宵の空に耀くひかり〜君と過ごした14日間〜

「よっちゃん、ごめんね」

七年前に死んだ姉は、今も時々夢に出てくる。

目を開けると、カーテン越しの夏の日差しが容赦なく部屋を照らしていた。

 もう七年も経つのに、姉と交わした最期の言葉や、その情景が今も鮮明に思い出せる。
 
 七年前。
 その日は、久々に家族4人で、大型ショッピングモールに出かける予定だった。
「来週、宵の誕生日だからプレゼント買いに行こう」
 両親からの提案が嬉しくて、前日の夜はワクワクしながら寝たのを覚えている。
 朝、目が覚めると、一階のリビングでは両親が慌ただしくしていた。
 リビングのソファでは、顔色を悪くして、息苦しそうに横たわる姉。その周りで両親たちが、救急車を呼んだり、祖母に電話をかけている。
 ――あー、またか。
 リビングの扉を開けると、ソファで横になっている姉と目が合う。
「よっちゃん、ごめんね」
 息苦しい中、振り絞るように声を出して謝られる。そんな姉に、俺は苛立ちを隠せなかった。
「もういいよ、どうせまた入院だろ」
 吐き捨てるように言って、二階の自室に戻った。
 ――まさか、それが最後の会話になるなんて。
 小四の俺にはそんな想像もできなかった。
 姉はその日、集中治療室へ入院した。
 様々な機械をつけてベッドに横たわっているのを、何回も窓ガラス越しに会いに行く。姉はその部屋から出てくる事なく、三日後、息を引き取った。
 
 あの日から、身体は鉛みたいに重い。
 夏なのに景色は色を失ったまま、七年経っても戻らない。
 それでも朝が来てしまうため、ゆっくりと身体を起こす。
 「起きてくるのいつもより遅かったけど、どこか悪いの?」
 姉が死んでから起きる時間、食べる量、顔色など日常生活の中で当たり前の誤差を母親は逐一確認してくる。
「ごめん、ちょっと寝坊した」
 しんどい朝に、そういう母親の気遣いは追い討ちをかけてくる。
「ほんと?宵にはお姉ちゃんの分まで生きてもらわないと。何かあったらすぐ言うのよ」
 もう聞き飽きた言葉たちに、ただ愛想笑いをしながら頷く。
 姉が死んでから、母親は俺を見張るようになった。俺が真っ当に生きる事で、姉も生きてるように帳尻を合わせてるのだろうか。でも、俺はそんな母親に文句を言う資格はない。
 苦しいはずなのに最後まで俺を気遣ってくれた姉に、俺はあんな言葉しか返せなかったのだから。
 このくらい我慢して生きるのが、俺の人生なんだと思う。
 姉の死後、淡々と時間だけが過ぎ、気がつけば自分が何のために生きてるのか、なぜ病気で死んだのが俺じゃなかったのか、俺自身が分からないまま高校二年生になっていた。
 
 リビングに行くと、朝食が並べられていたがとても食べる気にはなれない。
「ごめん、今日寝坊したから牛乳だけ貰う」
 牛乳が入ったグラスを空にして椅子から立ち上がると、母親が眉間に皺を寄せて近づいてくる。
「倒れたりしたら、どうするの?」
 ――はぁ……。そんなすぐ倒れないよ。
 心の中で大きなため息を吐く。
「途中でおにぎり買うよ」
 目を合わせることなく、足早に自分の部屋へ戻った。
 玄関に行くと、母親が昼食代を渡してくる。まだ何か言いたそうな表情だが、お金を受け取ってすぐに玄関の扉を開けた。
「ありがとう、じゃあ行ってきます」
 外に出た瞬間、コンクリートから湯気のようなものが出ていて、先を歩く人の足元がぼやけている。
「うわ……死ぬ」
 遅刻ギリギリだけど、暑さのせいで走る気にもならず、日陰を歩きながら駅へ向かった。
 最寄駅に着くと、電光掲示板に遅延の文字があり、朝から沈んでいた気持ちが少し軽くなる。
「あ、すみません。遅延証ください」
 駅員から紙切れを受け取り、コンコースで涼みながらゆっくり電車を待った。
 今日は夏休み前の短縮授業で午前のみ。
 ――いっそ、サボろうかな。
 一瞬考えるも母親にバレたら、それこそ面倒だと思って諦める。
 20分遅れで学校の最寄駅に着く。
 いつもなら改札を出て、最短距離の急勾配な坂を登っていくが、今日の日差しが俺にその選択肢を与えない。
 少し遠回りになるが、日陰の多い道を選んだ。
 五分ほど歩いたところで、少し先の木陰に白いシャツ、紺色のスラックス姿でしゃがみ込んでいる人を見つける。いつもなら素通りするが、今朝見た姉の夢が頭から離れなかった。
 俺は気づいたら、足を止めて声をかけていた。
「おい、大丈夫か?」
 声を掛けると、しんどそうな顔でこちらを見あげ、少し困ったように笑いながら彼が俯く。
「ちょっと休めば平気」
 息苦しそうで、平気そうには見えない。
 ただ、本人がそう言っている以上、どうこうする事もできない。これ以上関わるべきではないと思い、俺はその場から立ち去った。
 
