【シナリオ】ケガレの歌巫女は希望を歌う

※皇都、軍病院
黒飛「榊はいるか!」
と、清珠を抱えたまま乱雑にドアを開ける

榊蘭十郎(以下、蘭十郎)「もうなあに、黒飛ちゃん」
長身、長い黒髪をひとつ結び、丸眼鏡、軍服の上に白衣の男がおっとりと口を開いて黒飛を見る

黒飛「至急、診てもらいたい患者がいる」
診察用のベッドに清珠を降ろす

蘭十郎「あら。あらあら」
と言いながらも厳しい顔つきになる

蘭十郎「どこからこんな子、拾ってきたの?」
もうすでに清珠の手を取り、診察を始めている

黒飛「詳しい話はあとだ。喉の傷とケガレ、身体の状態も診てもらいたい」
不安げに見上げる清珠に優しく微笑みかける


蘭十郎「ケガレ?」
不快そうに蘭十郎の片眉が上がる

清珠M(やはり、ケガレ憑きの私なんて……)
蘭十郎「だからこの怪我なのね。まだそんな、野蛮なことやってるところ があるの?」
と、怒っている

清珠M(この人も怒ってくれるんだ)
と不思議そう

黒飛「あるんだ、それが」
と苦々しげ

蘭十郎「了解。誰か、綾乃ちゃん呼んできてちょうだい」
看護婦「はい」
榊に指示され、通りかかった看護婦が返事をする

蘭十郎「ちょっと染みるけど、我慢してね」
手際よく、清珠の喉の傷を消毒していく

蘭十郎「痛かったら声……もしかして、出ない?」
険しい顔で清珠に尋ねる

黒飛「ああ」
壁に寄りかかって見守っていた黒飛が頷く

黒飛「治るよな」
縋るような目で蘭十郎を見つめ

蘭十郎も真剣な顔で見返す
蘭十郎「綾乃ちゃんに中まで診てもらうまでは断言できないわ」

そのタイミングでドアがノックされる
白澄綾乃(以下、綾乃)「榊、呼んだか」

長身、ポニテ、和式白衣の真面目そうな若い女性が立っている
蘭十郎「黒飛ちゃんが新患連れてきたの。ケガレ憑きだって」
蘭十郎の横でぺこりと清珠が頭を下げる

綾乃「だからその傷か」
と不快そうに顔を顰める

蘭十郎「まずは喉、診てもらえる?」
綾乃「わかった」
と清珠がいるベッドの横に腰を下ろす

綾乃「楽にしてろ」
清珠の喉に彼女が手をかざすとぽーっと光る

清珠M(あ、ちゃんと呼吸ができる……)
綾乃「うん」
少しして手を離す

綾乃「息、しにくかったな。少し楽になっただろ?」
優しく清珠に微笑みかける

清珠、こくこくと頷く
黒飛「治るよな」
真剣に綾乃を見つめる

綾乃、黒飛と蘭十郎のほうを向き
綾乃「断言はできません。でも、可能性は高いと思います」

黒飛「そうか!」
嬉しそうに清珠の顔を見る

清珠も明るい顔でこくこくと頷く
蘭十郎「じゃ、私たちは出てるから、あとお願い。ドアの前で待ってるから、ケガレの進行度だけ早めにちょうだい」

綾乃「わかった」
不安げに清珠が黒飛を見る
黒飛「白澄は悪いヤツじゃないから心配しないでいい」
と、安心させるように頷く

まだ不安げでもあるけれど頷く清珠
綾乃「悪いが着物を脱いでもらえるか」
申し訳なさそうに言われ

意味がわかって清珠が着物の前を開ける
現れた清珠の身体には広範囲にわたって痣が広がっている
綾乃「これは……」
苦しそうに顔を歪める

綾乃「わかった、もういい」
と、清珠の着物を元に戻す

綾乃「榊! 進行度5だ!」
とドアの外へ怒鳴る

ドアの外にいた蘭十郎と黒飛に緊張が走る
蘭十郎「わかったわ! それで薬、用意するわね」
綾乃「頼む」
とふたりがドア越しに会話をする

綾乃「他にも身体、診せてもらうな」
清珠の身体を確認するように手を這わせていく。清珠の手は淡く光っている

綾乃「背中も痛んだだろう? 治しておくな」
丸太を投げつけられた箇所を軽くさする

清珠M(凄い、全然痛くない……!)
驚いて身体を軽く動かす清珠を

綾乃は苦笑いで見ている
蘭十郎「もういいかしら?」
綾乃「ああ]

大量の紙袋を抱えた蘭十郎と共に黒飛が入ってくる
綾乃「治せる傷は治しておきました。あとは栄養失調と衰弱が激しいので、休養と滋養のあるものを摂らせてください」

黒飛「わかった」
と頷く

蘭十郎「あとはお薬飲んでねー。滋養強壮剤と、喉の傷を治すお薬。あとこれはケガレの進行を遅らせる薬ね」
と、薬の入った紙袋を並べていく

なにが言いたげに清珠が黒飛の袖を引っ張る
黒飛「ん? ああ。榊、なにか書くものはないか」
蘭十郎「あ、そうね。ごめんね、気づかなくて」
と、クリップボードに挟んだ紙と鉛筆を差し出してくれる

