「……はぁ……っ、ふ……ぅ……っ」
心臓がこれでもかと胸を打ち、息が上がって何も言葉にならない。
「これくらいでバテてたら先が思いやられるな」
「は……ぃ……」
床についた片膝を持ち上げるも。
「あっ……」
力が入らず、よろけて倒れてしまった。……すぐに立ち上がって謝って続きを請わないといけないのに。足の指が痙りかけていることに気付いてしまうと気持ちも引き攣れて。体が言うことを聞かなくなってレッスン室の床に転げたまま、立てなくなった。
なんでできないのだろう……悔しくて鼻先がツンと痛くなる。見られたくなくて背中を丸めて。
泣いてる暇もなければ待ってくださいとも言えない。時間は過ぎていく。一歩でも多くステップを踏まなければいけない。
だけど、うまくできない。幼稚園のお遊戯会じゃ駄目なのだ。俺一人の問題じゃないから。俺はチームの一人だから。俺の失敗はチームの失敗だ。失敗は許されない。いや、許されないとかそういうことじゃない。できることが前提なのだ。失敗なんて言葉は存在しない。
「どうした、もうやめるか? 構成変更はまだ間に合うからな」
変更……それがいいのかもしれない。できないことで迷惑をかけるならいっそ。
でも。見せられた踊りの構成は格好よくて、そこに入らずに俺が、歌っていないボーカルが端で突っ立ってるのは間抜けだと簡単に想像がついて、俺もその中にいたくて一緒にパフォーマンスしたくて。
初めてだから無理せず次回からでもいいと言われたが望んだのは俺で。だって俺もチームの一員だから。後付けでも、皆から顔を背けられても。
「やりたいです」
立ち上がって、やりますと言えないけど。頑張りたい。みんなに認めてもらいたい。
「そうか。じゃあ少し休憩だ」
SーBullet、俺の所属するダンスボーカルグループのトップパフォーマーでリーダーの凛さんは、俺の頭をくしゃりと撫でてレッスン室を出ていった。
今日は土曜日で学校も休み。マンツーマンで朝からダンスの稽古をつけてもらっていた。なぜならできないのは俺だけだから。ほぼほぼダンス未経験で。学校の体育でやった、なんてのは未経験と言っていいだろう。
「樹君、お疲れ様。無理はしなくていいんだよ」
凛さんが出て行ったあと、スーツ姿のマネージャーの藤堂さんが入れ替わりで入ってきた。藤堂さんは俺をスカウトしてくれた人で、唯一の味方、と言ってもいい。
……本当は敵とかそういうわけじゃない。同じグループなのだから。でも俺はエスブレのみんなから認められてないみそっかすだ。SーBulletは元々パフォーマー5人ボーカル一人の6人組で、俺が後から加入してツインボーカルの7人体制になった。
すでに出来上がってるグループに未成年の、高校生の俺が入って上手くいくはずがなくて。かろうじて無視はされないながらも話しかけられることはない。12月に顔合わせをしてからずっと。今も。
ただ、凛さんとボーカルの東雲さんはすぐに良くしてくれた。東雲さんは同じボーカルだからかレコーディングや楽曲の話を、凛さんはダンスの特訓をしてくれる。
「いえ、頑張りたいです」
急いで起き上がる。
「凛君も意地悪をしてるわけじゃないけど、きつい時はちゃんと口にしないとダメだよ」
藤堂さんは俺に近付くと、すっと膝を床についた。
「はい」
もちろん、わかってる。グループを良くしようと思ってのことだ。本当に俺のことが嫌なら稽古なんてつけてくれないだろう。俺だってグループの足を引っ張りたくない。だからそこは一致しているのだ。
まあ、俺のことが嫌いかどうか、本当のところはわからないけど。ビジネス的にはまあ、というところなのかもしれない。ミニアルバムのリリースまであとわずかで、形にしなければならないのだ。商品として。お金を取れるだけのものを見せなければならない。プロ、なのだから。
そして俺をスカウトしてくれた藤堂さんの顔に泥を塗るわけにもいかない。もう一人ボーカルを入れた方がずっと良くなると提案したというこの人を失望させたくない。あんなに熱心に俺を誘ってくれて、親も説得してくれて、最後の最後まで支えて守っていくからと言ってくれた、この人を。
「凛さんの指導は素人の俺でもわかりやすいです、だから後は俺が猛練習するだけなので」
「ウチのスクールの小学生クラスの先生でもあるからね」
あと一週間、死ぬ気で頑張ってMVの撮影に間に合わせる。レコーディングは終わっているから今は踊りだけをとにかく頑張ればいい。
「樹君、君は僕が見つけてきた金の卵だから無理なくのびのび育っていってほしいんだ」
最初からずっとそう言ってくれるから。
「はい」
期待に応えたい。
俺、桐谷樹はダンスボーカルグループ、SーBulletのボーカル、KIRIとして活動していく。
