高三ダブりな俺の異世界再生記 〜転生して女神になった友達から助けを求められたので、イケメン騎士や美少女達と共に異世界を救おうと思います〜

「似合ってるよ、陽翔」
「……ンなわけあるか」

甘いコロンの香りが漂う馬車の中で、俺とゼノスは正装姿で向き合っていた。
夜会用のお衣装とのことなのだが、もうとにかく派手だ。

その要因は間違いなく、この『アクセントカラー』と『ひらひら』だな。

俺は緋色×金色、ゼノスは深緑×金。

燕尾服のテール部分は足首近くまで、クラバットと呼ばれるスカーフは鳩尾(みぞおち)のあたりまで、それはもう長~く伸びている。

どうして俺らがこんな格好をしているのかと言えば、それは偏(ひとえ)にルゥを助け出すためだ。

この地を治める伯爵様の調べでは、アイツは獣(・)人(・)専(・)門(・)の(・)キ(・)ャ(・)バ(・)ク(・)ラ(・)で働いているのだという。
原作ではコロシアムで『No.1 拳闘士』として働いてたんだけどな。

これもゲームが現実になった影響、邪神優位の世界になってしまったからなのか……?

「陽翔。お店に着く前に話しておかないといけないことがあるんだ」
「? 何だよ?」
「亜人差別について」
「っ!」

――亜人差別

そんなものは原作にはなかった。
ショックと怒りに似た感情で頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
ダメだ。ちゃんと聞かないと。

何とか頭を切り替えて、ゼノスの話に耳を傾ける。
教えてもらった内容をまとめるとこんな感じだ。

・留まるところを知らない魔物の侵略。明日が見えない極度の社会不安から、人間は『頼もしい隣人』であるはずの『亜人』を『半魔なのでは?』と疑うようになる。

・以後、争いを避けるために人間と亜人は厳格に生活領域を分けて、互いに一切干渉しないことを条件に均衡を保つようになった。

・一方で亜人の中からは様々な理由で里を追放されたり、自由を求めて人間の生活圏にやってくる人達が出てくる。

・人間からすると能力の高い亜人は兵力、労働力として非常に魅力的。そのため『管理』の名のもとに、劣悪な環境下で搾取するようになる。

・女王を始めとした王室は『頼もしい隣人』である亜人達を人道的に扱うよう通達しているが、人手不足などを理由に形骸化してしまっている。

……とのことだった。
こんな状態がもう百年近く続いているらしい。
正直言葉もないが、何とか堪えて疑問を口にする。

「自主的に里を出てきた人達は? 里に戻れたりしないのか?」
「許されないそうだよ。彼らにとって里を出るということは伝統、掟を否定することと同義だそうだから」
「……くそっ、どうにかなんねえのかよ」

俺は堪らず両手を握り締めた。

悪い人間に目を付けられたら最後、死ぬまで搾取され続けるってことだろ?
そんなのあんまりだ。惨過ぎる。

「改めて聞くけど、これから会うルゥさんは『女神の使徒』なんだよね?」
「ああ。最後のメンバーもハイエルフの女の人だ」
「なら、希望はあるよ。彼女達もまた女神様に選ばれた戦士なんだ。使命を果たせれば、差別撤廃に向けて大きく前進することが出来るはず」
「そうか! そうだよな!」

ゼノスの言う通りだ。
亜人の人達は半魔だと疑われて差別を受けている。
亜人であるルゥとミレーネさんが魔族の親玉である邪神を倒したとなれば、直ぐ直ぐには無理でも疑いを晴らす大きなきっかけになるだろう。それに――。

「平和になれば、亜人差別もきちんと取り締まられるようになるよな?」
「そうだね。時間はかかるかもしれないけど、陛下ならきっと応えてくださると思うよ」
「よっしゃ! 俄然やる気が出てきた! さんきゅな、ゼノス!」
「ふふっ、一緒に頑張ろうね」
「ん? ああ……俺はたぶん邪神を倒すところまでだけどな」
「えっ……?」

黒(・)い(・)仮(・)面(・)の奥の青い瞳が丸くなる。
何だ? メッチャ驚いてる……?

「陽翔……まさか……」
「ああ。女神との約束で、邪神を倒したら元の世界に戻ることになってる」
「………………………………そう」
「? 預言書に載ってなかったか?」
「この世界を救う……としか」

言われてみれば確かに。
ゲームのエンディングでは、エステラと勇者が結婚していたような気がする。

――でも、俺は偽(・)物(・)だ(・)か(・)ら(・)。

「……ふっ」

そう思いかけてつい笑ってしまった。
ほっとしたからだ。

やっぱり俺とエステラはそ(・)う(・)は(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)。

「到着しましてございます」

御者の人の案内を受けて、俺、ゼノスの順で馬車を降りる。

ここはベルマーレの郊外にある森の中。
目の前にある建物には看板らしきものは何も取り付けられていなくて、一見するとただのお屋敷にしか見えない。

ここ、マジでキャバクラなのか?

