「先生!!!」
「バルダスーーー!!!」
エステラが一足早く駆けて行って先生の胸にダイブした。
戸惑う先生を他所に、エステラがわんわん泣き出す。
「聞いてよ!! ハルのせいでゼノスがおかしくなっちゃったの!!」
「なっ、何ですと!?」
「ほら、見てよ! あんな下品で、バカみたいな顔……っ。ひどいでしょ!? ねえ!?」
先生が慌ててゼノスに目を向ける。
だけど、直ぐにほっとしたように息をついた。
たぶん、思いは俺と同じ。
ゼノスの明るい未来を予感しているんだろうと思う。
「陽翔、よくやってくれた。殿下があれ程までにお楽しそうにされている姿を目にしたのは、高等部に入学されて以来……実に二年ぶりのことだ。本当にありがとう」
「いえ、俺は何も――」
「ふごぉ!!??」
「何言ってんのよ、このバカ!! ゼノスが変な遊びを覚えちゃったのよ!! 早く止めさせてよ!!」
「でっ、ですが聖女様――いだっ!? いだだっ!! ご無体を……っ」
先生の脛を問答無用で蹴り続ける自称・元聖女、現義賊様。
とんでもない理不尽を喰らっているのにもかかわらず、先生はされるがままだ。
ピッチから聞いた話によると、先生は聖教という組織そのものからは離れはしたものの、独自に女神を――結衣を信仰し続けているらしい。
結衣が知ったら、きっと喜ぶだろうな。
『ははっ、面目ない……』
邪神に力を奪われ、破滅を招いてしまった。
そんな自分の不甲斐なさをひたすらに恥じるアイツの姿を思い出して、きゅっと唇を引き結ぶ。
「しかし、一体何があったというのだ? あれほどの結界を張れる魔物となると、相当限られると思うのだが」
「邪神と邪神の使徒が現れたんです」
「なっ、何だと!?」
そのまま俺の方から事情を説明していく。
そうしているうちに他の先生達も集まってきた。
全部で四人。チェックポイントに立っていた先生達だ。
「邪神が現れただと!?」
「何と言うことだ。ヤツはその気になれば、いつ何時でも我々の防衛ラインを突破出来るというのか……!!!」
いずれも超絶エリート校の先生を務めているような人達だ。
相当腕が立つんだろうけど、それでも動揺を隠せずにいるみたいだった。
けど、バルダス先生だけは終始冷静で。
他の先生達には悪いけど、つい格の違いみたいなものを感じてしまった。
「……というわけで、残りの二か月と半月の間に出来るだけ腕を磨きたいと思っています。なので、改めてよろしくお願いします」
「ああ、勿論だとも」
バルダス先生が力強く応えてくれる。
マジで師匠に恵まれたと、心からそう思った。
死に物狂いで頑張らないとな。
「……っ!」
不意に視線を感じて目をやると、コルがこっちを見ていた。
目が合うなりふいっと目を逸らしてしまう。
ダメだ! このチャンスは絶対に逃しちゃいけない!