 俺は少し歩いて、後ろを振り返る。
 彼は先ほどの場所で、しゃがみ込んだまま動けずにいた。これ以上関わる事はやめといた方がいいと思いつつ、彼の元まで駆け寄った。
「なぁ、誰か呼ぶ?どっか悪いんだろ?」
 彼はひょろっとした体格で、同じ男子高校生とは思えない程肌が白かった。彼の顔を覗くと、さっきよりも顔色が悪いように感じた。
 彼は、さっき追い払った人間がまた戻ってきた事に、少し驚きながら笑う。
「なんだよ……戻ってきたのか」
 俺の心配をよそに、笑っている彼を見てそんな状況じゃないだろと呆れる。
「学校に電話するか?それとも親呼んだら?」
 笑っていた彼が少し戸惑う。
「…あー、本当にもう少し休んだら大丈夫。俺単位やばいから、今日は学校行きたいんだよね」
 誰が見ても、明らかに健康そうには見えないが、彼なりに事情があるのだろうと察する。
 スマホで時間を確認すると、既に一限が始まっていたため、俺は背負っていたリュックを地面に下ろした。
「んー、じゃあ、少し休むの付き合うわ」
 彼の隣に座り込む。
「え?」
 驚いている彼に、先ほど買った水を渡す。
「まだ口つけてないから、とりあえず飲んで」
 戸惑いながら受け取った水を飲んだ後、俺の顔を見つめてくる。
「…ありがとう。君こそ、大丈夫?」
「何が?」
「もう授業始まってるけど」
「俺は単位、問題ないから」
 彼は目を細めてクシャッと笑った。
「俺、安西耀。かがやくって書いて、ひかる」
「……冴島宵」
 名前を伝えると、耀が嬉しそうに笑う。
「宵、よろしく」
 ――いきなり呼び捨てで、馴れ馴れしすぎるだろ。
 俺の動揺する気持ちなど気にもせず、耀は次から次へと俺に質問をしてくる。
「へー、俺らタメなんだね。ほぼ保健室とか、空き部屋に行ってたから知らなかった」
 何の気なしに耀が言うため、深く突っ込んでいいのか分からず「あぁ」と相槌を打つ。
 一緒に座り込んで十五分くらい経った時、気を遣って耀が立ちあがろうとして転びそうになる。
「おい、大丈夫かよ」
 ふらつく耀の腰に手を回し、咄嗟に支えた。
「…ごめん、ありがとう」
「まだ辛いなら、もう少しここで休めば?」
「……でも、俺今日テスト受けなきゃだから」
 ――まじで単位やばいのか。
 俺はリュックを身体の前で持ち、コンクリートに膝をついた。
「じゃあ、乗って」
 耀は唖然とし、動こうとしない。
 俺は耀の手を引いた。
「ほら早く。テスト受けたいんだろ?」
 耀が照れくさそうにしながら、俺の背中に身体を預ける。ゆっくり立ち上がり、耀をおんぶしながら、学校へ歩き出す。
 ただでさえ暑いのに、触れ合う背中がジワっと熱くなっていく。
「ごめん、暑いのに」
「いや、俺こそ汗すげえ」
 耀がクスッと笑う。
「なんだよ」
「いや、優しいやつだなって」
「そりゃ、どーも」
 普通に歩いたら十分くらいの道を、二十分かけて歩いた。
 下駄箱で耀を降ろし、それぞれ上履きに履き替える。
「保健室まで行けそうか?」
 顔色は少し良くなった気がする。
「もう平気だよ。本当ありがとう」
「ん。じゃあ、テスト頑張れよ」
 自分の教室に向かうため、耀に背を向けて歩き出す。
 そんな俺を、耀が呼び止める。
「宵!もし、俺が放課後までいたら、保健室まで迎えにきて!さっきのお礼する!」
 言い捨てて、耀は保健室の方へ向かっていってしまった。
 ――放課後までいたらって、どうやって確認するんだよ。

