一緒に帰る予定でいた島田くんに一本LINEを入れると「俺はいいけど……心配だし、付いていこうか?」と提案をしてくれた。
なんとなく感じてはいたが、島田くんは僕に対して結構過保護だと思う。
決してそれが嫌とかではなく、むしろありがたいと感じる半面、どうしてそこまで僕に親身になってくれるのだろうと疑問に思うときがしばしば存在する。
一度尋ねてみようかとも考えたが、僕の勘違いだった時が恥ずかしいので聞けずじまいだ。
僕は「大丈夫! ありがとう」と端的な文章と、ウサギがお辞儀をしているようなスタンプを送った。
「待たせたか?」
正直タイミングが良すぎる。
実は何処からか僕のことを見ていたんじゃないかと思うほど完璧なタイミングで、校門に寄りかかっている僕に声を掛けてきたのは高宮くんだ。
「待ってないよ」
「おっけ。じゃあ行くか!」
「行くって、え? 帰るんじゃないの?」
「帰るけど……聞きたいことあるでしょ? 俺も一色くんに聞きたいことがあるんだよね」
「……スタバかマックがいい」
「おっけぇ……じゃあ行こっか」
高宮くんはそう告げると、大きなスポーツバッグを肩に斜めがけにした状態で歩き出した。高宮くんはサッカー部らしい服装で、白かったはずの長めの靴下に所々泥汚れがあり、真剣にサッカーに向き合っていることが伺える。
僕はといえば、ぶっちゃけていうと高宮くんとそんなに変わらない服装である。ただブランドが違うといった印象だけだろう。僕はミズノ。高宮くんはナイキ。
ザ・サッカー部とザ・テニス部って感じだ。
あとは持ち物だろう。高宮くんは大きなスポーツバッグなのに対し、僕はラケットが入っているラケットバッグを背負っている。
同じような服装をしていてもこの違いがあれば、どっちがサッカー部でどっちがテニス部かは一目瞭然だろう。しかし僕が硬式テニス部なのか軟式テニス部なのかまでは判断できないに違いない。
そんなことを考えていると、高宮くんが声を掛けてきた。
「……マックでいい?」
「……いいよ」
「スタバじゃ腹膨れん!」
「あぁ、そういう理由?」
「まぁあとはスタバよりは居座れるかもって思っただけ」
「なるほど……」
「それで? 一色くんは俺になにが聞きたいの?」
歩く速度がほんの少しだけ遅くなる。
なにが聞きたいのかと問われれば、パッとは出てこない。
これは聞きたいことが無いわけではなく、聞きたいことが多すぎて何から話せばいいかがわからない状態だからだ。
「えっと……そうだね……一条くんになにか言われたから声をかけてくれたってことでいいんだよね?」
「さっきも言ったけど半分正解で半分不正解って感じかな」
「それってどういうことなの?」
その問いかけに高宮くんは顎に手を置き、すこしだけ考えたよな素振りを見せたかと思えば、何やら良い事でも思いついたかのような表情を浮かべ、僕に笑顔を振りまいた。
「その質問に答える前に、俺の質問に答えてくれよ」
「……そっちからなにが聞きたいのかって聞いてきたくせに!」
「あはは! まぁそうなんだけど、ちょっと気が変わったんだよ!」
「……それで、質問って言うのは?」
「……一色くんは悠真のコトをどう思ってる?」
「え……?」
それは考えてもいなかった質問であった。
僕としてはまだ一条くんのコトは好きなのだが、この気持ちは一条くんにとっては良くないものだ。一条くんはあの戸塚という女性との新しい恋愛を始めているのだから、その恋路を邪魔するわけには行かない。
だからこそこんなコトは誰にも相談できないし、言えるわけもない。
それが今日初めて話す人なら尚更だ。
しかし、彼の問いかけに僕が答えなければ、彼から話を聞き出すことはできないらしい。それであれば自分の気持ちを言葉として紡ぐしか無いだろう。
「……好きだよ」
「今でも?」
「今でも」
それを聞いた高宮くんは胸をなでおろすような動作をしたかと思えば、安堵の表情を浮かべ、僕に微笑みかける。
それはまるで事故にあったと聞かされた親族に傷一つ無かったときのような仏の顔だった。
「一色くんと悠真は一度二人できちんと話しをしたほうがいいと思うよ」
「……もう話せないでしょ」
「どうして?」
「一条くんにはもう彼女がいるみたいだし……今更って感じじゃない?」
