伸びた黒い髪をふわりと、横へ払う。
「よし」
怖いものは怖い。だって何も分からない自分が何も知らない地へ足を踏み出そうとしているのだから。
でも知りたいの。
この気持ちの正体を。
窓の外。
遠くの街灯りにやっていた目線を後ろへ向ける。
行くぞ。
その時だったーーー。
ガタッ
遠くから物音が聞こえた。
ギシッ
ギシッ
声を押し殺す。
突然のことに身体が言うことを効かない。
襖の向こうに、誰かがいる。
「誰かいるのか」
低い声だった。
こちらを警戒するような、友好的な雰囲気はひとつも感じられなかった。
どうしよう。
考える頭とは対照的に何もすることが出来ない。
体は氷のように固まったままだ。
顔の見えない誰かが襖に手をかける。
私は固く目を閉じた。
ガラガラガラッーーー
私たちを隔てるものが無くなった。
と同時に勢いよく風が吹く。
薄く目を開けると、桜の花びらが舞うのが見えた。
銀色に輝く長い髪。
暗い夜に浮かぶ月のような、けれど暗い光を宿した冷ややかな瞳。
人の形をしているが、人のそれではないと一目でわかった。
桜舞うなかに佇む彼。
それは、この世のものとは思えないほどに美しかったーー。
