「樹君、試験が終わった直後で疲れてると思うけど、今から事務所に来てもらえるかな」
試験の翌日だからと休みにしてくれていた。何かみんなで集まる用事ができたのだろうか。
いよいよ合格発表を待つだけの身で。卒業式の練習なども前日の話だ。
「わかりました。すぐ行きます」
そう言って電話を切って。
通された事務所の会議室には藤堂さんしかいなかった。
「おはようございます……」
呼ばれたのは俺だけ、なのだろうか。
「樹君、ごめん」
促されて藤堂さんと向かい合うようにパイプ椅子に座った途端、そう言われた。
「あ、いえ、荷造りするしかすることがなくて暇と言えば暇でした」
「うん、そうじゃなくてね、明日以降の話をさせてほしくて」
明日以降の話? 今? 俺一人に?
なんかはっきりしない言い方だ。藤堂さんは普段そんな話し方はしない。回りくどく言わないのに。
「はい……」
だからこっちも身構えてしまう。藤堂さんの表情で、今日、まだ一度も笑った顔を見ていない。
「明々後日の卒業式のことなんだけど、欠席でお願いしたいんだ」
「え……」
欠席?
「明日、樹君の記事が写真週刊誌に出る」
「……え?」
写真、週刊誌……? なんだそれ……。
机の上に置いてあった藤堂さんの大きめの手帳、藤堂さんはそこに挟んであっA4のコピー用紙のようなものを取り出し、俺の目の前に置いた。
「差し止めは無理だった、申し訳ない。樹君、本当にごめんね」
心底申し訳なさそうな顔で藤堂さんが言う。
白黒のコピーで、【デビュー間もないダンスボーカルグループ、S-Bulletの謎に満ちたボーカルの正体?】というタイトルが大きく書いてあって、その下に小さめの、三ツ矢の制服を着た奴の写真が載っていた。顔は横を向きかけていてあまりはっきり写ってない。
これ……俺? いや、俺だ。通学鞄についてるキーホルダー、俺のだ……。いつ撮られたんだろう……全然気付かなかった。なんか俺芸能人みたいだ。こそこそ恋人と会ってた、とか、不倫、とか……。
「これは、どういう記事……なんですか……?」
字が小さく、手に取らないと読むことができない。
「誹謗中傷やそれを煽るものではない。樹君が高校生で、数日後に卒業式を控えた三年生だ、という記事だよ。学校名や樹君の本名は出ていない。写真も見ての通り顔はややぼかし気味だ。でも制服ははっきり写ってる。だから調べれば学校名はわかる」
「身バレ……ってことですか?」
「うん、そういうことになる。本当にごめん」
身バレって。今頃? ってかどうしてわかったんだろう……。俺顔出ししてないのに。
取材はもちろんいくつか受けたけど、守秘義務的なものがあって、その上で取材が行われたはずで。……そんなことを考えても撮られたことは確かで、その写真週刊誌は明日発売なわけで……。
「……でも、もう卒業ですし、俺はもう三ツ矢からいなくなるから、この写真、そんなにダメージないですよね? 不幸中の幸いでしたよね。いや別に不幸でもない。ちょっとした宣伝になりますよね?」
今バレたって、もう関係ないだろう。
「捉えようによってはそうだけど、樹君の卒業式を僕たちは奪ってしまった。守ってあげられなくてごめん。僕たちの責任だ」
「……卒業式ぐらい、いいです。風邪を引いたと思えば同じことです」
「樹君」
「永遠の別れというわけじゃないですから、また時間をおいて、学校の外で会えますから」
「樹君」
「俺は自宅待機、ですよね。さすがに寮にも学校にもいれませんよね。今日の内に実家に帰った方がいいですよね? 俺、別に卒業式、何の係もないのでいなくても問題ないので」
何かあれば俺はとりあえず自宅待機。それは学校側との取り決めで。俺を学校に置いたままあれこれ対策を練るんじゃなくて、まずは切り離す。当然だろう。
ただ、今の俺が身バレしたところでとんでもないことが起きるかというと、九割九分それはない。写真週刊誌の売り上げに貢献できるほどかというとそれもまた。
「……これから学校の方へ説明に行くから車で寮まで送る。学校への説明が終わったら樹君の実家へも送っていくから。樹君のご両親にも説明させてほしい」
「わかりました」
「ここで少し待っててくれるかな。準備してくるから」
「はい」
藤堂さんは、早足で会議室を出て行った。
「卒業式も無理だったか……」
文化祭は人の出入りがあるし、仕方ないと、わかった。
卒業式は自分たちと親だけだから大丈夫だろうと、思ってた。
「何があるかわかんないもんだな……」
最後の最後で。写真なんか撮られて。
「馬鹿だな、俺……」
フェードアウトで高校生活が終わる。
みんなにサヨナラもありがとうも言えない。
「でも、永遠の別れじゃないし」
自分でさっき言っただろ。
「でも、寂しいな……」
藤堂さんを待ってる間に母親に電話をかけた。
今から帰ってくるからと。
試験の翌日だからと休みにしてくれていた。何かみんなで集まる用事ができたのだろうか。
いよいよ合格発表を待つだけの身で。卒業式の練習なども前日の話だ。
「わかりました。すぐ行きます」
そう言って電話を切って。
通された事務所の会議室には藤堂さんしかいなかった。
「おはようございます……」
呼ばれたのは俺だけ、なのだろうか。
「樹君、ごめん」
促されて藤堂さんと向かい合うようにパイプ椅子に座った途端、そう言われた。
「あ、いえ、荷造りするしかすることがなくて暇と言えば暇でした」
「うん、そうじゃなくてね、明日以降の話をさせてほしくて」
明日以降の話? 今? 俺一人に?
