だだっ広いレッスン室。
明かりは煌々としていてもいるのは俺ただ一人。
ホテルは目と鼻の先だし、フロントの人たちとは顔見知り。慌てて向かう必要はないだろう。……どんな仕事だって今ももちろん相当の緊張があるからして疲れていないわけじゃない。ぺたりと床に座れば、どっと気が抜けた。
「ケーキ、今ここで食おうか」
藤堂さんの買ってくれたケーキ、ホテルまで待てない。箱を開けてみればプラスチックのフォークが付いていた。ほら、すぐ食べられる。プラスチックなサンタクロース、太小屋みたいな形のチョコレート、真っ赤な苺が3つのっている、濃厚そうな生クリームが厚く塗られたお一人様クリスマスケーキ。
行儀が悪いが箱を綺麗に解体して皿代わりにする。
美味い。
「メリークリスマス! あ。シャンメリーないな」
喉を潤すものはカバンに入ってる麦茶でいいか。コンビニに行けば売ってるかもしれないが、わざわざエレベーターを降りて行くのも面倒だ。
「あとはクリスマスソングね」
寂しくはない。藤堂さんのケーキとプレゼントと己の歌があれば楽しい気分になれる。誰もいないレッスン室に響かせるのは気分がいいものだ。
ヘビロテで同じ曲をなんの遠慮もなく適当なテンポで歌う。みそっかすだってクリスマスは頑張る。俺も頑張った。良い気分になったっていいだろう。誰もいないのだし。
「酔っ払いでもいるかと思ったぞ」
!
突然の声とがらりと引き戸が開く音がして。
「凛さん! お疲れ様ですっ」
驚いて振り返れば、S-Bulletの最年長でもあるリーダーが戸口に立っていた。
ちなみに中学生の頃から界隈で知られている(らしい)ダンサーさんだけあって立ち姿が美しい。慌てて立ち上がり頭を下げる。
「ご機嫌だな。レッスン室で物を食うなんて感心しないが」
今日はこんな遅くまで予定があったっけか?
「すみません。あ、あの、藤堂さんに頂いて」
「なるほど、それで赤鼻のトナカイを誰もいない部屋でリサイタルか。お前のファンならこんな時間でも喜んで聴きに来るだろうな。クリスマスソングなんてレアものだ」
そう言って、凛さんは中に入ってきた。
「パイロット?」
開けたまま、床に広げていたのを見つかってしまった。
「それも藤堂さんからのクリスマスプレゼントか」
「は、はい。万年筆をいただきました」
言っても良かったのだろうかとちらりと思ったが、何もやましいことはないのだし隠す方が空気が悪くなりそうな気がした。
「……よかったな」
みんなにも藤堂さんからのプレゼント、あったのだろうか。でもみんなオトナだしな……一緒に酒を飲むとかそういう感じかも。
「凛さんもリハか仕事だったのですか?」
「いいや? 俺はリーダーだからな。末っ子の仕事終わりまでは待ってるもんだろ。今日はお前だけだったし、ホテルにもまだ帰ってないって言うし、少し探しに来た感じだ」
「ご心配おかけしました、すみません」
凛さんにも藤堂さん同様心を砕いてもらった。俺を庇いつつ他のメンバーの気持ちも汲んでと、本当にリーダーはさもありなんという人だ。
「お前、明日のクリスマス宴会は来ないんだろう?」
「はい」
明日は事務方の人、タレントを含めた全員参加の事務所のクリスマス会だ。
宴会というからには酒が入る場なので社長にも藤堂さんにも参加を止められた。未成年には刺激が強いからやめておきなさいと。刺激って何なのだろう……。
まあ、未成年な上に受験もあるしそもそも勉強もしたいしで。最初だけ顔を出せばいいかと思っていたのだけどそれも禁じられた。
「じゃあ樹、俺からもクリスマスプレゼントだ」
凛さんは手にしていた大きめの茶封筒をぽいっと投げて寄越した。なんとか落とさずに受け取れて。なんだろうお菓子?
