空が、ひび割れるように揺れた。
それは雷でも風でもない。
“世界そのものが一瞬だけ呼吸を忘れた”ような違和感だった。
「白龍様……?」
思わず振り返ると、白龍はすでに空を見上げていた。
その表情は、さっきまでの穏やかさとは違う。
龍王の顔だった。
「来ました」
短い言葉。
それだけで、胸が強く締め付けられる。
次の瞬間。
白銀の桜が一斉に逆流した。
風ではなく、“意志”で動いているように。
空の奥に、黒い裂け目が浮かぶ。
そこから、声が落ちてくる。
『黒姫』
その声を聞いた瞬間、頭の奥が強く痛んだ。
「っ……」
膝が崩れそうになる。
白龍の手がすぐに支える。
「見る必要はありません」
「ですが……」
私は目を離せなかった。
裂け目の向こう。
白い城。
泣いている少女。
差し伸べられた手。
そして――
その手を掴めなかった“誰か”。
「これ……」
息が震える。
白龍が静かに言う。
「あなたの“戻る前の記憶”です」
胸がざわつく。
怖いのに、目が逸らせない。
裂け目が広がる。
映像がはっきりしていく。
黒姫が立っている。
その前に、白龍がいる。
人間界でも龍界でもない、“境界の空間”。
周囲には、龍たちの影。
そして、人間の影。
声が響く。
『この者を、龍界から一時的に切り離す』
『均衡のための封印とする』
「封印……?」
私は呟く。
白龍の手に力が入る。
黒姫が振り返る。
その顔は、私と同じだった。
けれども目だけが違う。
覚悟の目。
『白龍様』
『私は戻ります』
その声が響く。
白龍が一歩前に出る。
何かを言おうとして――止める。
『必ず戻ると約束してください』
黒姫の声。
白龍は静かに頷く。
その瞬間。
世界が白く光る。
「っ……!」
私は目を押さえる。
記憶が流れ込む。
手を繋ぐ感覚。
並んで歩く背中。
笑っている自分。
そして――
別れ。
白龍が呟く声。
『待っています』
光が消える。
私は地面に膝をついていた。
呼吸が荒い。
でも、涙は出ていなかった。
「……私は」
声が震える。
「本当に、ここにいた」
白龍は何も言わない。
ただ、静かに待っている。
私はゆっくり顔を上げる。
空は元に戻っていた。
けれども、もう“同じ空”ではなかった。
「白龍様」
「はい」
「私は……戻ってきたんじゃないんですね」
白龍は一瞬だけ目を閉じた。
そして答える。
「正確には」
「“帰還”です」
胸の奥が熱くなる。
怖さはもうなかった。
ただ、確かめたい気持ちだけが残る。
私は立ち上がる。
そして一歩、白龍に近づいた。
「ねえ」
「はい」
「私、あなたを置いていきましたか」
白龍の瞳が揺れる。
ほんのわずかに。
「いいえ」
即答だった。
「あなたは」
「必ず戻ると言った」
その言葉で、何かが完全に繋がる。
私は小さく息を吐いた。
「じゃあ」
「約束は守られたんですね」
白龍は頷く。
沈黙。
そして、私は少しだけ笑った。
「長いですね、ほんと」
白龍もほんの少しだけ笑う。
「同感です」
空が静かになる。
桜が降る。
世界が、やっと落ち着いたように。
その中で私は思う。
怖くない。
もう逃げない。
ただ一つだけ。
私は白龍を見つめた。
「白龍様」
「はい」
「……ただいま」
今回は迷わなかった。
白龍は一瞬だけ目を見開く。
それから、とても静かに笑った。
「おかえりなさい」
桜が舞う。
長い時間を越えた“続き”が、ようやく今つながった。
それは雷でも風でもない。
“世界そのものが一瞬だけ呼吸を忘れた”ような違和感だった。
「白龍様……?」
思わず振り返ると、白龍はすでに空を見上げていた。
その表情は、さっきまでの穏やかさとは違う。
龍王の顔だった。
「来ました」
短い言葉。
それだけで、胸が強く締め付けられる。
次の瞬間。
白銀の桜が一斉に逆流した。
風ではなく、“意志”で動いているように。
空の奥に、黒い裂け目が浮かぶ。
そこから、声が落ちてくる。
『黒姫』
その声を聞いた瞬間、頭の奥が強く痛んだ。
「っ……」
膝が崩れそうになる。
白龍の手がすぐに支える。
「見る必要はありません」
「ですが……」
私は目を離せなかった。
裂け目の向こう。
白い城。
泣いている少女。
差し伸べられた手。
そして――
その手を掴めなかった“誰か”。
「これ……」
息が震える。
白龍が静かに言う。
「あなたの“戻る前の記憶”です」
胸がざわつく。
怖いのに、目が逸らせない。
裂け目が広がる。
映像がはっきりしていく。
黒姫が立っている。
その前に、白龍がいる。
人間界でも龍界でもない、“境界の空間”。
周囲には、龍たちの影。
そして、人間の影。
声が響く。
『この者を、龍界から一時的に切り離す』
『均衡のための封印とする』
「封印……?」
私は呟く。
白龍の手に力が入る。
黒姫が振り返る。
その顔は、私と同じだった。
けれども目だけが違う。
覚悟の目。
『白龍様』
『私は戻ります』
その声が響く。
白龍が一歩前に出る。
何かを言おうとして――止める。
『必ず戻ると約束してください』
黒姫の声。
白龍は静かに頷く。
その瞬間。
世界が白く光る。
「っ……!」
私は目を押さえる。
記憶が流れ込む。
手を繋ぐ感覚。
並んで歩く背中。
笑っている自分。
そして――
別れ。
白龍が呟く声。
『待っています』
光が消える。
私は地面に膝をついていた。
呼吸が荒い。
でも、涙は出ていなかった。
「……私は」
声が震える。
「本当に、ここにいた」
白龍は何も言わない。
ただ、静かに待っている。
私はゆっくり顔を上げる。
空は元に戻っていた。
けれども、もう“同じ空”ではなかった。
「白龍様」
「はい」
「私は……戻ってきたんじゃないんですね」
白龍は一瞬だけ目を閉じた。
そして答える。
「正確には」
「“帰還”です」
胸の奥が熱くなる。
怖さはもうなかった。
ただ、確かめたい気持ちだけが残る。
私は立ち上がる。
そして一歩、白龍に近づいた。
「ねえ」
「はい」
「私、あなたを置いていきましたか」
白龍の瞳が揺れる。
ほんのわずかに。
「いいえ」
即答だった。
「あなたは」
「必ず戻ると言った」
その言葉で、何かが完全に繋がる。
私は小さく息を吐いた。
「じゃあ」
「約束は守られたんですね」
白龍は頷く。
沈黙。
そして、私は少しだけ笑った。
「長いですね、ほんと」
白龍もほんの少しだけ笑う。
「同感です」
空が静かになる。
桜が降る。
世界が、やっと落ち着いたように。
その中で私は思う。
怖くない。
もう逃げない。
ただ一つだけ。
私は白龍を見つめた。
「白龍様」
「はい」
「……ただいま」
今回は迷わなかった。
白龍は一瞬だけ目を見開く。
それから、とても静かに笑った。
「おかえりなさい」
桜が舞う。
長い時間を越えた“続き”が、ようやく今つながった。

