「とても綺麗な場所ですね」
瑠璃が香月に案内されたのは、意外とお洒落な店だった。
「『喫茶店』、というそうです。この店は、海外の内装を取り入れていることで最近人気が高いとか。あの鮮やかな装飾は『ステンドグラス』というそうで、海外では神を祀る場所などに使われているものだそうです」
「異国はそれほど華やかなのですね。なるほど、とても素敵です」
伊織と出かけるときは、瑠璃が好きそうな花の咲く場所だとか、一條のお屋敷を歩いて話すくらいだったので、こうして人の多い場所に異性と来たのは、瑠璃は実は初めてだった。
喫茶店の中は少し薄暗く、どこか冷たい空気が漂っていた。
外の春の陽気とは違う、冷たさ。
香月と瑠璃が店に着くと、すぐに品物が運ばれてきた。
「? もう品が出てくるのですか?」
「はい。私たちが来たら、すぐ出すよう頼んでおりましたので」
どうやら店と先に話を合わせておいたらしい。
瑠璃は少し驚きながらも、運ばれてきた料理を前に感嘆の息を漏らした。
「これは?」
「『ラムネ』と『アイス』というものだそうです。ラムネは、私がこれからお開けしますね」
香月はそう言うと、栓の代わりになっていたガラスの玉を押した。すると、瓶の中で水泡が上がっていく。
「注ぎますね」
「!」
瑠璃は、初めて見る光景に目を輝かせた。
器に注がれた液体は、まだパチパチと泡を弾かせているように見えた。
「飲んでみてください」
「い……いただきます!」
瑠璃は、ぐいっとラムネを煽り、それからその液体が喉を通る感覚に、目を大きく見開いた。
(すごい。知らない感覚だわ。これは一体何なの?)
「いかがでしたか?」
「すごく、美味しいです。でも、不思議な感覚で、どう言い表していいか――」
瑠璃がうーんと頭を悩ませていたら、香月がぼそっと言った。
「『しゅわしゅわ』?」
「それです! まさに、その言葉がとても合っている気がします!」
瑠璃は、ピッタリの言葉を見つけて心が弾んだ。
(そう! しゅわしゅわ、だわ。この感覚は……)
「お気に召したようでよかったです。では、次はこちらをお試しください」
香月はそう言うと、器に盛られた薄っすら黄みがかった白い塊をさした。
瑠璃は恐る恐る一口食べて――その美味しさに感激した。
「美味しいです!」
「それは良かった」
香月は優しい声で言う。
「香月様、これは一体何でできているのでしょうか?」
「たしか、牛の乳と蜂蜜、鶏卵で作られていると聞きました。細かい製法については私は聞いておりませんが、どうやらかなり冷やす必要があるそうで、店に並ぶようになったのは最近のことだそうです」
「……冷やす?」
それはつまり、氷だろうか。
瑠璃はそう思って、きょとんとした。
「もしかして、これはとても高価な食べ物なのですか……!?」
春の時期の氷の値段は高い。
瑠璃の記憶が正しければそのはずだ。
「大丈夫ですよ。一般的に、氷は貴重品とされていましたが、今の帝都には氷の異能を使えるものがおりますので。氷室から氷を運ぶ必要もなく、この店でも安価に提供できるようになったそうですので」
瑠璃は、その話を聞いて安堵した。
そして、その続きの話を聞いて驚いた。
「実は、その氷を作っているのは、除隊した隊員なんです」
「え?」
「さまざまな事情で隊を抜けるものはおります。その人間によると、この菓子を作るという特需によって、家計が以前より助かっているとのことでした」
