数日後、耀の家に遊びに行く日がきた。以前耀の家まで見送りに行ったため、自力で行けた。耀は途中まで迎えに行くと言ってきたが真夏の炎天下、耀が外に出なくてもいいように、家で待つようにお願いした。
「いらっしゃい」
家の中から耀の母親が出てくる。
「お邪魔します、あのこれよかったら」
途中の駅で買ったお菓子を渡す。
「えーそんな気を使わないでいいのに。私これから仕事で出ちゃうけど、ゆっくりしてね。今、耀呼ぶね」
少し慌ただしそうな耀の母親を呼び止める。
「あの。お母さんに一応許可もらいたいんですけど。これ、やってもいいですか?」
俺が差し出した袋の中身を見て、耀の母親が優しく笑う。
「ありがとうね。耀、喜ぶと思う」
そう言って、耀を呼びに家の奥へ進んでいく。家の奥から耀がこちらに向かってくる。
「ごめん、今クッキー焼いてて。すぐ行くからリビングで待ってて」
クッキー?焼く?と思いつつ、初めて通されたリビングで座って待っていると、隣の和室に仏壇があることに気づいた。あまり見てはいけないと思いつつ、飾られた写真を見ると三、四十代くらいの男性が写っていた。
そこに焼きたてのクッキーを皿に乗せて、耀が入ってくる。俺の目線に気づいたのか、隣に座りながら話し出す。
「あれ、俺の父さん。俺が小学生の時事故で死んじゃったんだ」
「そっか」
耀から父親の話が出ない事や、挨拶の時も母親だけだったため、何かしらの事情があるのは予想していた。
「あとでお線香あげてよ。俺の友達として挨拶してくれたら嬉しい」
耀がコップにお茶を注いでくれる時、俺は自然と仏壇の方に足を運んでいた。静かにお線香に火をつけて、手を合わせる。
「耀くんの友達になりました。冴島宵です。よろしくお願いします」
気の利いた言葉は出てこないが、耀の貴重な時間を一緒に過ごしてる以上、挨拶したかった。そんな俺の背後に耀が来て、俺の肩に手を添える。
「父さん、俺友達できたよ。色んな事一緒にしてくれて、めっちゃいいやつ。宵の事も頼むよ!」
耀の言葉が心臓の奥にチクッと刺さる。耀は自分のことではなく、残る側の事を常に考えているんだろう。
耀の父親の遺影をじっと見つめていると、耀から焼いたクッキーを食べるように催促され、リビングへ戻った。そのまま今流行りのドラマや、耀の強い希望で恋愛リアリティーショーを見ていた。
「いいなー俺も好きな人と両想いになりたかった」
「え、耀は絶対モテるだろ」
「いやー……どうだろ」
耀が会話を濁す。これはタブーなのか?と思い、次何見るか探していると、耀がコップの水滴をなぞりながら話し始める。
「宵はさ、恋愛とかする?」
「え、するように見える?」
「んー……見えないね」
「なんだよ、この確認」
「いや、ごめん。嫌味とかそういうのじゃなくてさ。俺は何回か好きな人居たんだよ」
「……そっか?」
話の意図が読めず、なんて答えればいいのか迷う。俺の心を読んだのか、耀が深く息を吸った後少し早口で話す。
「ごめん、もうストレートに言うけど。俺、対象が同性なんだ。だから、好きだなぁって思っても両想いとかは別次元で」
耀は言い終わった後も、全然俺の方を見ようとしない。頭の中で言葉を考えていると、耀が気まずそうにする。
「……宵はこういうの引いた?こんな事言われても困るよね!ごめん!宵に嘘ついてる気がして、自分本位で言っちゃったけど、本当気まずくなるのはなしで!」
明らかにテンパっている耀を見て、隣に座る耀の肩に腕を回す。
「落ち着け。俺ら友達なんだろ?引くとかそういう関係じゃないから。むしろ、知らなかったとは言え、モテるとか決めつけてごめんな」
俺の言葉を聞いて、俯きながら首を横に振る。あっという間に外は暗くなり、耀の母親が用意してくれたご飯を食べて、少し休憩する。ピルケースからいつもの薬を取り出し、耀が飲み終えたタイミングで鞄から袋を取り出す。
「あのさ、もしよければコレやらない?」
袋から10本入りの線香花火を取り出す。大きい花火セットも考えたが、煙や時間を考えるとコレくらいがちょうどいいと思い、耀の家に向かう途中で買ってきた。耀の母親にも了承を得たため、耀に提案してみる。
「これ、わざわざ用意してくれたの?」
「あー、うん。花火大会は人も多いし、夜でも結構暑いからさ。さっき、耀のお母さんにも許可もらったし」
俺の言葉を聞いて、耀は両手で顔を覆う。
「え、なに?どうした?」
「いや……うん。ありがとう。嬉しい」
