影がゆっくりと形を変える。
人でも龍でもない輪郭が、雲海の上で揺れていた。
その存在だけが、空気の温度を一段下げている。
「契約管理者……」
白龍が低く呟く。
その声には、明確な警戒があった。
私は白龍の袖を無意識に握っていた。
「これ……何なんですか」
影は答えない。
代わりに、私を見る。
見られているのに、“観察されている”感覚。
「黒姫」
また、その名前。
頭の奥が痛む。
視界が一瞬だけ揺れる。
白い光。
黒い水。
そして、誰かの声。
「まだ終わっていない」
私は息を詰める。
「……やめて」
小さく声が漏れる。
白龍がすぐに私の肩を支える。
「志穂、大丈夫です」
その言葉は優しい。
でも、私は気づいてしまう。
“安心させるための言葉”だと。
影が静かに言う。
「白龍」
その呼び方に、白龍の目が鋭くなる。
「お前は知っているはずだ」
沈黙。
白龍は何も答えない。
その沈黙が、逆にすべてを語っていた。
私は小さく震える。
「白龍様……?」
白龍はようやく私を見る。
その瞳は、いつも通り優しい。
でも――少しだけ、遠い。
「志穂」
「今は聞かないでください」
その一言で、胸の奥が冷たくなる。
「またそれですか」
私は思わず言っていた。
「今はって、いつなんですか」
白龍の表情が一瞬だけ揺れる。
その時だった。
影が一歩近づく。
「契約は三層構造だ」
白龍の手がわずかに動く。
止めるように。
だが影は続く。
「一層目:人間としての記憶」
「二層目:龍としての記憶」
「三層目――」
そこで言葉が切れる。
空気が止まる。
私は息を飲む。
「三層目……?」
影はゆっくり笑う。
「それは“本人すら認識できない領域”だ」
白龍の声が低くなる。
「それ以上は言うな」
影は笑う。
「止めるか」
「それとも、また隠すか」
その瞬間。
空間が歪む。
白龍の手が、空を切る。
音が消える。
影の輪郭が一瞬だけ揺れる。
だが、消えない。
「やはり」
影が静かに言う。
「まだ完全には封じられていない」
白龍の表情がわずかに変わる。
それは初めて見る種類の焦りだった。
私は気づいてしまう。
この人は、“守っている”のではない。
“壊れないように押さえ込んでいる”
何を?
私自身を。
胸がざわつく。
呼吸が浅くなる。
「……私って」
声が震える。
「何なんですか」
白龍がすぐに答える。
「あなたはあなたです」
即答。
優しい。
でも、それは答えになっていない。
影が静かに言う。
「まだ知らない方がいい」
その言葉が一番残酷だった。
私は一歩下がる。
「知らない方がいいって……それ、誰のためですか」
白龍は答えない。
影も答えない。
ただ、雲海だけが静かに流れていく。
そして私は確信する。
私はまだ“完成していない存在”として扱われている。
それが怖いのに、
なぜか――完全には否定できなかった。
人でも龍でもない輪郭が、雲海の上で揺れていた。
その存在だけが、空気の温度を一段下げている。
「契約管理者……」
白龍が低く呟く。
その声には、明確な警戒があった。
私は白龍の袖を無意識に握っていた。
「これ……何なんですか」
影は答えない。
代わりに、私を見る。
見られているのに、“観察されている”感覚。
「黒姫」
また、その名前。
頭の奥が痛む。
視界が一瞬だけ揺れる。
白い光。
黒い水。
そして、誰かの声。
「まだ終わっていない」
私は息を詰める。
「……やめて」
小さく声が漏れる。
白龍がすぐに私の肩を支える。
「志穂、大丈夫です」
その言葉は優しい。
でも、私は気づいてしまう。
“安心させるための言葉”だと。
影が静かに言う。
「白龍」
その呼び方に、白龍の目が鋭くなる。
「お前は知っているはずだ」
沈黙。
白龍は何も答えない。
その沈黙が、逆にすべてを語っていた。
私は小さく震える。
「白龍様……?」
白龍はようやく私を見る。
その瞳は、いつも通り優しい。
でも――少しだけ、遠い。
「志穂」
「今は聞かないでください」
その一言で、胸の奥が冷たくなる。
「またそれですか」
私は思わず言っていた。
「今はって、いつなんですか」
白龍の表情が一瞬だけ揺れる。
その時だった。
影が一歩近づく。
「契約は三層構造だ」
白龍の手がわずかに動く。
止めるように。
だが影は続く。
「一層目:人間としての記憶」
「二層目:龍としての記憶」
「三層目――」
そこで言葉が切れる。
空気が止まる。
私は息を飲む。
「三層目……?」
影はゆっくり笑う。
「それは“本人すら認識できない領域”だ」
白龍の声が低くなる。
「それ以上は言うな」
影は笑う。
「止めるか」
「それとも、また隠すか」
その瞬間。
空間が歪む。
白龍の手が、空を切る。
音が消える。
影の輪郭が一瞬だけ揺れる。
だが、消えない。
「やはり」
影が静かに言う。
「まだ完全には封じられていない」
白龍の表情がわずかに変わる。
それは初めて見る種類の焦りだった。
私は気づいてしまう。
この人は、“守っている”のではない。
“壊れないように押さえ込んでいる”
何を?
私自身を。
胸がざわつく。
呼吸が浅くなる。
「……私って」
声が震える。
「何なんですか」
白龍がすぐに答える。
「あなたはあなたです」
即答。
優しい。
でも、それは答えになっていない。
影が静かに言う。
「まだ知らない方がいい」
その言葉が一番残酷だった。
私は一歩下がる。
「知らない方がいいって……それ、誰のためですか」
白龍は答えない。
影も答えない。
ただ、雲海だけが静かに流れていく。
そして私は確信する。
私はまだ“完成していない存在”として扱われている。
それが怖いのに、
なぜか――完全には否定できなかった。

