転生して女神になった美少女が助けを求めてきたので異世界を救うことにした

カーテンの向こうが明るくなってきた。
カラスがわめき、小鳥がさえずったかと思えば、人々が忙しなく動き出す。

朝だ。今日は何曜日だったか。
昨日……つーか今日『呪言戦線』がやってたから月曜日か?

「っ!」

不意に扉がノックされた。
相手は考えるまでもない。母さんだ。
ぐっと顎に力を込めて扉を睨みつける。
心の中でみっともなく『開けてくれるな』と念じながら。

「ご飯、置いておくからね」

優しく背中を撫で擦るような物言いだった。
目尻がじわっと熱くなるのを感じて、小さく舌打ちをする。

スマホを見ると 4月1日8時30分 と表示されていた。
世間は絶賛春休み中。もう間もなく新生活が始まる。
俺の同級生はこの春から大学生になる。
けど、俺は変わらず高三のまま。

卒業するには、年下の同級生達と一緒に勉強をして単位を取らないといけない。

「詰みだよな」

他人事のようにへらへらと笑いながら寝返りを打つ。
すると、サイドチェストに目が留まった。
便せんだ。糸目の白猫のキャラクターが描かれたそれには、端的に言えばこう書かれている。

ゲーム完成したよ! ちゃんと遊んでね! ……と。

そのゲームは差出人の最初で最後の作品だ。
そう。半年前、そいつは――多中(たなか) 結衣(ゆい)は死んだ。

俺はしょーもない嘘をつき続けてしまったことを謝れないまま、アイツの命が尽きるのをただ見ていることしか出来なかったんだ。

「……マジでクソみたいな人生だな」

このまま生きていてもろくなことはない。
ならいっそ、最後ぐらい誰かの役に立って死にたい。

例えば憎たらしいぐらい頑丈なこの体を、アイツみたいに病気で苦しむ人達に使って貰って――。

『助けてーーー!!』
「っ!!?」

寝転んだまま振り向くと、長い黒髪が俺の視界を撫でた。
頭上には色白でなめらかな肌がある。
あれは……鎖骨? つーっと目線を下げていくと、そこにはささやかな膨らみがあって。

「なっ……ななっ……」
『ハル!! 助けてってば!!』
「ばっ、結衣!! 何って格好してんだ!!」

結衣(?)が着ているのは、胸元が大きく開いた純白のドレスだ。
いや、ドレスにしては薄すぎる。最早下着だ。
体にぴったりと張り付いて、下乳のラインまで露わにしている。

『ん? ニヒヒ~。コーフンした?』
「~~っ、するか! この痴女が!!」
『おやおや。女神様に対して、痴女とはいかがなものでしょうか』
「女神?」

よく見れば、結衣の頭上には天使の輪が。
大きな白い翼でふわふわと宙に浮いている。
コイツ、マジで女神になったのか……?

『ほらっ! いいからパソコン付けて。ゲーム起動させてよ』
「何で?」
『いいから!』

説明する気はないようだ。
渋々席について、お目当てのフリーゲーム『Blade Racket Chronicle(ブレード・ラケット・クロニクル)』をインストールし始める。
すると、案の定結衣が噛みついてきた。

『ちょっと! 何で落としてないの!』
「うるせーな。いろいろと忙しかったんだよ」
『そこは寝る間も惜しんでプレイするとこでしょ!? 一緒に創ったんだよ!?』
「俺は別に。ほんのちょっと手伝っただけだろ」
『あ、新しいコメントついてる! ねえ、見せて見せて!』

やっぱ気になるのか。
促されるままコメント欄を開いてみる。

全部で五件。
主人公の戦闘スタイルを除けば、何の(ひね)りもないド王道。
処女作であることを踏まえれば上々なのかもしれないが、コイツの熱量を知っているだけに同情してしまう。

何せコイツは重い心臓病を抱えながら、三年もかけて一本のゲームを創り上げたんだからな。

『うへへ~いっ! 面白かっただって~♡♡♡』
「結衣……」

頬をだるんだるんにして喜んでる。
どうやら杞憂(きゆう)だったみたいだ。

「良かったな」
『ねえ、ハル』
「何だ?」
『戻ってきたらさ、時々でいいからここの様子を見に来てくれない?』
「? 別にいいけど、戻ってきたらってどういう――」

次の瞬間、俺の意識は途切れた。
テレビの電源を消したみたいにブツンと。

「……ん?」

やたらと眩しい。やたらとポカポカしている。
何が起きた? 頭の上に疑問符を浮かべつつ目を開ける。

「ここは……?」

周囲に広がっているのは、何もない真っ白な空間。
そして、目の前にいるのは女神に転生した結衣だった。