君の音が届くまで

「あっ! またあの音聞こえるわ」
「てーっててーー! みたいな曲っしょ? なんでいつも同じところばっか練習してんだろ」
「変に耳に残るっていうか、なんかおもしれーリズムだよな」

中学1年生の八月。夏休み真っ只中の俺たちは、校庭を駆け回って所属するサッカー部の練習に励んでいた。

開け放たれた音楽室の窓から響いてくる吹奏楽部の音は、嫌でも耳に残るものだった。

「あのリズムに合わせて、ドリブル何回できるか勝負しようぜ」
「あ、またきたきた」

ものおかしく笑いながら、その曲をからかいのネタにしていた俺たちも、夏休みが明けた九月には文化祭を迎えていた。

“次は、吹奏楽部による演奏です”

体育館に並べられたパイプ椅子に深く座り、大あくびをしながら友達と軽く笑い合う。

「おい、例のあの曲やんのかな」
「ドリブルやる?」

そんな緊張感のないお喋りは、ステージの幕が上がった瞬間に霧散した。

――ドォン、と。
体育館の床を震わせるような、重厚な音が鼓膜を叩く。
音圧というやつだろうか。スピーカーから流れる音楽とは明らかに違う、生身の人間が放つ音が、ダイレクトに俺の胸にぶつかってきた。思わず背筋が伸びる。

いくつかのメロディが重なり、うねりを上げて加速していった、その時だった。

______あ、あのメロディー。

息が、止まった。
腕の毛穴が一斉に開き、ゾワゾワとした強烈な鳥肌が首筋まで駆け上がる。

間違いない。あの夏、グラウンドの砂埃の中で、俺たちが散々バカにして笑っていた、あの変なリズムのフレーズだ。

なんだ、これ。
下手くそでも、おもしろいリズムでもない。狂いなく刻まれる音は、恐ろしいほどにカッコよくて、凶暴なまでに美しかった。

呆然と口を開けたまま、俺はいつの間にかパイプ椅子から立ち上がっていた。ただステージを凝視することしかできない。言葉を失った胸の奥で、心臓がサッカーの試合後よりも激しく脈打っていた。