高宮くんは大きなため息を吐いた。
そのまま「あぁっー!」と叫びながら、頭を掻きむしる。
「クソっ! マジで何なんだよお前ら!」
「え、えぇ……」
高宮くんの急な罵声に僕はただただ困惑するしなかった。
そうこうしているうちにマクドナルドに着いた。商店街が近くにある桜島高等学校は学生に優しい値段設定になっているが、それでも近年若干高級品になりつつあるマクドナルドには多くの桜島高等学校の生徒が居た。
部活終わりの時間ということもあり、ほとんどの生徒が買食いに来ている。
そのため、僕らのように話しをするためにイートインをするわけではなく、テイクアウトの生徒がほとんどだ。
「一色くんは何にする?」
「え、えっと……だ、ダブルチーズバーガーのセットを……」
「おっけ! 飲み物は?」
「爽健美茶で」
「うわ! マックに来てまで爽健美茶かよ……すげぇな」
「お茶が好きで……」
「そうかよ。じゃあ一色くんは席取っといて。後は俺が頼んでおくから」
「わ、わかりました」
マックの注文に慣れているんだろうなと高宮くんに関心しつつ、もしかして注文に慣れていないのがバレたのではないかと僕は謎に冷や汗をかいた。
別にバレたからといってなんてことはないのだが、高校生にしてマックの注文に戸惑うのは少しばかり恥ずかしい。
今まで何度か来たことはあるのだが、いつもは一条くんが今回の高宮くんのように頼んでくれたり、先日の軟式テニス部全員で行ったマックではバラバラに注文すると店員の迷惑になるからと、部長が代表して全員分を注文してくれたため、自分一人で注文する機会が今まで少なかったのが原因だと考える。
そんな誰も聞いていないコトを一人で考えながら、ソファ席に座っていると、器用に片手に一つずつトレーを抱えた高宮くんが来たため、僕は咄嗟にトレーを一つ受け取る。
「よし! 食べながら話そうぜ!」
席につくなりそう告げると、高宮くんはバーガーの包みを豪快に剥がし、大きく空けた口でガブリと食らいつく。それは一口でハンバーガーの半分を食べる勢いだ。
だからと言わんばかりに、高宮くんのトレーの上にはバーガーの包みが三つある。
夕飯前にどんだけ食べるんだよ……と思わずツッコミを入れそうになるが、その前にダブルチーズバーガーのセットの料金を支払っていないことを思い出し、スクールバッグの中から財布を取り出した。
「ごめん! いくらだった?」
「ん? あぁいいよ」
「いや、良くないでしょ! 払う払う!」
「ほんとにいいんだって。お金はもうもらってんだ」
「ど、どういうこと?」
意味がわからない。
お金をもらっているってどういうコトだ?
そんな疑問を抱える僕だが、そんな僕からの質問の追撃を避けるかのように高宮くんは話しを進めた。
「てか先に質問に答えるわ。悠真に何か言われたから声を掛けたのかってやつ」
「え、あぁ。うん」
なんだか話しを逸らされたような気もするが、今こうして高宮くんと一緒にご飯を食べるきっかけとなった質問へと回答だ。
コレばっかりは聞いておきたい。
「まず、俺と悠真は割と親友だと思う」
「お、思う?」
「悠真から俺のことについて何か聞いてるか?」
そう言われてみればと……と記憶をたどる。
「えっと、柊夜とはいつも二人でバカやってたとか言ってた気がする……」
「バカやってたって……まぁ間違っちゃいないけどさぁ……もっと言い方あっただろ……」
「ご、ごめんなさい」
「違う違う! 今のは悠真に言ったんだ。まぁそういうわけで悠真とは小学校からの付き合いなわけで、今でもこうして親友をやらせてもらってるわけよ」
「…………」
「まず始めに言っておくと、悠真は”一色くん以外”眼中に無いからな」
聞き間違いかと思った。
現に今、一条くんはあの一年生とお付き合いをしているわけで、僕以外眼中に無いなどと言った言葉はにわかにも信じられなかった。
「……嘘だと思うか?」
「いや、だって現に一条くんにはもう新しい彼女がいるじゃないか」
「それ! 悠真から聞いたのか?」
「え?」
「その別の人と付き合ってるってやつ!」
「いや、きいてないけど……というかもう長いこと話してない」
