「軍資金は5000円、どちらがより多くクレーンゲームで景品をゲットできるか勝負だ」
凛さんはゲームセンターの入り口に着くなり、俺に五千円札を握らせた。
「クレーンゲーム!?」
「負けた方が、バーガーセット奢りな」
え?
「制限時間は30分、ルールは必ず5000円使い切ること、だ」
凛さんは胸ポケットから伊達メガネを取り出し装着した。バレたことないんだけどな、と言いながら。
それはどうだろう。声を掛けられてないだけで、とかじゃないのだろうか。俺は今キャップを被っていて、その上顔出ししてないからこれ以上隠す必要もなく。今のエスブレはネットでの活動が主で、ライブはまだしたことがない。だからまだまだなのかも……しれないが。
「いくぞ。よーい、スタート!」
言うなり、凛さんは両替機へ走って行った。しかも全力疾走で。いい歳した大人なのに……。
俺も当然両替えしなければ始められない。つられるように後を追う……わけにもいかず、違う場所の両替機を探した。
初めて来たゲーセン。どこに何があるのかわからない。両替機を探してうろうろしていると、凛さんはすでにクレーンを操作していた。早い。思わず笑ってしまった。勝手知ったる、なのか。
うん。俺もクレーンゲームは嫌いじゃない。ハンバーガーがかかっていることは別として、どうせならこの勝負、勝ちたい。ダンスじゃどうひっくり返っても勝てない凛さんだけど、これならいけるかもしれない。
両替えを済ませて得意な台を見つけ、さっそく100円を入れた。
多分、これは俺の文化祭なんだろうと思う。
今日一日、レッスンでエスブレのみんなと一緒にいて、充実した一日だった。文化祭に出られなかったことは仕方ないのだ。誰が悪いわけでもない。そういう状況になってしまったというだけ。
だけど、凛さんにはそう映らなかったのかもしれない。 三ツ矢の文化祭とは全然違うけど、それっぽい楽しさみたいなものを味わわせてくれようとしている。だったら、俺も楽しむ。凛さんと一緒にめいっぱい。
「お、樹、上手いんだな」
約束の30分が過ぎて、入り口に集合した時、凛さんはそう言った。
「……凛さんに言われても」
嫌味とまでは言わないけど。面白くない。クレーンゲームは楽しかったけど。
結果は俺が8個、凛さんは22個だった。22個! 5000円入れて22個って……!
「お前は箱ものとか、一つ一つがすごいだろ、俺のはちっちゃなやつばっかだぞ」
……確かにそうなんだけど。凛さんのゲットした景品は何かよくわからないゴム人形みたいなのだとか、小さなスイーツのアクリルキーホルダーとか、なんとかスンスンのマスコットとか、蛍光ペンだとか。
作戦を立てて実行した勝利だ。
俺なんて自分が欲しいものを取りに行って、一度に500円とか入れて。
「個数勝負なので中身はなんであれ、俺の負けです」
ハンバーガーを奢るのは俺。
「よしよし。ちゃんと認めるのは偉い。じゃあ樹の奢りはドライブスルーで買うことにして、戻るか」
偉いって……子供じゃないんだから、いや、子供か。れっきとした未成年だ。俺は凛さんに勝てるものが一つもないらしい……。
結局、買ったのは、奢ったのは500円のセットを二つ。凛さんがそれでいいと譲らなかったので。……子供の小遣いだ、そんな金額。
「お前、回る寿司は最高何皿ぐらい行けんの?」
寮に向かう道すがら運転中の凛さんが訊く。車の中はポテトの匂いが充満している。
「……30とか。普段は20ぐらいです」
口の中がせっかくポテトになっていたのに、ちょっと寿司モードになろうとしている。
「うわ、すげえな、さすが高校生だな」
みんなと行くとノリで食ってしまうってこともある。20皿弱、が本当のところかもしれない。サイドメニューなどを取ると寿司は減るし。
「今日は時間がなかったが、次は回る寿司行こうな」
はい、と言ってしまっていいものか迷い。回るとはいえ寿司だし。でも奢られとけと言われたので、はいと答えた。
「凛さん」
そして気になることが一つ。
「このたくさんの景品、どうするんですか?」
22個の戦利品。俺の隣に置いてあるゲーセンのビニール袋を覗けば同じものもあったりする。ゴム人形なんて色違いがいくつもある。
「ああ、それな、お前いるんだったら持って行っていいぞ」
「いえ、それは……」
残念ながら、欲しいと思えるものはなかった。欲しいものは自分で取ったし。しかも凛さんのお金で。
「ダンススタジオの子供たちのおまけに使うんだよ。頑張った子にやるとか、クリスマス会の景品とかな」
なるほど。凛さんが先生を務めるキッズクラスの子供たちにか。そう考えればこのラインナップは納得する。
そして凛さんの車は寮より少し手前で停車した。藤堂さんが送ってくれる時もこの場所だ。さすがに門に横付けしてもらうわけにはいかず。
「凛さん、ありがとうございました」
「おう、こちらこそ、マックありがとな」
テールランプが見えなくなるまで見送って。
寮へ向かった歩き出した時、何となく物足りない気がした。
……そうだ、今日、一度も頭をくしゃくしゃされなかった。
凛さんはゲームセンターの入り口に着くなり、俺に五千円札を握らせた。
「クレーンゲーム!?」
「負けた方が、バーガーセット奢りな」
え?
