宵の空に輝く耀〜君と過ごした14日間〜

 耀が入院して、四日後やっと熱が下がった。
 倒れていた三日間は、まともに食事も取れなかったため、母親に携帯を管理され寝かされていた。スマホが手元に返ってきた瞬間、画面を確認したが新着のメッセージはなかった。急いで耀にメッセージを送ってみても、既読になることはなかった。
 嫌な予感がして、家を飛び出しながら、耀や耀の母親に電話をかける。スマホから同じアナウンスが何度も何度も流れ、不安がさらに募っていく。

 耀が入院した病室に行くと、表札には知らない人の名前が書いてあり、病室からも知らない人の話し声が聞こえた。
 こんな時に限って、姉のことを思い出す。病院へ運ばれてから三日後、姉は息を引き取った。いや、そんなはずはない、絶対違う。急いで、ナースステーションに行き、近くのスタッフに尋ねる。
「あの、安西耀の病室変わりました?」
 尋ねたスタッフが奥にいる他のスタッフに聞きに行き、俺の元に戻ってくる。
「あの、安西さんのご家族の方ですか?」
「……いや、友達です」
「すみません。規則で、ご家族以外には個人情報をお伝えできません」
「……はい」
 耀がどこにいるのか、生きているのかさえ教えてもらえず、病院を後にする。

 結局夏休みが明けるまで、耀や耀の母親からの連絡はなかった。夏休み中に、一度だけ耀の最寄り駅まで行ってみたが、もし家に誰もいなかったら?もし、仏壇に案内されたら……と考えると、駅から動く事はできず、そのまま帰った。

 夏休み明け、登校すると俺以外の生徒は耀が居なくなったことなど知る由もなく、今までと何も変わらない様子だった。
 また何もない日々に戻っただけなのに、耀と出会う前は自分がどんな風に過ごしていたのか思い出せない。
 校舎の銀杏並木がきれいに黄色く染まる頃、廊下で養護教諭とすれ違う。
「冴島くん、久しぶり。なんか少し痩せた?」
「……いや。そーなんすかね」
「まだまだ暑いから、ちゃんと食べてね」
「……はい」
「なんかあったら、保健室きてね」
 養護教諭が去っていく背中を見て、咄嗟に声をかける。
「あの…」
「?」
「いや、ありがとうございました」
「いえいえ」
 この人なら何か知っているかもしれない。そう思ったのに、結局聞けなかった。もし先生が気まずそうな顔をしたら、それだけで答えが分かってしまう気がしたから。

 耀と出会う前から、俺は休み時間や放課後、誰かと過ごすわけでもなく、必要な時にクラスの人と会話する程度だった。他人に興味も共感もなく、人の会話も耳に届く頃には全て同じ音のようだった。
「ねー、スタバの新作見た?」
「見た見た!あれ、絶対売り切れる!今日行かない?」
 なのに、今は教室の中から聞こえてくる音が鮮明で、以前よりも周りの雑踏が耳に残る。
 帰り道、駅前のスタバには新作の看板が出ていて、レジに並びながら楽しそうに会話する人達がいた。スマホを開き、看板の写真を撮る。
「新作出たの知ってた?」
 画像と共に、既読になる事のない相手に今日もメッセージを送ってしまう。夏が終わり涼しくなった今も、時々駅から遠回りして、学校へ向かう癖も治らない。

 俺のどこにも行き場のないこの気持ちが、恋だったと自覚するには、そんなに時間が要らなかった。
「……こんな気持ちになるなら、知らなきゃよかったな」
 居るはずがないと分かっていながらも、人混みや一緒に歩いた道を通るたび、今日も俺は耀を探してしまう。
 町中がイルミネーションで鮮やかになった時や、新年が明けた時も、既読すらつかないのにトーク画面を更新した。
 
 俺の気持ちとは裏腹に時間だけが過ぎて行き、俺は高校三年になった。始業式の日、少し早めに家を出て、耀と初めて会った道を歩きながら、ゆっくり学校に向かう。
「いるわけないよな」
 独り言をこぼしながら、また今日も耀に縋るように過ごす。
 学校に着くと、新学期のクラス発表の紙をみんなが騒ぎながら眺めている。少し遠くから、クラス表を確認して、愕然とする。
 急いで保健室に行き、養護教諭に尋ねる。
「あの、どのクラスにも安西耀の名前がないんですけど」
 俺の言葉で、明らかに先生が気まずそうにする。
「……ごめんね。ご家族の希望で詳しい事は言えないの。でも一応、自主退学よ」
 一応ってなんだよ。何なんだよ、その意味深な言い方。決定的な言葉は言わないくせに、そんな気まずそうな顔されたら、もう耀と会うことはできないみたいじゃないか…。
 心の中でいろんな感情が渦巻きながら、俺は保健室を後にした。