伊月は、かつて国防を担っていた人間がその力をお菓子作りに使っていても、特に気にしていないようだった。
「実は、これは兄上の発案なんです」
香月の話を聞きながらアイスを食べていた瑠璃は、その言葉にピタッと動きをとめた。
「これからの時代は、戦うだけではなく、その力を活かすことのできる場所を広げるべきだと。海の外の人々にも門戸を開くなら、時代の変化を受け入れるべきだと――私と違って、昔から兄上はこういう人が好みそうなものもよく知っていて、それで――」
香月は、話の途中で瑠璃の顔を見て話をとめた。
瑠璃は、香月もわざとではないのだろう、と思った。伊織は、昔からそういう人だった。
華やかで、人を魅了する知性のある人だった。瑠璃の知識が、伊織から与えられたものが多いように、香月も兄から聞いた話を、自らの教養としている。ただ、それだけ。
「……申し訳ありません」
香月は一言謝ると、食べ終わった瑠璃にすぐに店を出るよう案内した。
「次の場所へ行きましょう」
「香月様、次はどちらに行かれるのですか?」
瑠璃の問いに、香月は淡々と答えた。
「次は『見世物小屋』、です」
「見世物小屋ですか? 香月様は行かれたことが?」
何があるのか、瑠璃には見当もつかなかった。
「いえ、実は私も初めてで。父が面白いから、一度は行ってみるよう言っていて――」
「では、今日は香月様と一緒に初めてを体験できるのですね。私、とても嬉しいです」
瑠璃がそういえば、香月はピタッと足を止めて唾を飲み込んだ。
「香月様? どうかなさいましたか?」
「い、いえ……」
心なしか耳が赤い。
瑠璃と香月は、そこから目的の場所まで少し歩くことにした。
そして二人は、『見世物小屋』の奇天烈な看板を前に立ち止まった。
「これ、は……」
瑠璃は、言葉に困った。
こんな派手で妙な看板は見たことがない。
「瑠璃さん、やめましょう。ここは、貴方を連れてくるべき場所ではない気がします」
だが、そう言われると気になるのが人間だ。
瑠璃は、香月に『お願い』した。
「入ってみたいです!」
(知らなかった『外の世界』を、私はもっと知りたい!)
■
見世物小屋は、中もまた刺激的なものが多かった。
まさしくその名の通りさまざまな『見世物』――海外の絵や人形、動物を使った出し物や、手品などもあった。
「香月様! 香月様! すごいです!」
瑠璃はなかでも手品がお気に入りで、『まほう』のような動きに、子どものようにはしゃいでいた。
「あれなら……私だって、努力すれば……」
香月が、そんな瑠璃を見てブツブツ呟いていると、手品師が瑠璃の前にぽん! と何もないところから花を出した。
「美しいお嬢さんに」
「ありがとうございます!」
瑠璃が礼を言い、観客たちがわっと歓声を上げる。
「瑠璃さん、他のものも見に行きましょう」
まだ芸は終わっていないのに、珍しく香月は瑠璃を置いて立ち上がった。
瑠璃は、慌てて花を抱えて香月を追った。
「待ってください。香月様!」
(私、何か香月様の機嫌を損ねるようなことをしたのかしら?)
瑠璃がそう思っていると、香月が振り返って、瑠璃の花を見つめていった。
「花がお好きであれば、私が毎日贈ります」
「え?」
瑠璃は、思わず目を丸くした。
これではまるで――。
(もしかして……香月様は、先ほどの方に嫉妬されたというの?)
