空が裂けたままだった。
龍界全土を覆う雲海が揺れている。
まるで世界そのものが息を潜めているようだった。
私は立ち尽くしていた。
契約管理者の言葉。
『第三の欠片が目覚める』
その言葉だけが頭から離れない。
白龍は私の隣に立っていた。
何も言わない。
けれども離れない。
その温もりだけが、今の私を現実につなぎ止めていた。
「白龍様……」
呼ぶと、すぐに視線が向く。
「はい」
優しい声。
いつもと同じ。
なのに胸が苦しい。
「第三の欠片って……何なんですか」
沈黙。
やはり答えない。
私は小さく笑う。
「また秘密ですか」
白龍の表情が曇る。
その時だった。
「秘密じゃねえよ」
聞き慣れた声が響く。
私は振り返る。
黒龍だった。
今日も豪快に雲を踏み抜いて現れる。
「娘ちゃああああん!」
勢いよく抱きつこうとして――白龍に止められる。
「近いです」
「なんでだよ!」
「俺は父親だぞ!」
「義理です」
「細かい!!」
いつものやり取り。
なぜか少し安心した。
黒龍は腕を組む。
そして珍しく真面目な顔になる。
「第三の欠片な」
私の胸が跳ねる。
「お前の魂の最後の欠片だ」
「最後……」
黒龍は頷く。
「王としての黒姫」
「人としての志穂」
「そこまでは戻った」
私は息を呑む。
確かにそうだった。
最近は黒姫の記憶も見える。
私としての記憶もある。
それなのに。
まだ何か足りない感覚があった。
黒龍は続ける。
「残ってるのは」
「お前自身も忘れてる欠片だ」
その瞬間。
胸が痛んだ。
ズキッ。
思わず胸元を押さえる。
白龍がすぐ支える。
「志穂!」
呼吸が乱れる。
心臓が苦しい。
懐かしい痛み。
子どもの頃から何度も経験した痛みだった。
病院。
点滴。
白い天井。
『また熱が出ました』
医師の声。
『原因は分かりません』
母の泣きそうな顔。
次々と浮かぶ。
私は息を切らした。
「なんで……また……」
黒龍は私を見つめていた。
その瞳は驚くほど優しい。
「苦しいか」
私は小さく頷く。
黒龍はしゃがみ込む。
そして頭をぽんと撫でた。
「当たり前だ」
「え……?」
黒龍は笑う。
少しだけ寂しそうに。
「人間の身体に龍王女の魂を入れてたんだからな」
世界が静かになる。
私は固まった。
「……龍王女?」
黒龍は当然のように言う。
「そうだ」
そして笑いながら言った。
「お前、龍の王女だぞ」
その瞬間、世界が白く染まった。
記憶。
感情。
光。
雨。
熱。
すべてが繋がる。
幼い頃。
熱を出した夜。
窓の外で降っていた雨。
泣いた日に降った雨。
怒った日に荒れた天気。
偶然だと思っていた。
全部。
偶然じゃなかった。
「そんな……」
涙が零れる。
黒龍は笑う。
「気付くの遅すぎだろ、娘」
その呼び方に胸が熱くなる。
父親。
違う。
でも、ずっと見守ってくれていた存在。
黒龍は空を見上げる。
そして呟いた。
「そろそろだな」
「何がですか」
私は尋ねた。
黒龍の表情が少しだけ引き締まる。
「第三の欠片が出てくる」
風が吹く。
雲海が大きく揺れる。
空の裂け目が広がる。
そして遠くから誰かの声が聞こえた。
『見つけた』
知らない声。
なのに、なぜか懐かしい。
私の胸が大きく脈打つ。
龍界全土を覆う雲海が揺れている。
まるで世界そのものが息を潜めているようだった。
私は立ち尽くしていた。
契約管理者の言葉。
『第三の欠片が目覚める』
その言葉だけが頭から離れない。
白龍は私の隣に立っていた。
何も言わない。
けれども離れない。
その温もりだけが、今の私を現実につなぎ止めていた。
「白龍様……」
呼ぶと、すぐに視線が向く。
「はい」
優しい声。
いつもと同じ。
なのに胸が苦しい。
「第三の欠片って……何なんですか」
沈黙。
やはり答えない。
私は小さく笑う。
「また秘密ですか」
白龍の表情が曇る。
その時だった。
「秘密じゃねえよ」
聞き慣れた声が響く。
私は振り返る。
黒龍だった。
今日も豪快に雲を踏み抜いて現れる。
「娘ちゃああああん!」
勢いよく抱きつこうとして――白龍に止められる。
「近いです」
「なんでだよ!」
「俺は父親だぞ!」
「義理です」
「細かい!!」
いつものやり取り。
なぜか少し安心した。
黒龍は腕を組む。
そして珍しく真面目な顔になる。
「第三の欠片な」
私の胸が跳ねる。
「お前の魂の最後の欠片だ」
「最後……」
黒龍は頷く。
「王としての黒姫」
「人としての志穂」
「そこまでは戻った」
私は息を呑む。
確かにそうだった。
最近は黒姫の記憶も見える。
私としての記憶もある。
それなのに。
まだ何か足りない感覚があった。
黒龍は続ける。
「残ってるのは」
「お前自身も忘れてる欠片だ」
その瞬間。
胸が痛んだ。
ズキッ。
思わず胸元を押さえる。
白龍がすぐ支える。
「志穂!」
呼吸が乱れる。
心臓が苦しい。
懐かしい痛み。
子どもの頃から何度も経験した痛みだった。
病院。
点滴。
白い天井。
『また熱が出ました』
医師の声。
『原因は分かりません』
母の泣きそうな顔。
次々と浮かぶ。
私は息を切らした。
「なんで……また……」
黒龍は私を見つめていた。
その瞳は驚くほど優しい。
「苦しいか」
私は小さく頷く。
黒龍はしゃがみ込む。
そして頭をぽんと撫でた。
「当たり前だ」
「え……?」
黒龍は笑う。
少しだけ寂しそうに。
「人間の身体に龍王女の魂を入れてたんだからな」
世界が静かになる。
私は固まった。
「……龍王女?」
黒龍は当然のように言う。
「そうだ」
そして笑いながら言った。
「お前、龍の王女だぞ」
その瞬間、世界が白く染まった。
記憶。
感情。
光。
雨。
熱。
すべてが繋がる。
幼い頃。
熱を出した夜。
窓の外で降っていた雨。
泣いた日に降った雨。
怒った日に荒れた天気。
偶然だと思っていた。
全部。
偶然じゃなかった。
「そんな……」
涙が零れる。
黒龍は笑う。
「気付くの遅すぎだろ、娘」
その呼び方に胸が熱くなる。
父親。
違う。
でも、ずっと見守ってくれていた存在。
黒龍は空を見上げる。
そして呟いた。
「そろそろだな」
「何がですか」
私は尋ねた。
黒龍の表情が少しだけ引き締まる。
「第三の欠片が出てくる」
風が吹く。
雲海が大きく揺れる。
空の裂け目が広がる。
そして遠くから誰かの声が聞こえた。
『見つけた』
知らない声。
なのに、なぜか懐かしい。
私の胸が大きく脈打つ。

