二日後、耀の家に遊びに行く日がやってきた。
首周りの汗を拭き取り、インターホンを押す。
「宵くん、いらっしゃい」
家の中から、耀の母親が出てくる。
「お邪魔します。あの、これよかったら」
途中の駅で買ったお菓子を渡した。
「えー、そんな気を使わないでいいのに。私これから仕事で出ちゃうけど、ゆっくりしてね。今、耀呼ぶね」
家の奥に行こうとする耀の母親を、呼び止める。
「あの。お母さんに、許可もらいたいんですけど。これ、やってもいいですか?」
俺が差し出した袋の中身を見て、耀の母親が頷く。
「ありがとうね。耀、喜ぶと思う」
家の奥から、耀が顔を出す。
「ごめん、今クッキー焼いてて。すぐ行くからリビングで待ってて」
――……クッキー?焼く?
言われるがまま、リビングで座って待つ。
座った場所から、隣の和室に仏壇が見えた。
――あまり見ちゃいけないよな……。
チラッと飾られた写真を見ると中年の男性が写っていた。
その時、焼きたてのクッキーを皿に乗せて、耀がリビングへやってくる。
俺の目線に気づいたのか、隣に座りながら耀が話し出す。
「あれ、俺の父さん。俺が小学生の時、事故で死んじゃったんだ」
「そっか」
耀から父親の話が出ない事や、挨拶の時も母親だけだったため、何かしらの事情があるのは予想していた。
「あとで、お線香あげてよ。で、俺の友達として挨拶してくれたら嬉しい」
耀がコップにお茶を注いでいる間に、俺は仏壇の方に足を運んだ。
静かにお線香に火をつけて、手を合わせる。
「耀くんの友達になりました。冴島宵です。よろしくお願いします」
気の利いた言葉は出てこないが、耀の貴重な時間を一緒に過ごしてる以上、挨拶したかった。
そんな俺の背後に耀が来て、俺の肩に手を添える。
「父さん、俺友達できたよ。色んな事、一緒にしてくれて、めっちゃいいやつ。宵の事も頼むよ!」
耀の言葉が、心臓の奥にチクッと刺さる。
耀の父親の遺影をじっと見つめていると、耀から焼いたクッキーを食べるように催促されリビングへ戻った。
クッキーを食べながら、今流行りのドラマや、耀の強い希望で恋愛リアリティーショーを見ていた。
「いいなー俺も好きな人と両想いになりたかった」
「え、耀は絶対モテるだろ」
「いやー……どうだろ」
耀が会話を濁す。
――あれ?俺なんか変なこと言ったか?とりあえず、これ以上触れないでおくか。
俺がリモコンで他の作品を探していると、耀がコップの水滴をなぞりながら口を開く。
「宵はさ、恋愛とか……する?」
「え。するように見える?」
「んー……見えないね」
「なんだよ、この確認」
「いや、ごめん。嫌味とかそういうのじゃなくてさ。……俺はさ、何回か好きな人居たんだよ」
「……そっか?」
――ん?これは、なんの話なんだ?
耀が深く息を吸った後、少し早口で話す。
「ごめん、もうストレートに言うけど。俺、対象が同性なんだ。だから、好きだなぁって思っても両想いとかは別次元で」
耀は言い終わった後も、全然俺と目を合わそうとしない。
頭の中で返す言葉を考えていると、耀が気まずそうにする。
「……宵はこういうの引いた?こんな事言われても困るよね!ごめん!宵に嘘ついてる気がして、自分本位で言っちゃったけど。本当に、気まずくなるのはなしで!」
明らかに動揺している耀を見て、俺は耀の肩に腕を回した。
「落ち着け。俺ら友達なんだろ?引くとか、そういう関係じゃないから。むしろ、知らなかったとは言え、モテるとか決めつけてごめんな」
耀が、俯きながら首を横に振る。
あっという間に外は暗くなり、耀の母親が用意してくれたご飯を食べて、少し休憩する。
ピルケースからいつもの薬を取り出し、耀が飲み終えたタイミングで鞄から例の袋を取り出した。
「あのさ、もしよければ……コレやらない?」
袋から10本入りの線香花火を取り出して、耀に見せる。
「これ、わざわざ用意してくれたの?」
「あー、うん。花火大会は人も多いし、夜でも結構暑いからさ。さっき、耀のお母さんにも許可もらったし」
耀が両手で、顔を覆いながら俯く。
「え、なに?どうした?」
「いや……うん。ありがとう。嬉しい」
耀が顔から手を下ろすと、瞳が少し潤んでいるように見えた。
――そんなに……嬉しかったのか。
耀の家の縁側で、一本ずつ線香花火を手に取り、火をつける。
パチパチと音を立てながら、火の玉がどんどん丸く大きくなっていく。
「綺麗だね」
「だな。落ちそうで、落ちない」