顔から手を下ろすと、耀の目が少し潤んでいるように見えたが、気づかないふりをした。耀の家の縁側で、一本ずつ線香花火を手に取り、火をつける。パチパチと音を立てながら、火の玉がどんどん丸く大きくなっていく。
「綺麗だね」
「だな、落ちそうで落ちない」
2人ともじっと静かに花火を見つめる。蝉の音と、花火の音が少し小さくなった時、耀がつぶやく。
「ずっと落ちないでほしいね」
「……だな」
最近、耀の一言一言が俺の心に鉛のように落ちてくる。耀は今どんな気持ちで話しているのだろうか。考えるとどんどん深い海の底に落ちていく気がして、真相を確かめることを俺はできずにいる。
耀が袋から2本取り出し、1つ俺に渡す。
「これで最後だよ」
「じゃあ、勝負するか」
「あ、なんかそういうの漫画で読んだ事ある」
「だなぁー、ベタだけど、たまにはいいだろ。じゃあ、せーのでつけるぞ。せーの!」
ひとつの蝋燭から同時に火種をもらい、お互いじっと花火を見つめる。耀が火花を見つめながら、ボソッと呟く。
「やっぱり、こんな綺麗なら花火大会も行きたいな」
「だな」
耀が見たいもの、やりたい事を叶えた時、どんな顔で過ごすのか。いろんな表情をする耀の隣は、俺が居ればいいのにと思う。
「あ……」
耀の花火が地面に落ちて消えた。俺の隣で少し悲しそうに笑いながら、「俺が先かなぁーって思ってた」などと言う耀の言葉が突き刺さる。
なんだよそれ、何で先とか思うんだよと、耀の言葉をそのまま受け入れる事が怖くて、咄嗟に自分が持っている線香花火を耀に渡す。
「俺がトイレで棄権するから、俺の負け」
そう言って、俺は先に家の中に戻った。あの場にいると、どんな顔してしまうか分からず、トイレに向かう廊下で足を止める。
「あー…耀が死ぬのを受け入れる事なんてできるわけないんだ」
ずっと考えないようにしていた事を言葉にした時、耀を失う恐怖が漠然と襲ってきた。
夜になり耀と、耀の母親に見送られ耀の家をあとにする。
俺の中で耀の存在が特別な事は間違いないが、これが姉と耀を重ねているものなのか、友達としてなのか、それとも恋愛的なものなのか……正直分からなかった。
耀が同性を好きと打ち明けてくれた事に対して、素直に受け入れられたのは、友達だからなのか。
今まで人と距離を取ってきたため、誰かに相談できるわけもなく俺自身のことが俺は分からなかった。
「そもそも、好きってなんなんだろ……」
考えても分からない疑問を呟きながら、生ぬるい夜風の中自宅まで歩いた。
「いらっしゃい」
家の中から耀の母親が出てくる。
「お邪魔します、あのこれよかったら」
途中の駅で買ったお菓子を渡す。
「えーそんな気を使わないでいいのに。私これから仕事で出ちゃうけど、ゆっくりしてね。今、耀呼ぶね」
少し慌ただしそうな耀の母親を呼び止める。
「あの。お母さんに一応許可もらいたいんですけど。これ、やってもいいですか?」
俺が差し出した袋の中身を見て、耀の母親が優しく笑う。
「ありがとうね。耀、喜ぶと思う」
そう言って、耀を呼びに家の奥へ進んでいく。家の奥から耀がこちらに向かってくる。
「ごめん、今クッキー焼いてて。すぐ行くからリビングで待ってて」
クッキー?焼く?と思いつつ、初めて通されたリビングで座って待っていると、隣の和室に仏壇があることに気づいた。あまり見てはいけないと思いつつ、飾られた写真を見ると三、四十代くらいの男性が写っていた。
そこに焼きたてのクッキーを皿に乗せて、耀が入ってくる。俺の目線に気づいたのか、隣に座りながら話し出す。
「あれ、俺の父さん。俺が小学生の時事故で死んじゃったんだ」
「そっか」
耀から父親の話が出ない事や、挨拶の時も母親だけだったため、何かしらの事情があるのは予想していた。
「あとでお線香あげてよ。俺の友達として挨拶してくれたら嬉しい」
耀がコップにお茶を注いでくれる時、俺は自然と仏壇の方に足を運んでいた。静かにお線香に火をつけて、手を合わせる。
「耀くんの友達になりました。冴島宵です。よろしくお願いします」
気の利いた言葉は出てこないが、耀の貴重な時間を一緒に過ごしてる以上、挨拶したかった。そんな俺の背後に耀が来て、俺の肩に手を添える。
「父さん、俺友達できたよ。色んな事一緒にしてくれて、めっちゃいいやつ。宵の事も頼むよ!」
耀の言葉が心臓の奥にチクッと刺さる。耀は自分のことではなく、残る側の事を常に考えているんだろう。
耀の父親の遺影をじっと見つめていると、耀から焼いたクッキーを食べるように催促され、リビングへ戻った。そのまま今流行りのドラマや、耀の強い希望で恋愛リアリティーショーを見ていた。
「いいなー俺も好きな人と両想いになりたかった」
