家に着くと、耀から貰った絵を取り出す。
「いや、うますぎだろ」
ちぎられたノートには、少し俯きながら問題を解いている俺が描かれていて、耀の優しい雰囲気がペン先に伝わるのか、自分の表情が少しだけ穏やかに思えた。
「耀から見た俺ってこんな感じなのか」
ボソッと口からこぼれ落ちた瞬間、自惚れている気がして恥ずかしくなる。
「あいつ、本当に死ぬのかな……」
会えば笑顔で楽しそうに過ごす耀が、あと少しでこの世を去っていく現実はなかなか想像できない。
ベッドに横たわった身体を起こし、スマホで耀が行きたがっているカフェを調べ、俺は考える事を少し先延ばしにした。
今日は夏休みに入り初めて耀と会う。待ち合わせの改札で耀を待っていると、少し遠くから俺を見つけた様子で嬉しそうに近づいてくる。
「ごめん、待たせた?」
「いや、全然。今日は体調どう?」
一見、変わりないように見えるが本人しか分からない事もあるため、確認する。
「薬も飲んだし、今の所変わりない」
「じゃあ、行くか」
耀が人混みの中、日傘をさすことを躊躇っていたため、俺は耀の日傘をさして入るように誘った。
「2人で入ってれば、気まずさも半分だろ」
「え、これ逆に目立たない?」
「ふはっ、確かに」
周りの目線を気にしながら、少し恥ずかしそうに耀が笑った。そんな耀を見て、俺まで耳が熱くなる。
しばらく歩くと、耀の行きたかったカフェに着いた。店内が混雑していて、外にも待機列がある。
「うわー、混んでるね」
「だな」
待機列の最後尾に向かおうとする耀の手を引いて店内に入っていく。
「え?並ばないと」
動揺する耀をよそに、レジにいた店員へ声をかける。
「あの、予約してる冴島です」
俺の言葉を聞いて、耀が驚く。店員が受付のパッドで予約を確認すると、少し気まずそうな様子で俺らの元に戻ってくる。
「あの、冴島様。予約が15時半になっていまして。1時間後なのですが…」
店員の言葉に慌ててスマホの予約画面を確認すると、自分が1時間早く勘違いしていた事に気づく。
「……あの、すみません。また来ます」
恥ずかしくて耀の顔を見れないまま、ごめんと言って店を出ようとすると、先ほどの店員が「あの……!」と言いながら駆け寄ってくる。
「あと少しでお席ご用意できそうなので、少しだけお待ち頂けますか?」
俺が耀の顔を見ると、嬉しそうに頷く。
「じゃあ、待っててもいいですか?」
俺の返答を聞いて、店員は駆け足で店の奥に戻って行った。少しして4人掛けのボックス席に案内され、座ったあと耀が小さな声で話す。
「予約してくれてたの?」
そう聞いてくる耀の表情は、嬉しさと驚きで目がいつもより1.5倍輝いているように見えた。
「そんな驚く?」
「いや、宵がお店調べてくれてるとか思わないじゃん」
「いや、調べるよ。まぁ、間違えたけど」
「あはは、そこは何か宵っぽくて安心する」
「……」
「ごめんごめん。でも、ほんと嬉しい」
俺のミスを笑いながら、お礼をいう耀を見て何だかんだ予約してよかったと思った。
以前のスタバでも感じていたが、耀は甘いものや見た目が華やかなものが好きなのか、このカフェ名物の苺パフェとカフェラテの上にアイスクリームをのせたやつを頼んでいた。
「くるの楽しみだね」
ワクワクを隠しきれない様子で、メニューを開きながら他のものも吟味していた。俺たちが注文したものがテーブルの上に並ぶと、耀はすかさずスマホで写真に収める。
撮り終えた様子のため、自分の飲み物を取ろうとした時、耀が少し躊躇ったように聞いてくる。
「一緒に撮ってもいい?」
前回はほぼ強制的に撮らされたが、なぜか今回は少し遠慮がちだ。耀には恥ずかしくて言えないが、いつも送られてくる写真を見て、その時の会話や食べたものなど思い出す時間が最近の楽しみになっていた。
「別に、嫌じゃない」
