「では、七班前へ」
一班が出発してから約一時間後、俺達の前の班が村の中へと足を踏み入れていった。
因みに俺達の出発は今から十分後で、一番最後だ。
俺はこの二日間で可能な限りのトレーニングを積んできた。
少しはマシになったとは思うが、どうにも緊張する。
何せ魔物と戦うのはこれが初めてだからだ。
聞いた話によれば、この辺りに分布する魔物は比較的弱め。
原作で言えば序盤に出てくるものばかりだった。
とはいえ、ほぼ戦闘初心者の俺にとっては強敵かもしれない。
気を引き締めていかないと。
「っ!」
その時、何の前触れもなくゼノスの背中に青白い光が走り出した。
かと思えば、その光はホログラムみたいに盾と肩紐を描き出していく。
「わわっ!」
「うるさいわね。何よ……って、きゃーー! 何あれー!?」
俺とエステラが騒ぎ出したことで、ゼノスも気が付いたみたいだ。
照れ臭そうに笑いながら、武骨な銀色の腕輪を見せてくれる。
「僕の魔法じゃないよ。この魔道具の力なんだ」
存じております!!
ゼノスはこの世界で唯一の『換装騎士』。
戦況に応じて、防具や武器を変えて戦う騎士なのだ。
防具は
・軽装
・甲冑
武器は
・ショートソード
・ショートソード+盾
・バスターソード
・バスターソード+大盾
……の、計八種の装備を瞬時に切り替えて戦うことが出来る。
今選択したのは【軽装(制服)&ショートソード+盾】のセットか。
盾は先の尖ったヒーターシールド型。
ベースは王族の公式カラーのロイヤルブルーで、中央には国章である『王冠を戴くグリフォン』が金細工で描かれている。
すげえカッコイイ。すげえ似合う。
でも、俺はやっぱり【甲冑&バスターソード+大盾】姿のゼノスが見たい……!!!
プロのデザイナーさんのお陰で、メチャ良い仕上がりになってるんだよな。
品があるんだけど力強い。まさにグリフォン。鷲×獅子って感じだ。
甲冑も大盾も、ベースカラーはロイヤルブルーで金で縁取られてる。
大剣と兜には、それぞれ翼の装飾が施されててマジでカッコイイ……のだが、もっともっと特筆すべきなのは兜のバイザー!
それが黒の強化ガラスで出来てるってことだ!
しかもハーフサイズで、下げると口元しか見えなくなる。
そこもまたミステリアスというか、変身ヒーロー感増し増しというか……!!!
「くぅ~! 男のロマンだッ」
「はぁ? 何ブツブツ言ってんのよ」
「では、八班前へ」
いよいよ俺達の番になった。
ゼノスを先頭に、コル、エステラ、俺の順で村の中へと足を踏み入れていく。
ここから俺達は、先生達が待機している四つのチェックポイントを目指して進んでいく。
ざっくりルールを説明すると……
・回る順は自由。
・四時間以内に四つのスタンプを集めれば合格。
・制限時間内にゴール出来ればタイムは問わない。
・無傷に近い状態であればあるほど加点。
といった具合に、スピードよりも安全性を重視した演習になっている。
そのためか、参加者の中には僅かながら貴族科の学生の姿も見られた。
最初はつい『親に言われて渋々来たんだろう』と思ってしまったが、学生達はいずれも真剣な顔をしていて。
内心でちょっと……いや、大分反省した。
貴族科の学生達も一概に怠惰なわけじゃない。
あんなふうに本気で騎士になろうと努力してるヤツ等もいるんだな。
「ハル。聖女様を見ててくれ」
「おっ、おう!」
コルだ。どうやら斥候はちゃんとしてくれるらしい。
さっきの『ゼノスがどの程度やれんのか』ってのは、あくまで戦闘技術の話だったんだな。
