「まあ、沙良も反省したみたいですし、当初の予定を行いますか?」
「そうだな」
沙良が食事を終えてから、瑠璃は香月たちと一緒に、庭へと連れて行かれた。
庭にはいくつかの、植える前の木の苗などが置かれていた。
「えへへ。瑠璃お姉様大好き」
沙良は、瑠璃だけが母以外に自分に味方してくれたこともあり、瑠璃のそばを離れなかった。
「まったく、沙良はすっかり瑠璃ちゃんにべったりねえ」
「だって優しいんだもの! 私が男だったら、私が瑠璃お姉様と結婚してたのに」
「『白藤のおじさま』が悲しむぞ」
「ちっちっち。お兄様、わかってないわね!」
沙良は、ニヤッと笑って爆弾発言をした。
「私もおじさまも御三家! だから私は、瑠璃お姉様とおじさま、両方嫁にするわ!」
「いやあ。流石に男は、嫁にはできないんじゃないかな……」
「何をいうのお父様。差別は駄目よ」
「いや、そもそもこの制度は、結婚が目的というより……」
宗次郎は、完全回復した沙良との問答に頭を悩ませていた。
「すみません。瑠璃さん。こんな妹で……」
香月は、それを眺めながら遠い目をしていた。
ただ、瑠璃が気になったのは――。
(そうか。香月様も、他の方を妻に迎えられる可能性はあるのよね……)
そう思うと、瑠璃は何故か心がざわついた。
(……この感情は、なに?)
香月と瑠璃は、親同士が決めた結婚相手だ。
二人は御三家で、香月は、複数の妻を取ることを許されているというのに。
瑠璃は、香月が自分以外に微笑むことを、想像したくなかった。
「それで……これから、何をなさるのですか?」
苗を前に瑠璃が尋ねれば、宗次郎が答えてくれた。
「今日は、木を植えようと思って」
「木……ですか?」
それなら、庭師に任せておけばよいはずだ。だって彼らは『一條家』なのだから。
「はい。瑠璃さんの木を、この庭に植えるんです」
「うちの家ではね、みんな家族の木を植える決まりなの!」
瑠璃は、二人の話を聞いてどくん、と胸が鳴る音を聞いた。
(家族……? この方々は、私をずっと家族として大切にしてくださると、そう言っているの?)
「いくつか木を見繕っておきましたので、その中から選んでいただけたらと」
「ちなみに今回の木は、一つは私、一つは美月お義母様、もう一つは香月お兄様が選んだものなの! どれを誰が選んだかは内緒ね!」
沙良は、瑠璃の手を取って明るく笑う。それからそのまま、瑠璃を細い木に案内した。
「この木は、幹がツルツルしていますね」
1つ目の木は、幹が不思議な感触だった。
「この木は、以前本で読んだ林檎の木の葉によく似ている気がします」
瑠璃は、二本目の木の葉を見てそうつぶやいた。そして、三本目の木を観察しようとしたところで。
「この木は――」
「この木は『ルリミノキ』といって、白い花が咲いたあとに、瑠璃色の実を宿す木です」
香月が、横から瑠璃に言った。
(白い花が割いて、瑠璃色の実がなるなんて――)
まるで、瑠璃が嬉しい全部を詰めたような木ではないか。瑠璃はすぐに心を決めた。
「この木にします」
瑠璃が言うと、沙良が香月をビシッと指さした。
「ずるいわ。香月お兄様! 自分が選んだ木を教えたようなものじゃない!」
「お前が選んだ木より、瑠璃さんが気に入られた。それだけだろう」
香月は、腕組したままそう言い捨てた。
「何よ! お兄様の馬鹿! サルスベリの木、って可愛いと思ったのに!」
「私もヒメリンゴが可愛いと思ったのに!」
沙良と美月はご不満のようだった。そして、そこは三人の妻がいる男。女性の扱いは、宗次郎はお手の物だった。
「まあ、それはまた別邸に植えてあげるから……」
「お父様大好き! 沙良、どんな気に育つか見てみたかったの!」
「流石旦那様!」
沙良と美月は、すぐに機嫌を取り戻した。
瑠璃と香月はその間に、二人で土を掘って木を埋めることにした。
「この庭で、貴方の花が咲いて実がなるのを、これから一緒に見ていきましょう」
「……はい」
香月が、苗にそっと土をかぶせるのを見つめながら、瑠璃は静かに頷いた。
■
――大裏。
桜霞国の当代の帝――朱桜帝は、一人東屋で青い手巾を手に考え込んでいた。