じっと静かに花火を見つめる。
蝉の音と、線香花火の音が少し小さくなった時、耀が呟く。
「ずっと、落ちないでほしいね」
「……だな」
耀の一言一言が、俺の心に鉛のように落ちてくる。
――耀は今どんな気持ちなんだろう。
考えるとどんどん深い海の底に落ちていく気がして、真相を確かめることを俺はできずにいる。
耀が袋から二本取り出し、片方を俺に渡す。
「これで最後だよ」
「じゃあ、勝負するか」
「あ、なんかそういうの漫画で読んだ事ある」
「だなぁー、ベタだけど。じゃあ、せーのでつけるぞ」
「「せーの」」
同時に蝋燭から火種をもらう。
耀の瞳にパチパチと輝く火花が幻想的で、つい見入ってしまう。
「やっぱり、こんな綺麗なら花火大会も行きたいな」
「だな」
――もっと耀と、いろんなとこ行きてーな。
「あ……」
俺がぼんやりしている間に、耀の花火が地面に落ちて消えた。
俺の隣で少し悲しそうに笑う。
「俺が先かなぁーって思ってた」
――なんだよそれ、何で先とか思うんだよ。
耀の言葉をそのまま受け入れる事が怖くて、咄嗟に自分が持っている線香花火を耀に渡した。
「俺がトイレで棄権するから、俺の負け」
俺は呆然とする耀を置いて、先に家の中に戻った。
――あー……。耀が死ぬのを受け入れる事なんて、できるわけないんだ。
ずっと考えないようにしていた事に向き合うと、耀を失う不安が募っていく。
耀と耀の母親に見送られ、少し涼しくなった夜道を一人で歩く。
ねぇちゃんと耀を重ねてるのか……。
俺は耀を友達として、失いたくないのか……。
……それとも、恋愛的なものなのか。
頭の中で何度考えても、分からない。
……好きってなんなんだろう。
首周りの汗を拭き取り、インターホンを押す。
「宵くん、いらっしゃい」
家の中から、耀の母親が出てくる。
「お邪魔します。あの、これよかったら」
途中の駅で買ったお菓子を渡した。
「えー、そんな気を使わないでいいのに。私これから仕事で出ちゃうけど、ゆっくりしてね。今、耀呼ぶね」
家の奥に行こうとする耀の母親を、呼び止める。
「あの。お母さんに、許可もらいたいんですけど。これ、やってもいいですか?」
俺が差し出した袋の中身を見て、耀の母親が頷く。
「ありがとうね。耀、喜ぶと思う」
家の奥から、耀が顔を出す。
「ごめん、今クッキー焼いてて。すぐ行くからリビングで待ってて」
――……クッキー?焼く?
言われるがまま、リビングで座って待つ。
座った場所から、隣の和室に仏壇が見えた。
――あまり見ちゃいけないよな……。
チラッと飾られた写真を見ると中年の男性が写っていた。
その時、焼きたてのクッキーを皿に乗せて、耀がリビングへやってくる。
俺の目線に気づいたのか、隣に座りながら耀が話し出す。
「あれ、俺の父さん。俺が小学生の時、事故で死んじゃったんだ」
「そっか」
耀から父親の話が出ない事や、挨拶の時も母親だけだったため、何かしらの事情があるのは予想していた。
「あとで、お線香あげてよ。で、俺の友達として挨拶してくれたら嬉しい」
耀がコップにお茶を注いでいる間に、俺は仏壇の方に足を運んだ。
静かにお線香に火をつけて、手を合わせる。
「耀くんの友達になりました。冴島宵です。よろしくお願いします」
気の利いた言葉は出てこないが、耀の貴重な時間を一緒に過ごしてる以上、挨拶したかった。
そんな俺の背後に耀が来て、俺の肩に手を添える。
「父さん、俺友達できたよ。色んな事、一緒にしてくれて、めっちゃいいやつ。宵の事も頼むよ!」
耀の言葉が、心臓の奥にチクッと刺さる。
耀の父親の遺影をじっと見つめていると、耀から焼いたクッキーを食べるように催促されリビングへ戻った。
クッキーを食べながら、今流行りのドラマや、耀の強い希望で恋愛リアリティーショーを見ていた。
「いいなー俺も好きな人と両想いになりたかった」
「え、耀は絶対モテるだろ」
「いやー……どうだろ」
耀が会話を濁す。
――あれ?俺なんか変なこと言ったか?とりあえず、これ以上触れないでおくか。
俺がリモコンで他の作品を探していると、耀がコップの水滴をなぞりながら口を開く。
「宵はさ、恋愛とか……する?」
「え。するように見える?」
「んー……見えないね」
「なんだよ、この確認」
「いや、ごめん。嫌味とかそういうのじゃなくてさ。……俺はさ、何回か好きな人居たんだよ」
「……そっか?」
――ん?これは、なんの話なんだ?