「それは大丈夫……です」
「何故ですか? 私より、彼に貰うもののほうが嬉しいのですか……?」
「その、香月様にはすでに、沢山のものをいただいているので……」
瑠璃は、そう言うと頬を染めた。
香月からもらって嬉しかったのは、ものだけじゃない。
感情や行動。瑠璃を気遣う香月の全てに、瑠璃は心から感謝していた。
「……そう、ですか」
「はい……」
「…………」
だが、元々あまり言葉の少ない二人である。
香月は瑠璃の表情に驚いた後に頬をかき、それから二人は、沈黙したまま歩を進めた。
見世物小屋の最後には、入り口で宣伝していた人魚の木乃伊《ミイラ》が置かれていた。
「香月様……これは?」
「これが、入り口で宣伝していた人魚の剥製ですね。顔は人面、体は魚――というのが一般的でしょうか。桜霞国の場合、人魚を食べた人間が不老長寿になった――というような話がありますが、我が国に限らず、他国にも人魚にまつわる話は古くからあるそうです」
「では、これは本物なのですか!?」
奇妙な物体だ。だが、不思議なことに心惹かれてしまう瑠璃は、目を輝かせた。
「いえ、おそらく作り物でしょう」
「形状を見るに、猿などの頭蓋骨に魚の鱗などを組み合わせたものでしょう」
「そうなのですか。残念です……」
瑠璃はしゅんとして肩を落とした。
「ちなみにその人魚には、他国ではどんな逸話があるのですか?」
「そうですね」
香月は少し考えた後に、ぼそっと小さな声で瑠璃に教えた。
「……船の難破により海でおぼれた王子が、助けた人間の姫と結ばれて、幸せになるお話でしょうか」
「……?」
瑠璃は、香月の返事を聞いて少し疑問に思ってしまった。
「そのお話に、人魚の姫はいつ出てくるのですか?」
瑠璃の質問に、香月は答えずに曖昧に笑うだけだった。
■
「楽しかったですね! 香月様!」
入り口を見たときは躊躇してしまったけれど、見たことがないものが沢山見られて楽しかった。
瑠璃は、笑顔で香月に言った。
「香月様」
気持ちが明るくなった瑠璃は、見世物小屋から出て、香月にとあるお願いをしてみることにした。
「よければ私に、服を贈ってくださいませんか?」
「げほっ!」
突然の瑠璃の言葉に、香月は咳込んだ。
「る、瑠璃さん……?」
「香月様に、私に似合うと思う服を選んでいただきたいんです」
「あの、申し訳ありません……。何故そう思われたか、お尋ねしてもいいですか?」
香月の顔には困惑、という言葉が貼ってあるようだった。瑠璃は、その理由がよく分からなかった。
「沙良さんが、男性は女性に自分の贈った服を着てもらえると喜ぶと話されていたので」
にっこりと、可憐な少女のような笑顔で、瑠璃は香月に言った。
「香月様に選んだ服を着て、毎日香月様のお帰りをお待ちしたいと思ったんです」
瑠璃が香月に案内されたのは、意外とお洒落な店だった。
「『喫茶店』、というそうです。この店は、海外の内装を取り入れていることで最近人気が高いとか。あの鮮やかな装飾は『ステンドグラス』というそうで、海外では神を祀る場所などに使われているものだそうです」
「異国はそれほど華やかなのですね。なるほど、とても素敵です」
伊織と出かけるときは、瑠璃が好きそうな花の咲く場所だとか、一條のお屋敷を歩いて話すくらいだったので、こうして人の多い場所に異性と来たのは、瑠璃は実は初めてだった。
喫茶店の中は少し薄暗く、どこか冷たい空気が漂っていた。
外の春の陽気とは違う、冷たさ。
香月と瑠璃が店に着くと、すぐに品物が運ばれてきた。
「? もう品が出てくるのですか?」
「はい。私たちが来たら、すぐ出すよう頼んでおりましたので」
どうやら店と先に話を合わせておいたらしい。
瑠璃は少し驚きながらも、運ばれてきた料理を前に感嘆の息を漏らした。
「これは?」
「『ラムネ』と『アイス』というものだそうです。ラムネは、私がこれからお開けしますね」
香月はそう言うと、栓の代わりになっていたガラスの玉を押した。すると、瓶の中で水泡が上がっていく。
「注ぎますね」
「!」
瑠璃は、初めて見る光景に目を輝かせた。
器に注がれた液体は、まだパチパチと泡を弾かせているように見えた。
「飲んでみてください」
「い……いただきます!」
瑠璃は、ぐいっとラムネを煽り、それからその液体が喉を通る感覚に、目を大きく見開いた。
(すごい。知らない感覚だわ。これは一体何なの?)
