「ここが、私たちの訓練場です」
奥にはいると、中では異能を使い戦闘の訓練が行われているようだった。
実際の妖魔の形を模したものなのか、大きな目玉を持ち、複数の生き物が混ざり合ったような外見をした異形の模型に、思わず瑠璃は香月の手を強く握りしめた。
「すいません。怖がらせてしまいましたか?」
「い、いえ……」
本当は怖い。でも、ここにいる人間は皆命がけで戦っているのに、異能の使えない瑠璃が「怖い」と口にすることは、彼らに失礼であると瑠璃は思った。
「瑠璃さんは、妖魔についてどの程度ご存じですか?」
「申し訳ありません。実は、知識が乏しくて……」
「そうですか。一般にはあまり公開されていないので、仕方ありませんね」
瑠璃は、ずっと前から一條家の嫁にくることは決まっていたのに、彼らが戦う相手すら知らなかった瑠璃を、香月は責めはしなかった。
妖魔がどんな生き物なのか――それは、実は香月の言うように一般には公開されていない。
妖魔が基本、醜い異形の化物の姿をしているならば、混乱を避けるためかもしれないと瑠璃は思った。
「妖魔は、人を襲い喰らいます。そして、これには種類があるのです」
「種類?」
「はい。単純に言葉通り、人の肉体を喰らう妖魔。その他に、人の心を喰らう妖魔も存在します。願いを叶えるかわりに、対価を要求するもの――これらは、海の向こうの国ではまた呼び名が変わるそうですが、ひとえに妖魔と言っても、異なる場合があるのです」
香月は、そう言うと刀にそっと手で触れた。
「ただ私たちは、それらの全ての妖魔を倒し、この国を守る役目を負っています」
深く被られた帽子の下で表情はよく見えない。ただ、香月の声に確かな覚悟を感じて、瑠璃は何故か、強く彼という存在に引き寄せられた。
「せっかくですから、私の力もお見せしましょう」
香月はそう言うと、鞘から刀を引き抜いた。
その刀は――。
「炎……?」
ゆらゆらと、青い炎に包まれた刀。
瑠璃はそれを、「綺麗だ」と思った。
「これは、私の扱える『浄化の灯火』です。私たちは、これらの異能を使い妖魔を弱らせたうえで、火の神により鍛えられた刀で魔を祓っています。よければ、触ってみてください」
「触ってもよいのですか!?」
瑠璃が驚きのあまり声を上げれば、香月はくすっと笑った。
「はい、構いませんよ。ただ、刀そのものには触れないようお気をつけください。あくまで炎だけ、で」
香月は、瑠璃が触れられるよう、刀を少し彼女の方へと寄せた。
瑠璃は恐る恐る炎に指先で触れて、思わず目を瞬かせた。
「温かい……?」
その炎は見た目と違い熱くはなく、人肌よりも少しだけ熱を持っているように感じる程度だった。
「はい。この火が燃やすのは妖魔のみ。人や建物を、この火が焼くことはありません。天から賜る力は、皆人それぞれです。ただここにいる誰もが、戦う力を持っている。どうでしょう? ……少しは参考になったでしょうか?」
「は、はい! ありがとうございます!」
香月はそう言うと、鞘に剣を収めた。
瑠璃は香月に礼を言ったあともまだ心が落ち着かず、炎に触れた自分の手をじっと見ていた。
警邏隊の人間の使う異能を間近で見たのは初めてで、瑠璃は少し心が落ち着かなかった。
(……伊織様は、私に力を見せてくださらなかったから)
瑠璃が、いつまでたっても異能を発現させていなかったこその配慮の意味もあったのだろう。
生前、伊織は瑠璃の前で、決して異能を披露することはなかった。
だが瑠璃は、瑠璃が異能を使えないことを知っていても、丁寧に自分の力について教えてくれた香月のことも、嫌いにはなれなかった。
(香月様は伊織様とは違う視点で、私に優しい方なのかもしれないわ)
