鉛筆と彼

鉛筆と彼
 


教室の窓際の最前列、彼はいつもつまらなさそうに窓を眺めている。色素の薄い茶色がかった黒髪、頬杖をついて全く動く気配のない後ろ姿。授業など興味なさげにそっぽを向いている様は正しく彼だけ別の世界にいるような感じさえする。

 黒板に擦れるチョークの音と共に入ってくる教科担任の話し声を聞き流しながら、椙澤拓斗(すぎさわたくと)は窓際から三列目の最前席から三番目の座席でぼんやりと彼の背中を眺めていた。

 拓斗が眺めていた彼の名前は梅原百希(うめはらももき)。六年間の小学校生活から卒業し、今春に城山中学校に入学した。

桜が色づいたころから始まり、葉が青々しく、茂り始める。制服も厚手の学ランからワイシャツ一枚へと衣替えされた。

 そのくらいの月日が経てばクラス内の人間関係は大概構築されている。

人というものは誰かと誰かが支え合ってなんて言うけれど、一人では脆くて弱い生き物。自分が一人でいる恐怖心から逃れたいだけ。一人の発言より二人の意見、それよりも多数の意見がずっと力を持つ。

そんな限られた小さい箱の中で孤立するのを避けたくて皆必死に何処かへ属そうと縋り付いている中で彼だけは、誰とも群れることなく孤立を選び続けていた。

当然周りは群れず一匹狼の彼に好奇の眼差しを向ける。腫れ物でも触るかのように一人の彼に自ら近づくものはいない。

彼が一目置かれている理由はもうひとつあり、未だに鉛筆を使っていることだ。

小学校では芯が床に落ちて汚れるからという理由から禁止されているシャープペンシルが解禁され、俺は真っ先に鉛筆からシャープペンシルへと移行した。俺だけじゃなく大半がそうだ。

削らなくていい便利さとスマートでグリップが付属してるから持ちやすい。

そして、何よりも見た目が格好良いからだ。なのに、彼だけは違う。

「おい、椙澤。よそ見をするな」

古文の教科担任に名指しされて、我に返っては咄嗟のことに背筋が伸びる。クラス中の注目が自分に集まり、羞恥を覚え「すみませーん」などとお退けて誤魔化すと教科書の一文を読まされた。

教科書に視線を移す時、梅原の方へと目線を向けたら、彼と視線がかち合った。

途端に教科書を持つ手に力が入る。自意識過剰かもしれないが、彼が俺の声を聞いている。そう思っただけで音読している間、全身が緊張で震え上がりそうになった。

一文を読み終え座席に着いたところで先程のことがスローモーションで脳内に再生される。

彼の睨むとは違う、選別するような眼差しに何の意味があったのだろか……。