帝とはいっても、年をとるとどうも身体が動かない。彼としては己が死ぬ前に、息子に位を譲りたいとも考えていた。
彼には、自分の人生へいくつかの後悔があった。
位を譲ったら、その後悔を清算したいと考えていた。
そこへ、自身が跡継ぎとして指名した、中宮の息子である東宮がやってきた。
「陛下、加減がよろしいようですね。聞いていたより、お体の調子が良さそうで安心しました。今日はまだ、白藤家の方はいらしていないはずですが――何かあったのですか?」
東宮は、朱桜帝が誰より信をおく男だ。
だからこそ――彼は、東宮になら話してもよいと思った。
「見てくれ。おかしいんだ。どうしてこの糸は、こんなにも光っているんだ?」
「この手巾は?」
東宮は、手巾を見て傾げていた。
「街で、私を看病してくれた少女がくれたものなんだ」
「陛下がお忍びの時に体調を崩された際、助けてくれたという、あの少女ですか……?」
東宮は、そっと手巾に触れ――彼の異能により解析を行ったあと、びくっと体をはねさせた。
「陛下! 信じられないことですが、僅かですがこの刺繍から、『治癒』の力を感じます」
「……まさか!」
男は、東宮の言葉が信じられなかった。
桜霞国の御三家、治癒の異能の白藤家。
その当主の愛した娘が行方知れずとなり、約三十年。もしその娘が生きていたなら、生きていたなら、今ごろ子どもがいても――。
「なんてことだ。もしそれが本当なら――」
刺繍されているのは橘と藤。
その二つを自ら刺繍してもおかしくない令嬢を、彼は一人だけ知っていた。
その母は紫の色を名を持ち、橘和臣が愛し、妖魔から娘を守り食い殺された。
親と外見が似ていなかったからこそ、彼女は不義の子だと罵られた。
「思い出せ、思い出せ……」
男は頭を抑え、朧気な記憶の中で、自分に飲み物と飴を差し出した少女の顔を思い出した。
そして気づく。その少女の顔が、現在の白藤家の当主の愛する妻の若い頃に、瓜二つだったということを。
「まさかあの少女は、一條家に嫁いだ橘家の娘なのか? そして……彼女は、もしかしたら白藤の――」
「そうだな」
沙良が食事を終えてから、瑠璃は香月たちと一緒に、庭へと連れて行かれた。
庭にはいくつかの、植える前の木の苗などが置かれていた。
「えへへ。瑠璃お姉様大好き」
沙良は、瑠璃だけが母以外に自分に味方してくれたこともあり、瑠璃のそばを離れなかった。
「まったく、沙良はすっかり瑠璃ちゃんにべったりねえ」
「だって優しいんだもの! 私が男だったら、私が瑠璃お姉様と結婚してたのに」
「『白藤のおじさま』が悲しむぞ」
「ちっちっち。お兄様、わかってないわね!」
沙良は、ニヤッと笑って爆弾発言をした。
「私もおじさまも御三家! だから私は、瑠璃お姉様とおじさま、両方嫁にするわ!」
「いやあ。流石に男は、嫁にはできないんじゃないかな……」
「何をいうのお父様。差別は駄目よ」
「いや、そもそもこの制度は、結婚が目的というより……」
宗次郎は、完全回復した沙良との問答に頭を悩ませていた。
「すみません。瑠璃さん。こんな妹で……」
香月は、それを眺めながら遠い目をしていた。
ただ、瑠璃が気になったのは――。
(そうか。香月様も、他の方を妻に迎えられる可能性はあるのよね……)
そう思うと、瑠璃は何故か心がざわついた。
(……この感情は、なに?)
香月と瑠璃は、親同士が決めた結婚相手だ。
二人は御三家で、香月は、複数の妻を取ることを許されているというのに。
瑠璃は、香月が自分以外に微笑むことを、想像したくなかった。
「それで……これから、何をなさるのですか?」
苗を前に瑠璃が尋ねれば、宗次郎が答えてくれた。
「今日は、木を植えようと思って」
「木……ですか?」
それなら、庭師に任せておけばよいはずだ。だって彼らは『一條家』なのだから。
「はい。瑠璃さんの木を、この庭に植えるんです」
「うちの家ではね、みんな家族の木を植える決まりなの!」
瑠璃は、二人の話を聞いてどくん、と胸が鳴る音を聞いた。
(家族……? この方々は、私をずっと家族として大切にしてくださると、そう言っているの?)
