“馬橋くん、今日機嫌悪そうだね…”
牛乳パックが潰れる程、ストローから空気を吸い込み外を眺めた。昨日の出来事というか、あの園田藍と出会ってから俺の情緒は狂っている。
「りーん、おっはー」
「うーす」
「うわ、牛乳パック潰れてるけど」
あからさまにドン引きしている佐藤は、俺を横目に席に着いた。
なんだよ、真柴って…しかも自信満々にさ。
「佐藤、今日は購買行くわ」
「えー、お前また忘れたの?」
「いや、探しもん」
潰れた牛乳パックをゴミ箱に投げ捨てた後、「は? 購買で探しもん?」と佐藤が怪訝そうな声を投げつけてきたが、そんなの知るか。わざわざ混み合う昼休みの購買に行く理由なんて、自分でもとっくに分かっている。
別に会いたいとかそういうんじゃなくて、傷つけられたプライドを取り戻すだけというか、少しいびりに行くだけというか…。
「購買に探しもんってなんだよ、もしかして黄金のメロンパン目当て?」
「んー、そんな感じ」
「乗った!俺も食べたいと思ってた!」
なんでお前も付いてくるんだよ! なんて思いながらも、今さら「やっぱりやめた」とも言えず、昼休みを迎えてしまった。
廊下を進む間も、佐藤は「今日こそ絶対ゲットしような!」と、一日数個しか出ない幻のメロンパンに向かって無駄にモチベーションを高めている。俺は、適当に相槌を打ちながら、俺の視線は無意識に、すれ違う生徒たちの頭上を彷徨っていた。
……いるわけねーか
人混みを掻き分け、熱気と喧騒が渦巻く購買の前にたどり着く。パンを買い求めるむさ苦しい男子生徒たちの隙間から、あのサラサラとした髪を探したけれど、やっぱりあの浮世離れした姿はどこにもない。
「うわ、もうメロンパン売り切れてんじゃん! 最悪!」
「…な、最悪」
肩を落とす佐藤とは対照的に、俺の胸の奥には、それとは全く違う理由の、すんっと冷たい落胆が広がっていた。
何やってんだ、俺。本当にいびりたかっただけなのか? 名前も覚えてない男相手に、なんでこんなに躍起になって……
「あ、マシバくん」
その時、背後からおそろしく耳馴染みのいい声が降ってきた。
「……っ!」
心臓が嫌な跳ね方をして、弾かれたように振り返る。
そこには、人混みの中で財布を両手で大事そうに抱えた、園田先輩が立っていた。
昨日と全く同じ、ふわふわとした緊張感のない笑顔でこちらを見つめている。
「え、あ、いたんですね。てか、馬橋なんですけど…」
「あ、ごめんね馬橋くん」
また名前を間違われたことに腹が立つはずなのに、園田先輩のほうから俺を見つけて声を掛けてくれたという事実に、どうしても口元が緩んでしまう。
周りには他の3年の先輩たちが何人もいるのに、わざわざ俺に……。そんな小さな優越感に、一瞬だけ胸が跳ねた。
「園田、一年の馬橋と知り合いなの?」
「うん、飯田君の後輩くんで」
「あー、サッカー部のね」
あーあ、“馬橋凛”じゃなくて、“飯田君の後輩”って認識なのね。そもそも、飯田先輩とも大して仲良くないくせにそんな覚え方されても気に食わない。
他の先輩に肩を組まれている、園田先輩を見ていたら「男からも人気がある」という言葉を思い出して、腹の奥が疼き始めた。
牛乳パックが潰れる程、ストローから空気を吸い込み外を眺めた。昨日の出来事というか、あの園田藍と出会ってから俺の情緒は狂っている。
「りーん、おっはー」
「うーす」
「うわ、牛乳パック潰れてるけど」
あからさまにドン引きしている佐藤は、俺を横目に席に着いた。
なんだよ、真柴って…しかも自信満々にさ。
「佐藤、今日は購買行くわ」
「えー、お前また忘れたの?」
「いや、探しもん」
潰れた牛乳パックをゴミ箱に投げ捨てた後、「は? 購買で探しもん?」と佐藤が怪訝そうな声を投げつけてきたが、そんなの知るか。わざわざ混み合う昼休みの購買に行く理由なんて、自分でもとっくに分かっている。
別に会いたいとかそういうんじゃなくて、傷つけられたプライドを取り戻すだけというか、少しいびりに行くだけというか…。
「購買に探しもんってなんだよ、もしかして黄金のメロンパン目当て?」
「んー、そんな感じ」
「乗った!俺も食べたいと思ってた!」
なんでお前も付いてくるんだよ! なんて思いながらも、今さら「やっぱりやめた」とも言えず、昼休みを迎えてしまった。
廊下を進む間も、佐藤は「今日こそ絶対ゲットしような!」と、一日数個しか出ない幻のメロンパンに向かって無駄にモチベーションを高めている。俺は、適当に相槌を打ちながら、俺の視線は無意識に、すれ違う生徒たちの頭上を彷徨っていた。
……いるわけねーか
人混みを掻き分け、熱気と喧騒が渦巻く購買の前にたどり着く。パンを買い求めるむさ苦しい男子生徒たちの隙間から、あのサラサラとした髪を探したけれど、やっぱりあの浮世離れした姿はどこにもない。
「うわ、もうメロンパン売り切れてんじゃん! 最悪!」
「…な、最悪」
肩を落とす佐藤とは対照的に、俺の胸の奥には、それとは全く違う理由の、すんっと冷たい落胆が広がっていた。
何やってんだ、俺。本当にいびりたかっただけなのか? 名前も覚えてない男相手に、なんでこんなに躍起になって……
「あ、マシバくん」
その時、背後からおそろしく耳馴染みのいい声が降ってきた。
「……っ!」
心臓が嫌な跳ね方をして、弾かれたように振り返る。
そこには、人混みの中で財布を両手で大事そうに抱えた、園田先輩が立っていた。
昨日と全く同じ、ふわふわとした緊張感のない笑顔でこちらを見つめている。
「え、あ、いたんですね。てか、馬橋なんですけど…」
「あ、ごめんね馬橋くん」
また名前を間違われたことに腹が立つはずなのに、園田先輩のほうから俺を見つけて声を掛けてくれたという事実に、どうしても口元が緩んでしまう。
周りには他の3年の先輩たちが何人もいるのに、わざわざ俺に……。そんな小さな優越感に、一瞬だけ胸が跳ねた。
「園田、一年の馬橋と知り合いなの?」
「うん、飯田君の後輩くんで」
「あー、サッカー部のね」
あーあ、“馬橋凛”じゃなくて、“飯田君の後輩”って認識なのね。そもそも、飯田先輩とも大して仲良くないくせにそんな覚え方されても気に食わない。
他の先輩に肩を組まれている、園田先輩を見ていたら「男からも人気がある」という言葉を思い出して、腹の奥が疼き始めた。


