求婚から三日後。
龍界は大騒ぎだった。
理由は一つ。
龍王の結婚式。
しかも百年前に始まった契約の完了式でもある。
龍界中の龍族が準備に追われていた。
私は窓辺からその様子を眺めていた。
不思議だった。
少し前まで、自分が結婚するなんて想像もしていなかった。
「緊張していますか」
白龍が隣に立つ。
私は少し考える。
「少しだけ」
そう答えると白龍は微笑んだ。
「大丈夫です。皆、楽しみにしていますから」
その時だった。
遠くから聞き覚えのある叫び声が響いた。
「娘ぇぇぇぇぇぇん!!」
私は思わず顔を覆う。
「またですか……」
白龍は慣れた様子だった。
「今日はまだ三回目です」
「まだ?」
基準がおかしい。
すると白龍がふと思い出したように呟いた。
「そういえば」
「黒龍様が面白いことになっています」
嫌な予感けれどもない。
「見ますか?」
白龍が指先を動かす。
空中に水の輪が現れた
やがてそれは鏡のように広がる。
水鏡だった。
映し出されたのは。
見覚えのある神社。
石段。
鳥居。
雨。
大雨。
「貴船神社……?」
私は目が瞬く。
その時、映像の向こうから叫び声が聞こえた。
「黒龍様ぁぁぁ!!」
神職が走っている。
そして、その先にいたのは。
黒龍だった。
頭を抱えている。
「雨が止まらねぇぇぇぇ!!」
私は吹き出した。
白龍は肩を震わせている。
笑いを堪えているらしい。
神職が慌てて言う。
「どうすればいいんですか!?」
「俺に聞くな!!」
「神様でしょう!?」
「神様だって困る時はある!!」
私は思わず笑ってしまう。
神職たちも困惑していた。
一人が恐る恐る尋ねる。
「原因は何ですか?」
黒龍は勢いよく振り返った。
そして叫ぶ。
「娘の結婚式だよ!!!」
神職たちは沈黙した。
私も沈黙した。
白龍も黙った。
しばらくして神職が小さく言う。
「おめでとうございます」
「ありがとう!!」
黒龍は即答した。
けれども次の瞬間、頭を抱える。
「でも嫁に行くんだぞ!? 複雑なんだよぉぉぉぉ!!」
私はとうとう吹き出した。
「ふふっ……」
笑いが止まらない。
黒龍は本気だった。
本気で喜んで本気で寂しがっている。
その様子が痛いほど伝わる。
神職がまた声を掛ける。
「黒龍様!」
「今度は何だ!」
「龍界から呼ばれています!」
黒龍が固まる。
「は?」
「花嫁衣装の確認をお願いします」
「今行く!!」
そう言うと黒龍は慌てて飛び上がった。
映像から消える。
私は笑いながら水鏡を見る。
すると数秒後、また映って戻ってきた。
「雨は!?」
「まだ降っています!」
「だろうなぁぁぁ!!」
再び飛んでいく。
私は涙が出るほど笑った。
そして、ふと気付く。
胸の奥が温かかった。
「本当に……」
小さく呟く。
白龍が私を見る。
私は水鏡の向こうを見つめたまま言った。
「父親みたいですね」
白龍は微笑んだ。
「みたい、ではありません。黒龍様にとってはずっと娘ですよ」
胸が少しだけ熱くなる。
水鏡の向こうでは、今日も黒龍こと闇龗神が大騒ぎしていた。
けれども、それが少し嬉しかった。
私はもう一度、水鏡の中の黒龍を見つめた。
その時だった。
空から一粒の雨が落ちる。
そして、もう一粒。
黒龍がこちらを振り返る
まるで気付いたように。
そして苦笑した。
「だから言っただろ」
その声が聞こえた気がした。
「お前、龍の王女だぞ」
結婚式まで、あと一日だった。
龍界は大騒ぎだった。
理由は一つ。
龍王の結婚式。
しかも百年前に始まった契約の完了式でもある。
龍界中の龍族が準備に追われていた。
私は窓辺からその様子を眺めていた。
不思議だった。
少し前まで、自分が結婚するなんて想像もしていなかった。
「緊張していますか」
白龍が隣に立つ。
私は少し考える。
「少しだけ」
そう答えると白龍は微笑んだ。
「大丈夫です。皆、楽しみにしていますから」
その時だった。
遠くから聞き覚えのある叫び声が響いた。
「娘ぇぇぇぇぇぇん!!」
私は思わず顔を覆う。
「またですか……」
白龍は慣れた様子だった。
「今日はまだ三回目です」
「まだ?」
基準がおかしい。
すると白龍がふと思い出したように呟いた。
「そういえば」
「黒龍様が面白いことになっています」
嫌な予感けれどもない。
「見ますか?」
白龍が指先を動かす。
空中に水の輪が現れた
やがてそれは鏡のように広がる。
水鏡だった。
映し出されたのは。
見覚えのある神社。
石段。
鳥居。
雨。
大雨。
「貴船神社……?」
私は目が瞬く。
その時、映像の向こうから叫び声が聞こえた。
「黒龍様ぁぁぁ!!」
神職が走っている。
そして、その先にいたのは。
黒龍だった。
頭を抱えている。
「雨が止まらねぇぇぇぇ!!」
私は吹き出した。
白龍は肩を震わせている。
笑いを堪えているらしい。
神職が慌てて言う。
「どうすればいいんですか!?」
「俺に聞くな!!」
「神様でしょう!?」
「神様だって困る時はある!!」
私は思わず笑ってしまう。
神職たちも困惑していた。
一人が恐る恐る尋ねる。
「原因は何ですか?」
黒龍は勢いよく振り返った。
そして叫ぶ。
「娘の結婚式だよ!!!」
神職たちは沈黙した。
私も沈黙した。
白龍も黙った。
しばらくして神職が小さく言う。
「おめでとうございます」
「ありがとう!!」
黒龍は即答した。
けれども次の瞬間、頭を抱える。
「でも嫁に行くんだぞ!? 複雑なんだよぉぉぉぉ!!」
私はとうとう吹き出した。
「ふふっ……」
笑いが止まらない。
黒龍は本気だった。
本気で喜んで本気で寂しがっている。
その様子が痛いほど伝わる。
神職がまた声を掛ける。
「黒龍様!」
「今度は何だ!」
「龍界から呼ばれています!」
黒龍が固まる。
「は?」
「花嫁衣装の確認をお願いします」
「今行く!!」
そう言うと黒龍は慌てて飛び上がった。
映像から消える。
私は笑いながら水鏡を見る。
すると数秒後、また映って戻ってきた。
「雨は!?」
「まだ降っています!」
「だろうなぁぁぁ!!」
再び飛んでいく。
私は涙が出るほど笑った。
そして、ふと気付く。
胸の奥が温かかった。
「本当に……」
小さく呟く。
白龍が私を見る。
私は水鏡の向こうを見つめたまま言った。
「父親みたいですね」
白龍は微笑んだ。
「みたい、ではありません。黒龍様にとってはずっと娘ですよ」
胸が少しだけ熱くなる。
水鏡の向こうでは、今日も黒龍こと闇龗神が大騒ぎしていた。
けれども、それが少し嬉しかった。
私はもう一度、水鏡の中の黒龍を見つめた。
その時だった。
空から一粒の雨が落ちる。
そして、もう一粒。
黒龍がこちらを振り返る
まるで気付いたように。
そして苦笑した。
「だから言っただろ」
その声が聞こえた気がした。
「お前、龍の王女だぞ」
結婚式まで、あと一日だった。