瑠璃が、一人そう思っていたところ――。
「香月お兄様。もう、『でえと』はよろしくて?」
「!?!?!?」
ひょこ、と現れた沙良に、瑠璃は心臓が跳ねた。
「でも、まだまだです。さあ、香月お兄様! 私たちに戦闘訓練を披露してください! 見惚れるくらいかっこいいところを私たちに見せてください! ……と、お父様からの御達しです!」
「……」
「……」
瑠璃と香月は、明るく宣言した沙良を前に二人して無言になった。だが、これは香月には予想の範囲内ではあったのかもそれない。
香月はまたか、と言わんばかりに深くため息をつくと、瑠璃を見て苦笑いした。
「わかりました。――少しだけ、ですよ」
■
香月が模擬戦を行うということは、警邏隊の全ての人間に一瞬で広まった。
「隊長が戦うらしいぞ!」
「本当か!? それは見ものだな」
「なんでも立候補すれば稽古をつけてくださるのだとか」
「香月様に稽古を!? それは、またとない機会じゃないか!」
「香月様に斬られたい! 蔑みの目で見られたい!」
「それは……お前、香月様にバレたら怒られるだろ」
意見は様々のようである。
「沙良さん、なにか大ごとになっているような――」
「いいじゃない。いいじゃない! こういうのは祭りとして楽しまなきゃ!」
沙良はどこまでも自由だった。
瑠璃と沙良は、香月を見やすい特別席に案内され、飲み物と食べ物を要求してふんぞり返っていた。まるで一国の君主か何かのような振る舞いだ。
「香月お兄様ー! 私、香月お兄様が勝つか負けるか賭けてもいい? あ、その場合お兄様にはいくつか枷をしていただきたいのだけれど~~!」
「賭け事は禁止だ」
「ちえ。お金をかけたら、もっと面白くなると思ったのに〜!」
さらりと香月は沙良のお願いを拒否した。
仲の良い兄妹でないと出ない会話に、瑠璃は今自分がどんな表情をすべきかわからず困惑した。
(ひとまず、私は香月様を応援すべきよね)
香月が無事でありますように――声を上げる勇気はなくとも、そう心の中で願う。
香月は外套と上着を脱いで、隊服の袖を少しまくった。鍛えられた腕には、血管が少し浮いて見える。実に男らしい。
だが、多勢に無勢だ。今、香月の周りには、沢山の男たちが武器を持って立っていた。
「あんなに大勢……。香月様は大丈夫かしら」
「え? 瑠璃お姉様、それは本気でおっしゃっているの?」
沙良は、瑠璃の言葉に驚いているような顔をした。
「香月お兄様が、負けるわけがない。だって香月お兄様は――」
「?」
「一條家の歴代で、最もお強いかもしれないと陛下や父上からも評価されている人なんだから」
「はじめ!」
試合開始の声があがる。
それからは、本当に一瞬だった。
香月は刀を抜くと、肩に炎を纏わせた。
青い炎は、人に触れても体が燃えることはない。本来なら刀が斬ってしまうところも斬れなくなるらしく、まるで木刀での訓練のようでもあった。
香月は体術と剣術で、まるで舞でも踊っているかのように鮮やかに、簡単に倒してしまう。
何十人という男たちが瞬時に倒されたかと思うと、倒れた男たちが引き摺られながら「撤収」され、新しい挑戦者が補給される。
「次」
「次」
「次」
まるで流れ作業だ。
香月は、ちらりと瑠璃の方を見た。そして、自分の番を今か今かと待つ残りの隊員を見て、静かな声で言った。
「――全員で、全力でかかってこい」
わあ、と歓声が上がる。
香月は彼らが自分を囲む間に、唇に指を当て何かを唱えたかと思うと、すっとその指で刀を撫でた。
すると、刀に纏っていた炎が、一瞬強く燃え上がったかと思うと――揺らめきすら消えて、青い光となってピッタリと刀を覆った。
(これまでとは、違う……?)