「いくつか木を見繕っておきましたので、その中から選んでいただけたらと」
「ちなみに今回の木は、一つは私、一つは美月お義母様、もう一つは香月お兄様が選んだものなの! どれを誰が選んだかは内緒ね!」
沙良は、瑠璃の手を取って明るく笑う。それからそのまま、瑠璃を細い木に案内した。
「この木は、幹がツルツルしていますね」
1つ目の木は、幹が不思議な感触だった。
「この木は、以前本で読んだ林檎の木の葉によく似ている気がします」
瑠璃は、二本目の木の葉を見てそうつぶやいた。そして、三本目の木を観察しようとしたところで。
「この木は――」
「この木は『ルリミノキ』といって、白い花が咲いたあとに、瑠璃色の実を宿す木です」
香月が、横から瑠璃に言った。
(白い花が割いて、瑠璃色の実がなるなんて――)
まるで、瑠璃が嬉しい全部を詰めたような木ではないか。瑠璃はすぐに心を決めた。
「この木にします」
瑠璃が言うと、沙良が香月をビシッと指さした。
「ずるいわ。香月お兄様! 自分が選んだ木を教えたようなものじゃない!」
「お前が選んだ木より、瑠璃さんが気に入られた。それだけだろう」
香月は、腕組したままそう言い捨てた。
「何よ! お兄様の馬鹿! サルスベリの木、って可愛いと思ったのに!」
「私もヒメリンゴが可愛いと思ったのに!」
沙良と美月はご不満のようだった。そして、そこは三人の妻がいる男。女性の扱いは、宗次郎はお手の物だった。
「まあ、それはまた別邸に植えてあげるから……」
「お父様大好き! 沙良、どんな気に育つか見てみたかったの!」
「流石旦那様!」
沙良と美月は、すぐに機嫌を取り戻した。
瑠璃と香月はその間に、二人で土を掘って木を埋めることにした。
「この庭で、貴方の花が咲いて実がなるのを、これから一緒に見ていきましょう」
「……はい」
香月が、苗にそっと土をかぶせるのを見つめながら、瑠璃は静かに頷いた。
■
――大裏。
桜霞国の当代の帝――朱桜帝は、一人東屋で青い手巾を手に考え込んでいた。
帝とはいっても、年をとるとどうも身体が動かない。彼としては己が死ぬ前に、息子に位を譲りたいとも考えていた。
彼には、自分の人生へいくつかの後悔があった。
位を譲ったら、その後悔を清算したいと考えていた。
そこへ、自身が跡継ぎとして指名した、中宮の息子である東宮がやってきた。
「陛下、加減がよろしいようですね。聞いていたより、お体の調子が良さそうで安心しました。今日はまだ、白藤家の方はいらしていないはずですが――何かあったのですか?」
東宮は、朱桜帝が誰より信をおく男だ。
だからこそ――彼は、東宮になら話してもよいと思った。
「見てくれ。おかしいんだ。どうしてこの糸は、こんなにも光っているんだ?」
「この手巾は?」
東宮は、手巾を見て傾げていた。
「街で、私を看病してくれた少女がくれたものなんだ」
「陛下がお忍びの時に体調を崩された際、助けてくれたという、あの少女ですか……?」
東宮は、そっと手巾に触れ――彼の異能により解析を行ったあと、びくっと体をはねさせた。
「陛下! 信じられないことですが、僅かですがこの刺繍から、『治癒』の力を感じます」
「……まさか!」
男は、東宮の言葉が信じられなかった。
桜霞国の御三家、治癒の異能の白藤家。
その当主の愛した娘が行方知れずとなり、約三十年。もしその娘が生きていたなら、生きていたなら、今ごろ子どもがいても――。
「なんてことだ。もしそれが本当なら――」
刺繍されているのは橘と藤。
その二つを自ら刺繍してもおかしくない令嬢を、彼は一人だけ知っていた。
その母は紫の色を名を持ち、橘和臣が愛し、妖魔から娘を守り食い殺された。
親と外見が似ていなかったからこそ、彼女は不義の子だと罵られた。
「思い出せ、思い出せ……」
男は頭を抑え、朧気な記憶の中で、自分に飲み物と飴を差し出した少女の顔を思い出した。
そして気づく。その少女の顔が、現在の白藤家の当主の愛する妻の若い頃に、瓜二つだったということを。
「まさかあの少女は、一條家に嫁いだ橘家の娘なのか? そして……彼女は、もしかしたら白藤の――」