「いかがでしたか?」
「すごく、美味しいです。でも、不思議な感覚で、どう言い表していいか――」
瑠璃がうーんと頭を悩ませていたら、香月がぼそっと言った。
「『しゅわしゅわ』?」
「それです! まさに、その言葉がとても合っている気がします!」
瑠璃は、ピッタリの言葉を見つけて心が弾んだ。
(そう! しゅわしゅわ、だわ。この感覚は……)
「お気に召したようでよかったです。では、次はこちらをお試しください」
香月はそう言うと、器に盛られた薄っすら黄みがかった白い塊をさした。
瑠璃は恐る恐る一口食べて――その美味しさに感激した。
「美味しいです!」
「それは良かった」
香月は優しい声で言う。
「香月様、これは一体何でできているのでしょうか?」
「たしか、牛の乳と蜂蜜、鶏卵で作られていると聞きました。細かい製法については私は聞いておりませんが、どうやらかなり冷やす必要があるそうで、店に並ぶようになったのは最近のことだそうです」
「……冷やす?」
それはつまり、氷だろうか。
瑠璃はそう思って、きょとんとした。
「もしかして、これはとても高価な食べ物なのですか……!?」
春の時期の氷の値段は高い。
瑠璃の記憶が正しければそのはずだ。
「大丈夫ですよ。一般的に、氷は貴重品とされていましたが、今の帝都には氷の異能を使えるものがおりますので。氷室から氷を運ぶ必要もなく、この店でも安価に提供できるようになったそうですので」
瑠璃は、その話を聞いて安堵した。
そして、その続きの話を聞いて驚いた。
「実は、その氷を作っているのは、除隊した隊員なんです」
「え?」
「さまざまな事情で隊を抜けるものはおります。その人間によると、この菓子を作るという特需によって、家計が以前より助かっているとのことでした」
伊月は、かつて国防を担っていた人間がその力をお菓子作りに使っていても、特に気にしていないようだった。
「実は、これは兄上の発案なんです」
香月の話を聞きながらアイスを食べていた瑠璃は、その言葉にピタッと動きをとめた。
「これからの時代は、戦うだけではなく、その力を活かすことのできる場所を広げるべきだと。海の外の人々にも門戸を開くなら、時代の変化を受け入れるべきだと――私と違って、昔から兄上はこういう人が好みそうなものもよく知っていて、それで――」
香月は、話の途中で瑠璃の顔を見て話をとめた。
瑠璃は、香月もわざとではないのだろう、と思った。伊織は、昔からそういう人だった。
華やかで、人を魅了する知性のある人だった。瑠璃の知識が、伊織から与えられたものが多いように、香月も兄から聞いた話を、自らの教養としている。ただ、それだけ。
「……申し訳ありません」
香月は一言謝ると、食べ終わった瑠璃にすぐに店を出るよう案内した。
「次の場所へ行きましょう」
「香月様、次はどちらに行かれるのですか?」
瑠璃の問いに、香月は淡々と答えた。
「次は『見世物小屋』、です」
「見世物小屋ですか? 香月様は行かれたことが?」
何があるのか、瑠璃には見当もつかなかった。
「いえ、実は私も初めてで。父が面白いから、一度は行ってみるよう言っていて――」
「では、今日は香月様と一緒に初めてを体験できるのですね。私、とても嬉しいです」
瑠璃がそういえば、香月はピタッと足を止めて唾を飲み込んだ。
「香月様? どうかなさいましたか?」
「い、いえ……」
心なしか耳が赤い。
瑠璃と香月は、そこから目的の場所まで少し歩くことにした。
そして二人は、『見世物小屋』の奇天烈な看板を前に立ち止まった。
「これ、は……」
瑠璃は、言葉に困った。
こんな派手で妙な看板は見たことがない。
「瑠璃さん、やめましょう。ここは、貴方を連れてくるべき場所ではない気がします」
だが、そう言われると気になるのが人間だ。
瑠璃は、香月に『お願い』した。
「入ってみたいです!」
(知らなかった『外の世界』を、私はもっと知りたい!)
