宵の空に輝く耀〜君と過ごした14日間〜

 耀と再会し、恋人になってから、俺たちは時間が合えば耀の家で会うようになっていた。

「今日夕飯何にする?」
「んー、な…」
「あ、今何でもって言おうとした!はい減点!」
「え、厳し」
「もー今日は餃子!ラーメンの賞味期限も近いし」
「え、それもう決まってたやつ」
 俺の言葉を聞こえないふりして、耀は冷蔵庫から食材を取り出す。そんな耀を背後から抱きしめる。
「ちょ……なに」
 耀は耳を赤くしながら、少し怒った顔で俺を見つめる。そんな耀にキスをしてまた怒らせる。世の中には、好きな人なら怒った顔さえ可愛いと思う人がいるらしいが、俺ももれなくそっち側だ。
「俺も餃子作る」
「じゃあ宵は、ニラ切ってください」
 何だかんだ嬉しそうな顔をする耀に、俺はまた近々同じ事で耀を怒らせてしまう気がした。

 夕飯を食べ終えテレビを見ていると、花火大会の特集がやっていた。何も言わずに見ている耀に問いかける。
「行く?」
 即答で「行く!」と返ってくるだろうと思っていたが、耀から返ってきたのは思っていたのと違った。
「うーん、宵も忙しいし。別に平気」
「ふーん、そっか」
 俺は、耀との思い出の中で花火大会は特別なものだと思っていた。耀にとっては、そんなものだったのかと少し悲しくなった。
 その日、寮に帰ろうと耀の家を出る際に少し躊躇った様子で耀が話し出す。
「俺、実は宵と再会する前に花火大会行ってみたんだ。……でも、宵とやった線香花火の方が綺麗だった」
 耀が花火大会に執着しなくなった理由を理解する。
「ふはは」
「ちょ、何で笑うの?」
「いや、それはさ。誰と一緒に見るかだと思うけど」
「え?」
 俺の言葉を聞いて、耀がハッとして耳を赤くする。
「俺は、耀と飲んだスタバが一番美味しかったし、耀が作ってくれるものが好きだし、隣に耀がいてくれたら見慣れた景色も違うな」
「……宵は俺と花火見たい?」
「うん。もちろん、それ以外も。あの夏できなかった事も、これからしたい事も俺は耀といっぱいやりたいよ」
 耀の頭を軽く撫でる。耀は照れながら嬉しそうに笑って、元気よく返事をする。
「俺も!」
 そんな耀が愛おしくて思わず抱きしめながら、ふと思い出す。
「あ、あと俺の同期が耀に会いたいって言うんだけど、どう?」
「え……宵は俺が会ってもいいの?」
「もちろん!俺の恋人ですって言いたいね」
 俺の言葉で本当に一喜一憂する耀。頬を赤らめながら、少し小さい声で返事する。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「おけ。じゃあ、また家着いたら連絡する」
「うん。気をつけて」
 耀の家を出て駅まで歩きながら、瑞季に電話をかけた。

「……もしもし」
「あ、もしもし。今日明けだよな?電話大丈夫?」
「ん。いいよ」
「あのさ、俺会えたんだよ」
「??……なにに?」
「いや、だから、ずっと好きだった人に」
 電話の向こうで、ガタガタと大きな音がした。
「おい、大丈夫か?」
「あ、ごめん。びっくりして、携帯落とした」
「あはは、大丈夫かよ」
「なんか、いつもよりテンション高くてムカつく」
「え?」
「で、この電話の要件はそのお知らせですか?」
 瑞季が不貞腐れたように聞いてくる。
「いや、前に瑞季が会わせろって言ってたから、今度どうかなって」
 電話の向こうで、大きなため息が聞こえる。
「確かに言ったね。会わせてくれるの?」
「もちろん。俺にとって瑞季は数少ない友達だからさ」
「……そーね。大親友の俺が、お二人を祝福させてもらいますわ」
「おう!じゃあまたシフト出たら調整しような!」
 瑞季との通話が終わり、駅に着く。帰り道同期に電話してしまうほど、耀と恋人になれた現状にだいぶ浮かれていた。