「大前提! 悠真に! あの一年と! 付き合う気は! 一切! これっぽっちも! 今後地球が終わりを迎えようとも! ありえない!」
あまりの気迫に、高宮くんの口の中に入っていたであろうバーガーの欠片が飛んでも来て気にすることなど出来ずに、ただただ圧倒されるだけであった。
「……いや、でも」
「でもじゃない! じゃあ悠真以外からの誰かからあの二人は付き合ってるとか言われたんか?」
「な、無いけど……」
「じゃあ一色くんが勝手に二人が付き合ってるって思い込んでるだけなんだな?」
「……そうなります」
「じゃあもう一度言うぞ! 悠真はあの一年と付き合う気はない! 更に言うと、悠真は一色くんと別れたと思ってないぞ」
先ほど聞き間違いをしたかと思ったのに、この短期間で二度も聞き間違いをしたんじゃないかと思うほど、衝撃的な言葉だった。
「え、いや! それはないよ! 好きになるんじゃなかった的なこと言われたし……」
「じゃあ”別れよう”って言われたんか?」
「……言われてないけど」
「じゃあ一色くんが勝手に別れたと思ってるってことだよ」
「……………………」
「だいたい悠真は口を開けば一色くんの話しかしてこない! 正直に言ってうざい! 毎日惚気を聞かされてて何度悠真のコト殴りそうになったことか!」
「……………………嘘だ」
「嘘じゃない! 一色くんは自分で勝手に想像して、自分で勝手に結論づけてるでしょ? 何度も悠真が話をしに行ったのに、話せなかったって言ってたよ。まぁ話せなかった原因は一色くんだけのせいじゃ無いんだろうけどさ」
これは高宮くんの言う通りで実際、何度も僕に話し掛けてきたことは知っているし、僕はそれを何度も突っぱねている。さらに言えば僕のクラスメイトである二年一組が団結して一条くんから僕を守っていたのも要因だろう。
しかし一条くんは今更僕に何の話しをするつもりなのか、皆目検討がつかない。
「ほら! また一人で勝手に想像してる。別にそれが悪いことだとは言わないけど、相手がなんて考えてるのかを知るっていうのも必要だと思うけどね」
高宮くんの言う事はごもっともである。
また高宮くんの言うことに加え僕は、自分で考えるくせに、相手の意見に流されるという自負もある。
自分の意見が無いわけではないが、どうしても相手を信じてしまうのだ。
そんな僕を見て、なかなか返事をしないことにしびれを切らしたのか、爆弾を投下する。
「……悠真も一色くんのこと、今でも好きだよ。俺に毎日相談しにくるくらいにはね」
「…………え?」
「もう、これ以上は言えないかな。他に俺に聞きたいことある?」
爆弾を投下したにもかかわらず、それ以上の追及はできないと念押しをされてしまった。
僕は仕方なく、最近の一条くんの様子や、クラスでの様子を聞く。
そんな話で盛り上がり、気が付くとあたりはすっかり暗くなっていた。
「ご、ごめん! こんな時間まで」
「いいよ。誘ったのは俺だしね」
「いろんな話聞けて良かった! じゃあ僕はこの辺で」
「それならよかったよ! じゃあね。俺はもう少し食べていくよ」
「うん、ありがとう!」
そう告げ、僕は外へと出る。
ずっと冷房の効いた店内にいたため、外気がより一層暑く感じる。
僕は久々に聴けた一条くんの話に、頬の筋肉が上がって仕方がない。
「明日、話かけてみようかな……」
そんなことを呟き、僕は帰路に付く。
―マック店内、同時刻―
「……雨音と喋り過ぎ」
「独占欲きんも。俺はただ一色くんの恋の悩みを解決しようとしただけですー」
「それは、まぁ……ありがとう」
「てか、ほれ!」
そう言って高宮は目の前に座っている一条に対し、何かを要求するように右手を差し出す。
一条はその手に千円札を置く。
「おっけ。これで一色くんのバーガー代は回収っと」
「おい! おつりよこせよ!」
「それくらいいいだろ? 一色くんにアドバイスしてやったんだから」
「それは……まぁ」
「てか、ずっと後ついてきてたの?」
「校門からずっと」
「うわ、きっしょ」
「やめて、マジへこむ」
「今更すぎんだろ」
「そ、それで? 雨音はなんて?」
「そう焦るな! あ、ポテト食べたくなってきたなぁ……」
「…………買ってくる」
「ごちになりまーす!」
「次はおごってもらうからな!」
「なら俺の春の訪れも手伝ってほしいもんだね」