「制限時間は30分、ルールは必ず5000円使い切ること、だ」
凛さんは胸ポケットから伊達メガネを取り出し装着した。バレたことないんだけどな、と言いながら。
それはどうだろう。声を掛けられてないだけで、とかじゃないのだろうか。俺は今キャップを被っていて、その上顔出ししてないからこれ以上隠す必要もなく。今のエスブレはネットでの活動が主で、ライブはまだしたことがない。だからまだまだなのかも……しれないが。
「いくぞ。よーい、スタート!」
言うなり、凛さんは両替機へ走って行った。しかも全力疾走で。いい歳した大人なのに……。
俺も当然両替えしなければ始められない。つられるように後を追う……わけにもいかず、違う場所の両替機を探した。
初めて来たゲーセン。どこに何があるのかわからない。両替機を探してうろうろしていると、凛さんはすでにクレーンを操作していた。早い。思わず笑ってしまった。勝手知ったる、なのか。
うん。俺もクレーンゲームは嫌いじゃない。ハンバーガーがかかっていることは別として、どうせならこの勝負、勝ちたい。ダンスじゃどうひっくり返っても勝てない凛さんだけど、これならいけるかもしれない。
両替えを済ませて得意な台を見つけ、さっそく100円を入れた。
多分、これは俺の文化祭なんだろうと思う。
今日一日、レッスンでエスブレのみんなと一緒にいて、充実した一日だった。文化祭に出られなかったことは仕方ないのだ。誰が悪いわけでもない。そういう状況になってしまったというだけ。
だけど、凛さんにはそう映らなかったのかもしれない。 三ツ矢の文化祭とは全然違うけど、それっぽい楽しさみたいなものを味わわせてくれようとしている。だったら、俺も楽しむ。凛さんと一緒にめいっぱい。
「お、樹、上手いんだな」
約束の30分が過ぎて、入り口に集合した時、凛さんはそう言った。
「……凛さんに言われても」
嫌味とまでは言わないけど。面白くない。クレーンゲームは楽しかったけど。
結果は俺が8個、凛さんは22個だった。22個! 5000円入れて22個って……!
「お前は箱ものとか、一つ一つがすごいだろ、俺のはちっちゃなやつばっかだぞ」
……確かにそうなんだけど。凛さんのゲットした景品は何かよくわからないゴム人形みたいなのだとか、小さなスイーツのアクリルキーホルダーとか、なんとかスンスンのマスコットとか、蛍光ペンだとか。
作戦を立てて実行した勝利だ。
俺なんて自分が欲しいものを取りに行って、一度に500円とか入れて。
「個数勝負なので中身はなんであれ、俺の負けです」
ハンバーガーを奢るのは俺。
「よしよし。ちゃんと認めるのは偉い。じゃあ樹の奢りはドライブスルーで買うことにして、戻るか」
偉いって……子供じゃないんだから、いや、子供か。れっきとした未成年だ。俺は凛さんに勝てるものが一つもないらしい……。
結局、買ったのは、奢ったのは500円のセットを二つ。凛さんがそれでいいと譲らなかったので。……子供の小遣いだ、そんな金額。
「お前、回る寿司は最高何皿ぐらい行けんの?」
寮に向かう道すがら運転中の凛さんが訊く。車の中はポテトの匂いが充満している。
「……30とか。普段は20ぐらいです」
口の中がせっかくポテトになっていたのに、ちょっと寿司モードになろうとしている。
「うわ、すげえな、さすが高校生だな」
みんなと行くとノリで食ってしまうってこともある。20皿弱、が本当のところかもしれない。サイドメニューなどを取ると寿司は減るし。
「今日は時間がなかったが、次は回る寿司行こうな」
はい、と言ってしまっていいものか迷い。回るとはいえ寿司だし。でも奢られとけと言われたので、はいと答えた。
「凛さん」
そして気になることが一つ。
「このたくさんの景品、どうするんですか?」
22個の戦利品。俺の隣に置いてあるゲーセンのビニール袋を覗けば同じものもあったりする。ゴム人形なんて色違いがいくつもある。
「ああ、それな、お前いるんだったら持って行っていいぞ」
「いえ、それは……」
残念ながら、欲しいと思えるものはなかった。欲しいものは自分で取ったし。しかも凛さんのお金で。
「ダンススタジオの子供たちのおまけに使うんだよ。頑張った子にやるとか、クリスマス会の景品とかな」
なるほど。凛さんが先生を務めるキッズクラスの子供たちにか。そう考えればこのラインナップは納得する。
そして凛さんの車は寮より少し手前で停車した。藤堂さんが送ってくれる時もこの場所だ。さすがに門に横付けしてもらうわけにはいかず。
「凛さん、ありがとうございました」
「おう、こちらこそ、マックありがとな」
テールランプが見えなくなるまで見送って。
寮へ向かった歩き出した時、何となく物足りない気がした。
……そうだ、今日、一度も頭をくしゃくしゃされなかった。