 放課後、スマホを見ると母親から『大丈夫?』とメッセージが届いていた。
 手元にある進路希望の用紙を見つめ、ため息を吐きながらカバンの中に適当に押し込む。
 下駄箱に着き、ふと耀の言葉を思い出す。
 少し面倒くさい気もしたが、もし待たせていたら俺が酷いやつになる気がした。
 ――……一応確認してから帰るか。
 脱ぎかけた上履きをもう一度履き、保健室まで足を伸ばす。
 保健室の扉を開けると、奥のソファに腰掛けていた耀がこちらを見て立ち上がる。
「やっと来た」
 嬉しそうに笑いながら、俺の元へ近づいてくる。
「え、本当にいた」
「そりゃいるよ。遅いから、帰っちゃったかと思った」
 耀と会話していると、廊下から養護教諭が入ってくる。「安西くん、もう平気?」
 耀の事情を知ってるであろうその問いに、耀が頷く。
「うん、もう平気。午後から曇りだし。それに今日は宵が一緒に帰ってくれるから」
 耀が俺の肩に腕を回しながら嬉しそうに話してるのを見て、養護教諭が少し驚いていた。
「冴島くんと仲良かったんだね」
「え、あぁ……まぁ」
 この状況を理解する前に、耀に手を引かれ保健室をあとにする。
 昇降口を出る際、耀が鞄から日傘を出す。
「ごめん、俺、太陽ダメで」
 その姿を見て、俺の中で嫌な憶測が湧き上がる。
 耀に対する疑念が確信へと近づく。日傘を差す耀の横をゆっくり歩きながら、状況を整理するために聞く。
「あのさ、まず大前提で聞きたいんだけど」
「ん?」
「俺ら……友達なの?」
 耀が声を出して笑う。
「え、一緒に遅刻して、おんぶもしてくれたのに?」
 耀の返答に思わず笑ってしまう。
「なんだよ、それ」
「きっかけとしては、上出来だと思うけど」
 姉の死後、自分から交友関係を広げる事もせず、淡々と過ごしていた俺にとって、友達と呼べる人間関係を築くのは久しぶりだった。
 そんな俺の事を知らない耀が、右手の人差し指と中指を立てて、俺を見つめる。
「朝のお礼として、どちらかお選びください。1 スタバでカスタムしまくり、2 アイスクリームトリプル。さぁ!どっちにする?」
 楽しそうに話す耀を見て、朝よりは体調が良さそうで安心した。
「体調は平気なの?」
「うん、お昼に薬飲むし。あまり気にしないでいいよ!で、どっちにする?」
 放課後、誰かと過ごすのは初めてで少し戸惑う。
 目の前で楽しそうにする耀を見ると、今更断ることも出来ない。
「あー……じゃあ、スタバで」
「おっけー!お昼は俺が決めていい?」
「あー、うん」
 学校を出て、駅前のファーストフード店に入る。
「ここ行ってみたかったんだよね」
「え、ここ?」
 そこは全国どこにでもあり、普通なら何度も行った事があるようなお店だった。
 耀は嬉しそうに、メニュー表を眺める。
「ねぇ、どれにする?俺はやっぱりビックかな」
「いや、絶対食えないって。無難なやつにしとけよ」
「えー、じゃあ宵と同じやつにするかー」
「え、……」
 俺自身も、母親の干渉が酷くなってからはあまり来ていなかった。
 俺たちは、チーズバーガーセットを頼み、窓際のカウンターに肩を並べて座る。
 瞳を輝かせながら、プレートに乗ったポテトを見つめる耀。
「これが、噂の」
 一本手に取り、口に運ぶ。
 嚥下した後、目を見開いて俺の方を見ながら、こくりこくりと頷く姿は、小さな子どもみたいで思わず笑ってしまった。
「うわ、宵って笑えるんだ」
「俺をなんだと思ってるんだよ」
「んーつまらなそうな顔してるけど、優しくて、いい奴?」
 耀の返答で、また俺の表情が砕ける。
「初めてのポテト美味い?」
 俺の質問に、フフンと眉を上げながら耀がニヤッとする。
「美味すぎるな。油と塩、最高」
「そりゃ、よかったな」
 外を眺めながら食べ進めていると、耀が口を開く。
「宵は、俺のこと何も気にならないの?」
 急な質問に、一瞬食べていた手が止まりそうになる。
「なんか聞いて欲しいの?」
「んーまぁ、せっかくだし」
 耀の真意がつかめないが、疑念を晴らすために質問する。
「安西は、その……なんかの病気なの?」
 俺の質問に対して、「それ!」という顔で耀が頷いた。
「多分さー、俺もうすぐ死ぬんだよね」
 疑念を晴らす前に、脈絡もなく「死」というワードが出てきて、思わず咽こむ。
「ちょ…、いきなり。冗談やめろ」
「うわ、大丈夫?」
 咽こむ俺の背中を優しくさすりながら、耀が話し出す。
「ジョークみたいに聞こえたよね。でも、小さい時から心臓悪くてさ。何回も、もう死ぬかなぁって山場乗り越えちゃってんの。だから、なんとなく分かるんだよ。あー、もうそろそろかなーって」
 耀は悲しい表情をするでも、無理に笑うでもなく。
 まるで、死ぬのを受け入れて待っているかのような表情で話していた。
「……俺に話してよかったの?」
「うん、宵には知っててほしくて」
「……そっか」
 当たらなきゃいいと思っていた疑念や憶測が、パズルのように合わさってしまった。
 俺のそんな気持ちとは反対に、その後も耀は楽しそうに話しながら食べ進める。
 
