高三ダブりな俺の異世界再生記 〜転生して女神になった友達から助けを求められたので、イケメン騎士や美少女達と共に異世界を救おうと思います〜

石造りの正門は、見る者を圧倒するほどの威容を放っていた。
高さはたぶん……八~十メートル。
アーチの中央には深紅×剣の巨大な紋章が嵌め込まれていて、その両脇には同じく深紅で縦長の旗がたなびいている。
開かれた門扉は黒い鋼鉄製で、よく見ると唐草模様が施されていた。

流石は国の威信がかかった施設だ。威厳が半端ない。
見ているだけで体がガチガチになっていく……のに。

「ヒッ……!」

門番を目にしたことで、緊張は恐怖に変わった。
まさか、生徒全員の顔を覚えてるなんてことはないだろうな……?
バレたらあのご立派な槍でめった刺しにされるんじゃ……?
そんな最悪の想像を振り払いながら、何とか門を通過した。

「ふぅ~……」
「やったー! 潜入成功★」
「ばっ、バカ! 騒ぐなって」
「バカはどっちよ。ビビり過ぎ。堂々としてなさいっ!」
「あひっ……!」

バシッと勢いよく背中を叩かれた。
メチャ痛い。手形付いたんじゃないか?

「っていうかさ……いるでしょ?」
「? 何が?」
「仲間よ! 仲間!!」
「ああ、やっぱお前も分かるんだな」

原作のエステラは『女神の導き』というスキルで、パーティーに勧誘可能なキャラか判別することが出来た。
この物言いから察するに、現実のエステラにも似たようなことが出来るんだろう。

「どんなヤツよ? 女の子? それともイケメン?」
「……男はイケメンしか認めないんかい」
「勿体付けてないで、さっさと言いなさいよ!」
「ゼノス・オブ・ヴァレンティだよ。王弟の次男の」
「っ!!!!!! マジ!? あの超絶イケメンの!!?」

エステラの青緑色の瞳が爛々と輝き出す。
俺が頷いて応えると、ウサギみたいにぴょんぴょんと跳ね出した。
自分の頬がひくひくと引き攣っていくのが分かる。
現金なヤツだ。俺のことは『これ』呼ばわりした挙句蹴とばしたくせに。

「はぁ~♡ いい旅になりそうね♡♡」
「……良かったな」
「ん? ……ほぉ~ん?」

くるっと回り込むようにして顔を覗き込んでくる。
おまけに口元に手をあてて、ニヒヒ笑いときたもんだ。

「……何だよ」
「ヤキモチ?」
「はぁ!? 何でそうなるんだよ!」
「どう見たってヤキモチじゃない」
「自惚れんなよ! 俺はむしろ清々して――」
「うるさいわね。メッチャ目立ってるわよ~?」
「うぐっ……」

周囲を見回してみると、確かに俺達の方に目を向けている生徒がいた。
これは良くない。よくよく見られたらアウトだ。
間違いなく『あんなヤツらいたっけ?』ってなる。
少なくともバルダスさんに接触するまでは、目立たないようにしないと。

「ふんふんふん♪」

エステラの体が左右に揺れ出す。
最初はおちょくっているのかと思ったけど、ニコニコで……すごく喜んでいるように見えた。

この自分大好きっ子め。
秒で可能性の芽を摘んで、ほんのり薄暗い石造りの校舎の中を進んでいく。

目指しているのは中庭にある訓練場だ。
中庭に続く扉はまだずっと先に……七~八十メートルは先にあるのに、金属と金属、掛け声と掛け声とが激しくぶつかり合う音が聞こえてくる。

「……っ」

不意に金属音が――ゴム玉を打つ音に変わった。

ポコンッ……ポコンッ……。
クレーコートの上を必死に走り続けた。
なのに、俺のラケットはボールに届かない。
相手の方にばかり点が重なっていく。

――通じなかったんだ。高校では何もかも。

『土曜も朝練することにしたんだ。谷口も良かったら来ない? お前がいてくれると正直メッチャ助かるんだけど』

腐りかけていた俺にも、二軍のヤツ等は声を掛けてくれた。
なのに、俺は――。

「いたいた! アイツよ、アイツ!」
「?」

中庭に出るなりエステラが正面を指さす。
そこには、黒い甲冑に白いマントを身に纏った老齢の騎士の姿があった。

「うおぉお!! すげえ!! マジモンの老騎士じゃんか!!」

あのなりから察するに重騎士だろうな。
背筋は当たり前のようにピンとしてるのに、髪の色はすっかり抜けて白くなってしまっている。

ロマンだよな。
技巧型の老戦士も好きだけど、ああいうパワー型の老戦士はもっと好きだ。
純粋に憧れる。俺もあんな爺ちゃんになれたらな。

「老騎士? ははっ! 違う違う! アイツはただの老け顔。あれは白髪じゃなくて地毛よ」
「はぁ!? まっ、まままっ、マジ!?」

あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。
そんな俺を前に、エステラは得意になって続けていく。

