黒い龍影が空を覆う。
村人たちが悲鳴を上げた。
「龍災だ!」
「逃げろ!」
「子供たちを連れて行け!」
騒然となる翠雨の里。
私は呆然と空を見上げた。
あれは何なのだろう。
龍なのか。
それとも別の何かなのか。
白龍が前へ出る。
その顔からは普段の穏やかさが消えていた。
龍王の顔だった。
「国之常立神」
「はい」
「結界を」
「既に展開しています」
二人の会話は早い。
状況に慣れているのだろう。
私だけが分からない。
すると闇龗神が低く唸った。
「妙だな」
「妙?」
私は尋ねた。
闇龗神は空を睨んだまま答えた。
「あれは生きておらん」
私は息を呑む。
「え?」
「残滓だ」
「ざんし……?」
国之常立神が説明する。
「過去の龍の怨念が龍力と結びついた存在です」
「意思はありません」
「ただ破壊するだけです」
背筋が寒くなった。
そんなものがあるのか。
その時だった。
黒い龍影がこちらを見た。
そして咆哮した。
世界が震える。
空気が裂ける。
村人たちが耳を塞ぐ。
けれども次の瞬間、龍影は一直線にこちらへ向かってきた。
正確には私へ。
「黒姫様!」
護衛たちが叫ぶ。
私は動けなかった。
なぜだろう。
怖いはずなのに。
どこか懐かしかった。
龍影の瞳。
その奥に。
悲しみが見えた気がした。
そして、頭の中に声が響く。
『黒姫』
知らない声。
けれども涙が出そうになる。
『なぜ我らを見捨てた』
私は目を見開いた。
その瞬間、頭痛が走る。
激しい痛みだった。
視界が白く染まる。
◇◇◇
見知らぬ光景。
白銀の桜。
龍王宮。
大勢の龍族。
そして、玉座の前に立つ私。
違う。
私ではない。
黒姫だ。
記憶の中の黒姫。
彼女は泣いていた。
何かを必死に訴えている。
『違います。私は裏切っていません』
周囲がざわめく。
怒号。
非難。
失望。
誰かが叫んだ。
『黒姫を追放しろ!』
私は息を呑む。
追放。
その言葉が胸を刺した。
さらに映像が揺れる。
今度は白龍だった。
若い。
今と変わらないけれども。
今より苦しそうな顔をしている。
『黒姫は無実だ』
必死に叫んでいる。
けれども誰も聞かない。
そして黒姫は笑った。
悲しそうに。
『大丈夫です。いつか真実は明らかになります』
そこで映像が途切れた。
◇◇◇
「志穂!」
誰かが呼んでいる。
私は現実へ引き戻された。
気付けば白龍に抱き留められていた。
村の広場だ。
さっきまでいた場所。
黒い龍影は消えている。
辺りには静寂が広がっていた。
「何が……」
私は呟く。
すると国之常立神が珍しく険しい顔で言った。
「記憶ですね」
私は頷く。
白龍が私を見る。
金色の瞳が揺れている。
期待。
不安。
恐れ。
様々な感情が混ざっていた。
私はゆっくり答えた。
「追放されていた」
全員が固まる。
「私……追放されていたんですね」
静寂。
闇龗神が拳を握り締める。
国之常立神は目を閉じる。
白龍だけが何も言わない。
その沈黙が答えだった。
私は胸が苦しくなった。
「どうしてですか?」
誰も答えない。
「私、何をしたんですか?」
その時だった。
白龍が静かに口を開く。
「あなたは何もしていません」
その声には。
百年分の怒りが込められていた。
「罪などありません」
私は息を呑む。
白龍は空を見上げる。
そして低く告げた。
「罪があったのは龍界の方です」
村人たちが悲鳴を上げた。
「龍災だ!」
「逃げろ!」
「子供たちを連れて行け!」
騒然となる翠雨の里。
私は呆然と空を見上げた。
あれは何なのだろう。
龍なのか。
それとも別の何かなのか。
白龍が前へ出る。
その顔からは普段の穏やかさが消えていた。
龍王の顔だった。
「国之常立神」
「はい」
「結界を」
「既に展開しています」
二人の会話は早い。
状況に慣れているのだろう。
私だけが分からない。
すると闇龗神が低く唸った。
「妙だな」
「妙?」
私は尋ねた。
闇龗神は空を睨んだまま答えた。
「あれは生きておらん」
私は息を呑む。
「え?」
「残滓だ」
「ざんし……?」
国之常立神が説明する。
「過去の龍の怨念が龍力と結びついた存在です」
「意思はありません」
「ただ破壊するだけです」
背筋が寒くなった。
そんなものがあるのか。
その時だった。
黒い龍影がこちらを見た。
そして咆哮した。
世界が震える。
空気が裂ける。
村人たちが耳を塞ぐ。
けれども次の瞬間、龍影は一直線にこちらへ向かってきた。
正確には私へ。
「黒姫様!」
護衛たちが叫ぶ。
私は動けなかった。
なぜだろう。
怖いはずなのに。
どこか懐かしかった。
龍影の瞳。
その奥に。
悲しみが見えた気がした。
そして、頭の中に声が響く。
『黒姫』
知らない声。
けれども涙が出そうになる。
『なぜ我らを見捨てた』
私は目を見開いた。
その瞬間、頭痛が走る。
激しい痛みだった。
視界が白く染まる。
◇◇◇
見知らぬ光景。
白銀の桜。
龍王宮。
大勢の龍族。
そして、玉座の前に立つ私。
違う。
私ではない。
黒姫だ。
記憶の中の黒姫。
彼女は泣いていた。
何かを必死に訴えている。
『違います。私は裏切っていません』
周囲がざわめく。
怒号。
非難。
失望。
誰かが叫んだ。
『黒姫を追放しろ!』
私は息を呑む。
追放。
その言葉が胸を刺した。
さらに映像が揺れる。
今度は白龍だった。
若い。
今と変わらないけれども。
今より苦しそうな顔をしている。
『黒姫は無実だ』
必死に叫んでいる。
けれども誰も聞かない。
そして黒姫は笑った。
悲しそうに。
『大丈夫です。いつか真実は明らかになります』
そこで映像が途切れた。
◇◇◇
「志穂!」
誰かが呼んでいる。
私は現実へ引き戻された。
気付けば白龍に抱き留められていた。
村の広場だ。
さっきまでいた場所。
黒い龍影は消えている。
辺りには静寂が広がっていた。
「何が……」
私は呟く。
すると国之常立神が珍しく険しい顔で言った。
「記憶ですね」
私は頷く。
白龍が私を見る。
金色の瞳が揺れている。
期待。
不安。
恐れ。
様々な感情が混ざっていた。
私はゆっくり答えた。
「追放されていた」
全員が固まる。
「私……追放されていたんですね」
静寂。
闇龗神が拳を握り締める。
国之常立神は目を閉じる。
白龍だけが何も言わない。
その沈黙が答えだった。
私は胸が苦しくなった。
「どうしてですか?」
誰も答えない。
「私、何をしたんですか?」
その時だった。
白龍が静かに口を開く。
「あなたは何もしていません」
その声には。
百年分の怒りが込められていた。
「罪などありません」
私は息を呑む。
白龍は空を見上げる。
そして低く告げた。
「罪があったのは龍界の方です」