少し照れ臭くて、素っ気なくなってしまった。それでも、俺の返事を聞いて嬉しそうにする耀。俺は返事とともに、耀の横に移動した。
耀が頼んだメニューも入り込むように画角を調整していると、俺の顔が少し見切れている。そのまま何とか調整しようとするが、俺が耀の顔の真横に近づくといい感じに全てが映り込んだ
「お、これなら入るな」
スマホの画面越しで耀に話しかけると、耀の頬が赤くなっていることに気づく。
「え?熱?大丈夫?」
「……いや、違くて。これは違うから!じゃあ撮るから、カメラ見て!」
耀の頬が赤いまま、2人でカメラ目線に写ると、耀は撮った写真を確認せずスマホをテーブルに伏せた。
「よし!食べよ食べよ!ほら宵も席戻って」
「?」
早く席に戻るよう催促され、お互い頼んだものを食べ始める。
「これ美味しい!」
「よかったな」
食べ進めていると、耀が急に話題を変える。
「ねー、宵ってさ、なんで宵なの?」
「え、なにが」
「宵の由来だよ」
「あ、名前って事?」
「そうそう」
「そんなこと知りたいの?」
「えー、知りたいよ。宵の事なら、もっと知りたいね」
「……。ねぇーちゃんがさ、茜って言うんだ」
「茜さん?」
「うん、産まれた時綺麗な茜色の空だったらしい」
「へー素敵」
「で、俺が夕暮れの少し暗くなったタイミングで産まれたんだよ。だから宵。なんか親が姉弟で繋がりを持たせたかったのもあるらしい」
「なにそれ、めっちゃいい!俺一人っ子だから凄く羨ましい。いいなー、俺も宵と繋がりたかったな」
耀がちょっと悔しそうにしているため、ポロッと口からこぼれる。
「いや…耀だって。かがやくって意味では、なんか夜っぽいし繋がってるんじゃない?」
俺の言葉で、また耀が照れくさそうに笑う。
「そっか。じゃあ俺らの絆めっちゃ強いじゃん!」
「めっちゃ強いってなんだそれ」
「ふは、確かに。でもすごく嬉しい」
「そっか」
きっと耀は本当に何の気なしに聞いたんだろうけど、家族や自分の話をできるようになったり、こうやって休日出かけるようになったのは、確実に耀のおかげだ。
耀と出会えて俺の止まっていた時間が、動き出した気がした。
「…あのさ、耀の家族にも都合合わせてもらったから言おうか迷ってたんだけど」
「え、なに?」
「来週俺の家、両親がばあちゃんの家行くから誰もいなくて……だから、よければ来る?」
なかなか言い出せなかった事を言い終えた瞬間、耀から即答で返事が返ってくる。
「行く!行くに決まってる!」
食い気味な返事に思わず笑ってしまう。
「いや、決まってはなかっただろ」
「いや、行くしかないよ!だって、友達の家で遊ぶの夢だったから!あ、でも俺の家も来てね!母さんがお菓子とか用意しておくって言ってるし」
「ありがとな」
「こちらこそ!今日は嬉しい事沢山だ」
ニコニコしながら残りのものもしっかり食べ切って店を出る。今日は耀の母親が忙しいため、俺が耀の家まで見送る事にした。耀の家が近づいてくると、少し遠くを見つめながら耀が口を開く。
「あー今日も終わっちゃうね。今日も楽しかった!ありがとう」
お礼を言う耀の表情は笑っているが、どこか寂しさも感じた。そんな耀になんて言葉で返すのがいいのか迷う。
「……まだまだやる事あるだろ。今日は終わるけど、予定いっぱいなんだから」
「確かにそうだね」
耀の家の前に着き、耀が「また」と言いながら玄関の方に向かっていく。その時気づいたら、俺は耀の腕を掴んでいた。
「……あのさ、お母さん帰ってくるまで一緒に居てもいい?」
咄嗟に出た言葉に思わずハッとする。そんな俺を見て、耀は嬉しそうに笑いながら家の中に招いてくれた。
耀を1人にしたくないというのは建前で、俺はもう耀がいなくなってしまう日を受け入れる事ができないくらい、少しでも長く耀と過ごしたいと思ってしまったんだ