「え、耀は絶対モテるだろ」
「いやー……どうだろ」
耀が会話を濁す。これはタブーなのか?と思い、次何見るか探していると、耀がコップの水滴をなぞりながら話し始める。
「宵はさ、恋愛とかする?」
「え、するように見える?」
「んー……見えないね」
「なんだよ、この確認」
「いや、ごめん。嫌味とかそういうのじゃなくてさ。俺は何回か好きな人居たんだよ」
「……そっか?」
話の意図が読めず、なんて答えればいいのか迷う。俺の心を読んだのか、耀が深く息を吸った後少し早口で話す。
「ごめん、もうストレートに言うけど。俺、対象が同性なんだ。だから、好きだなぁって思っても両想いとかは別次元で」
耀は言い終わった後も、全然俺の方を見ようとしない。頭の中で言葉を考えていると、耀が気まずそうにする。
「……宵はこういうの引いた?こんな事言われても困るよね!ごめん!宵に嘘ついてる気がして、自分本位で言っちゃったけど、本当気まずくなるのはなしで!」
明らかにテンパっている耀を見て、隣に座る耀の肩に腕を回す。
「落ち着け。俺ら友達なんだろ?引くとかそういう関係じゃないから。むしろ、知らなかったとは言え、モテるとか決めつけてごめんな」
俺の言葉を聞いて、俯きながら首を横に振る。あっという間に外は暗くなり、耀の母親が用意してくれたご飯を食べて、少し休憩する。ピルケースからいつもの薬を取り出し、耀が飲み終えたタイミングで鞄から袋を取り出す。
「あのさ、もしよければコレやらない?」
袋から10本入りの線香花火を取り出す。大きい花火セットも考えたが、煙や時間を考えるとコレくらいがちょうどいいと思い、耀の家に向かう途中で買ってきた。耀の母親にも了承を得たため、耀に提案してみる。
「これ、わざわざ用意してくれたの?」
「あー、うん。花火大会は人も多いし、夜でも結構暑いからさ。さっき、耀のお母さんにも許可もらったし」
俺の言葉を聞いて、耀は両手で顔を覆う。
「え、なに?どうした?」
「いや……うん。ありがとう。嬉しい」
顔から手を下ろすと、耀の目が少し潤んでいるように見えたが、気づかないふりをした。耀の家の縁側で、一本ずつ線香花火を手に取り、火をつける。パチパチと音を立てながら、火の玉がどんどん丸く大きくなっていく。
「綺麗だね」
「だな、落ちそうで落ちない」
2人ともじっと静かに花火を見つめる。蝉の音と、花火の音が少し小さくなった時、耀がつぶやく。
「ずっと落ちないでほしいね」
「……だな」
最近、耀の一言一言が俺の心に鉛のように落ちてくる。耀は今どんな気持ちで話しているのだろうか。考えるとどんどん深い海の底に落ちていく気がして、真相を確かめることを俺はできずにいる。
耀が袋から2本取り出し、1つ俺に渡す。
「これで最後だよ」
「じゃあ、勝負するか」
「あ、なんかそういうの漫画で読んだ事ある」
「だなぁー、ベタだけど、たまにはいいだろ。じゃあ、せーのでつけるぞ。せーの!」
ひとつの蝋燭から同時に火種をもらい、お互いじっと花火を見つめる。耀が火花を見つめながら、ボソッと呟く。
「やっぱり、こんな綺麗なら花火大会も行きたいな」
「だな」
耀が見たいもの、やりたい事を叶えた時、どんな顔で過ごすのか。いろんな表情をする耀の隣は、俺が居ればいいのにと思う。
「あ……」
耀の花火が地面に落ちて消えた。俺の隣で少し悲しそうに笑いながら、「俺が先かなぁーって思ってた」などと言う耀の言葉が突き刺さる。
なんだよそれ、何で先とか思うんだよと、耀の言葉をそのまま受け入れる事が怖くて、咄嗟に自分が持っている線香花火を耀に渡す。
「俺がトイレで棄権するから、俺の負け」
そう言って、俺は先に家の中に戻った。あの場にいると、どんな顔してしまうか分からず、トイレに向かう廊下で足を止める。
「あー…耀が死ぬのを受け入れる事なんてできるわけないんだ」
ずっと考えないようにしていた事を言葉にした時、耀を失う恐怖が漠然と襲ってきた。
夜になり耀と、耀の母親に見送られ耀の家をあとにする。
俺の中で耀の存在が特別な事は間違いないが、これが姉と耀を重ねているものなのか、友達としてなのか、それとも恋愛的なものなのか……正直分からなかった。
耀が同性を好きと打ち明けてくれた事に対して、素直に受け入れられたのは、友達だからなのか。
今まで人と距離を取ってきたため、誰かに相談できるわけもなく俺自身のことが俺は分からなかった。
「そもそも、好きってなんなんだろ……」
考えても分からない疑問を呟きながら、生ぬるい夜風の中自宅まで歩いた。