「ルカ」

ガキんちょみたいにキョロキョロしていると、ゼノスが声をかけてきた。

――ルカ

そう。それが一夜限りの俺の名前。
ゼノスは『アルベルト』という偽名を使う手筈になっている。

偽名で呼び合うのもまたこのお店のルールだからだ。
(会員制だからオーナーには身分を伝えるが)店内では一切身分を明かしてはいけない。

なので、こんなタキ●ード仮面サマみたいな仮面まで付けているというわけだ。

ゼノスから店のルールを聞いた時は、『大人なお店だからか?』なんて呑気に思っていたけど、さっきの亜人差別の話を踏まえれば、ここまでルールがガチガチなのにも納得がいく。

端的に言えば世間体が悪いからだ。
だからこうして、涙ぐましいまでの『身バレ対策』をしてるんだな。

姑息な意気地なし者どもめが、などと一人で勝手に憤りながらゼノ……じゃなくてアルの後についていく(間違って本名で呼んじゃいそうだから、しばらくは心の中でも偽名呼びにすることにする)。

「ほわっ……!」



店に足を踏み入れた瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
まさに豪華絢爛の一言だ。

天井には巨大なシャンデリア。
床は黒い大理石でピッカピカに磨き上げられている。

席はテーブルを囲んだソファ席とカウンター席があって、全部で……三十席くらいか?
割と少なめな印象を受ける。
やっぱ高級店だからかな。

あ、二階もあるんだな。
吹き抜けを囲むような回廊になってて、扉が五つ並んでる。
あれはスタッフルーム?
それともVIPルームとかかな?

「ご指名はございますでしょうか?」

席に着くなり黒服+白い仮面を付けたボーイさんが訊ねてきた。
その瞬間、俺は借りてきた猫みたいにカッチンコッチンになってしまう。

ルゥを頼めばいいんだよな?
でも、何って言えばいいんだ?
『ルゥを頼めるかな?』とか?

けど、どんな感じで?
気取った感じで??
それとも謙虚な感じで???

「ルゥを指名したいのですが」

俺が一人頭をグルグルさせている間に、アルが対応をしてくれた。
低姿勢でありながら物凄くスマートだ。

ありがとう、アル!
やっぱお前がいれば間違いねえ……!!

「申し訳ございません。ルゥは当店随一の人気を誇る獣人でございまして」

っ!!?? アイツ……そんな売れっ子なのか。
俺の知ってるルゥは天(・)真(・)爛(・)漫(・)な(・)食(・)い(・)し(・)ん(・)坊(・)ガ(・)ー(・)ル(・)なんだけどな。

エステラやゼノスがそうであったように、こっちのルゥも俺の知るルゥとは大分違うのかもしれない。

伏し目がちに『お勉強させていただきます』なんて言っちゃうような、知性も品性も兼ね備えたパーフェクト★キャバ嬢になってたらどうしよう……?
まともに話せる気がしないんだが。

「ですが、アルベルト様のご指名とあれば可能な限り調整を。……そうですね、三十分ほどでご案内が出来るかと」
「ありがとうございます」

言うまでもなく、ボーイさんもアルの正体を知っているんだろう。
話が早くて助かる。ありがとうボーイさん。そして王族パワー。

「お待ちいただいている間に代わりのキャストをご案内致します。ご希望はございますでしょうか?」
「お任せします」
「かしこまりました」

すっと頭を下げてボーイさんが去っていく。

「ふぅーーー……」

ボーイさんの背中が遠ざかった後で深く息をついた。
どうやら無意識のうちに息を止めていたらしい。

「マジしんどい……」
「ふふっ、ルカらしいね。エステラ(彼女)によく言っておくよ」
「言ったら絶交だかんな」
「ははっ、それは困るな」

お道化たように肩を竦めるアルを一瞥して店内を見回す。
俺達以外の客は……おじさんの客が一人だけか。

……って、ちょっ……!!
よく見たら、おじさんが黒犬?の獣人のお姉さんの頭やら肩やらを撫でまくっている。

ここってキャバクラなんだよな?
お触りはNGなんじゃ……?

「「こんばんは~」」

緩いトーンで挨拶をされる。
声がした方に目を向けると、そこには――ベ(・)ビ(・)ー(・)ド(・)ー(・)ル(・)姿(・)の黒猫の獣人と白兎の獣人のお姉さんの姿があった。