自分の理解力の乏しさに……いや、あまりの素人っぷりに気恥ずかしくなる。
「っ! すっげ……」
コルはボロボロになった建物の壁を駆け上がり、あっという間に廃屋の二階部分に到達してみせた。
パルクールみたいだ。かっけぇ~……。
俺がそうやって惚れ惚れしている間に、コルは周囲を観察し始める。
双眼鏡とか、そういった道具を取り出す気配は微塵もない。
「まっ、まさか肉眼で見てんのか!?」
「厳密に言うと、魔法で強化した目で見てるのよ」
「へぇ~、目だけ強化するなんてことも出来るのか」
原作のゲームにも肉体を強化する魔法はあったけど、それはごくありふれた攻撃力UPだとか防御力UPだとかいう、かなりザックリとした括りのものだった。
こうして魔法が多様化したのも、ゲームが現実になったことによる辻褄合わせの一種なんだろう。
これを結衣が一人で? いや……まさかな。
大方、上司か先輩の神様にでもアドバイスを貰ったか、あるいは自動的に整合性が取られるような仕組みになっているんだろう。
そうやって無理矢理に自分を納得させる。
ったく、往生際が悪いったらないな。
俺は未だに結衣が絶対的な存在になってしまった事実を――神様になってしまった事実を受け止めきれずにいるらしい。
やれやれと首を左右に振って、小さく咳払いをする。
「目以外の部分も個別に強化出来たりすんのか?」
「ええ。所謂『五感』を司る部分ね。どこだか分かる?」
「視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚だから……目、耳、鼻、口、あとは皮膚? とかか?」
「へえ~? アホ面なくせして意外と賢いのね」
「……うっせーやい」
勇者パーティーの本来の斥候担当は獣人のルゥだ。
なので本当に、本当に失礼な話だけど、獣人であるアイツと人間であるコルとでは、斥候という観点においてはかなりの能力差があるんじゃないかと思ってた。
実際問題、原作のゲームではその差は歴然だったから。
けど、五感を強化する魔法なんてものがあるんだとしたら、割とタメを張れるのかもしれないな。
「因みにアンタはいくら鍛えても、『五感強化』なんて真似は出来ないからそのつもりでね」
「やっぱ『軽騎士』とか『重騎士』には備わらない能力なのか」
「そゆこと」
「何か『斥候騎士』ってメッチャ特殊っつか、レア種って感じがするな」
「実際そうでもないわ。でも、あのレベルは激レアね。バルダスはゼノスを『百年に一人の逸材』と言ったけど、アイツも相当なもんよ」
「はえ~……」
俺が改めて感心していると、コルが二階の縁に立った。
そしてそのまま僅かも躊躇することなく垂直に飛び降りて、着地と同時に前に転がる。しかもほぼ無音だ。
マジでパルクール……!! 流石にあれは魔法とかじゃないよな?
簡単な技なら、俺にも出来たりするんだろうか。
「前方約80メートルにバトルマンティスが一体。廃屋や瓦礫が密集していて見通しはかなり悪いですが、風上にいるので隙は突きやすいかと」
バトルマンティス……確か160センチ近い大型のカマキリだ。
ゲームでは序盤の終わりに出てくる。
両手の鎌を使った素早い攻撃が得意で、ザコ敵の中ではそれなりに強い。
ゼノスの復帰明けの相手としてはどうなんだろう?
……もしかして、荷が重かったりしないか?
「分かった。行こう」
ゼノスはこれといって不安がる素振りを見せなかった。
問題ないってことか?
……念のため、確かめておいた方がいいんじゃ?
