私この度、愛した人の弟と結婚することになりました。

 瑠璃が、朱桜帝から呼び出され、参内《さんだい》してから少し経ってのことだった。
 瑠璃のもとには、朱桜帝から金銀財宝、美しい衣が届けられ、それはまるで皇家の姫のような扱いだった。
 香月や宗次郎はその品を見て少し表情を曇らせていたが、瑠璃が沙良と出かけた際、助けた相手が朱桜帝だと聞いて、瑠璃の優しい心が齎した福なのだろうと彼らは言った。

 ……それから、また少し経ってからのことである。
 朱桜帝から瑠璃に、贈り物を身に着けて、白藤家の宴に参加するよう連絡があった。

 瑠璃は、白藤家を訪れるのはそれが初めてだった。
 白藤家はそ異能もあり、あまり表には出てこない家系なのだ。
 身を守るすべを持つ橘家や一條家とは異なり、『治癒の異能は他者に利用されやすい。
 故に彼らが人を招くのは珍しいと、宗次郎は瑠璃に教えてくれた。

「香月が当主となったときのことを思えば、瑠璃ちゃんの顔を知ってもらうことは大事だと思う。白藤家と関わりがある家なら、信頼できるはずだしね」

 宗次郎の話を聞いて、瑠璃は宴の日のために、改めて作法を学んだ。

(一條家の方々のためにも、印象を良くしなくては)

 ずっとそれだけが、瑠璃の頭にはあった。



 白藤の名の通り、屋敷には美しい藤の花が咲いていた。
 宴は夜ではなく昼に行われるということで、花見も兼ねたものらしかった。
 穏やかな気候のなかで、酒を酌み交わしながら、人々が談笑している。
 
 瑠璃は、正直あまりこういう場所が得意ではないな、と思った。
 それには一つ理由がある。
 不思議なことに屋敷に入ってからずっと、白藤家の当主である老人が、瑠璃をじっと見つめていたからだ。
 香月と話をしていても、食事をしていても――何故かずっと、視線を感じる。 
 もしかして、橘の家できちんと作法を学べなかったがために、無作法があったのではと思うと、瑠璃は食事に味を感じなくなってしまった。

「香月様。少し、風に当たってきてもよろしいですか?」
「なら、ご一緒します」
「いえ、その……少し、向かいたいところもありますので」

 瑠璃はそう言うと、席を経って庭を歩くことにした。
 見れば見るほど美しい庭だ。一條家も橘家も美しい造りではあるものの、白藤家には及ばない。
 外の世界と遮断されたような、隔絶された世界で守られ構築される浮世離れした美しさは、普通の優美さとは、どこか違うように瑠璃は感じた。

 屋敷には蝶が飛ぶ。
 中には不思議ときらきらと輝くものがいて、瑠璃がその蝶に触れると、何故か一斉に、蝶が瑠璃の周りに集まってきた。

「!?」

 瑠璃は混乱した。もしかして、触ってはならないものだったのかもしれない。

(どうしよう。私、また香月様たちにご迷惑を――)
 
 瑠璃が、そう思っていたその時だった。
 年老いた白髪の女性が、瑠璃を見て誰かの名前を呟いた。そして彼女は、蝶に囲まれた瑠璃を強く抱きしめて涙をこぼした。

「ああ……! ああ! やっと、やっと戻ってきてくれたのね。私の……私の愛しい娘!」