なんかはっきりしない言い方だ。藤堂さんは普段そんな話し方はしない。回りくどく言わないのに。
「はい……」
だからこっちも身構えてしまう。藤堂さんの表情で、今日、まだ一度も笑った顔を見ていない。
「明々後日の卒業式のことなんだけど、欠席でお願いしたいんだ」
「え……」
欠席?
「明日、樹君の記事が写真週刊誌に出る」
「……え?」
写真、週刊誌……? なんだそれ……。
机の上に置いてあった藤堂さんの大きめの手帳、藤堂さんはそこに挟んであっA4のコピー用紙のようなものを取り出し、俺の目の前に置いた。
「差し止めは無理だった、申し訳ない。樹君、本当にごめんね」
心底申し訳なさそうな顔で藤堂さんが言う。
白黒のコピーで、【デビュー間もないダンスボーカルグループ、S-Bulletの謎に満ちたボーカルの正体?】というタイトルが大きく書いてあって、その下に小さめの、三ツ矢の制服を着た奴の写真が載っていた。顔は横を向きかけていてあまりはっきり写ってない。
これ……俺? いや、俺だ。通学鞄についてるキーホルダー、俺のだ……。いつ撮られたんだろう……全然気付かなかった。なんか俺芸能人みたいだ。こそこそ恋人と会ってた、とか、不倫、とか……。
「これは、どういう記事……なんですか……?」
字が小さく、手に取らないと読むことができない。
「誹謗中傷やそれを煽るものではない。樹君が高校生で、数日後に卒業式を控えた三年生だ、という記事だよ。学校名や樹君の本名は出ていない。写真も見ての通り顔はややぼかし気味だ。でも制服ははっきり写ってる。だから調べれば学校名はわかる」
「身バレ……ってことですか?」
「うん、そういうことになる。本当にごめん」
身バレって。今頃? ってかどうしてわかったんだろう……。俺顔出ししてないのに。
取材はもちろんいくつか受けたけど、守秘義務的なものがあって、その上で取材が行われたはずで。……そんなことを考えても撮られたことは確かで、その写真週刊誌は明日発売なわけで……。
「……でも、もう卒業ですし、俺はもう三ツ矢からいなくなるから、この写真、そんなにダメージないですよね? 不幸中の幸いでしたよね。いや別に不幸でもない。ちょっとした宣伝になりますよね?」
今バレたって、もう関係ないだろう。
「捉えようによってはそうだけど、樹君の卒業式を僕たちは奪ってしまった。守ってあげられなくてごめん。僕たちの責任だ」
「……卒業式ぐらい、いいです。風邪を引いたと思えば同じことです」
「樹君」
「永遠の別れというわけじゃないですから、また時間をおいて、学校の外で会えますから」
「樹君」
「俺は自宅待機、ですよね。さすがに寮にも学校にもいれませんよね。今日の内に実家に帰った方がいいですよね? 俺、別に卒業式、何の係もないのでいなくても問題ないので」
何かあれば俺はとりあえず自宅待機。それは学校側との取り決めで。俺を学校に置いたままあれこれ対策を練るんじゃなくて、まずは切り離す。当然だろう。
ただ、今の俺が身バレしたところでとんでもないことが起きるかというと、九割九分それはない。写真週刊誌の売り上げに貢献できるほどかというとそれもまた。
「……これから学校の方へ説明に行くから車で寮まで送る。学校への説明が終わったら樹君の実家へも送っていくから。樹君のご両親にも説明させてほしい」
「わかりました」
「ここで少し待っててくれるかな。準備してくるから」
「はい」
藤堂さんは、早足で会議室を出て行った。
「卒業式も無理だったか……」
文化祭は人の出入りがあるし、仕方ないと、わかった。
卒業式は自分たちと親だけだから大丈夫だろうと、思ってた。
「何があるかわかんないもんだな……」
最後の最後で。写真なんか撮られて。
「馬鹿だな、俺……」
フェードアウトで高校生活が終わる。
みんなにサヨナラもありがとうも言えない。
「でも、永遠の別れじゃないし」
自分でさっき言っただろ。
「でも、寂しいな……」
藤堂さんを待ってる間に母親に電話をかけた。
今から帰ってくるからと。



