翌朝。
私は侍女たちに連れられて龍王宮の奥へ向かっていた。
「こちらになります」
巨大な扉が開く。
私は思わず固まった。
広い。
広すぎる。
窓の外には雲海。
白銀の家具。
龍の彫刻が施された天蓋付きの寝台。
どう見ても王族の部屋だった。
「えっ……」
「ここ、私の部屋ですか?」
侍女たちは顔を見合わせる。
そして不思議そうに言った。
「黒姫様のお部屋ですよ?」
いやいやいや。
広すぎる。
大学生の一人暮らしの部屋とは規模が違う。
比較対象にもならない。
すると侍女の一人が首を傾げた。
「覚えておられませんか?」
「何をですか?」
「こちらは元々――」
その時。
背後から声がした。
「それ以上は」
侍女たちが一斉に頭を下げる。
白龍だった。
「龍王様」
侍女たちはすぐに退室していく。
私は首を傾げた。
「何かあったんですか?」
白龍は少し困ったように笑った。
「いえ」
絶対何かある。
分かりやすい。
私は部屋を見回した。
そして、あることに気付く。
棚の上。
机の上。
窓辺。
そこかしこに物が置かれている。
髪飾り。
簪。
扇子。
小物入れ。
手紙。
全部女性物だった。
「……これ」
白龍が目を逸らした。
怪しい。
ものすごく怪しい。
私は一通の手紙を手に取った。
そこには綺麗な字で書かれている。
『白蛇様へ』
私は固まった。
白龍も固まった。
部屋の空気が止まる。
「白龍様」
「はい」
「これ」
「はい」
「私が書いたやつですよね?」
沈黙。
長い沈黙。
そして、白龍が観念したようにため息をついた。
「そうです」
やっぱり。
私は慌てて周囲を見る。
嫌な予感けれどもない。
「まさか」
「はい」
「この部屋」
「はい」
「昔の黒姫の部屋?」
白龍は首を振った。
私は少し安心する。
よかった。
違った。
すると白龍が静かに言った。
「正確には」
嫌な予感。
「私たちの婚約部屋です」
私は固まった。
脳が理解を拒否する。
婚約部屋。
婚約部屋?
婚約部屋!?
「えっ!?」
思わず声が裏返った。
白龍は少しだけ耳を赤くした。
珍しい。
初めて見た。
「あなたが戻った時のために」
「そのまま残していました」
私は言葉を失う。
そのまま。
百年間。
百年間?
私は棚を見た。
髪飾り。
机。
本。
手紙。
全部。
そのままだった。
誰かが帰ってくるのを待つように。
ずっと。
私は胸が苦しくなる。
「どうして……」
気付けば呟いていた。
「どうしてそこまで」
白龍は少し驚いた顔をした。
そして、当たり前のように答える。
「帰ってくると約束しましたから」
私は何も言えなくなる。
百年。
たった一つの約束を信じて。
この人は待っていた。
部屋ごと。
思い出ごと。
全部。
そのまま。
ふと。
机の上に置かれた写真立てが目に入った。
中には。
一枚の絵。
白銀の桜の下。
黒髪の少女。
そして隣に立つ白龍。
二人とも笑っていた。
幸せそうに。
私は胸の奥が熱くなる。
知らないはずなのに。
懐かしかった。
その時、白龍が静かに尋ねた。
「覚えていますか」
私は絵を見つめたまま首を振る。
「まだ分かりません」
白龍は少しだけ寂しそうに微笑んだ。
けれども次の瞬間、私は無意識に言っていた。
「でも、この人……」
絵の中の黒姫を見る。
「すごく幸せそうですね」
白龍の目が大きく見開かれた。
そして、本当に嬉しそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、私の心臓は大きく跳ねた。
私は侍女たちに連れられて龍王宮の奥へ向かっていた。
「こちらになります」
巨大な扉が開く。
私は思わず固まった。
広い。
広すぎる。
窓の外には雲海。
白銀の家具。
龍の彫刻が施された天蓋付きの寝台。
どう見ても王族の部屋だった。
「えっ……」
「ここ、私の部屋ですか?」
侍女たちは顔を見合わせる。
そして不思議そうに言った。
「黒姫様のお部屋ですよ?」
いやいやいや。
広すぎる。
大学生の一人暮らしの部屋とは規模が違う。
比較対象にもならない。
すると侍女の一人が首を傾げた。
「覚えておられませんか?」
「何をですか?」
「こちらは元々――」
その時。
背後から声がした。
「それ以上は」
侍女たちが一斉に頭を下げる。
白龍だった。
「龍王様」
侍女たちはすぐに退室していく。
私は首を傾げた。
「何かあったんですか?」
白龍は少し困ったように笑った。
「いえ」
絶対何かある。
分かりやすい。
私は部屋を見回した。
そして、あることに気付く。
棚の上。
机の上。
窓辺。
そこかしこに物が置かれている。
髪飾り。
簪。
扇子。
小物入れ。
手紙。
全部女性物だった。
「……これ」
白龍が目を逸らした。
怪しい。
ものすごく怪しい。
私は一通の手紙を手に取った。
そこには綺麗な字で書かれている。
『白蛇様へ』
私は固まった。
白龍も固まった。
部屋の空気が止まる。
「白龍様」
「はい」
「これ」
「はい」
「私が書いたやつですよね?」
沈黙。
長い沈黙。
そして、白龍が観念したようにため息をついた。
「そうです」
やっぱり。
私は慌てて周囲を見る。
嫌な予感けれどもない。
「まさか」
「はい」
「この部屋」
「はい」
「昔の黒姫の部屋?」
白龍は首を振った。
私は少し安心する。
よかった。
違った。
すると白龍が静かに言った。
「正確には」
嫌な予感。
「私たちの婚約部屋です」
私は固まった。
脳が理解を拒否する。
婚約部屋。
婚約部屋?
婚約部屋!?
「えっ!?」
思わず声が裏返った。
白龍は少しだけ耳を赤くした。
珍しい。
初めて見た。
「あなたが戻った時のために」
「そのまま残していました」
私は言葉を失う。
そのまま。
百年間。
百年間?
私は棚を見た。
髪飾り。
机。
本。
手紙。
全部。
そのままだった。
誰かが帰ってくるのを待つように。
ずっと。
私は胸が苦しくなる。
「どうして……」
気付けば呟いていた。
「どうしてそこまで」
白龍は少し驚いた顔をした。
そして、当たり前のように答える。
「帰ってくると約束しましたから」
私は何も言えなくなる。
百年。
たった一つの約束を信じて。
この人は待っていた。
部屋ごと。
思い出ごと。
全部。
そのまま。
ふと。
机の上に置かれた写真立てが目に入った。
中には。
一枚の絵。
白銀の桜の下。
黒髪の少女。
そして隣に立つ白龍。
二人とも笑っていた。
幸せそうに。
私は胸の奥が熱くなる。
知らないはずなのに。
懐かしかった。
その時、白龍が静かに尋ねた。
「覚えていますか」
私は絵を見つめたまま首を振る。
「まだ分かりません」
白龍は少しだけ寂しそうに微笑んだ。
けれども次の瞬間、私は無意識に言っていた。
「でも、この人……」
絵の中の黒姫を見る。
「すごく幸せそうですね」
白龍の目が大きく見開かれた。
そして、本当に嬉しそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、私の心臓は大きく跳ねた。