「今だ! かかれ!」
「おおおおおおおお!!!」
男たちが、一斉に香月へと向かっていく。
香月は少し目を伏せると、膝を折ってそのまま低い位置で一閃した。
すると、刀から青い光の刃のようなものが現れ、それは男たちを全てなぎ倒してしまった。
どうやら、炎は人に触れて「炎として」傷付けることはなくとも、炎を飛ばしての物理攻撃は可能らしい。
「ぐはぁっ!!」
「これで終わりか」
かちゃん、と香月が刀を収めれば、わっと歓声が上がった。
「すごい……」
「どう? すごいでしょ! 香月お兄様は、本当に強くてかっこいいの。……ね、瑠璃お姉様」
沙良は、自慢げに笑い瑠璃に尋ねた。
「お兄様に見惚れちゃった?」
「……っ!」
図星だ。
だって、あまりにも綺麗だったから――。
伊織が戦うところを瑠璃は見たことがないけれど、警邏隊たちの反応を見るに、香月が別格であることは明らかだった。
帝都を守る精鋭すら熱狂させる圧倒的な戦闘力。それは、戦闘員である彼らをまとめるものにとって、圧倒的なカリスマ性だ。
「まとめてかかっても傷一つ負わせられないとは。鍛え方が足らない。明日から訓練を増やさせてもらう」
香月は、積み上がった隊員たちを見てぼそっとそう口にした。
「か……香月様には勝てませんって!」
「後生ですからやめてください! 最近また訓練増やしたばかりではありませんか!」
「強くなることはいいことだろう。私たちは妖魔から人を守るためにいるのだから。人より強くなくては意味がない」
「鬼!!!!!」
(どうやら香月様は、伊織様よりも自分にも他人にも厳しい方みたい……)
瑠璃は、彼らのやりとりを見ながらそう思った。
香月葉瑠璃に対しては柔らかい話し方をするが、ここでははそうではないらしい。
(鬼……鬼隊長?)
「香月様!」
「香月様〜!」
そして訓練を終えた香月のもとには、まだ隊に入って間もなそうな幼い少年たちが、わらわらと群がっていた。
「流石でした!」
「素敵でした!」
「よければ、こちらのお水を」
「抜け駆けするな。香月様、私のを」
「いや僕のを!」
香月は、香月に尽くしたい少年たちを前に無言を貫いていた。
表情筋が殆ど動いていないところを見ると、伊織とは違い、香月は自分への好意への対応が得意ではないようだ。
(伊織様なら、笑顔で対応なさるだろうに)
「瑠璃さん」
「お疲れ様でした。香月様」
香月は結局誰からも受け取らず、そのまま瑠璃のもとへとやってきた。
「……ありがとうございます。瑠璃さん。よければ帰りは私がお送りしますので、少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか。一度身なりを整えてきてからになりそうなのですが――」
瑠璃から見て、香月は殆ど最初と変わらない様に見えたがこだわりがあるらしい。
瑠璃は、香月の言葉にコクリと頷いた。
奥にはいると、中では異能を使い戦闘の訓練が行われているようだった。
実際の妖魔の形を模したものなのか、大きな目玉を持ち、複数の生き物が混ざり合ったような外見をした異形の模型に、思わず瑠璃は香月の手を強く握りしめた。
「すいません。怖がらせてしまいましたか?」
「い、いえ……」
本当は怖い。でも、ここにいる人間は皆命がけで戦っているのに、異能の使えない瑠璃が「怖い」と口にすることは、彼らに失礼であると瑠璃は思った。
「瑠璃さんは、妖魔についてどの程度ご存じですか?」
「申し訳ありません。実は、知識が乏しくて……」
「そうですか。一般にはあまり公開されていないので、仕方ありませんね」
瑠璃は、ずっと前から一條家の嫁にくることは決まっていたのに、彼らが戦う相手すら知らなかった瑠璃を、香月は責めはしなかった。
妖魔がどんな生き物なのか――それは、実は香月の言うように一般には公開されていない。
妖魔が基本、醜い異形の化物の姿をしているならば、混乱を避けるためかもしれないと瑠璃は思った。
「妖魔は、人を襲い喰らいます。そして、これには種類があるのです」
「種類?」
「はい。単純に言葉通り、人の肉体を喰らう妖魔。その他に、人の心を喰らう妖魔も存在します。願いを叶えるかわりに、対価を要求するもの――これらは、海の向こうの国ではまた呼び名が変わるそうですが、ひとえに妖魔と言っても、異なる場合があるのです」
香月は、そう言うと刀にそっと手で触れた。