渡されたクリップボードに清珠が鉛筆を走らせる
清珠メモ(以下、清珠メ)【ケガレの痣が広がるのを遅らせられるんですか】
書いたメモを見せる

蘭十郎「遅らせられるわよー。だから、心配しないで大丈夫」
蘭十郎がうんと頷き

清珠がほっと顔を緩ませる
蘭十郎「ついでにお名前、教えてくれる? カルテ作るのに聞いたら黒飛ちゃんったら、知らないとか言うんだもん。あ、年もお願いね」

黒飛「わ、悪かったな!」
抗議しつつ顔が赤い

清珠メ【神住清珠です。18です】
蘭十郎「ありがとう」
と、カルテに書き込もうとするが

黒飛「まった」
と、止められる

黒飛「『神住清珠』じゃなく『鴉城清珠』だ。今日から清珠は鴉城家の預かりになるからな」

蘭十郎「へー」
赤くなった黒飛を面白そうににやにや笑っている

蘭十郎「はいはい、鴉城清珠ね」
とカルテに書き込む。綾乃は真顔で素知らぬ顔

蘭十郎「じゃ、具合が悪くなったらいつでも来て」
綾乃「夜中でもかまいません」
黒飛「恩に着る」
黒飛の隣で清珠はぺこぺこ頭を下げている
病院を出たところで車が待っている
片羽「車、取ってきたよー」
運転席からへらへらと手を振る

黒飛「助かる」
と清珠を連れて乗る

片羽「屋敷でいい?」
黒飛「ああ」
車が走り出す
里では見たことがない、レンガやセメント作りの高い建物が並び、路面電車が行き交う街を清珠は物珍しそうに見ている

黒飛「気になるか?」
清珠がうんうんと頷く

黒飛「身体が治ったら連れていってやる」
と、頭を撫でる

清珠M(この人はちゃんと、私を人として扱ってくれるんだ)
と、嬉しくなる

※鴉城家の屋敷
立派な洋式のお屋敷を見上げる清珠
片羽「じゃ、僕は帰りますねー」
と帰っていく

黒飛「こい」
黒飛に連れられ、こわごわ中に入る清珠

玄関にはずらっと年配の女中が並んでいる
女中頭「おかえりなさいませ、坊ちゃん」
70くらい、白髪が多いまとめ髪、黒の着物に紫の帯、白前掛け

黒飛「かえった。俺の嫁だ。よろしく頼む」
ぐいっと清珠を女中たちの前に出す

女中たち「あらあら」「まあまあ」「ささ、こちらへ」
女中たちに取り囲まれ

連れ去られながら困惑気味に清珠が黒飛を振り返る
黒飛「大丈夫だから安心して行ってこーい」
と、ひらひらと手を振る

お風呂に放り込まれて磨かれ
綺麗な寝間着を着せられ
髪と肌が手入れされ
清珠がよくわかっていないあいだに黒飛の待つ座敷へ連れていかれる
黒飛「おー、綺麗になったなー」
と、読んでいた書類から顔を上げる

勧められて黒飛の前に座ると
玉子粥ののったお膳が運ばれてくる
黒飛「まずは、食え」
清珠M(本当に食べていいの?)
問うように黒飛とお膳のあいだに視線を往復させる

黒飛がうんと頷き、
おそるおそる匙を手に取る
清珠M(温かい)
ひとくち食べた清珠の目から涙がこぼれ落ちる

ぎょっとする黒飛
黒飛「痛いのか!? どこか痛いのか!? 苦しいのか!?」
わたわたと慌てだした黒飛に

清珠が違うと首を振る
清珠が黒飛の手を取り
黒飛の手のひらに【うれしい】と指で書く
黒飛「……そうか」
と泣き出しそうに顔を歪める

黒飛「これからはうまいものをいっぱい食わせてやるし、綺麗な着物も着せてやる。喉も絶対に治る。だからなにも心配しなくていい」
と、清珠の涙を拭う

清珠がうんと頷く
山のような薬を飲む清珠
清珠M(に、苦い……)
滅茶苦茶嫌そうに顔を顰める

どうにか飲み終わってほっと息をついたら、黒飛にチョコレートボンボンを口に突っ込まれる
黒飛「薬を頑張ったご褒美のチヨコレイトだ」
意地悪くにやっと笑う

清珠M(苦いけど甘くて美味しい……)
と、うっとりとなる

ふかふかの布団に横になる清珠
黒飛「ゆっくり休め。おやすみ」
黒飛が出ていき、ひとりになる
清珠M(なんだか、夢でも見てるみたい。夢でもいいから覚めないで……)
祈る思いで目を閉じる