ひろくんのヒーロー様

カーテンの隙間から差し込む強烈な日差しが、容赦なく頬を照り付けた。
重い瞼を押し上げ、目をこする。けれど、ぼやけた視界がクリアになるにつれ、肌がチリチリとするような奇妙な違和感が這い上がってきた。

「……?」

知らない天井。見たこともないシックな家具。そして、耳が痛くなるほどの静まり返った空間。実家の、あの騒がしい姉たちの気配なんて微塵もない。即座に異常を察知した宏斗は、ベッドから跳ね起きた。どくん、どくん、と脳裏にまで響く激しい鼓動を片手で必死に抑えつける。

「ここ……どこだよ……っ」

夢を見ているのだろうか。
だが、手の平に触れるシーツのざらついた感触も、窓外から聞こえる小鳥のさえずりも、あまりにも鮮明で、夢にしてはリアルが過ぎた。
パニックになりかける心を落ち着かせようと、胸に手を当てたその時、自分の服装に目が留まる。

「……え?」

着ていたはずのTシャツじゃない。見たこともないデザインのブレザーだった。
現実の高校ではまずあり得ない、少女漫画の王子様が着るような真っ白なジャケット。その胸元には、やたらとキラキラした、精巧なデザインの校章が鈍く光を反射している。俺は部屋を飛び出し、引き寄せられるように玄関の扉を押し開けた。

その先に広がっていたのは、絶句するような街並みだった。
恐ろしいほど色彩が鮮やかで、空気が澄み切っている。まるで、高画質なアニメの世界にそのまま放り込まれたかのような、非現実的な美しさ。

「なんだよ……これ……」

とにかく、外に出てどこかへ行けば何かが分かるかもしれない。そう思い、駆け出そうとした…その瞬間だった。

「きゃっ!」
「うわっ!」

自分のすぐ真横で、信じられない衝突事故が発生した。
食パンを咥えて爆走してきた女の子と、モデル並みの高身長イケメンが真正面からぶつかったのだ。
少女はまるでスローモーションのように宙を舞って転びかけ、男は慌てて長い腕を伸ばしてその細い腰を支える。

「っぶね……大丈夫?」
「だだだだだだ! 大丈夫です!」

その瞬間、男の背後で、なぜか桜の花びらが盛大に舞い散った。それだけじゃない。どこからともなく、キラキラとしたダイヤのエフェクトまで空間に飛び散っている。

目の前で繰り広げられる常識外れの光景に、俺の思考は完全に停止した。

……いやいや、待て待て。パン咥えて走って登校からの衝突。これ、少女漫画の王道テンプレそのまんまじゃねぇかっ!

力ずくでも一旦気持ちを落ち着けようと、俺は自分の頬を思い切り殴りつけた。

「っいっ……!!」

ジンジンと激しく主張する痛みに顔を歪め、深く息を吐き出す。違う、これは悪い夢だ。殴られて痛い夢だってある。そうに決まっていると、頭の中で何度も復唱しながら、恐る恐るもう一度顔を上げた。

しかし、目の前の光景は一切変わっていなかった。
少女は頬を林檎のように真っ赤に染め、運命の出会いを果たしたイケメンを潤んだ瞳で見上げ、固まっている。眉間に皺を寄せながらその二人を見守っていると、男は春風に前髪を揺らしながら、これでもかと優しく微笑んだ。

その瞬間、今度は背景に大輪の薔薇が咲き誇った。

……いや待て! さすがにおかしいだろ! ここ、本物の少女漫画の世界かよ!?

ガクガクと震える膝を地面につき、現実から目を逸らすように頭を抱えた。これは夢だ、絶対夢。よし、もう一発強めに殴っておこう。