龍王の花嫁 ~記憶を失くした私を夫が百年待っていました~

目を覚ますと知らない天井だった。
いや、最近ずっと知らない天井ばかり見ている気がする。
「……ここは」
「客室です」
静かな声が返ってきた。
私は飛び起きそうになった。
ベッドの横で椅子に座る白龍がいた。
「うわっ!」
「驚かせてしまいましたか」
「いえ、その……」
なぜいるのだろう。
白龍は当然のような顔をしていた。
「三日ほど眠っていました」
「三日!?」
思った以上だった。
私は慌てて起き上がろうとした。
けれども身体に力が入らない。
その瞬間。
白龍が支えた。
距離が近い。
近すぎる。
金色の瞳が目の前にある。
私は思わず固まった。
「無理をしないでください」
「は、はい……」
心臓に悪い。
元々弱いのに。
本当に悪い。
すると白龍は少しだけ困ったように笑った。
「顔が赤いですね」
「赤くないです」
「赤いです」
「赤くないです」
「赤いです」
子供の言い合いみたいになってしまった。
その時だった。
勢いよく扉が開く。
「黒姫様ー!」
小さな影が飛び込んできた。
続いて二人。
三人。
四人。
全員子供だった。
頭に小さな角がある。
尻尾もある。
どうやら龍族らしい。
「あっ」
私は固まる。
子供たちも固まる。
そして、
「本物だ!」
歓声が上がった。
次の瞬間。
わっと囲まれる。
「黒姫様!」
「お帰りなさい!」
「会いたかった!」
状況についていけない。
その中の一人の少女が言った。
「もう帰ってこないと思ってた!」
その言葉に胸が痛んだ。
私は思わず尋ねた。
「私……そんなに大切な人だったの?」
子供たちは顔を見合わせた。
そして不思議そうに言う。
「当たり前じゃん」
「え?」
「黒姫様だもん」
まるで常識だと言わんばかりだった。
その純粋さに言葉を失う。
その時。
一人の男の子が袖を引いた。
「ねえ」
「はい?」
「外に行こう」
「外?」
「案内する!」
すると全員が賛成した。
「行こう!」
「行こう!」
私は困って白龍を見た。
白龍は少し考えた後、小さく頷いた。
「護衛を付けます」
「過保護」
子供たちが即座に言った。
白龍が固まる。
私は思わず吹き出した。
初めて見た。
白龍が言い返せなくなる瞬間だった。
しばらくして、私は子供たちと宮殿の庭を歩いていた。
空中庭園。
花畑。
滝。
見たことのない景色ばかり。
子供たちは楽しそうに話している。
その姿を見ているうちに。
少しだけ思った。
龍界は怖い場所だと思っていた。
でも、こんな風に笑う子供たちがいる。
私を歓迎してくれる人もいる。
なら少しくらいここにいてもいいのかもしれない。
その時だった。
突然。
子供たちの顔色が変わる。
「まずい!」
「どうしたの?」
「コハクがいない!」
周囲が騒然となる。
私は首を傾げた。
「コハク?」
「まだ五十歳の子供!」
「迷子になる天才!」
「すぐどっか行く!」
全然褒めていない。
けれども子供たちは本気で焦っていた。
白龍の護衛たちも動き始める。
迷子。
それだけならいい。
だが、龍界には空がある。
落下したら危険だ。
私は胸騒ぎを覚えた。
なぜだろう。
どこにいるのか。
なんとなく分かる気がした。
右腕の痣が、かすかに熱を帯びていた。