「実際は三十そこらよ。バリバリ現役。舐めてかかると痛い目見るわよ」
「あれは老け顔ってだけで出せる貫禄じゃねえだろ」
「まあ、腕は確かよ。二十五そこそこでアタシの護衛隊長を任せられてたぐらいだから」
「……そんなの俺ぜってー相手にされねえじゃん」
「大丈夫よ。あれを見て」

エステラに促されるまま目を向けると、バルダスさんが男子学生にフォームを指導しているのが見えた。
俺の目にはコーチと部員に見えて、反射的に喉の奥が震える。
ダメだな。学校だからか、やたらと向こうでのことを思い出しちまう。

「昔っから面倒見がいいのよ。だから、どこに行ってもあんなふうに人が集まって来るんでしょうね」
「え? じゃあ、まさか今中庭にいる学生さん達って……?」
「バルダスの門弟ってところじゃない? 教師っぽいヤツはアイツしかいないし」

今中庭にいるのは三十~五十人ぐらいの学生達だ。
いずれもシャツ+パンツ姿で、熱心に稽古に励んでいる。

でも、ここの学生達って朝から騎士になるための勉強や、トレーニングをしてるんだよな?
その上で放課後もって……凄い熱量だな。俺も見習わないと。

「バルダス先生ー!」

唐突にエステラが声をかけた。
バルダスさんは直ぐに気が付いて、ばっと勢いよく振り返る。

「なっ、……なななななっ!!??」

バルダスさんの顔がみるみるうちに青くなっていく。
かと思えば、とんでもないスピードでこっちに向かってきた。
二メートル近い大男なだけに、その姿はさながらバイソンだ。
立ち上がった土煙の中で、俺とエステラは激しく咳込む。

「聖っ……なぜこのようなところに!!?」
「アンタと同じよ。聖教に見切りをつけてきたの」
「何ということを……」

バルダスさんはエステラの脱教を歓迎しなかった。
何でだ? エステラの野望を知らないからか?
それともバルダスさんが聖教を抜けたのは、見切りをつけたからじゃなくて何か別の理由で――。

「そんなことよりさ、コイツのこと鍛えてよ」
「? この少年は?」
「勇者よ」
「何ですと!?」
「疑う気? このアタシが言ってるのよ」
「失言でした。ご無礼をお許しください」

……と、恭しく頭を下げるバルダスさん。
けど、その目からは疑念の色が抜けきれていない。
それもそのはず。
聖教で言い伝えられているであろうオリジナルの勇者は、原作通りなら【黒髪姫カットで、切れ長の目をした儚げな美少年】。
俺とは似ても似つかない。疑われて当然だ。

……つーか、何だよ【黒髪姫カットで、切れ長の目をした儚げな美少年】って! 性癖詰め込み過ぎなんだよ、あの女神(腐女子)は!!

「完璧に仕上げろとまでは言わないわ。旅に出られる程度まで育ててくれたら、あとは道中で何とかするから」
「かしこまりました」

二つ返事で了承してくれた。
ありがたい反面、俺の方はまだ心の準備が……。
マンツーマンか?
それとも、あの学生達と一緒に稽古することになるのかな?

出来れば前者がいいな。
俺は一応勇者なわけだし、情けない姿を見せ過ぎるのも――って、おい。何考えてんだ。そりゃ建前だろ。()()()()を繰り返す気か?
俺は苦笑しつつ、やれやれと首を左右にふる。

『谷口も良かったら来ない? お前がいてくれると正直メッチャ助かるんだけど――』
『悪い。俺はパス』

未経験からソフトテニスを始めて、全中ベスト8まで進んだ。
そんな自分なら名門校でも通用すると思ってた。
……けど、蓋を開けてみれば、先輩達はおろか同学年の一軍選手にすら歯が立たなかった。

――この上、二軍のヤツ等にまで負けるようになっちまったら、俺はもう……きっと立ち直れない。

そんなみっともない理由から、アイツ等の誘いを断った。
敗北から学ぶことで強くなってきたはずなのに、敗北することそれ自体を恐れるようになってしまったんだ。

言うまでもなくそれは、賞賛される喜びを知ってしまったから。
積み上げてきた実績に固執してしまっていたからだろう。

一方で、今の俺の実績は真っ新な状態。
多少のアドバンテージこそあるものの、剣術は未経験からのスタートだ。
()()()()()()()()にあると言っていいだろう。

もしかしたら、俺の実力が露呈することで学生達の士気が下がってしまう……なんてこともあるかもしれないけど、必死に食らいついて挽回していこう。
負けて、負けて、負けて、そこから学んで強くなるんだ。そう。中学の頃(あのころ)みたいに。

「では、勇者様。早速ではございますが――」
「あっ! 敬語は結構ですよ。名前も谷口で――」
「それは家名でしょ。ややこしくなるから陽翔(はると)にしなさい」

女神の導き(鑑定眼)……すげえな。
俺の情報どこまで()()()()()()()()
折を見て確認しないとな。

「では、陽翔。早速だが、君の剣を見せてくれるかな?」

言うなりバルダスさんが剣を抜いた。
『模擬戦をしよう』ということなんだろう。よっ……よし!
俺はエステラが離れたのを確認して、勢いよく剣を抜いた。