「あっ……と……」
前のめりになり過ぎて、凄まじくコミュ障丸出しな切り出しになってしまった。
めげるな俺。ふるふると首を左右に振って腹に力をこめる。
「こっ、コル! パルクール! パルクールを教えてくれないか?」
「ぱ……? 何だよそれ」
「あ……えとっ……壁を駆け上ったり、二階から飛び降りたりする技のことだよ! あれは魔法じゃないだろ?」
「ああ。練習すりゃ誰でも出来るようになるぜ」
「じゃっ、じゃあ――」
「はっ、タダで教えろってのか?」
「あ……」
沈黙が重く圧し掛かる。
確かにその通りだ。
コルも高三。時期は春。
学校の卒業資格の取得やら、就活(?)やらで間違いなく忙しい。
そんなお方にタダで教えを乞うなんて、あまりにも虫が良すぎる。
でも、俺は無一文だし。
一体どうしたら……。
「冗談だ。『やる気のあるヤツは歓迎だ』っつったろ」
「えっ……?」
コルが笑ってる。
それにOKもしてくれた。
パルクールを教えてくれるって。
一つ一つ理解していくうちに目尻が熱くなっていく。
ヤバい。泣く。コルの前でまた――。
「この泣き虫が」
「~~っ、ごめん」
結局泣いちまった。
ボロボロと涙が溢れ出す。
俺はせめて泣きっ面だけは見せまいと、顔面を両手で覆う。
「なっ、何も泣くことないでしょ! もぉ~……」
声や物音からエステラがおろおろしているのが分かった。
コイツ、横柄なくせして泣かれると弱いらしい。
「まったく……。殿下、やりますよ」
「?」
「さっきのヤツですよ。コイツはあれで泣き止むんです」
「へえ~、そうなんだ。ふふっ、腕の見せ所だね」
「っ!!? まさか……止しなさい、ゼノス!! ちょっ!? バルダス!! 離して!!!!」
「聖女様、何卒ご容赦を」
「ハル」
「陽翔」
「…………」
顔は正直見せたくなかった。
情けないし、みっともないし。
――だけど、俺は顔を上げた。
俺を気遣う二人のその気持ちが、何よりも嬉しかったから。
「ベロベロ、ばぁ~!」
「ばぁ~!」
「…………」
ゼノスとコルが目と歯をひん剥いて舌を突き出している。
先生だけじゃないな。俺は友達にも恵まれた。
結衣。これもまたお前の導きなのか。
「……っ、…………」
「…………っ、……く……」
ゼノスとコルの体がぷるぷると震え出す。
二人とも鼻の穴はひくついてて、その奥にある目は『早くしてくれ!』と言わんばかりにどんどんどんどん涙目になってって――。
「ふっ……ははっ……」
気付けば俺は吹き出すようにして笑ってた。
途端にゼノスとコルがしたり顔を浮かべる。
俺にはそれがまたおかしくて、一層声を大にして笑った。
「バルダスーーー!!!」
エステラが一足早く駆けて行って先生の胸にダイブした。
戸惑う先生を他所に、エステラがわんわん泣き出す。
「聞いてよ!! ハルのせいでゼノスがおかしくなっちゃったの!!」
「なっ、何ですと!?」
「ほら、見てよ! あんな下品で、バカみたいな顔……っ。ひどいでしょ!? ねえ!?」
先生が慌ててゼノスに目を向ける。
だけど、直ぐにほっとしたように息をついた。
たぶん、思いは俺と同じ。
ゼノスの明るい未来を予感しているんだろうと思う。
「陽翔、よくやってくれた。殿下があれ程までにお楽しそうにされている姿を目にしたのは、高等部に入学されて以来……実に二年ぶりのことだ。本当にありがとう」
「いえ、俺は何も――」
「ふごぉ!!??」
「何言ってんのよ、このバカ!! ゼノスが変な遊びを覚えちゃったのよ!! 早く止めさせてよ!!」
「でっ、ですが聖女様――いだっ!? いだだっ!! ご無体を……っ」
先生の脛を問答無用で蹴り続ける自称・元聖女、現義賊様。
とんでもない理不尽を喰らっているのにもかかわらず、先生はされるがままだ。
ピッチから聞いた話によると、先生は聖教という組織そのものからは離れはしたものの、独自に女神を――結衣を信仰し続けているらしい。
結衣が知ったら、きっと喜ぶだろうな。
『ははっ、面目ない……』
邪神に力を奪われ、破滅を招いてしまった。
そんな自分の不甲斐なさをひたすらに恥じるアイツの姿を思い出して、きゅっと唇を引き結ぶ。
「しかし、一体何があったというのだ? あれほどの結界を張れる魔物となると、相当限られると思うのだが」
「邪神と邪神の使徒が現れたんです」
「なっ、何だと!?」
そのまま俺の方から事情を説明していく。
そうしているうちに他の先生達も集まってきた。
全部で四人。チェックポイントに立っていた先生達だ。
「邪神が現れただと!?」
「何と言うことだ。ヤツはその気になれば、いつ何時でも我々の防衛ラインを突破出来るというのか……!!!」
いずれも超絶エリート校の先生を務めているような人達だ。
相当腕が立つんだろうけど、それでも動揺を隠せずにいるみたいだった。
けど、バルダス先生だけは終始冷静で。
他の先生達には悪いけど、つい格の違いみたいなものを感じてしまった。
「……というわけで、残りの二か月と半月の間に出来るだけ腕を磨きたいと思っています。なので、改めてよろしくお願いします」
「ああ、勿論だとも」
バルダス先生が力強く応えてくれる。
マジで師匠に恵まれたと、心からそう思った。
死に物狂いで頑張らないとな。
「……っ!」
不意に視線を感じて目をやると、コルがこっちを見ていた。
目が合うなりふいっと目を逸らしてしまう。
ダメだ! このチャンスは絶対に逃しちゃいけない!