逡巡している間に、コルがゼノスの後ろについてしまった。
そのことで何となく勢いを削がれてしまう。
無事に初戦を終えられるといいが……。
「じゃあ、行ってくるね」
「無理すんなよ」
ゼノスは微笑みまじりに頷いて応えると、身を屈めてゆっくりと大カマキリに近付いていく。
カマキリは後ろを向いている。
このまま着実に距離を詰めて、急所を……首とか心臓なんかを狙うつもりでいるんだろう。
俺達はコルの指示のもと、廃屋の壁に隠れながらゼノスを見守る。
――頑張れ、頑張れ、頑張れ。
力任せに手を握り締めたことで、俺の革製のフィンガーレスグローブがきゅっと音を立てた。
それと同時に、ゼノスがカマキリに斬りかかる。
一班が出発してから約一時間後、俺達の前の班が村の中へと足を踏み入れていった。
因みに俺達の出発は今から十分後で、一番最後だ。
俺はこの二日間で可能な限りのトレーニングを積んできた。
少しはマシになったとは思うが、どうにも緊張する。
何せ魔物と戦うのはこれが初めてだからだ。
聞いた話によれば、この辺りに分布する魔物は比較的弱め。
原作で言えば序盤に出てくるものばかりだった。
とはいえ、ほぼ戦闘初心者の俺にとっては強敵かもしれない。
気を引き締めていかないと。
「っ!」
その時、何の前触れもなくゼノスの背中に青白い光が走り出した。
かと思えば、その光はホログラムみたいに盾と肩紐を描き出していく。
「わわっ!」
「うるさいわね。何よ……って、きゃーー! 何あれー!?」
俺とエステラが騒ぎ出したことで、ゼノスも気が付いたみたいだ。
照れ臭そうに笑いながら、武骨な銀色の腕輪を見せてくれる。
「僕の魔法じゃないよ。この魔道具の力なんだ」
存じております!!
ゼノスはこの世界で唯一の『換装騎士』。
戦況に応じて、防具や武器を変えて戦う騎士なのだ。
防具は
・軽装
・甲冑
武器は
・ショートソード
・ショートソード+盾
・バスターソード
・バスターソード+大盾
……の、計八種の装備を瞬時に切り替えて戦うことが出来る。
今選択したのは【軽装(制服)&ショートソード+盾】のセットか。
盾は先の尖ったヒーターシールド型。
ベースは王族の公式カラーのロイヤルブルーで、中央には国章である『王冠を戴くグリフォン』が金細工で描かれている。
すげえカッコイイ。すげえ似合う。
でも、俺はやっぱり【甲冑&バスターソード+大盾】姿のゼノスが見たい……!!!
プロのデザイナーさんのお陰で、メチャ良い仕上がりになってるんだよな。
品があるんだけど力強い。まさにグリフォン。鷲×獅子って感じだ。
甲冑も大盾も、ベースカラーはロイヤルブルーで金で縁取られてる。
大剣と兜には、それぞれ翼の装飾が施されててマジでカッコイイ……のだが、もっともっと特筆すべきなのは兜のバイザー!
それが黒の強化ガラスで出来てるってことだ!
しかもハーフサイズで、下げると口元しか見えなくなる。
そこもまたミステリアスというか、変身ヒーロー感増し増しというか……!!!
「くぅ~! 男のロマンだッ」
「はぁ? 何ブツブツ言ってんのよ」
「では、八班前へ」
いよいよ俺達の番になった。
ゼノスを先頭に、コル、エステラ、俺の順で村の中へと足を踏み入れていく。
ここから俺達は、先生達が待機している四つのチェックポイントを目指して進んでいく。
ざっくりルールを説明すると……
・回る順は自由。
・四時間以内に四つのスタンプを集めれば合格。
・制限時間内にゴール出来ればタイムは問わない。
・無傷に近い状態であればあるほど加点。
といった具合に、スピードよりも安全性を重視した演習になっている。
そのためか、参加者の中には僅かながら貴族科の学生の姿も見られた。
最初はつい『親に言われて渋々来たんだろう』と思ってしまったが、学生達はいずれも真剣な顔をしていて。
内心でちょっと……いや、大分反省した。
貴族科の学生達も一概に怠惰なわけじゃない。
あんなふうに本気で騎士になろうと努力してるヤツ等もいるんだな。
「ハル。聖女様を見ててくれ」
「おっ、おう!」
コルだ。どうやら斥候はちゃんとしてくれるらしい。
さっきの『ゼノスがどの程度やれんのか』ってのは、あくまで戦闘技術の話だったんだな。
