龍王に呼び出されたのは、龍界へ来てから数日後のことだった。
案内されたのは宮殿の奥にある静かな離れだった。
重厚な木の扉が閉まる。
部屋には黒龍王しかいない。
窓の外では雲海がゆっくり流れていた。
私は正座しながら背筋を伸ばした。
自然と緊張する。
黒龍王はしばらく黙っていたが、やがて低い声で口を開いた。
「で、お前はどうするつもりだ?」
「え?」
突然の問いに私は瞬きを繰り返した。
「どうするって……何をでしょうか」
黒龍王は呆れたように息を吐く。
「白龍のことだ」
その瞬間、私の顔が一気に熱くなった。
「りゅ、龍王様!?」
「他に誰がいる」
黒龍王は腕を組む。
「お前たちは婚約者だ。で、これからどうしたい」
私は言葉を失った。
龍界へ来てからずっと目まぐるしかった。
黒姫だと言われた。
女王だと言われた。
記憶もない。
分からないことだらけだ。
けれども、ひとつだけ分かることがあった。
白龍王といると安心する。
あの人の隣は温かい。
幼い頃からずっと見守ってくれた存在。
苦しい時も。
泣いていた時も。
独りだった時も。
いつも近くにいてくれた。
胸の奥がじんわり熱くなる。
私は膝の上で拳を握った。
逃げたくない。
今回はちゃんと自分で答えたい。
そう思った。
「私は……」
小さく息を吸う。
「龍王様と結婚したいです」
静寂が落ちた。
黒龍王が目を丸くする。
そして次の瞬間。
「ぶはっ!」
盛大に吹き出した。
「く、黒龍王様!?」
「はっはっはっは!」
豪快な笑い声が部屋中に響く。
「そうかそうか! 言ったな!」
私は恥ずかしさで耳まで真っ赤になった。
「うぅ……」
「よし」
黒龍王は満足そうに頷いた。
「なら話は早い」
「話?」
「龍王妃になるには契約が必要だ」
私は首を傾げる。
「契約……ですか?」
「ああ」
黒龍王は真面目な顔になった。
「龍王と女王の婚姻は国そのものに関わる」
「だから契約管理者の承認が必要だ」
「承認……」
急に難しそうな話になってきた。
私の顔が引きつる。
「つまりだ」
黒龍王はにやりと笑った。
「修行だな」
「修行!?」
思わず声が裏返る。
「できるな?」
私は固まった。
正直、不安しかない。
女王と言われても実感はない。
失敗するかもしれない。
笑われるかもしれない。
迷惑をかけるかもしれない。
それでも白龍王の顔が浮かんだ。
いつも優しく見守ってくれる人。
ようやく会えた大切な人。
その隣に立ちたい。
守られるだけではなく。
胸を張って隣にいたい。
私はゆっくり顔を上げた。
「はい」
黒龍王を見る。
「やります」
「ほう?」
「認めてもらえるように頑張ります」
黒龍王は目を細めた。
その表情はどこか嬉しそうだった。
「よし」
大きな手が私の頭に置かれる。
「もちろん儂も推薦する」
そこで黒龍王は口を滑らせた。
「娘ちゃ――」
ぴたりと止まる。
「……いや」
咳払い。
「今はまだやめておこう」
「?」
意味が分からず首を傾げる私を見て、黒龍王は視線を逸らした。
「とにかくだ。今日からお前は女王候補だ。覚悟しておけ」
私は力強く頷いた。
「はい!」
その返事は、龍界へ来てから一番大きな声だった。
案内されたのは宮殿の奥にある静かな離れだった。
重厚な木の扉が閉まる。
部屋には黒龍王しかいない。
窓の外では雲海がゆっくり流れていた。
私は正座しながら背筋を伸ばした。
自然と緊張する。
黒龍王はしばらく黙っていたが、やがて低い声で口を開いた。
「で、お前はどうするつもりだ?」
「え?」
突然の問いに私は瞬きを繰り返した。
「どうするって……何をでしょうか」
黒龍王は呆れたように息を吐く。
「白龍のことだ」
その瞬間、私の顔が一気に熱くなった。
「りゅ、龍王様!?」
「他に誰がいる」
黒龍王は腕を組む。
「お前たちは婚約者だ。で、これからどうしたい」
私は言葉を失った。
龍界へ来てからずっと目まぐるしかった。
黒姫だと言われた。
女王だと言われた。
記憶もない。
分からないことだらけだ。
けれども、ひとつだけ分かることがあった。
白龍王といると安心する。
あの人の隣は温かい。
幼い頃からずっと見守ってくれた存在。
苦しい時も。
泣いていた時も。
独りだった時も。
いつも近くにいてくれた。
胸の奥がじんわり熱くなる。
私は膝の上で拳を握った。
逃げたくない。
今回はちゃんと自分で答えたい。
そう思った。
「私は……」
小さく息を吸う。
「龍王様と結婚したいです」
静寂が落ちた。
黒龍王が目を丸くする。
そして次の瞬間。
「ぶはっ!」
盛大に吹き出した。
「く、黒龍王様!?」
「はっはっはっは!」
豪快な笑い声が部屋中に響く。
「そうかそうか! 言ったな!」
私は恥ずかしさで耳まで真っ赤になった。
「うぅ……」
「よし」
黒龍王は満足そうに頷いた。
「なら話は早い」
「話?」
「龍王妃になるには契約が必要だ」
私は首を傾げる。
「契約……ですか?」
「ああ」
黒龍王は真面目な顔になった。
「龍王と女王の婚姻は国そのものに関わる」
「だから契約管理者の承認が必要だ」
「承認……」
急に難しそうな話になってきた。
私の顔が引きつる。
「つまりだ」
黒龍王はにやりと笑った。
「修行だな」
「修行!?」
思わず声が裏返る。
「できるな?」
私は固まった。
正直、不安しかない。
女王と言われても実感はない。
失敗するかもしれない。
笑われるかもしれない。
迷惑をかけるかもしれない。
それでも白龍王の顔が浮かんだ。
いつも優しく見守ってくれる人。
ようやく会えた大切な人。
その隣に立ちたい。
守られるだけではなく。
胸を張って隣にいたい。
私はゆっくり顔を上げた。
「はい」
黒龍王を見る。
「やります」
「ほう?」
「認めてもらえるように頑張ります」
黒龍王は目を細めた。
その表情はどこか嬉しそうだった。
「よし」
大きな手が私の頭に置かれる。
「もちろん儂も推薦する」
そこで黒龍王は口を滑らせた。
「娘ちゃ――」
ぴたりと止まる。
「……いや」
咳払い。
「今はまだやめておこう」
「?」
意味が分からず首を傾げる私を見て、黒龍王は視線を逸らした。
「とにかくだ。今日からお前は女王候補だ。覚悟しておけ」
私は力強く頷いた。
「はい!」
その返事は、龍界へ来てから一番大きな声だった。

