硬式テニス部の一条くんは軟式テニス部の一色くんとヨリを戻したいようです

 高宮くんと話したことで一条くんときちんと話をする決心が付いたはいいものの、思い返してみればもう一ヶ月以上も話をしていないのだ。
 あんなにも毎日話していたのにもかかわらず、たった一ヶ月間話をしていないだけで、どう声をかければいいかがわからない。

 そもそも一条くんはまだ僕と話をしたいと思っているのだろうか。
 高宮くんの話では、一条くんは僕のコトをまだ好いてくれているとのことだったが、審議は定かではない。

 実は一条くんが僕のコトをまだ好いてくれているというのが高宮くんの嘘だという可能性もある。
 だが仮に高宮くんの言っていたことが嘘だったとして、僕にそんな嘘を付くメリットを一切感じない。
 昨日初めて、僕と高宮くんは話をしたのだ。そんな高宮くんが僕に嘘をつき、わざわざ一条くんと話し合うべきだ。や僕のコトをまだ好いてくれているなどといった助言をすることは無いだろう。

 つまり高宮くんは嘘を付いていないということになるのだが、そうだったとしてやはり一条くんになんと声をかけていいかがわからない。
 もしかしたらいつものように僕に声をかけてこようとしてくれるかもしれない。
 そのタイミングで僕が返事をすればいい……。でもこれでは受け身だ。
 いつも一条くんから声をかけてくれていた。

 なら次は僕から――


* * *


 翌朝。天気は快晴。
 いくら夏休みであろうと、部活があるので学校に行かなくてはならない。
 まだ午前八時だと言うのに気温は三十度を超える真夏日で、確実に太陽が十二時の針を指す頃には三十五度は超えることは容易に想像がつく。
 だからと言うわけではないが、僕はいつもより多めのスポーツドリンクとタオル。それから火照ったからだを冷やす用の汗ふきシートをスポーツバッグの中に入れ、学校へと向かう。
 その足取りはどこか重く感じる。
 コレはこの異常とも呼べる暑さのせいなのか、一条くんに話しかけると決めた自分の精神状態のせいなのか。はたまたその両方なのかは僕自身正直わかってはいない。

 学校に近づくと、高宮くんが校門に背を預け待っているのが見えた。
 高宮くんは僕を見つけると、大きく手をふった。

「おはよ!」
「え、お、おはよう……。もしかして僕のコト待ってた?」
「まぁそんなとこ! それで? 一色くんはどうよ! 一晩考えてみて、悠真と話す気になった?」
「……うん、一応。昨日は本当にありがとね」
「ならよかったよ。あ! 話しかけづらかったら俺が悠真のコトどこかに呼び出そうか?」
「え! いや! いいよ! だ、大丈夫!」
「ほんとか?」

 図星である。
 本当は高宮くんの言う通り、彼がどこかに一条くんのコトを連れ出してもらったほうが話しやすいのは事実だ。
 僕のせいでと言うわけではないと思うが、実を言うと今硬式テニス部と軟式テニス部は非常に仲が悪い。三年生が引退した今、ここ一ヶ月前までよりかは多少落ち着いてきているとは思うが、それでも亀裂はなかなか直らない。
 顧問の二人も僕と一条くんの話を噂なのか、それとも直接生徒から聞いたのかはわからないが、状況は把握しているようだ。だが生徒同士の問題だからと介入はしてこない。
 ならばということではないと信じたいが、大人が何もしないなら自分たちで解決しようぜ! のような流れとなり、割と一悶着あったらしい。

 そんな状況であるから、いくら硬式と軟式のコートが隣接しているとはいえ、僕から一条くんに声を掛けるのは難しい。
 だからといって高宮くんのように校門で待ち伏せすることは出来ても、部活終わりであれば各部活動同士で行動することが多いため、声を掛けることは出来たとしても、取り合ってもらえるかどうかはわからない。
 そのため本当は高宮くんの提案通り、彼がどこかに一条くんのコトを呼び出してもらうのが一番話せる可能性が高いのだが、これではずっと高宮くんに手伝ってもらっているみたいであり、僕自身の力ではどうすることも出来ないようで、なんとなく癪に障る。

「うん、大丈夫! ありがとう!」
「話せることを祈ってるよ! じゃあ」
「うん。じゃあ」

 簡単な挨拶を済ませると、高宮くんは大きなスポーツバッグを肩にかけ部室棟へと向かっていった。
 その後を追いかけるわけではないが、僕の部室へと向かい、部活の準備を進める。
 すでに何人かはすでに準備を終えていたようで、須田さんや小林さんは僕の準備が終わるのを待ってくれていた。
 軟式テニス部全員の準備が終わると、まずは軽く準備運動をしてから校舎の周りを三周ほど走る。それだけでシャツを絞れば水たまりができてしまうほどの汗をかく。
 さっそく多めに持ってきておいたスポーツドリンクが役に立つ。
 五百ミリのペットボトルを一気に空にする勢いで飲み干した後に周りを見渡すと、他の部員も汗を拭っていたり、僕と同じように水分を一気に補給していたり、はたまたすでにぐったりしている部員も数名いるようだ。

「みんな! 暑いのはわかるけど、頑張るよ!」

 そう声をあげたのは須田さんだった。
 三年生が引退したあと、桜島高等学校の軟式テニス部部長を務めることになったのは須田さんである。周りをよく見ていることが評価され、他薦もあったことでこの度部長になったのだ。
 ちなみに副部長は小林さんである。
 二人でお互いをカバーしあうよい関係なんじゃないかと僕はそう思う。

 須田さんの声を聞いて部員たちはしんどいながらもテニスコートへと向かう。
 テニスコートではすでに硬式テニス部がラリー練習を始めており、掛け声が響き渡っていた。
 それに負けたくないと須田さんは大きな声で「ウチらも負けてらんないからね!」というと、部員全員で「ハイ!」を硬式テニス部の掛け声をかき消すほどの声量でそう返事をした。