心臓がこれでもかと胸を打ち、息が上がって何も言葉にならない。
「これくらいでバテてたら先が思いやられるな」
「は……ぃ……」
床についた片膝を持ち上げるも。
「あっ……」
力が入らず、よろけて倒れてしまった。……すぐに立ち上がって謝って続きを請わないといけないのに。足の指が痙りかけていることに気付いてしまうと気持ちも引き攣れて。体が言うことを聞かなくなってレッスン室の床に転げたまま、立てなくなった。
なんでできないのだろう……悔しくて鼻先がツンと痛くなる。見られたくなくて背中を丸めて。
泣いてる暇もなければ待ってくださいとも言えない。時間は過ぎていく。一歩でも多くステップを踏まなければいけない。
だけど、うまくできない。幼稚園のお遊戯会じゃ駄目なのだ。俺一人の問題じゃないから。俺はチームの一人だから。俺の失敗はチームの失敗だ。失敗は許されない。いや、許されないとかそういうことじゃない。できることが前提なのだ。失敗なんて言葉は存在しない。
「どうした、もうやめるか? 構成変更はまだ間に合うからな」
変更……それがいいのかもしれない。できないことで迷惑をかけるならいっそ。
でも。見せられた踊りの構成は格好よくて、そこに入らずに俺が、歌っていないボーカルが端で突っ立ってるのは間抜けだと簡単に想像がついて、俺もその中にいたくて一緒にパフォーマンスしたくて。
初めてだから無理せず次回からでもいいと言われたが望んだのは俺で。だって俺もチームの一員だから。後付けでも、皆から顔を背けられても。
「やりたいです」
立ち上がって、やりますと言えないけど。頑張りたい。みんなに認めてもらいたい。
「そうか。じゃあ少し休憩だ」
SーBullet、俺の所属するダンスボーカルグループのトップパフォーマーでリーダーの凛さんは、俺の頭をくしゃりと撫でてレッスン室を出ていった。
今日は土曜日で学校も休み。マンツーマンで朝からダンスの稽古をつけてもらっていた。なぜならできないのは俺だけだから。ほぼほぼダンス未経験で。学校の体育でやった、なんてのは未経験と言っていいだろう。
「樹君、お疲れ様。無理はしなくていいんだよ」
凛さんが出て行ったあと、スーツ姿のマネージャーの藤堂さんが入れ替わりで入ってきた。藤堂さんは俺をスカウトしてくれた人で、唯一の味方、と言ってもいい。
……本当は敵とかそういうわけじゃない。同じグループなのだから。でも俺はエスブレのみんなから認められてないみそっかすだ。SーBulletは元々パフォーマー5人ボーカル一人の6人組で、俺が後から加入してツインボーカルの7人体制になった。
すでに出来上がってるグループに未成年の、高校生の俺が入って上手くいくはずがなくて。かろうじて無視はされないながらも話しかけられることはない。12月に顔合わせをしてからずっと。今も。
ただ、凛さんとボーカルの東雲さんはすぐに良くしてくれた。東雲さんは同じボーカルだからかレコーディングや楽曲の話を、凛さんはダンスの特訓をしてくれる。
「いえ、頑張りたいです」
急いで起き上がる。
「凛君も意地悪をしてるわけじゃないけど、きつい時はちゃんと口にしないとダメだよ」
藤堂さんは俺に近付くと、すっと膝を床についた。
「はい」
もちろん、わかってる。グループを良くしようと思ってのことだ。本当に俺のことが嫌なら稽古なんてつけてくれないだろう。俺だってグループの足を引っ張りたくない。だからそこは一致しているのだ。
まあ、俺のことが嫌いかどうか、本当のところはわからないけど。ビジネス的にはまあ、というところなのかもしれない。ミニアルバムのリリースまであとわずかで、形にしなければならないのだ。商品として。お金を取れるだけのものを見せなければならない。プロ、なのだから。
そして俺をスカウトしてくれた藤堂さんの顔に泥を塗るわけにもいかない。もう一人ボーカルを入れた方がずっと良くなると提案したというこの人を失望させたくない。あんなに熱心に俺を誘ってくれて、親も説得してくれて、最後の最後まで支えて守っていくからと言ってくれた、この人を。
「凛さんの指導は素人の俺でもわかりやすいです、だから後は俺が猛練習するだけなので」
「ウチのスクールの小学生クラスの先生でもあるからね」
あと一週間、死ぬ気で頑張ってMVの撮影に間に合わせる。レコーディングは終わっているから今は踊りだけをとにかく頑張ればいい。
「樹君、君は僕が見つけてきた金の卵だから無理なくのびのび育っていってほしいんだ」
最初からずっとそう言ってくれるから。
「はい」
期待に応えたい。
俺、桐谷樹はダンスボーカルグループ、SーBulletのボーカル、KIRIとして活動していく。
