【シナリオ】ケガレの歌巫女は浄化を歌う

※汽車の中
略装姿の黒飛と片羽が乗っている
片羽「まさか、この国一の武神と名高い黒飛が歌巫女に一目惚
れとはね。この、この」
と茶化す

黒飛「……うるさい」
赤い顔でそっぽを向く

※里長の屋敷
広い座敷でそわそわと待っている黒飛
を、笑っている片羽
里長(父親)「これは鴉城様、ようこそいらっしゃいました」
期待に満ちた顔で黒飛が顔を上げる
里長「こちらがお探しの歌巫女です」
これ以上ないほど目尻を下げ、娘を紹介する

霞音「はじめまして、鴉城様。歓迎の印に一曲、披露いたしま
すわ」
得意満面な霞音は金糸銀糸の刺繍がされた、豪華な振り袖を着
ている。

霞音の顔を見て鴉城は嬉しそうな顔をするが一瞬で
すぐに不機嫌な顔になる
けれど鴉城のそんな様子に気づかず、霞音は歌い始める
鴉城「……違う」
不機嫌にひと言、明確な拒絶を発する

霞音の顔が引き攣る
片羽「確かに少し顔は似てるけど、あの娘とは違うねー」
さらに彼が同意する

里長「違うと言われましても当里の歌巫女は私の娘、この霞音
しかおりませぬ」
慌てて説明してきたが

黒飛「あの日、俺を助けてくれた娘はもっと……」
黒飛はまったく聞いていない

※※フラッシュバック※※
助けてくれた日、粗末な着物を着ていた清珠の姿が蘇る
黒飛「もしかして」
はっとした顔をする

黒飛M(あの娘はこの里で、虐げられているのではないか)
後悔し、苦虫を噛みつぶしたような顔になる

鴉城「もういい、勝手に探す」
と、立ち上がる

霞音「鴉城さまぁ」
黒飛の手を取って、止める

霞音「お探しの人間とは違うかもしれませんが、私がこの里唯
一の歌巫女です」
誇るように自分の胸に手を置く

霞音「私ほどの歌巫女はそうそう現れません。絶対、鴉城様の
お役に立ちますわ。どうぞ私を、妻にお迎えください」
媚びた、ねっとりとした視線を黒飛に送る

醒めた目で霞音を見下ろす黒飛
里長「そうです、霞音は歴代一、二を争うほどの歌巫女です。
御歌幽帝を眠らせる役割がありますのでこの里は離れられませ
んが、鴉城様が通っていただければ」
里長の顔が醜く歪む

蔑むように黒飛が里長を見る
黒飛「俺はあの娘しかいらぬ。勝手に探すからついてくるな」
屋敷を出て空へと舞い上がる(鴉天狗なので)

里長「お待ちを! 鴉城様、お待ちください! あれはもう、
歌巫女ではございませぬ!」
黒飛の眼下に追いすがる里長が見える

黒飛「どこだ? あの娘はどこだ?」
上空から清珠を捜し回る

里外れで半ば朽ちた小屋を見つける
黒飛「ここか?」
おそるおそるといった感じで戸を叩く

中からは返事もなく、安堵した次の瞬間
どさっとなにかが倒れる音が中からする
黒飛「入るぞ!」
中では清珠が倒れている
黒飛「おい、大丈夫か!」
黒飛が声をかけるが清珠は目を閉じ、浅い呼吸を繰り返してい
る。喉にはまだ新しいやけどの痕

黒飛「片羽! 医者、呼んでこい!」
片羽「了解!」
あとから追いついた片羽が駆けていく

黒飛が部屋の中を見渡すが、なにもない
黒飛「死ぬな、死ぬなよ……」
必死の思いで清珠を見つめる

しばらくして片羽が戻ってくる
黒飛「医者は!」
片羽「ごめん。ケガレ憑きは診られないって断られた」
眉をハの字にし、困り切っている

黒飛「仕方ない。片羽、復生丸、持ってるか」
片羽「持ってるよ。でも、応急処置にしかならないよ」
と、懐から出した小さな巾着を黒飛に渡す

黒飛「とりあえず動けるようになればいい。あとは皇都に連れ
帰って医者に診せる」
小さな丸薬を清珠の口に押し込む

片羽が甕から柄杓で水を汲み
黒飛に渡してくれる
黒飛は水を口に含み
口うつしで清珠に飲ませた
清珠の喉がこくりと動く
黒飛「これで回復してくれたらいいのだが」
祈る思いで黒飛が腕の中の清珠を見つめる