スタッフさんに貰ったのだろうか。事務所の名前が入ってる、よく見る封筒だ。
「ありがとうございます」
「お前はよく頑張ってるよ。みんなちゃんと認めてる。飛鳥はまあ、あいつもまだガキだからな。末っ子ポジを取られて少し素直になれてないだけだから許してやれ」
頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「お前の歌は人をワクワクさせる。東雲の声が癒しだとすればお前の声は希望だ。二人がいて俺たちは無敵になる。うちに来てくれてありがとな、樹」
ガッと力強く抱きしめられる。凛さんは感情豊かで表現が豊かで、ポジティブで、そばにいて安心する人だ。この人もいつも俺のことを気にかけてくれていて。メンバーの中で一番最初に声をかけてくれて一番最初に好きになった人だ。
「こちらこそ、俺を受け入れてくれてありがとうございます」
パフォーマンスを初めて見せてもらった時からその印象は変わらない。
S-Bulletはカッコよくてセクシーで品もあって、もっともっと上を目指せるチームだ。だから俺は貪欲に進化を求めて必死についていきたい。
「よし、もうお前も寝る時間だな。ホテルまで送るから準備しろ」
さすがに寝る時間じゃないけど。それにケーキだけじゃ腹は満たされないからラーメンでも食べたい。
そしてホテルに戻って、カップ麺をすすりながら凛さんの茶封筒を開けたならば、青色の硬めの箱が出てきた。
「ティ……ファニー……?」
思わず割り箸を置いて、両手でそっと箱をテーブルの上に置いた。
箱の上に書かれている文字はロゴはテレビなんかで見たことがあるものだ。これって女性向けハイブランドなんじゃ……。
中身は細めのチェーンのブレスレットで、小さな南京錠みたいなものがポイントになっててなんかカッコいい。
今日は二人から少し背伸びなものをクリスマスプレゼントにもらって。
大人アイテムが似合うように自分を磨きなさいってことなんだろうな。
うん、頑張ろう。
明かりは煌々としていてもいるのは俺ただ一人。
ホテルは目と鼻の先だし、フロントの人たちとは顔見知り。慌てて向かう必要はないだろう。……どんな仕事だって今ももちろん相当の緊張があるからして疲れていないわけじゃない。ぺたりと床に座れば、どっと気が抜けた。
「ケーキ、今ここで食おうか」
藤堂さんの買ってくれたケーキ、ホテルまで待てない。箱を開けてみればプラスチックのフォークが付いていた。ほら、すぐ食べられる。プラスチックなサンタクロース、太小屋みたいな形のチョコレート、真っ赤な苺が3つのっている、濃厚そうな生クリームが厚く塗られたお一人様クリスマスケーキ。
行儀が悪いが箱を綺麗に解体して皿代わりにする。
美味い。
「メリークリスマス! あ。シャンメリーないな」
喉を潤すものはカバンに入ってる麦茶でいいか。コンビニに行けば売ってるかもしれないが、わざわざエレベーターを降りて行くのも面倒だ。
「あとはクリスマスソングね」
寂しくはない。藤堂さんのケーキとプレゼントと己の歌があれば楽しい気分になれる。誰もいないレッスン室に響かせるのは気分がいいものだ。
ヘビロテで同じ曲をなんの遠慮もなく適当なテンポで歌う。みそっかすだってクリスマスは頑張る。俺も頑張った。良い気分になったっていいだろう。誰もいないのだし。
「酔っ払いでもいるかと思ったぞ」
!
突然の声とがらりと引き戸が開く音がして。
「凛さん! お疲れ様ですっ」
驚いて振り返れば、S-Bulletの最年長でもあるリーダーが戸口に立っていた。
ちなみに中学生の頃から界隈で知られている(らしい)ダンサーさんだけあって立ち姿が美しい。慌てて立ち上がり頭を下げる。
「ご機嫌だな。レッスン室で物を食うなんて感心しないが」
今日はこんな遅くまで予定があったっけか?