 食べ終えて店を出た時、そのまま近くのスタバに向かおうとする耀の腕を掴み、足を止める。
「ん?どうした?」
「その……友達なら奢りとか無しな」
「え?でもお礼……」
「お礼欲しかったわけじゃないし」
「……じゃあ、今日はもう解散にする?」
 耀が少し悲しそうな表情で、問いかけてくる。
 ――はぁ……。いつもならめんどくさいって思うのに。
「……行きたいんだろ?」
 俺の一言で、耀が一喜一憂する。
 そんな耀を見てると、全力で今を生きている気がして、眩しく感じた。
 
 カスタムをてんこ盛りにし、見るからに甘そうな飲み物を持ちながら、空いてる席に座る。
 嬉しそうに飲み物の写真を撮ったあと、耀が俺の隣にかがむ。
「ねぇ、一緒に撮ろ?」
 思いがけない提案に、恥ずかしくなり、咄嗟に少し離れてしまう。
「いや、女子じゃあるまいし、やだよ」
「えーいいじゃん。もしかしたら、今日でここ来るの最後かもだし」
 冗談みたいに言うが、実際本当にそうなるかもしれない。
 ――そんな言い方されたら、今後何も断れないんじゃないか。
 俺はなくなく、耀が持つスマホに映り込む。
「無断転載すんなよ」
「あはは、うん、了解」
 笑いながら嬉しそうに、飲み物と耀と俺のスリーショットが撮られた。
「あとで、送っておくね」
 嬉しそうに自分の席に戻り、耀は本日2回目の人生初を堪能した。
「やば、これ、まじで甘いし、凄い」
「語彙力」
「あはは、確かに、それな」
 側から見たら、普通の光景。
 放課後に男子高校生が楽しくカフェで過ごしているだけだ。
 耀自身も、そんな風に感じてくれてたらいいなと思った。
 飲みながら耀が話し出す。
「……あのさ、さっきの話に戻るけど。俺残りの時間やりたい事しようと思ってて」
「……うん」
「でさ、それを宵とやりたいんだけど」
 予想もしない発言に、また咽せてしまう。
「ゴホッゴホッ……」
「ちょ、ほんと大丈夫?」
 俺の横まで来て、笑いながら背中をさすってくれる腕を掴み、少し強い口調で聞き返す。
「お前さ、本気で言ってる?」
 俺の言葉に動じることもなく、ふっと笑いながら頷く。
「うん、本気だよ。だから、今日初めてここにも来たし。さっきも食べたいもの食べた。あ、もちろん宵には迷惑かけないから」
 落ち着いて話す耀を見て、冗談じゃない事はすぐに分かった。
 正直、耀の事を考えると今すぐに親の元へ送り返すべきだ。ただ脳裏で姉の事がチラつき、何て返事をすればいいのか悩む。
「頼む!俺の思い出を作りたい」
 言葉の意味を理解するのに、そんなに時間は要らなかった。
 最期を覚悟した今、その中に楽しく過ごせた自分を残しておきたいのか。
 姉が出来なかった事を、耀は覚悟を持って選んだことを悟った。
 