清珠の呼吸が次第に穏やかなものへと変わっていく
片羽「ねえ」
片羽の目は清珠の喉の傷へ向いている

片羽「この傷、なんだと思う?」
清珠の喉には治っていない、痛々しい焼け焦げた痕がある

黒飛「医者に、ケガレ憑きは診られないって断られたんだよな」
表情もなく、淡々と告げる


片羽「そうだよ」
黒飛「どう見てもこれは、そういう理由だよな」
黒飛の目も清珠の傷へ向いている

片羽「ねえ! 待って! ケガレがうつるというのは迷信だっ
て解明されて、もう何年経った!? なのに彼女はそんな理由で
こんな目に遭ってるの!?」
悲痛な声を上げる

片羽「黒飛は腹が立たないの!?」
と、黒飛の肩を揺らす

黒飛「……立つに決まってるだろ」
黒飛の声は激しい怒気を孕んでいる

おかげで片羽が肩を跳ねさせる
黒飛「あの日、彼女の境遇に気づかず、連れ帰らなかった自分
自身にこれ以上ないほど腹を立てている」
と、苦しそうに顔を歪ませる

片羽「そう、だね。僕も気づかなかった、ごめん」
申し訳なさそうに詫びる

清珠が小さく、身じろぎをする
黒飛「気づいたか!」
慌てて清珠の顔を見る

ゆっくりと清珠のまぶたが開く
黒飛と視線のあった清珠は
なにか言いたげに唇を開いたが声は出なかった
黒飛M(ああ。あの美しい歌声は奪われてしまったのだ)
顔が絶望に染まっていく

黒飛「すまぬ。本当にすまぬ……!」
真剣に黒飛が詫びるが

清珠はどうしてかわからず戸惑っている
清珠M(きっと、喉の傷を自分のせいだと思っていらっしゃる
のだわ)

どうにか思いを伝えようと、そっと両手で黒飛の顔を挟んで目
をあわせる

黒飛「ん?」
清珠がなにを言おうとしているのか察したのか、涙で濡れた目
でじっと見つめ返す

清珠がゆっくり首を横に振る
黒飛「俺のせいじゃないと言いたいのか」
小さく、けれど力強く清珠が頷き
黒飛の目がみるみる潤んでいく
鴉城「お前は本当に優しいのだな」
黒飛の手が清珠の頬に触れる

清珠M(私は優しくなどない。悪いのは禁を破って歌を歌った
私だ)
ううんとまた首を振る

黒飛の腕が清珠を包み込む
黒飛「俺が絶対にお前の声を取り戻してみせる。なに、心配は
いらない。皇都には高度な技術を持つ医者や、強い治癒術が使
える者などいくらでもいるからな。だからきっと、お前の声も
元に戻る」
しかし、黒飛の手は震えている


黒飛「俺と一緒に皇都へ来い」
黒飛が清珠へ手を差し出す

その手を清珠がじっと見つめる
清珠M(一緒に皇都へ行けばこの喉が治ってまた歌えるように
なる?)
ぶるぶると震える手を清珠が差し出す

けれどもうすぐ黒飛の手に届くところですっと引っ込めた
黒飛「どうした?」
困惑気味に聞く

清珠M(喉が治ってもケガレ憑きの私に、歌なんて許されない)
手をぎゅっと抱きしめ、ふるふると首を振る


黒飛「俺と行けないというのか」
困惑している黒飛に清珠がうんと頷く
黒飛「もしかして、ケガレ憑きだからか」
黒飛の指摘で清珠の身体が大きく震える
清珠M(きっと、この方も私が穢れていると知ったら、こんな
に親切にしてくださらないわ)
怒鳴られるのか殴られるのかと身がまえる

黒飛「ケガレがうつるなどただの迷信だ。皇都では心臓や胃の
腑が悪い奴と同じ扱いだ、気にする必要はない」
あっけらかんと言い放つ

清珠の身体から力が抜ける
片羽「そうですよ、みんな普通に生活しています。うちの隊に
もひとり、元ケガレ憑きがいますからね」
さらに軽い調子で補足する

清珠M(元ってどういうことなのかしら?)
と不思議そう

黒飛「ケガレは儀式で祓えるんだ」
苦笑いで説明する

清珠M(ほんとに!?)
滅茶苦茶驚いた顔をする

清珠M(ケガレはうつる、治らないって聞いてたのに……!)
と、滅茶苦茶混乱する

清珠のそんな様子がおかしいのか、黒飛は笑っている
黒飛「ケガレは祓えるし、そもそもうつらない。だから、安心
していい」
軽く、清珠の手をぽんぽんと叩く

清珠は完全に拍子抜けしている
清珠M(だったら。この喉が治ればまた、歌える?)
じっと黒飛の顔を見上げると

黒飛がうんと頷いた
黒飛「俺と一緒に、こい」
改めて差し出された手に、清珠は自分の手をのせた