耀が深く息を吸った後、少し早口で話す。
「ごめん、もうストレートに言うけど。俺、対象が同性なんだ。だから、好きだなぁって思っても両想いとかは別次元で」
耀は言い終わった後も、全然俺と目を合わそうとしない。
頭の中で返す言葉を考えていると、耀が気まずそうにする。
「……宵はこういうの引いた?こんな事言われても困るよね!ごめん!宵に嘘ついてる気がして、自分本位で言っちゃったけど。本当に、気まずくなるのはなしで!」
明らかに動揺している耀を見て、俺は耀の肩に腕を回した。
「落ち着け。俺ら友達なんだろ?引くとか、そういう関係じゃないから。むしろ、知らなかったとは言え、モテるとか決めつけてごめんな」
耀が、俯きながら首を横に振る。
あっという間に外は暗くなり、耀の母親が用意してくれたご飯を食べて、少し休憩する。
ピルケースからいつもの薬を取り出し、耀が飲み終えたタイミングで鞄から例の袋を取り出した。
「あのさ、もしよければ……コレやらない?」
袋から10本入りの線香花火を取り出して、耀に見せる。
「これ、わざわざ用意してくれたの?」
「あー、うん。花火大会は人も多いし、夜でも結構暑いからさ。さっき、耀のお母さんにも許可もらったし」
耀が両手で、顔を覆いながら俯く。
「え、なに?どうした?」
「いや……うん。ありがとう。嬉しい」
耀が顔から手を下ろすと、瞳が少し潤んでいるように見えた。
――そんなに……嬉しかったのか。
耀の家の縁側で、一本ずつ線香花火を手に取り、火をつける。
パチパチと音を立てながら、火の玉がどんどん丸く大きくなっていく。
「綺麗だね」
「だな。落ちそうで、落ちない」
じっと静かに花火を見つめる。
蝉の音と、線香花火の音が少し小さくなった時、耀が呟く。
「ずっと、落ちないでほしいね」
「……だな」
耀の一言一言が、俺の心に鉛のように落ちてくる。
――耀は今どんな気持ちなんだろう。
考えるとどんどん深い海の底に落ちていく気がして、真相を確かめることを俺はできずにいる。
耀が袋から二本取り出し、片方を俺に渡す。
「これで最後だよ」
「じゃあ、勝負するか」
「あ、なんかそういうの漫画で読んだ事ある」
「だなぁー、ベタだけど。じゃあ、せーのでつけるぞ」
「「せーの」」
同時に蝋燭から火種をもらう。
耀の瞳にパチパチと輝く火花が幻想的で、つい見入ってしまう。
「やっぱり、こんな綺麗なら花火大会も行きたいな」
「だな」
――もっと耀と、いろんなとこ行きてーな。
「あ……」
俺がぼんやりしている間に、耀の花火が地面に落ちて消えた。
俺の隣で少し悲しそうに笑う。
「俺が先かなぁーって思ってた」
――なんだよそれ、何で先とか思うんだよ。
耀の言葉をそのまま受け入れる事が怖くて、咄嗟に自分が持っている線香花火を耀に渡した。
「俺がトイレで棄権するから、俺の負け」
俺は呆然とする耀を置いて、先に家の中に戻った。
――あー……。耀が死ぬのを受け入れる事なんて、できるわけないんだ。
ずっと考えないようにしていた事に向き合うと、耀を失う不安が募っていく。
耀と耀の母親に見送られ、少し涼しくなった夜道を一人で歩く。
ねぇちゃんと耀を重ねてるのか……。
俺は耀を友達として、失いたくないのか……。
……それとも、恋愛的なものなのか。
頭の中で何度考えても、分からない。
……好きってなんなんだろう。

