家主のギャビーは
撮影や稽古などで出掛けて、
買って間もない邸宅にアルマを住まわせた。
アルマはギャビーの代わりに、
料理を作り、洗濯を行い、
掃除など家事全般を担う。
ティフィは家事を手伝わされず、
部屋の一角に敷かれたマットの上で
建築セットのパーツを詰み重ねていき、
塔が斜めに建つように建築していた。
「ティフィ。
ご飯の用意が出来たから手伝って。」
『シチューだ。』
今日の献立はクリーム煮で、
アルマがローテーションに入れている、
簡単に作れる料理のひとつだった。
ティフィは毛深い手を洗い、
ハンドドライヤーで乾かすと、
アルマが棚から取り出した深皿を
両手に積み重ねていく。
「器用になってきた。」
『ぼくもアルの料理、食べてみたい。』
「食べたら排泄機能が必要になるだろ。
ティフィは犬みたいな外見のせいで、
外でする趣味に目覚めたのか?」
『味覚の話をしたのに!』
意地悪を言われて
牙を剥き出しにするティフィ。
「検討するよ。
二人を呼んできて。」
ティフィの提案から発展した代謝機能を、
アルマは本気で捉えていたが、
解答は保留にした。
アルマはバゲットをトーストし、
冷蔵庫からコールスローを出す。
摂食を行わないティフィを含めて、
4人でテーブルを囲む。
ギャビーはアルマの料理を
口に運んで小さく頷く。
「アルの料理を食べると、
家に帰って来たなぁ…、
って感じがするように
なってきちゃったよ。」
「褒めてるように聞こえんぞ?」
ギャビーの隣に座るクロエは、
慣れない味付けでも楽しんでいる。
『クロエは帰らなくて良いの?』
ティフィの身体を作った
ヒューマノイドデザイナーの彼女は、
大型犬の身体を提供して以来、
ギャビーの家に住みついていた。
咀嚼をするクロエは何も言わず、
家主の顔を見て意見を求める。
「まぁ、いつまでも居て良いよ。
保護者に心配をかけなければね。」
クロエの滞在によって
不利益を被っているわけでもないので、
ギャビーは彼女の下宿を許している。
「一人も二人も犬も変わらないし。」
『ぼくは犬じゃないよ。』
「ティフィは犬じゃなくて
ぬいぐるみって設定だ。」
「中の人など居ない
って言うんでしょ、それ。」
『ねぇ、クロエ。
アルの料理はどんな味?』
「庶民のお味ですね。
味付けが濃くて、個性的です。」
『お嬢様だもんね。』
「庶民のお味だって。」とギャビーは喜ぶ。
アルマは彼女の評価に衝撃を受けた。
「食べられるものなんだから
これで良いんだよ。
不満が無ければ変えないぞ。」
『食べられないのが不満。
クロエ、一口ちょうだい。』
ティフィは口吻を開いて見せる。
スプーンを差し出して、
与える振りをするクロエ。
アルマはティフィの口吻を手で塞ぐ。
口には吸排気用の孔はあっても、
消化するための機器は搭載していない。
「ヒューマノイドの食事については、
多くの課題がありますね。」
「味蕾や嗅覚なら用意はできるぞ。
エネルギー変換は難しいよな。」
「そうなの?」
ギャビーの疑問に、アルマと
口を塞がれたティフィも頷く。
「食料からの発電は工程が多く、
複雑になります。」
「排泄も問題になるよな。」
「それ、食事中にする話?」
ギャビーは注意をするけれど、
この程度で二人の会話が
止まないことは何度も経験済みだった。
「食事機能を作ったりしたら、
チベタン・マスティフみたいな
超大型犬が完成するぞ。」
「そんなに大きな犬は
この家では飼えませーん。」
『ギャビーも乗せられないで。
ぼくはアルのペットじゃなくて、
イマジナリーフレンドだよ。』
「こうして実在するんだから
もうイマジナリーでもないぞ。」
言い出したはずのアルマが、
ティフィの背中を撫でて慰めた。
「現状のままでも、
食事量を押さえれば、
排出量も少なくて済みますね。」
「味を知るのが目的だし、
このスプーン程度の量なら
対処できそうだな。」
アルマの意見にクロエが頷くと、
ティフィが長い口吻を開き、
アルマのスプーンを咥えた。
「あっ!」クロエが声を上げた。
『ん?』
「まだだって! もう!」
アルマはティフィの口を開かせ、
ティッシュを詰め込んだ。
『ごえん…。』
両手で目を塞いで、自らのポンコツさを
反省するティフィだった。
▶ つづく

