デビュー発表と同時にミニアルバムのリード曲のMVが動画共有サービスのエスブレ公式チャンネルに投稿されてから半月と少し、5月に入って、コメント欄は落ち着いてきた。当初のお祝いムードよりも、MV自体へのコメントが多くなってきている。
藤堂さんの言ってた「予想はしていた」、というのはそれに対しての対策は考えていたということらしく、俺以外は周知のことで、速やかに実行されたらしい。
つまり、凛さんと東雲さんがMVの解説動画で、俺のことを少し話してくれたのだ。エスブレの末っ子になる俺をみんな期待してること、東雲さんもスカウトに立ち会ったこと、ダンスが不慣れだけども一生懸命レッスンしていてかなりストイックに励んでいる、未成年なのでもう少しプロフィール公開は待ってほしい、と楽しそうに、上品に?話してくれた。
収録の時、その場にみんなも俺もいて。撮影が終わった直後「これで大丈夫だ」と凛さんが頭をがしがしと撫でてくれた。
この動画が公式チャンネルに投稿されるとすぐファンの人の反応があって。
SINONOME君が末っ子君を可愛がってるのならそれでいい、だとか、末っ子の声は悪くない、だとか、RINがやたら楽しそう、だとか、新しいエスブレが楽しみ、だとか、俺を否定するようなコメントはほぼなくなった。
もちろん全部綺麗に、なんてことはなく、前からエスブレを知っているファンは俺を異物だと感じるのも当たり前で。
でも少し理解してもらえたと思えて、エスブレから離れないでいてくれることがありがたかった。
「樹の呼び名が「末っ子」で定着そうだねえ」
藤堂さんが持ってきていたノートパソコンからコメントを見ていた瑞希さんが愉快そうに言った。
今日はミニアルバムの全曲購入特典のブックレットの撮影。
俺たち担当のレコード会社の偉い人も来るらしい。
その偉い人(というのは瑞希さん情報)、高宮さんとはレコーディングの時に一度会ってそれっきりだった。
強面というほどではないけど、柔和な顔立ちではない目力のある隙のない人、という感じで、遅くまで仕事をしているイメージ。もちろん仕事ができなくて遅くまで会社にいる、という意味ではない。
「……子供みたいですけど」
「子供だろ」
すぐさま飛鳥さんがそう言った。まあ、そうですけど。未成年ですけど、高校生ですけど。
「いいじゃん、末っ子ポジ。みんなに可愛がられる役得じゃん」
「KIRIって何のKIRI? って思うファンもいそうだしな。わかりやすい」
海斗さんが瑞希さんの隣で画面を見ながらぽつりと言う。
「そうね、他が下の名前だっていうのは気付くことだもんね」
今のところメンバーのフルネームは公表していない。
どうせなら俺のプロフィールが公開になった時に一緒に全員のフルネームを出そうということになった。
俺だけITSUKIと下の名前にならなかったのは瑞希さんと音が近いからという理由。特別だとかそういうことではない。
「キリタロウ、って言っとけばいいんじゃないすか?」
「ええ? いや面白いけどなかなか男気のある名前よ、それ。サムライなの?って」
多少悪意ある(だろう)飛鳥さんに瑞希さんがけらけらと笑う。キリタロウでもなんでもいいけどさ、もう。
「みんなお待たせ。高宮さんがいらっしゃったから、ご挨拶して撮影始めるよ」
そこへ藤堂さんが控室にいた俺たち四人を呼びに来てくれた。
と思ったら、藤堂さんの後に続いてその高宮さんが姿を現した。スタジオ直行じゃなかったらしい。
仕立てのいい高級だろうスーツ姿に、だらけてた空気が張り詰め、みんな立ち上がる。
「桐谷君、久しぶり」
高宮さんはドアに一番近いところにいた俺にまず声をかけてくれた。
「ご、ご無沙汰しております」
「アルバム、好調だよ。改めて聴いても水無瀬君と相性がいい」
「ありがとうございます」
水無瀬君とは東雲さんのことだ。
「大木君も書けたらいつでもいいから持ってきてね」
「はい、ありがとうございます」
海斗さんは作曲もする人で。今回のアルバムには採用されていないのだけど、次回は入れられたらいいねと藤堂さんと話していたのを偶然聞いてしまった。次回、って一応予定されてるらしい。
「夏目君の詞、繊細で評判いいから、君も書き溜めておいてね」
「はいっ」
飛鳥さんの詞は二曲採用されていて、意外と(と言ったら多分怒られるから口に出しては言わない)ロマンチックな歌詞も、元気いっぱいな歌詞も書けるオールマイティな人だ。
「鹿島君は宣伝隊長よろしくね」
「任せてください」
瑞希さんは敬礼してみせた。
「よし藤堂、行こうか」
「ええ。じゃあ、みんなついてきて」
高宮さんを先に行かせ、さらに俺たちを部屋から出るよう促す。
この部屋には凛さん、東雲さん、京さんはいない。前の二人は先行してスタッフさんと打ち合わせ中。
「あの……京さんは……?」
今日は京さんの姿、見ていない。
「京さんは取材中だよ。終わったら合流」
「え」
思わず声に出てしまっていた。
「わはは、京さんおしゃべりじゃないのに取材かよ、って思ってるんだろ?」
教えてくれた瑞希さんがニヤニヤする。
「いや、その……」