「ただ私たちは、それらの全ての妖魔を倒し、この国を守る役目を負っています」
深く被られた帽子の下で表情はよく見えない。ただ、香月の声に確かな覚悟を感じて、瑠璃は何故か、強く彼という存在に引き寄せられた。
「せっかくですから、私の力もお見せしましょう」
香月はそう言うと、鞘から刀を引き抜いた。
その刀は――。
「炎……?」
ゆらゆらと、青い炎に包まれた刀。
瑠璃はそれを、「綺麗だ」と思った。
「これは、私の扱える『浄化の灯火』です。私たちは、これらの異能を使い妖魔を弱らせたうえで、火の神により鍛えられた刀で魔を祓っています。よければ、触ってみてください」
「触ってもよいのですか!?」
瑠璃が驚きのあまり声を上げれば、香月はくすっと笑った。
「はい、構いませんよ。ただ、刀そのものには触れないようお気をつけください。あくまで炎だけ、で」
香月は、瑠璃が触れられるよう、刀を少し彼女の方へと寄せた。
瑠璃は恐る恐る炎に指先で触れて、思わず目を瞬かせた。
「温かい……?」
その炎は見た目と違い熱くはなく、人肌よりも少しだけ熱を持っているように感じる程度だった。
「はい。この火が燃やすのは妖魔のみ。人や建物を、この火が焼くことはありません。天から賜る力は、皆人それぞれです。ただここにいる誰もが、戦う力を持っている。どうでしょう? ……少しは参考になったでしょうか?」
「は、はい! ありがとうございます!」
香月はそう言うと、鞘に剣を収めた。
瑠璃は香月に礼を言ったあともまだ心が落ち着かず、炎に触れた自分の手をじっと見ていた。
警邏隊の人間の使う異能を間近で見たのは初めてで、瑠璃は少し心が落ち着かなかった。
(……伊織様は、私に力を見せてくださらなかったから)
瑠璃が、いつまでたっても異能を発現させていなかったこその配慮の意味もあったのだろう。
生前、伊織は瑠璃の前で、決して異能を披露することはなかった。
だが瑠璃は、瑠璃が異能を使えないことを知っていても、丁寧に自分の力について教えてくれた香月のことも、嫌いにはなれなかった。
(香月様は伊織様とは違う視点で、私に優しい方なのかもしれないわ)
瑠璃が、一人そう思っていたところ――。
「香月お兄様。もう、『でえと』はよろしくて?」
「!?!?!?」
ひょこ、と現れた沙良に、瑠璃は心臓が跳ねた。
「でも、まだまだです。さあ、香月お兄様! 私たちに戦闘訓練を披露してください! 見惚れるくらいかっこいいところを私たちに見せてください! ……と、お父様からの御達しです!」
「……」
「……」
瑠璃と香月は、明るく宣言した沙良を前に二人して無言になった。だが、これは香月には予想の範囲内ではあったのかもそれない。
香月はまたか、と言わんばかりに深くため息をつくと、瑠璃を見て苦笑いした。
「わかりました。――少しだけ、ですよ」
■
香月が模擬戦を行うということは、警邏隊の全ての人間に一瞬で広まった。
「隊長が戦うらしいぞ!」
「本当か!? それは見ものだな」
「なんでも立候補すれば稽古をつけてくださるのだとか」
「香月様に稽古を!? それは、またとない機会じゃないか!」
「香月様に斬られたい! 蔑みの目で見られたい!」
「それは……お前、香月様にバレたら怒られるだろ」
意見は様々のようである。
「沙良さん、なにか大ごとになっているような――」
「いいじゃない。いいじゃない! こういうのは祭りとして楽しまなきゃ!」
沙良はどこまでも自由だった。
瑠璃と沙良は、香月を見やすい特別席に案内され、飲み物と食べ物を要求してふんぞり返っていた。まるで一国の君主か何かのような振る舞いだ。
「香月お兄様ー! 私、香月お兄様が勝つか負けるか賭けてもいい? あ、その場合お兄様にはいくつか枷をしていただきたいのだけれど~~!」
「賭け事は禁止だ」
「ちえ。お金をかけたら、もっと面白くなると思ったのに〜!」
さらりと香月は沙良のお願いを拒否した。
仲の良い兄妹でないと出ない会話に、瑠璃は今自分がどんな表情をすべきかわからず困惑した。
(ひとまず、私は香月様を応援すべきよね)
香月が無事でありますように――声を上げる勇気はなくとも、そう心の中で願う。
香月は外套と上着を脱いで、隊服の袖を少しまくった。鍛えられた腕には、血管が少し浮いて見える。実に男らしい。
