硬式テニス部の一条くんは軟式テニス部の一色くんとヨリを戻したいようです

 一条くんが教室に訪れてから、ほぼ毎日のように何かしら理由を付けて僕に接触を試みているらしい。
 ”らしい”と言うのは僕が実際に見たり声をかけられたりした訳ではなく、クラスメイトであったり、軟式テニス部の部員から聞いたりしたため、不確定要素なためそういった曖昧な話し方をしている。

 登下校と一緒にしている島田くんはあの日以降、僕に対してやたら過保護なっているようで、一条くんの姿を先に確認すると僕が一条くんと出会わないように道を変更してくれたり、僕が一人になって一条くんから絡まれるのを事前に防ぐために常に僕と行動をともにしてくれているらしい。

 一条くんのクラスメイトで僕と同じ軟式テニス部員の須田さんと小林さんからは毎日のように一条くんが僕の情報を聞き出そうと奔走していると言う風に聞いている。
 ちなみに須田さんと小林さんはそれがうざく感じているようで「自分から一色くんのコト振っといてなんなの? 男って振っておいて相手がずっと自分のコトを想ってくれているって思ってるよね。勘違いすぎ」と言いたい放題である。

 一応、僕個人としてはまだ一条くんのコトが好きなのだが、その事自体は誰にも言っていないため、別れて正解だよという意味を込めて周りの人間は一条くんの悪口を僕に浴びせてくる。きっとそれが彼らなりの優しさなのだとは感じているものの、あまりいい気分にはなれない。

 さまざまな部活の大会が一区切りつき、三年の先輩たちは引退。三年生はこれからは受験や就職活動に専念しなければならない時期となり、学校の実質的トップが三年生から二年生に移ったことによる気分の高揚からくるものであろうとは思っている。
 しかしだからと言って何を言っても許されるわけではないため、なんだかモヤモヤした気持ちで日々を過ごしていた。

 一条くんと別れてから一ヶ月以上が経過し、僕個人としては一条くんのことはもう過去のことなので当時ほどは気にしていないのだが、周りがそれを許していないので、最近では逆に申し訳ないなという気持ちすら芽生え始めていた。
 七月も後半になり、夏休みが始まると必然的にクラスメイトと会う機会が減ったため、そんな申し訳ないという気持ちも徐々に薄れ始めていた頃、僕に新しい友だちができた。
 新しいといっても、今まで面識がなかっただけでお互いに存在自体は知っていた。
 ——高宮柊夜(たかみやしゅうや)。サッカー部員であり、一条くんと同じ二年二組の生徒である。

 そんな彼とはこの夏休み期間中に初めて会話をした。
 おそらくは一条くんの差し金に違いない。サッカー部で別のクラスの人間がいきなり一切に接点の無い人間に声をかけるとは思えないからだ。
 いや、コレは偏見だがサッカー部ならそういったコトもあり得るのかもしれない。だが高宮くんはその手の絡み方はしてこないだろう。なぜなら高宮くんはサッカー部のエースであり、聞いた話によると彼女も居るらしい。そのため彼が僕と接触するメリットが無いと考えたのだ。
 そんな雑な推理からきっと一条くんに何かしらお願いをされて僕に接触しているに違いない。そう感じた。
 そんな僕と高宮くんが友達になったきっかけは彼から声を掛けられたことだ。

「一色くん……だよね?」
「……そ、そうですけど」
「良かった! 人違いじゃなかった! 俺は高宮柊夜。サッカー部所属! よろしく!」

 そう言って右手を差し出されては、その手を取らないほうが失礼だろう。

「は、初めまして……一色雨音です。 よろしくお願いします」
「うん、よろしく! 前々から話したいと思ってたんだよ!」

 彼の手を取った僕の手をブンブンと振り回すように上下に動かして握手を交わす。
 前々から話したいと思っていたと言うのは嘘ではないのかもしれないと感じた。

「な、なんでも僕と話したいと思ってたの?」
「……不快にさせたらごめんな。一色くんって所謂この学校の有名人じゃん?」
「有名人なら子役をされている朝倉くんがいると思いますけど……」
「朝倉は桜島以外でも有名だろ? 桜島高等学校内での有名人は一色くんだと俺は思うけどなぁ」

 それを聞いた僕は、ただ単に面白がっているだけで、サッカー部のような陽キャが集まる部活動をやっている生徒特有のうざ絡みだと感じた。

「あぁ、面白がってバカにしに来たってことね」
「いや! 違う! やっぱ不快にさせたよな。ごめん」

 そう彼は告げると、彼を睨みつける僕に頭を下げた。
 この状況は非常によろしくない。
 なぜなら高宮くんに話しかけられたタイミングがサッカー部も軟式テニス部も部活が終了したタイミングであったため、生徒の行き来が多いのだ。
 加えて、高宮くんはサッカー部でレギュラー入りを果たしており、それでいて一条くん程ではないが顔は整っている。そのため彼目当てでサッカー部のマネージャーを志願する女子生徒も少なくないと聞く。
 そんな人気のある高宮くんに頭を下げさせてしまっているこの状況を誰かに見られるわけにはいかない。
 というか、そもそもそこまで謝らなくていい!

「や、やめてよ! 顔上げて!」

 僕は彼の肩を掴み、無理やりにでも頭をあげさせる。
 高宮くんは僕の動きに合わせるように、顔をあげた。

「いや、今のは俺が完全に悪いから……」
「……いいよ。あれでしょ? 一条くんに何か言われたんでしょ?」
「ん~…………半分正解?」
「……半分?」
「そ! てかこんな会話の後で申し訳ないんだけど、今日一緒に帰らない?」
「………………え?」

 高宮くんはそれだけ告げると「じゃあ校門で!」と言い残して、サッカー部の部室へと走り去ってしまった。
 僕としてはまだ「帰れる」と返事をしていないのに……と思いながらも、正直断る理由も無いし、一緒に帰らなかったことであとでとやかく言われるもの癪に触るため、めんどくさいと感じながら、まずは軟式テニス部の部室へと向かう。