 8月の下旬に開催される花火大会がちょうど休みと重なり、今日念願の耀と花火大会に向かう。人混みの中、待ち合わせの駅で待っていると、白い浴衣を着た耀が歩いてくる。浴衣姿で現れると思っていなかったため、思わず見惚れてしまう。そんな俺を見て、少し不安そうに耀が聞いてくる。
「……あんまりだった?」
 髪を耳にかけながら話す耀をみて、首を大きく横に振る。
「すごく似合ってる」
 俺の言葉で照れくさそうに耀が笑う。
「来年は俺も着る」
「ふふ、そうしよ」
 例年テレビなどで、花火大会の人混みを見てきたが今日もそれなりの人混みで、ぶつからないように歩くだけでもままならない。
「耀、大丈夫か?」
 振り返ると、一生懸命歩きすぎたのか耀の胸元が少しはだけていた。思わず腕を掴み、裏道に入る。
「はだけてる」
 俺は耀の胸元をギュッと整える
「あ、ごめん。傷、見えるよね」
 耀は、手術の痕が目立つ事を気にしていた。そんな耀に少し呆れる。
「そうじゃない。傷じゃない。俺が他の人に耀の肌見られるのが嫌なんだよ」
 俺の言葉に驚きと恥ずかしさで言葉が出ない耀。
「もっとゆっくり歩くから、今度ははだけないように気をつけて」
 そう言って、耀と手を繋いだままさっきの屋台通りに戻る。
 
 屋台で買い物をした後、持ってきたレジャーシートを敷き、花火の打ち上げまでたこ焼きや焼きそばを食べる。耀が焼きそばを食べると、目を見開く。
「これ美味しい」
「あの店めっちゃ並んだもんな」
「うん、この味なら納得」
「だな」
 本当にその焼きそばは今まで食べた中で一番おいしい。でも、きっと耀と食べれば何でも一番が更新されていく。
「どう?楽しい?」
 俺の質問に、照れくさそうにしながら耀が頷く。

 心臓に届きそうな振動とともに、夜空にきれいな花火が咲き誇る。チラッと横を見ると、耀が「うわー」と言いながら夜空を見上げていた。
「綺麗だね」
「だな」
「宵の言う通りだ」
 花火を見ながらずっと俺たちは手を繋いでいた。大迫力だった花火が終わり、周囲の人たちが一斉に駅へ向かう。頃合いを見て、俺も立ちあがろうとした時、耀から腕をグイッと引っ張られる。
「写真撮ろう?」
 耀の言葉で、六年前の日々を思い出し胸が熱くなる。
「俺にも送って」
 そう言って俺は耀の隣にピタッと体を寄せる。画面に映る俺たちの距離は、以前よりも自然に頬がつくくらい近くなっていた。シャッター音が鳴り、満足そうにする耀。
「そろそろ人少なくなってきたから、俺らも行こう」
「うん」
 駅までの道のりは、さっきまで人混みにいたとは思えないほど静かで、蝉の鳴き声が心地よかった。歩いていると、耀の方から手を繋いできて、俺のことをグイッと引っ張り耳元でささやく。
「今日俺んち、泊まってけば?」
 俺は思わず耀を二度見する。耀は耳を赤くして、じっと俺を見つめる。
「えっと……、それは」
 明らかに動揺する俺に、耀は珍しく目を逸らさない。
「俺は、宵にもっと触れたいけど」
 直球すぎる言葉に、躊躇っていた俺の気持ちもどこかへ行ってしまう。
「じゃあ、行く」
「うん!帰りコンビニ寄ろう」

耀に手を引かれながら、俺は思う。
 
あの夏に願った未来は、ようやくここから始まるのだと。