君の音が届くまで

「ねぇ、サッカー部にイケメンいるんでしょ!」

「そうそう!しかも中学の頃、選抜に選ばれてたらしいよ!」

「サッカーも上手くてイケメンとか…罪だわ…」



高校に入学してまだ間もない頃、俺の噂は風のように広まっていた。



無理もない。俺・馬橋凛には、圧倒的な実力で中学の頃から選抜に選ばれ、おまけに人目を引く容姿を持っている。中三から伸び始めた身長も今だって178㎝にまで成長し、完璧な状態で高校入学を迎えた。



「凛ー!午後練行こうぜー」

「ん-、今行く」



廊下を歩けば自然と集まる視線、俺を意識する女の子たちの表情が何よりも俺の承認欲求を満たしていった。



「凛、お前ばっかモテてんの気に食わねーわ」

「はは、言われましても。遺伝子に文句言って」



肩をすくめて軽くあしらうと、「クソムカつく」と友達は笑いながら俺の背中をバシバシと叩く。嫌味にならないのは、俺が自分で言うのもなんだが本当にサッカーが上手いからだ。



「さっさと着替えてグラウンド行くぞ。先輩たち待たせたら何言われるか分かんねえし」

「んー」



部室で素早くユニフォームに着替え、スパイクの紐を締め直す。

入学式には満開だった桜ももう葉桜になりかけて、舞い散った桜が校庭のあちこちに降り注いでいた。



「おい、新入生! まずはパス回しから入るぞ!」

「はい!」



先輩たちの声にハキハキと返事をしながら、俺は心の中で小さく笑う。グラウンドの外には何人かの女子が指をさしてこちらを見ていた。

適当に部活で無双して、適当に女子にモテて、俺の高校生活はイージーモードで進んでいく。当たり前に、退屈なくらい輝かしい未来が待っているはずだ。



「……あ」



ビブスを受け取ろうとした瞬間、耳に飛び込んできたメロディに、俺の足がピタリと止まった。



遠くの校舎、その開け放たれた窓から、風に乗って溢れ出てくる綺麗な音。

軽やかで、どこか繊細で、だけど強烈に惹きつけられるピアノの旋律。



今日もこの曲だ___



周りの奴らは誰も気にしていない。みんな、目の前のボールしか見ていない。

なのに、俺の耳は、心臓は、完全にその音にジャックされていた。中学の文化祭のあの日に、一瞬で引き戻されたかのような、腕が粟立つ感覚。



「おい馬橋! 何ぼーっとしてんだ、早く入れ!」

「っ、すんません! 今行きます!」



一瞬で我に返り、グラウンドを駆け出す。

だけど、ボールを追いかけながらも、俺の意識の数パーセントは、どうしてもあの校舎の窓へと向いてしまう。



しかも、この前なんか、家に帰ったあとにわざわざ「ピアノ 切ない曲」とか曖昧なワードで必死に調べてしまったんだ。曲名も知らないくせに、我ながらどうかしていた。



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