「いや、うますぎだろ」
ちぎられたノートには、少し俯きながら問題を解いている俺が描かれていて、耀の優しい雰囲気がペン先に伝わるのか、自分の表情が少しだけ穏やかに思えた。
「耀から見た俺ってこんな感じなのか」
ボソッと口からこぼれ落ちた瞬間、自惚れている気がして恥ずかしくなる。
「あいつ、本当に死ぬのかな……」
会えば笑顔で楽しそうに過ごす耀が、あと少しでこの世を去っていく現実はなかなか想像できない。
ベッドに横たわった身体を起こし、スマホで耀が行きたがっているカフェを調べ、俺は考える事を少し先延ばしにした。
今日は夏休みに入り初めて耀と会う。待ち合わせの改札で耀を待っていると、少し遠くから俺を見つけた様子で嬉しそうに近づいてくる。
「ごめん、待たせた?」
「いや、全然。今日は体調どう?」
一見、変わりないように見えるが本人しか分からない事もあるため、確認する。
「薬も飲んだし、今の所変わりない」
「じゃあ、行くか」
耀が人混みの中、日傘をさすことを躊躇っていたため、俺は耀の日傘をさして入るように誘った。
「2人で入ってれば、気まずさも半分だろ」
「え、これ逆に目立たない?」
「ふはっ、確かに」
周りの目線を気にしながら、少し恥ずかしそうに耀が笑った。そんな耀を見て、俺まで耳が熱くなる。
しばらく歩くと、耀の行きたかったカフェに着いた。店内が混雑していて、外にも待機列がある。
「うわー、混んでるね」
「だな」
待機列の最後尾に向かおうとする耀の手を引いて店内に入っていく。
「え?並ばないと」
動揺する耀をよそに、レジにいた店員へ声をかける。
「あの、予約してる冴島です」
俺の言葉を聞いて、耀が驚く。店員が受付のパッドで予約を確認すると、少し気まずそうな様子で俺らの元に戻ってくる。
「あの、冴島様。予約が15時半になっていまして。1時間後なのですが…」
店員の言葉に慌ててスマホの予約画面を確認すると、自分が1時間早く勘違いしていた事に気づく。
「……あの、すみません。また来ます」
恥ずかしくて耀の顔を見れないまま、ごめんと言って店を出ようとすると、先ほどの店員が「あの……!」と言いながら駆け寄ってくる。
「あと少しでお席ご用意できそうなので、少しだけお待ち頂けますか?」
俺が耀の顔を見ると、嬉しそうに頷く。
「じゃあ、待っててもいいですか?」
俺の返答を聞いて、店員は駆け足で店の奥に戻って行った。少しして4人掛けのボックス席に案内され、座ったあと耀が小さな声で話す。
「予約してくれてたの?」
そう聞いてくる耀の表情は、嬉しさと驚きで目がいつもより1.5倍輝いているように見えた。
「そんな驚く?」
「いや、宵がお店調べてくれてるとか思わないじゃん」
「いや、調べるよ。まぁ、間違えたけど」
「あはは、そこは何か宵っぽくて安心する」
「……」
「ごめんごめん。でも、ほんと嬉しい」
俺のミスを笑いながら、お礼をいう耀を見て何だかんだ予約してよかったと思った。
以前のスタバでも感じていたが、耀は甘いものや見た目が華やかなものが好きなのか、このカフェ名物の苺パフェとカフェラテの上にアイスクリームをのせたやつを頼んでいた。
「くるの楽しみだね」
ワクワクを隠しきれない様子で、メニューを開きながら他のものも吟味していた。俺たちが注文したものがテーブルの上に並ぶと、耀はすかさずスマホで写真に収める。
撮り終えた様子のため、自分の飲み物を取ろうとした時、耀が少し躊躇ったように聞いてくる。
「一緒に撮ってもいい?」
前回はほぼ強制的に撮らされたが、なぜか今回は少し遠慮がちだ。耀には恥ずかしくて言えないが、いつも送られてくる写真を見て、その時の会話や食べたものなど思い出す時間が最近の楽しみになっていた。
「別に、嫌じゃない」