「すみません。あ、あの、藤堂さんに頂いて」
「なるほど、それで赤鼻のトナカイを誰もいない部屋でリサイタルか。お前のファンならこんな時間でも喜んで聴きに来るだろうな。クリスマスソングなんてレアものだ」
そう言って、凛さんは中に入ってきた。
「パイロット?」
開けたまま、床に広げていたのを見つかってしまった。
「それも藤堂さんからのクリスマスプレゼントか」
「は、はい。万年筆をいただきました」
言っても良かったのだろうかとちらりと思ったが、何もやましいことはないのだし隠す方が空気が悪くなりそうな気がした。
「……よかったな」
みんなにも藤堂さんからのプレゼント、あったのだろうか。でもみんなオトナだしな……一緒に酒を飲むとかそういう感じかも。
「凛さんもリハか仕事だったのですか?」
「いいや? 俺はリーダーだからな。末っ子の仕事終わりまでは待ってるもんだろ。今日はお前だけだったし、ホテルにもまだ帰ってないって言うし、少し探しに来た感じだ」
「ご心配おかけしました、すみません」
凛さんにも藤堂さん同様心を砕いてもらった。俺を庇いつつ他のメンバーの気持ちも汲んでと、本当にリーダーはさもありなんという人だ。
「お前、明日のクリスマス宴会は来ないんだろう?」
「はい」
明日は事務方の人、タレントを含めた全員参加の事務所のクリスマス会だ。
宴会というからには酒が入る場なので社長にも藤堂さんにも参加を止められた。未成年には刺激が強いからやめておきなさいと。刺激って何なのだろう……。
まあ、未成年な上に受験もあるしそもそも勉強もしたいしで。最初だけ顔を出せばいいかと思っていたのだけどそれも禁じられた。
「じゃあ樹、俺からもクリスマスプレゼントだ」
凛さんは手にしていた大きめの茶封筒をぽいっと投げて寄越した。なんとか落とさずに受け取れて。なんだろうお菓子?
スタッフさんに貰ったのだろうか。事務所の名前が入ってる、よく見る封筒だ。
「ありがとうございます」
「お前はよく頑張ってるよ。みんなちゃんと認めてる。飛鳥はまあ、あいつもまだガキだからな。末っ子ポジを取られて少し素直になれてないだけだから許してやれ」
頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「お前の歌は人をワクワクさせる。東雲の声が癒しだとすればお前の声は希望だ。二人がいて俺たちは無敵になる。うちに来てくれてありがとな、樹」
ガッと力強く抱きしめられる。凛さんは感情豊かで表現が豊かで、ポジティブで、そばにいて安心する人だ。この人もいつも俺のことを気にかけてくれていて。メンバーの中で一番最初に声をかけてくれて一番最初に好きになった人だ。
「こちらこそ、俺を受け入れてくれてありがとうございます」
パフォーマンスを初めて見せてもらった時からその印象は変わらない。
S-Bulletはカッコよくてセクシーで品もあって、もっともっと上を目指せるチームだ。だから俺は貪欲に進化を求めて必死についていきたい。
「よし、もうお前も寝る時間だな。ホテルまで送るから準備しろ」
さすがに寝る時間じゃないけど。それにケーキだけじゃ腹は満たされないからラーメンでも食べたい。
そしてホテルに戻って、カップ麺をすすりながら凛さんの茶封筒を開けたならば、青色の硬めの箱が出てきた。
「ティ……ファニー……?」
思わず割り箸を置いて、両手でそっと箱をテーブルの上に置いた。
箱の上に書かれている文字はロゴはテレビなんかで見たことがあるものだ。これって女性向けハイブランドなんじゃ……。
中身は細めのチェーンのブレスレットで、小さな南京錠みたいなものがポイントになっててなんかカッコいい。
今日は二人から少し背伸びなものをクリスマスプレゼントにもらって。
大人アイテムが似合うように自分を磨きなさいってことなんだろうな。
うん、頑張ろう。