「へいへい、そのときが来たらな!」
なんとなく感じてはいたが、島田くんは僕に対して結構過保護だと思う。
決してそれが嫌とかではなく、むしろありがたいと感じる半面、どうしてそこまで僕に親身になってくれるのだろうと疑問に思うときがしばしば存在する。
一度尋ねてみようかとも考えたが、僕の勘違いだった時が恥ずかしいので聞けずじまいだ。
僕は「大丈夫! ありがとう」と端的な文章と、ウサギがお辞儀をしているようなスタンプを送った。
「待たせたか?」
正直タイミングが良すぎる。
実は何処からか僕のことを見ていたんじゃないかと思うほど完璧なタイミングで、校門に寄りかかっている僕に声を掛けてきたのは高宮くんだ。
「待ってないよ」
「おっけ。じゃあ行くか!」
「行くって、え? 帰るんじゃないの?」
「帰るけど……聞きたいことあるでしょ? 俺も一色くんに聞きたいことがあるんだよね」
「……スタバかマックがいい」
「おっけぇ……じゃあ行こっか」
高宮くんはそう告げると、大きなスポーツバッグを肩に斜めがけにした状態で歩き出した。高宮くんはサッカー部らしい服装で、白かったはずの長めの靴下に所々泥汚れがあり、真剣にサッカーに向き合っていることが伺える。
僕はといえば、ぶっちゃけていうと高宮くんとそんなに変わらない服装である。ただブランドが違うといった印象だけだろう。僕はミズノ。高宮くんはナイキ。
ザ・サッカー部とザ・テニス部って感じだ。
あとは持ち物だろう。高宮くんは大きなスポーツバッグなのに対し、僕はラケットが入っているラケットバッグを背負っている。
同じような服装をしていてもこの違いがあれば、どっちがサッカー部でどっちがテニス部かは一目瞭然だろう。しかし僕が硬式テニス部なのか軟式テニス部なのかまでは判断できないに違いない。
そんなことを考えていると、高宮くんが声を掛けてきた。
「……マックでいい?」
「……いいよ」
「スタバじゃ腹膨れん!」
「あぁ、そういう理由?」
「まぁあとはスタバよりは居座れるかもって思っただけ」
「なるほど……」
「それで? 一色くんは俺になにが聞きたいの?」
歩く速度がほんの少しだけ遅くなる。
なにが聞きたいのかと問われれば、パッとは出てこない。
これは聞きたいことが無いわけではなく、聞きたいことが多すぎて何から話せばいいかがわからない状態だからだ。
「えっと……そうだね……一条くんになにか言われたから声をかけてくれたってことでいいんだよね?」
「さっきも言ったけど半分正解で半分不正解って感じかな」
「それってどういうことなの?」
その問いかけに高宮くんは顎に手を置き、すこしだけ考えたよな素振りを見せたかと思えば、何やら良い事でも思いついたかのような表情を浮かべ、僕に笑顔を振りまいた。
「その質問に答える前に、俺の質問に答えてくれよ」
「……そっちからなにが聞きたいのかって聞いてきたくせに!」
「あはは! まぁそうなんだけど、ちょっと気が変わったんだよ!」
「……それで、質問って言うのは?」
「……一色くんは悠真のコトをどう思ってる?」
「え……?」
それは考えてもいなかった質問であった。
僕としてはまだ一条くんのコトは好きなのだが、この気持ちは一条くんにとっては良くないものだ。一条くんはあの戸塚という女性との新しい恋愛を始めているのだから、その恋路を邪魔するわけには行かない。
だからこそこんなコトは誰にも相談できないし、言えるわけもない。
それが今日初めて話す人なら尚更だ。
しかし、彼の問いかけに僕が答えなければ、彼から話を聞き出すことはできないらしい。それであれば自分の気持ちを言葉として紡ぐしか無いだろう。
「……好きだよ」
「今でも?」
「今でも」
それを聞いた高宮くんは胸をなでおろすような動作をしたかと思えば、安堵の表情を浮かべ、僕に微笑みかける。
それはまるで事故にあったと聞かされた親族に傷一つ無かったときのような仏の顔だった。
「一色くんと悠真は一度二人できちんと話しをしたほうがいいと思うよ」
「……もう話せないでしょ」
「どうして?」
「一条くんにはもう彼女がいるみたいだし……今更って感じじゃない?」
高宮くんは大きなため息を吐いた。