少し照れ臭くて、素っ気なくなってしまった。それでも、俺の返事を聞いて嬉しそうにする耀。俺は返事とともに、耀の横に移動した。
耀が頼んだメニューも入り込むように画角を調整していると、俺の顔が少し見切れている。そのまま何とか調整しようとするが、俺が耀の顔の真横に近づくといい感じに全てが映り込んだ
「お、これなら入るな」
スマホの画面越しで耀に話しかけると、耀の頬が赤くなっていることに気づく。
「え?熱?大丈夫?」
「……いや、違くて。これは違うから!じゃあ撮るから、カメラ見て!」
耀の頬が赤いまま、2人でカメラ目線に写ると、耀は撮った写真を確認せずスマホをテーブルに伏せた。
「よし!食べよ食べよ!ほら宵も席戻って」
「?」
早く席に戻るよう催促され、お互い頼んだものを食べ始める。
「これ美味しい!」
「よかったな」
食べ進めていると、耀が急に話題を変える。
「ねー、宵ってさ、なんで宵なの?」
「え、なにが」
「宵の由来だよ」
「あ、名前って事?」
「そうそう」
「そんなこと知りたいの?」
「えー、知りたいよ。宵の事なら、もっと知りたいね」
「……。ねぇーちゃんがさ、茜って言うんだ」
「茜さん?」
「うん、産まれた時綺麗な茜色の空だったらしい」
「へー素敵」
「で、俺が夕暮れの少し暗くなったタイミングで産まれたんだよ。だから宵。なんか親が姉弟で繋がりを持たせたかったのもあるらしい」
「なにそれ、めっちゃいい!俺一人っ子だから凄く羨ましい。いいなー、俺も宵と繋がりたかったな」
耀がちょっと悔しそうにしているため、ポロッと口からこぼれる。
「いや…耀だって。かがやくって意味では、なんか夜っぽいし繋がってるんじゃない?」
俺の言葉で、また耀が照れくさそうに笑う。
「そっか。じゃあ俺らの絆めっちゃ強いじゃん!」
「めっちゃ強いってなんだそれ」
「ふは、確かに。でもすごく嬉しい」
「そっか」
きっと耀は本当に何の気なしに聞いたんだろうけど、家族や自分の話をできるようになったり、こうやって休日出かけるようになったのは、確実に耀のおかげだ。
耀と出会えて俺の止まっていた時間が、動き出した気がした。
「…あのさ、耀の家族にも都合合わせてもらったから言おうか迷ってたんだけど」
「え、なに?」
「来週俺の家、両親がばあちゃんの家行くから誰もいなくて……だから、よければ来る?」
なかなか言い出せなかった事を言い終えた瞬間、耀から即答で返事が返ってくる。
「行く!行くに決まってる!」
食い気味な返事に思わず笑ってしまう。
「いや、決まってはなかっただろ」
「いや、行くしかないよ!だって、友達の家で遊ぶの夢だったから!あ、でも俺の家も来てね!母さんがお菓子とか用意しておくって言ってるし」
「ありがとな」
「こちらこそ!今日は嬉しい事沢山だ」
ニコニコしながら残りのものもしっかり食べ切って店を出る。今日は耀の母親が忙しいため、俺が耀の家まで見送る事にした。耀の家が近づいてくると、少し遠くを見つめながら耀が口を開く。
「あー今日も終わっちゃうね。今日も楽しかった!ありがとう」
お礼を言う耀の表情は笑っているが、どこか寂しさも感じた。そんな耀になんて言葉で返すのがいいのか迷う。
「……まだまだやる事あるだろ。今日は終わるけど、予定いっぱいなんだから」
「確かにそうだね」
耀の家の前に着き、耀が「また」と言いながら玄関の方に向かっていく。その時気づいたら、俺は耀の腕を掴んでいた。
「……あのさ、お母さん帰ってくるまで一緒に居てもいい?」
咄嗟に出た言葉に思わずハッとする。そんな俺を見て、耀は嬉しそうに笑いながら家の中に招いてくれた。
耀を1人にしたくないというのは建前で、俺はもう耀がいなくなってしまう日を受け入れる事ができないくらい、少しでも長く耀と過ごしたいと思ってしまったんだ