「……でも、なんで、俺なんだよ。今日会ったばかりだよな」
 耀の覚悟は理解できても、その付き添いがなぜ自分なのか理解できない。
 そんな表情を浮かべていると、言葉を選びながら、耀が答える。
「んー、なんか、朝会った時、宵は俺の事なんとなく分かってくれそうな気がして。俺のこんな話聞いても、すぐ理解してくれると思ったのかも」
 ――いやいや。そう言われても……。
 俺は黙り込んで、考える。
「……条件がある」
「うん、なになに?」
「無理はしない事。俺に嘘つかない事。あと、親にはどこに行くかくらいはちゃんと伝えてくれ」
 耀がキョトンとする。
「条件って言うから、もっとすごい難題来ると思った」
「いや。本当に守れよ?」
「うん、分かった。じゃあ、俺やりたい事リストにしてくるから、また明日保健室まで迎えに来て?あ、あと連絡先も教えて?」
 耀と連絡先を交換し、耀が少し躊躇いながら聞いてくる。
「あのさ、答えたくなかったら良いんだけど」
「なんだよ」
「いや、その、……。宵は何で俺を受け入れてくれたのかなーって」
 自分から提案したくせに、この後に及んでその質問は、何だか笑ってしまう。
 今まで姉のことを、わざわざ周りに言う事はなかったが、ここで耀に伝えないのはフェアじゃない気がした。
「俺の姉ちゃんも、心臓の病気で死んでる」
 俺の言葉を聞いて、耀が目を見開く。
 別に気を遣って欲しいわけでも、慰めて欲しいわけでもないため、今の心情をそのまま伝えた。
「お前がしゃがみ込んでた時、最後に会ったねぇちゃんの顔とすげぇ似ててさ。顔色が悪かったり、息苦しそうにしてるのも同じで。もしかしたら……って思ったんだ」
 黙り込んでいた耀が、口を開く。
「……そっか。ごめんね。俺といると辛いこと思い出すね」
 申し訳なさそうに、表情を曇らせる耀に対して、俺は罪悪感を感じていた。
 耀から思い出作りに付き合って欲しいと提案をされて、動揺や不安、責任の重みを感じている。
 でも、それと同時に、姉に対しての後悔を少しでも軽くできるんじゃないかと思っていた。
「大丈夫。俺、そんないい奴じゃないから」
 耀が、俺の言葉に首を傾げるも、それ以上は何も言わなかった。

 帰り際、耀が思い詰めたような顔で近づいてくる。
「もし嫌になったら、言ってね。俺も無理しないし、嘘つかないから。宵も!」
 耀が真面目な顔をして、俺を気にかける。
 ――ごめんな。俺、自分のためにお前といようとしてるんだ。
 醜くて、情けない気持ちがバレないように、空笑いする。
「おう、でも、本当に気にすんな。ねぇーちゃんと安西は違うから」
 少しムスっとしながら、耀が一歩近づいてくる。
「あのさ!真面目に言ってるからね!あと!安西じゃなくて、耀って呼んで!」
 まっすぐ俺を見つめてくる瞳から目を逸らして、こくりと頷いた。
「俺にとって宵は、最後の希望みたいなもんだから。じゃ、また明日ね」
 また言い逃げのように、意味深な言葉を残してその場を去っていく。
 最後の希望と言われても、どこまで期待に添えるか分からない。

 姉が死んでから、人とこんなに話して、過ごしたのは久しぶりだった。
 家でさえ、一人になりたくてすぐに自室に戻ってしまうのに。
 数時間前、思いがけず声をかけた人と、ご飯食べて、お茶して、重要な役割を担うなんて思いもしなかった。