自分の理解力の乏しさに……いや、あまりの素人っぷりに気恥ずかしくなる。
「っ! すっげ……」
コルはボロボロになった建物の壁を駆け上がり、あっという間に廃屋の二階部分に到達してみせた。
パルクールみたいだ。かっけぇ~……。
俺がそうやって惚れ惚れしている間に、コルは周囲を観察し始める。
双眼鏡とか、そういった道具を取り出す気配は微塵もない。
「まっ、まさか肉眼で見てんのか!?」
「厳密に言うと、魔法で強化した目で見てるのよ」
「へぇ~、目だけ強化するなんてことも出来るのか」
原作のゲームにも肉体を強化する魔法はあったけど、それはごくありふれた攻撃力UPだとか防御力UPだとかいう、かなりザックリとした括りのものだった。
こうして魔法が多様化したのも、ゲームが現実になったことによる辻褄合わせの一種なんだろう。
これを結衣が一人で? いや……まさかな。
大方、上司か先輩の神様にでもアドバイスを貰ったか、あるいは自動的に整合性が取られるような仕組みになっているんだろう。
そうやって無理矢理に自分を納得させる。
ったく、往生際が悪いったらないな。
俺は未だに結衣が絶対的な存在になってしまった事実を――神様になってしまった事実を受け止めきれずにいるらしい。
やれやれと首を左右に振って、小さく咳払いをする。
「目以外の部分も個別に強化出来たりすんのか?」
「ええ。所謂『五感』を司る部分ね。どこだか分かる?」
「視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚だから……目、耳、鼻、口、あとは皮膚? とかか?」
「へえ~? アホ面なくせして意外と賢いのね」
「……うっせーやい」
勇者パーティーの本来の斥候担当は獣人のルゥだ。
なので本当に、本当に失礼な話だけど、獣人であるアイツと人間であるコルとでは、斥候という観点においてはかなりの能力差があるんじゃないかと思ってた。
実際問題、原作のゲームではその差は歴然だったから。
けど、五感を強化する魔法なんてものがあるんだとしたら、割とタメを張れるのかもしれないな。
「因みにアンタはいくら鍛えても、『五感強化』なんて真似は出来ないからそのつもりでね」
「やっぱ『軽騎士』とか『重騎士』には備わらない能力なのか」
「そゆこと」
「何か『斥候騎士』ってメッチャ特殊っつか、レア種って感じがするな」
「実際そうでもないわ。でも、あのレベルは激レアね。バルダスはゼノスを『百年に一人の逸材』と言ったけど、アイツも相当なもんよ」
「はえ~……」
俺が改めて感心していると、コルが二階の縁に立った。
そしてそのまま僅かも躊躇することなく垂直に飛び降りて、着地と同時に前に転がる。しかもほぼ無音だ。
マジでパルクール……!! 流石にあれは魔法とかじゃないよな?
簡単な技なら、俺にも出来たりするんだろうか。
「前方約80メートルにバトルマンティスが一体。廃屋や瓦礫が密集していて見通しはかなり悪いですが、風上にいるので隙は突きやすいかと」
バトルマンティス……確か160センチ近い大型のカマキリだ。
ゲームでは序盤の終わりに出てくる。
両手の鎌を使った素早い攻撃が得意で、ザコ敵の中ではそれなりに強い。
ゼノスの復帰明けの相手としてはどうなんだろう?
……もしかして、荷が重かったりしないか?
「分かった。行こう」
ゼノスはこれといって不安がる素振りを見せなかった。
問題ないってことか?
……念のため、確かめておいた方がいいんじゃ?
逡巡している間に、コルがゼノスの後ろについてしまった。
そのことで何となく勢いを削がれてしまう。
無事に初戦を終えられるといいが……。
「じゃあ、行ってくるね」
「無理すんなよ」
ゼノスは微笑みまじりに頷いて応えると、身を屈めてゆっくりと大カマキリに近付いていく。
カマキリは後ろを向いている。
このまま着実に距離を詰めて、急所を……首とか心臓なんかを狙うつもりでいるんだろう。
俺達はコルの指示のもと、廃屋の壁に隠れながらゼノスを見守る。
――頑張れ、頑張れ、頑張れ。
力任せに手を握り締めたことで、俺の革製のフィンガーレスグローブがきゅっと音を立てた。
それと同時に、ゼノスがカマキリに斬りかかる。


