いわくつきの骨董姫

「……ということは、まさか百丸様。百歳どころか二百歳も軽く越えてる……?」

 我ながら失礼なほど素直に声が出た。
 私の言葉を聞いた百丸様の表情が、みるみるうちに悲しそうにしおれていく。

「……目ェ丸くしながら言うのはやめてくれィ。さすがに傷つく」
「だって、喧嘩煙管が作られていたのはそのくらいの頃でしょう? そりゃ、三十そこそこの見た目で、だいぶ昔気質な人だとは思っていたけれど……」

 私は彼の正体に驚いた反面、納得もした。
 そもそも喧嘩煙管とは、武士以外が帯刀を禁じられていた幕府時代の最初期に、民衆が護身用に持っていた隠し武器の一種だ。
 百丸様の独特の口調や懐古趣味、現代人らしくない貞操観も、彼がその時代から生きてきた存在だと考えれば、むしろ自然だ。
 彼の浮世離れした性質に、色々と説明がつくのだ。
 
「とにかく……俺ァ昔っから使われることが生き甲斐なんだ。だからこそ、アンタみてェな骨のある使い手をずっと探してた」

 真剣な声音で言う彼の灰色の瞳に、うっすらと朱色が滲んで見えた。
 灰の中で(くすぶ)り、熱を放つ、埋火(うずみび)のような光。

「三倉珠希。アンタ、俺の主人になってくれねェか。俺なら、アンタの望みを叶えられる。アンタが奪われたモンを取り返しに行ける。この豚を月までぶっ飛ばすことだって、な」
 
 百丸様は煙管を握りしめながら言う。
 煙草を吸う道具としての持ち方ではなく――隠し武器としての持ち方だった。
 
「俺を使え、『骨董姫』。俺ァ、アンタのモノになりたくて身請けを決めたんだ」

 彼が呼ぶその名が、私の胸に強くこだました。
 火花のような衝動が、私の中で弾ける。
 あらゆる道具の声を聞く『骨董姫』の私と、道具の魂の化身たる『付喪神』の彼。
 家も、過去も、誇りも、奪われたすべてを取り戻せるのなら——手に取らない理由など、もはやありはしない。

「いいわ。その賭け、乗りましょう。――百丸善一! あいつを月までぶっ飛ばしなさい!」

 命じた瞬間、百丸様の瞳は朱色に輝き、まとった煙が火花を弾けさせる。
 にいっと凶悪な笑みを浮かべ、指をクイクイ動かして、柿本を挑発する。

「来いよ、塵芥(ゴミ)野郎。今度はちゃんと相手してやるよ」
「ぐっ――し、死ねやああああッ!!」

 泥だらけになった柿本が半狂乱で向かってくる。
 百丸様は柿本が振り回す小刀をサッとくぐり抜けると、手にしていた煙管で柿本の眉間を殴る。
 急所を正確に打たれ、後ろへのけぞる柿本。
 欄干に追い詰められ逃げ場を失った柿本の腹に、百丸様の強烈な拳がめり込む。

「ぶっ飛べェ!!」

 突き込まれた拳は熱した鉄のごとく、赫灼(かくしゃく)と輝き、火の粉のようなものが散る。
 爆発的な威力を持った一撃が炸裂し――柿本は満月を背景に、美しい放物線を描いて飛んでいった。