■
見世物小屋は、中もまた刺激的なものが多かった。
まさしくその名の通りさまざまな『見世物』――海外の絵や人形、動物を使った出し物や、手品などもあった。
「香月様! 香月様! すごいです!」
瑠璃はなかでも手品がお気に入りで、『まほう』のような動きに、子どものようにはしゃいでいた。
「あれなら……私だって、努力すれば……」
香月が、そんな瑠璃を見てブツブツ呟いていると、手品師が瑠璃の前にぽん! と何もないところから花を出した。
「美しいお嬢さんに」
「ありがとうございます!」
瑠璃が礼を言い、観客たちがわっと歓声を上げる。
「瑠璃さん、他のものも見に行きましょう」
まだ芸は終わっていないのに、珍しく香月は瑠璃を置いて立ち上がった。
瑠璃は、慌てて花を抱えて香月を追った。
「待ってください。香月様!」
(私、何か香月様の機嫌を損ねるようなことをしたのかしら?)
瑠璃がそう思っていると、香月が振り返って、瑠璃の花を見つめていった。
「花がお好きであれば、私が毎日贈ります」
「え?」
瑠璃は、思わず目を丸くした。
これではまるで――。
(もしかして……香月様は、先ほどの方に嫉妬されたというの?)
「それは大丈夫……です」
「何故ですか? 私より、彼に貰うもののほうが嬉しいのですか……?」
「その、香月様にはすでに、沢山のものをいただいているので……」
瑠璃は、そう言うと頬を染めた。
香月からもらって嬉しかったのは、ものだけじゃない。
感情や行動。瑠璃を気遣う香月の全てに、瑠璃は心から感謝していた。
「……そう、ですか」
「はい……」
「…………」
だが、元々あまり言葉の少ない二人である。
香月は瑠璃の表情に驚いた後に頬をかき、それから二人は、沈黙したまま歩を進めた。
見世物小屋の最後には、入り口で宣伝していた人魚の木乃伊《ミイラ》が置かれていた。
「香月様……これは?」
「これが、入り口で宣伝していた人魚の剥製ですね。顔は人面、体は魚――というのが一般的でしょうか。桜霞国の場合、人魚を食べた人間が不老長寿になった――というような話がありますが、我が国に限らず、他国にも人魚にまつわる話は古くからあるそうです」
「では、これは本物なのですか!?」
奇妙な物体だ。だが、不思議なことに心惹かれてしまう瑠璃は、目を輝かせた。
「いえ、おそらく作り物でしょう」
「形状を見るに、猿などの頭蓋骨に魚の鱗などを組み合わせたものでしょう」
「そうなのですか。残念です……」
瑠璃はしゅんとして肩を落とした。
「ちなみにその人魚には、他国ではどんな逸話があるのですか?」
「そうですね」
香月は少し考えた後に、ぼそっと小さな声で瑠璃に教えた。
「……船の難破により海でおぼれた王子が、助けた人間の姫と結ばれて、幸せになるお話でしょうか」
「……?」
瑠璃は、香月の返事を聞いて少し疑問に思ってしまった。
「そのお話に、人魚の姫はいつ出てくるのですか?」
瑠璃の質問に、香月は答えずに曖昧に笑うだけだった。
■
「楽しかったですね! 香月様!」
入り口を見たときは躊躇してしまったけれど、見たことがないものが沢山見られて楽しかった。
瑠璃は、笑顔で香月に言った。
「香月様」
気持ちが明るくなった瑠璃は、見世物小屋から出て、香月にとあるお願いをしてみることにした。
「よければ私に、服を贈ってくださいませんか?」
「げほっ!」
突然の瑠璃の言葉に、香月は咳込んだ。
「る、瑠璃さん……?」
「香月様に、私に似合うと思う服を選んでいただきたいんです」
「あの、申し訳ありません……。何故そう思われたか、お尋ねしてもいいですか?」
香月の顔には困惑、という言葉が貼ってあるようだった。瑠璃は、その理由がよく分からなかった。
「沙良さんが、男性は女性に自分の贈った服を着てもらえると喜ぶと話されていたので」
にっこりと、可憐な少女のような笑顔で、瑠璃は香月に言った。
「香月様に選んだ服を着て、毎日香月様のお帰りをお待ちしたいと思ったんです」