だが、多勢に無勢だ。今、香月の周りには、沢山の男たちが武器を持って立っていた。
「あんなに大勢……。香月様は大丈夫かしら」
「え? 瑠璃お姉様、それは本気でおっしゃっているの?」
沙良は、瑠璃の言葉に驚いているような顔をした。
「香月お兄様が、負けるわけがない。だって香月お兄様は――」
「?」
「一條家の歴代で、最もお強いかもしれないと陛下や父上からも評価されている人なんだから」
「はじめ!」
試合開始の声があがる。
それからは、本当に一瞬だった。
香月は刀を抜くと、肩に炎を纏わせた。
青い炎は、人に触れても体が燃えることはない。本来なら刀が斬ってしまうところも斬れなくなるらしく、まるで木刀での訓練のようでもあった。
香月は体術と剣術で、まるで舞でも踊っているかのように鮮やかに、簡単に倒してしまう。
何十人という男たちが瞬時に倒されたかと思うと、倒れた男たちが引き摺られながら「撤収」され、新しい挑戦者が補給される。
「次」
「次」
「次」
まるで流れ作業だ。
香月は、ちらりと瑠璃の方を見た。そして、自分の番を今か今かと待つ残りの隊員を見て、静かな声で言った。
「――全員で、全力でかかってこい」
わあ、と歓声が上がる。
香月は彼らが自分を囲む間に、唇に指を当て何かを唱えたかと思うと、すっとその指で刀を撫でた。
すると、刀に纏っていた炎が、一瞬強く燃え上がったかと思うと――揺らめきすら消えて、青い光となってピッタリと刀を覆った。
(これまでとは、違う……?)
「今だ! かかれ!」
「おおおおおおおお!!!」
男たちが、一斉に香月へと向かっていく。
香月は少し目を伏せると、膝を折ってそのまま低い位置で一閃した。
すると、刀から青い光の刃のようなものが現れ、それは男たちを全てなぎ倒してしまった。
どうやら、炎は人に触れて「炎として」傷付けることはなくとも、炎を飛ばしての物理攻撃は可能らしい。
「ぐはぁっ!!」
「これで終わりか」
かちゃん、と香月が刀を収めれば、わっと歓声が上がった。
「すごい……」
「どう? すごいでしょ! 香月お兄様は、本当に強くてかっこいいの。……ね、瑠璃お姉様」
沙良は、自慢げに笑い瑠璃に尋ねた。
「お兄様に見惚れちゃった?」
「……っ!」
図星だ。
だって、あまりにも綺麗だったから――。
伊織が戦うところを瑠璃は見たことがないけれど、警邏隊たちの反応を見るに、香月が別格であることは明らかだった。
帝都を守る精鋭すら熱狂させる圧倒的な戦闘力。それは、戦闘員である彼らをまとめるものにとって、圧倒的なカリスマ性だ。
「まとめてかかっても傷一つ負わせられないとは。鍛え方が足らない。明日から訓練を増やさせてもらう」
香月は、積み上がった隊員たちを見てぼそっとそう口にした。
「か……香月様には勝てませんって!」
「後生ですからやめてください! 最近また訓練増やしたばかりではありませんか!」
「強くなることはいいことだろう。私たちは妖魔から人を守るためにいるのだから。人より強くなくては意味がない」
「鬼!!!!!」
(どうやら香月様は、伊織様よりも自分にも他人にも厳しい方みたい……)
瑠璃は、彼らのやりとりを見ながらそう思った。
香月葉瑠璃に対しては柔らかい話し方をするが、ここでははそうではないらしい。
(鬼……鬼隊長?)
「香月様!」
「香月様〜!」
そして訓練を終えた香月のもとには、まだ隊に入って間もなそうな幼い少年たちが、わらわらと群がっていた。
「流石でした!」
「素敵でした!」
「よければ、こちらのお水を」
「抜け駆けするな。香月様、私のを」
「いや僕のを!」
香月は、香月に尽くしたい少年たちを前に無言を貫いていた。
表情筋が殆ど動いていないところを見ると、伊織とは違い、香月は自分への好意への対応が得意ではないようだ。
(伊織様なら、笑顔で対応なさるだろうに)
「瑠璃さん」
「お疲れ様でした。香月様」
香月は結局誰からも受け取らず、そのまま瑠璃のもとへとやってきた。
「……ありがとうございます。瑠璃さん。よければ帰りは私がお送りしますので、少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか。一度身なりを整えてきてからになりそうなのですが――」
瑠璃から見て、香月は殆ど最初と変わらない様に見えたがこだわりがあるらしい。
瑠璃は、香月の言葉にコクリと頷いた。