「あの人はダンスのことになると割と饒舌だから大丈夫。ダンス系の雑誌なんだよ」
……単独で取材なんだ。やっぱりすごい人なんだな。
藤堂さんの言ってた「予想はしていた」、というのはそれに対しての対策は考えていたということらしく、俺以外は周知のことで、速やかに実行されたらしい。
つまり、凛さんと東雲さんがMVの解説動画で、俺のことを少し話してくれたのだ。エスブレの末っ子になる俺をみんな期待してること、東雲さんもスカウトに立ち会ったこと、ダンスが不慣れだけども一生懸命レッスンしていてかなりストイックに励んでいる、未成年なのでもう少しプロフィール公開は待ってほしい、と楽しそうに、上品に?話してくれた。
収録の時、その場にみんなも俺もいて。撮影が終わった直後「これで大丈夫だ」と凛さんが頭をがしがしと撫でてくれた。
この動画が公式チャンネルに投稿されるとすぐファンの人の反応があって。
SINONOME君が末っ子君を可愛がってるのならそれでいい、だとか、末っ子の声は悪くない、だとか、RINがやたら楽しそう、だとか、新しいエスブレが楽しみ、だとか、俺を否定するようなコメントはほぼなくなった。
もちろん全部綺麗に、なんてことはなく、前からエスブレを知っているファンは俺を異物だと感じるのも当たり前で。
でも少し理解してもらえたと思えて、エスブレから離れないでいてくれることがありがたかった。
「樹の呼び名が「末っ子」で定着そうだねえ」
藤堂さんが持ってきていたノートパソコンからコメントを見ていた瑞希さんが愉快そうに言った。
今日はミニアルバムの全曲購入特典のブックレットの撮影。
俺たち担当のレコード会社の偉い人も来るらしい。
その偉い人(というのは瑞希さん情報)、高宮さんとはレコーディングの時に一度会ってそれっきりだった。
強面というほどではないけど、柔和な顔立ちではない目力のある隙のない人、という感じで、遅くまで仕事をしているイメージ。もちろん仕事ができなくて遅くまで会社にいる、という意味ではない。
「……子供みたいですけど」
「子供だろ」
すぐさま飛鳥さんがそう言った。まあ、そうですけど。未成年ですけど、高校生ですけど。
「いいじゃん、末っ子ポジ。みんなに可愛がられる役得じゃん」
「KIRIって何のKIRI? って思うファンもいそうだしな。わかりやすい」
海斗さんが瑞希さんの隣で画面を見ながらぽつりと言う。
「そうね、他が下の名前だっていうのは気付くことだもんね」
今のところメンバーのフルネームは公表していない。
どうせなら俺のプロフィールが公開になった時に一緒に全員のフルネームを出そうということになった。
俺だけITSUKIと下の名前にならなかったのは瑞希さんと音が近いからという理由。特別だとかそういうことではない。
「キリタロウ、って言っとけばいいんじゃないすか?」
「ええ? いや面白いけどなかなか男気のある名前よ、それ。サムライなの?って」
多少悪意ある(だろう)飛鳥さんに瑞希さんがけらけらと笑う。キリタロウでもなんでもいいけどさ、もう。
「みんなお待たせ。高宮さんがいらっしゃったから、ご挨拶して撮影始めるよ」
そこへ藤堂さんが控室にいた俺たち四人を呼びに来てくれた。
と思ったら、藤堂さんの後に続いてその高宮さんが姿を現した。スタジオ直行じゃなかったらしい。
仕立てのいい高級だろうスーツ姿に、だらけてた空気が張り詰め、みんな立ち上がる。
「桐谷君、久しぶり」
高宮さんはドアに一番近いところにいた俺にまず声をかけてくれた。
「ご、ご無沙汰しております」
「アルバム、好調だよ。改めて聴いても水無瀬君と相性がいい」
「ありがとうございます」
水無瀬君とは東雲さんのことだ。
「大木君も書けたらいつでもいいから持ってきてね」
「はい、ありがとうございます」
海斗さんは作曲もする人で。今回のアルバムには採用されていないのだけど、次回は入れられたらいいねと藤堂さんと話していたのを偶然聞いてしまった。次回、って一応予定されてるらしい。
「夏目君の詞、繊細で評判いいから、君も書き溜めておいてね」
「はいっ」
飛鳥さんの詞は二曲採用されていて、意外と(と言ったら多分怒られるから口に出しては言わない)ロマンチックな歌詞も、元気いっぱいな歌詞も書けるオールマイティな人だ。
「鹿島君は宣伝隊長よろしくね」
「任せてください」
瑞希さんは敬礼してみせた。
「よし藤堂、行こうか」
「ええ。じゃあ、みんなついてきて」
高宮さんを先に行かせ、さらに俺たちを部屋から出るよう促す。
この部屋には凛さん、東雲さん、京さんはいない。前の二人は先行してスタッフさんと打ち合わせ中。
「あの……京さんは……?」
今日は京さんの姿、見ていない。
「京さんは取材中だよ。終わったら合流」
「え」
思わず声に出てしまっていた。
「わはは、京さんおしゃべりじゃないのに取材かよ、って思ってるんだろ?」
教えてくれた瑞希さんがニヤニヤする。
「いや、その……」
「あの人はダンスのことになると割と饒舌だから大丈夫。ダンス系の雑誌なんだよ」
……単独で取材なんだ。やっぱりすごい人なんだな。