そのまま「あぁっー!」と叫びながら、頭を掻きむしる。
「クソっ! マジで何なんだよお前ら!」
「え、えぇ……」
高宮くんの急な罵声に僕はただただ困惑するしなかった。
そうこうしているうちにマクドナルドに着いた。商店街が近くにある桜島高等学校は学生に優しい値段設定になっているが、それでも近年若干高級品になりつつあるマクドナルドには多くの桜島高等学校の生徒が居た。
部活終わりの時間ということもあり、ほとんどの生徒が買食いに来ている。
そのため、僕らのように話しをするためにイートインをするわけではなく、テイクアウトの生徒がほとんどだ。
「一色くんは何にする?」
「え、えっと……だ、ダブルチーズバーガーのセットを……」
「おっけ! 飲み物は?」
「爽健美茶で」
「うわ! マックに来てまで爽健美茶かよ……すげぇな」
「お茶が好きで……」
「そうかよ。じゃあ一色くんは席取っといて。後は俺が頼んでおくから」
「わ、わかりました」
マックの注文に慣れているんだろうなと高宮くんに関心しつつ、もしかして注文に慣れていないのがバレたのではないかと僕は謎に冷や汗をかいた。
別にバレたからといってなんてことはないのだが、高校生にしてマックの注文に戸惑うのは少しばかり恥ずかしい。
今まで何度か来たことはあるのだが、いつもは一条くんが今回の高宮くんのように頼んでくれたり、先日の軟式テニス部全員で行ったマックではバラバラに注文すると店員の迷惑になるからと、部長が代表して全員分を注文してくれたため、自分一人で注文する機会が今まで少なかったのが原因だと考える。
そんな誰も聞いていないコトを一人で考えながら、ソファ席に座っていると、器用に片手に一つずつトレーを抱えた高宮くんが来たため、僕は咄嗟にトレーを一つ受け取る。
「よし! 食べながら話そうぜ!」
席につくなりそう告げると、高宮くんはバーガーの包みを豪快に剥がし、大きく空けた口でガブリと食らいつく。それは一口でハンバーガーの半分を食べる勢いだ。
だからと言わんばかりに、高宮くんのトレーの上にはバーガーの包みが三つある。
夕飯前にどんだけ食べるんだよ……と思わずツッコミを入れそうになるが、その前にダブルチーズバーガーのセットの料金を支払っていないことを思い出し、スクールバッグの中から財布を取り出した。
「ごめん! いくらだった?」
「ん? あぁいいよ」
「いや、良くないでしょ! 払う払う!」
「ほんとにいいんだって。お金はもうもらってんだ」
「ど、どういうこと?」
意味がわからない。
お金をもらっているってどういうコトだ?
そんな疑問を抱える僕だが、そんな僕からの質問の追撃を避けるかのように高宮くんは話しを進めた。
「てか先に質問に答えるわ。悠真に何か言われたから声を掛けたのかってやつ」
「え、あぁ。うん」
なんだか話しを逸らされたような気もするが、今こうして高宮くんと一緒にご飯を食べるきっかけとなった質問へと回答だ。
コレばっかりは聞いておきたい。
「まず、俺と悠真は割と親友だと思う」
「お、思う?」
「悠真から俺のことについて何か聞いてるか?」
そう言われてみればと……と記憶をたどる。
「えっと、柊夜とはいつも二人でバカやってたとか言ってた気がする……」
「バカやってたって……まぁ間違っちゃいないけどさぁ……もっと言い方あっただろ……」
「ご、ごめんなさい」
「違う違う! 今のは悠真に言ったんだ。まぁそういうわけで悠真とは小学校からの付き合いなわけで、今でもこうして親友をやらせてもらってるわけよ」
「…………」
「まず始めに言っておくと、悠真は”一色くん以外”眼中に無いからな」
聞き間違いかと思った。
現に今、一条くんはあの一年生とお付き合いをしているわけで、僕以外眼中に無いなどと言った言葉はにわかにも信じられなかった。
「……嘘だと思うか?」
「いや、だって現に一条くんにはもう新しい彼女がいるじゃないか」
「それ! 悠真から聞いたのか?」
「え?」
「その別の人と付き合ってるってやつ!」
「いや、きいてないけど……というかもう長いこと話してない」
「大前提! 悠真に! あの一年と! 付き合う気は! 一切! これっぽっちも! 今後地球が終わりを迎えようとも! ありえない!」