「あっ……と……」
前のめりになり過ぎて、凄まじくコミュ障丸出しな切り出しになってしまった。
めげるな俺。ふるふると首を左右に振って腹に力をこめる。
「こっ、コル! パルクール! パルクールを教えてくれないか?」
「ぱ……? 何だよそれ」
「あ……えとっ……壁を駆け上ったり、二階から飛び降りたりする技のことだよ! あれは魔法じゃないだろ?」
「ああ。練習すりゃ誰でも出来るようになるぜ」
「じゃっ、じゃあ――」
「はっ、タダで教えろってのか?」
「あ……」
沈黙が重く圧し掛かる。
確かにその通りだ。
コルも高三。時期は春。
学校の卒業資格の取得やら、就活(?)やらで間違いなく忙しい。
そんなお方にタダで教えを乞うなんて、あまりにも虫が良すぎる。
でも、俺は無一文だし。
一体どうしたら……。
「冗談だ。『やる気のあるヤツは歓迎だ』っつったろ」
「えっ……?」
コルが笑ってる。
それにOKもしてくれた。
パルクールを教えてくれるって。
一つ一つ理解していくうちに目尻が熱くなっていく。
ヤバい。泣く。コルの前でまた――。
「この泣き虫が」
「~~っ、ごめん」
結局泣いちまった。
ボロボロと涙が溢れ出す。
俺はせめて泣きっ面だけは見せまいと、顔面を両手で覆う。
「なっ、何も泣くことないでしょ! もぉ~……」
声や物音からエステラがおろおろしているのが分かった。
コイツ、横柄なくせして泣かれると弱いらしい。
「まったく……。殿下、やりますよ」
「?」
「さっきのヤツですよ。コイツはあれで泣き止むんです」
「へえ~、そうなんだ。ふふっ、腕の見せ所だね」
「っ!!? まさか……止しなさい、ゼノス!! ちょっ!? バルダス!! 離して!!!!」
「聖女様、何卒ご容赦を」
「ハル」
「陽翔」
「…………」
顔は正直見せたくなかった。
情けないし、みっともないし。
――だけど、俺は顔を上げた。
俺を気遣う二人のその気持ちが、何よりも嬉しかったから。
「ベロベロ、ばぁ~!」
「ばぁ~!」
「…………」
ゼノスとコルが目と歯をひん剥いて舌を突き出している。
先生だけじゃないな。俺は友達にも恵まれた。
結衣。これもまたお前の導きなのか。
「……っ、…………」
「…………っ、……く……」
ゼノスとコルの体がぷるぷると震え出す。
二人とも鼻の穴はひくついてて、その奥にある目は『早くしてくれ!』と言わんばかりにどんどんどんどん涙目になってって――。
「ふっ……ははっ……」
気付けば俺は吹き出すようにして笑ってた。
途端にゼノスとコルがしたり顔を浮かべる。
俺にはそれがまたおかしくて、一層声を大にして笑った。