撮影や稽古などで出掛けて、
買って間もない邸宅にアルマを住まわせた。
アルマはギャビーの代わりに、
料理を作り、洗濯を行い、
掃除など家事全般を担う。
ティフィは家事を手伝わされず、
部屋の一角に敷かれたマットの上で
建築セットのパーツを詰み重ねていき、
塔が斜めに建つように建築していた。
「ティフィ。
ご飯の用意が出来たから手伝って。」
『シチューだ。』
今日の献立はクリーム煮で、
アルマがローテーションに入れている、
簡単に作れる料理のひとつだった。
ティフィは毛深い手を洗い、
ハンドドライヤーで乾かすと、
アルマが棚から取り出した深皿を
両手に積み重ねていく。
「器用になってきた。」
『ぼくもアルの料理、食べてみたい。』
「食べたら排泄機能が必要になるだろ。
ティフィは犬みたいな外見のせいで、
外でする趣味に目覚めたのか?」
『味覚の話をしたのに!』
意地悪を言われて
牙を剥き出しにするティフィ。
「検討するよ。
二人を呼んできて。」
ティフィの提案から発展した代謝機能を、
アルマは本気で捉えていたが、
解答は保留にした。
アルマはバゲットをトーストし、
冷蔵庫からコールスローを出す。
摂食を行わないティフィを含めて、
4人でテーブルを囲む。
ギャビーはアルマの料理を
口に運んで小さく頷く。
「アルの料理を食べると、
家に帰って来たなぁ…、
って感じがするように
なってきちゃったよ。」
「褒めてるように聞こえんぞ?」
ギャビーの隣に座るクロエは、
慣れない味付けでも楽しんでいる。
『クロエは帰らなくて良いの?』
ティフィの身体を作った
ヒューマノイドデザイナーの彼女は、
大型犬の身体を提供して以来、
ギャビーの家に住みついていた。
咀嚼をするクロエは何も言わず、
家主の顔を見て意見を求める。
「まぁ、いつまでも居て良いよ。
保護者に心配をかけなければね。」
クロエの滞在によって
不利益を被っているわけでもないので、
ギャビーは彼女の下宿を許している。
「一人も二人も犬も変わらないし。」
『ぼくは犬じゃないよ。』
「ティフィは犬じゃなくて
ぬいぐるみって設定だ。」
「中の人など居ない
って言うんでしょ、それ。」
『ねぇ、クロエ。
アルの料理はどんな味?』
「庶民のお味ですね。
味付けが濃くて、個性的です。」
『お嬢様だもんね。』
「庶民のお味だって。」とギャビーは喜ぶ。
アルマは彼女の評価に衝撃を受けた。
「食べられるものなんだから
これで良いんだよ。
不満が無ければ変えないぞ。」
『食べられないのが不満。
クロエ、一口ちょうだい。』
ティフィは口吻を開いて見せる。
スプーンを差し出して、
与える振りをするクロエ。
アルマはティフィの口吻を手で塞ぐ。
口には吸排気用の孔はあっても、
消化するための機器は搭載していない。
「ヒューマノイドの食事については、
多くの課題がありますね。」
「味蕾や嗅覚なら用意はできるぞ。
エネルギー変換は難しいよな。」
「そうなの?」
ギャビーの疑問に、アルマと
口を塞がれたティフィも頷く。
「食料からの発電は工程が多く、
複雑になります。」
「排泄も問題になるよな。」
「それ、食事中にする話?」
ギャビーは注意をするけれど、
この程度で二人の会話が
止まないことは何度も経験済みだった。
「食事機能を作ったりしたら、
チベタン・マスティフみたいな
超大型犬が完成するぞ。」
「そんなに大きな犬は
この家では飼えませーん。」
『ギャビーも乗せられないで。
ぼくはアルのペットじゃなくて、
イマジナリーフレンドだよ。』
「こうして実在するんだから
もうイマジナリーでもないぞ。」
言い出したはずのアルマが、
ティフィの背中を撫でて慰めた。
「現状のままでも、
食事量を押さえれば、
排出量も少なくて済みますね。」
「味を知るのが目的だし、
このスプーン程度の量なら
対処できそうだな。」
アルマの意見にクロエが頷くと、
ティフィが長い口吻を開き、
アルマのスプーンを咥えた。
「あっ!」クロエが声を上げた。
『ん?』
「まだだって! もう!」
アルマはティフィの口を開かせ、
ティッシュを詰め込んだ。
『ごえん…。』
両手で目を塞いで、自らのポンコツさを
反省するティフィだった。
▶ つづく