あまりの気迫に、高宮くんの口の中に入っていたであろうバーガーの欠片が飛んでも来て気にすることなど出来ずに、ただただ圧倒されるだけであった。
「……いや、でも」
「でもじゃない! じゃあ悠真以外からの誰かからあの二人は付き合ってるとか言われたんか?」
「な、無いけど……」
「じゃあ一色くんが勝手に二人が付き合ってるって思い込んでるだけなんだな?」
「……そうなります」
「じゃあもう一度言うぞ! 悠真はあの一年と付き合う気はない! 更に言うと、悠真は一色くんと別れたと思ってないぞ」
先ほど聞き間違いをしたかと思ったのに、この短期間で二度も聞き間違いをしたんじゃないかと思うほど、衝撃的な言葉だった。
「え、いや! それはないよ! 好きになるんじゃなかった的なこと言われたし……」
「じゃあ”別れよう”って言われたんか?」
「……言われてないけど」
「じゃあ一色くんが勝手に別れたと思ってるってことだよ」
「……………………」
「だいたい悠真は口を開けば一色くんの話しかしてこない! 正直に言ってうざい! 毎日惚気を聞かされてて何度悠真のコト殴りそうになったことか!」
「……………………嘘だ」
「嘘じゃない! 一色くんは自分で勝手に想像して、自分で勝手に結論づけてるでしょ? 何度も悠真が話をしに行ったのに、話せなかったって言ってたよ。まぁ話せなかった原因は一色くんだけのせいじゃ無いんだろうけどさ」
これは高宮くんの言う通りで実際、何度も僕に話し掛けてきたことは知っているし、僕はそれを何度も突っぱねている。さらに言えば僕のクラスメイトである二年一組が団結して一条くんから僕を守っていたのも要因だろう。
しかし一条くんは今更僕に何の話しをするつもりなのか、皆目検討がつかない。
「ほら! また一人で勝手に想像してる。別にそれが悪いことだとは言わないけど、相手がなんて考えてるのかを知るっていうのも必要だと思うけどね」
高宮くんの言う事はごもっともである。
また高宮くんの言うことに加え僕は、自分で考えるくせに、相手の意見に流されるという自負もある。
自分の意見が無いわけではないが、どうしても相手を信じてしまうのだ。
そんな僕を見て、なかなか返事をしないことにしびれを切らしたのか、爆弾を投下する。
「……悠真も一色くんのこと、今でも好きだよ。俺に毎日相談しにくるくらいにはね」
「…………え?」
「もう、これ以上は言えないかな。他に俺に聞きたいことある?」
爆弾を投下したにもかかわらず、それ以上の追及はできないと念押しをされてしまった。
僕は仕方なく、最近の一条くんの様子や、クラスでの様子を聞く。
そんな話で盛り上がり、気が付くとあたりはすっかり暗くなっていた。
「ご、ごめん! こんな時間まで」
「いいよ。誘ったのは俺だしね」
「いろんな話聞けて良かった! じゃあ僕はこの辺で」
「それならよかったよ! じゃあね。俺はもう少し食べていくよ」
「うん、ありがとう!」
そう告げ、僕は外へと出る。
ずっと冷房の効いた店内にいたため、外気がより一層暑く感じる。
僕は久々に聴けた一条くんの話に、頬の筋肉が上がって仕方がない。
「明日、話かけてみようかな……」
そんなことを呟き、僕は帰路に付く。
―マック店内、同時刻―
「……雨音と喋り過ぎ」
「独占欲きんも。俺はただ一色くんの恋の悩みを解決しようとしただけですー」
「それは、まぁ……ありがとう」
「てか、ほれ!」
そう言って高宮は目の前に座っている一条に対し、何かを要求するように右手を差し出す。
一条はその手に千円札を置く。
「おっけ。これで一色くんのバーガー代は回収っと」
「おい! おつりよこせよ!」
「それくらいいいだろ? 一色くんにアドバイスしてやったんだから」
「それは……まぁ」
「てか、ずっと後ついてきてたの?」
「校門からずっと」
「うわ、きっしょ」
「やめて、マジへこむ」
「今更すぎんだろ」
「そ、それで? 雨音はなんて?」
「そう焦るな! あ、ポテト食べたくなってきたなぁ……」
「…………買ってくる」
「ごちになりまーす!」
「次はおごってもらうからな!」
「なら俺の春の訪れも手伝ってほしいもんだね」
「へいへい、そのときが来たらな!」



